環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第5節 地球規模の視野を持って行動する取組

第5節 地球規模の視野を持って行動する取組

1 愛知目標の達成に向けた国際的取組への貢献

(1)生物多様性条約

「生物多様性戦略計画2011-2020」及び愛知目標の中間評価(2014年のCOP12で実施)の結果等も踏まえつつ、引き続き関係省庁間で緊密な連携を図り、愛知目標や「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(ABS:Access and Benefit-Sharing)に関する名古屋議定書(以下「名古屋議定書」という。)」を始めとするCOP10決定事項の実施に向けて取り組みました。

愛知目標の達成を含め、生物多様性条約に基づく取組を地球規模で推進していくためには、途上国への資金供与や技術移転、能力養成が必要であることが強く指摘されています。このため、我が国は、愛知目標の達成に向けた途上国の能力養成等を支援するため、「生物多様性日本基金」に拠出しており、条約事務局において本基金により生物多様性国家戦略の実施を支援するワークショップ開催等が進められました。また、条約関連の各種会合において、愛知目標の達成に向けた議論等に積極的に参加しました。

(2)名古屋議定書

COP10において採択された名古屋議定書について我が国は、2017年5月にその締結について国会で承認され、受託書を国際連合事務総長に寄託し、同年8月に我が国について効力を発生しました。同日付で、名古屋議定書の国内措置である「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針」が施行されました。

我が国はCOP10の際に、名古屋議定書の早期発効や効果的な実施に貢献するため、地球環境ファシリティ(GEF)によって管理・運営される名古屋議定書実施基金の構想について支援を表明し、2011年に10億円を拠出しました。この基金を活用した13件のプロジェクトが承認され、2017年12月時点で既に完了した2件を除く11件のプロジェクトにより、コロンビア、フィジー、ガボン、コスタリカ、ブータン等において、国内制度の発展、遺伝資源の保全及び持続可能な利用に係る技術移転、民間セクターの参加促進等の活動が行われています。

(3)カルタヘナ議定書及び名古屋・クアラルンプール補足議定書

バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書の責任及び救済に関する名古屋・クアラルンプール補足議定書(以下「補足議定書」という。)の国内担保を目的としたカルタヘナ法の一部を改正する法律が、2017年4月に成立し、同月に公布されました。また、補足議定書については、2017年5月にその締結について国会で承認され、同年12月に受諾書を国際連合事務総長に寄託し、我が国は補足議定書の締結国となりました。同補足議定書は発効要件が満たされたことから、2018年3月5日に発効し、これに合わせて改正カルタヘナ法が施行されました。

2 自然資源の持続可能な利用・管理の国際的推進

(1)SATOYAMAイニシアティブ

二次的な自然環境における自然資源の持続可能な利用と、それによる生物多様性の保全を目標とした「SATOYAMAイニシアティブ」を推進するため、「SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)」を支援するとともに、その運営に参加しました。IPSIは、2017年4月にマレーシア・コタキナバルにおいて、アジア地域会合をサバ州政府と共催したほか、同年10月に金沢市において第12回運営委員会を開催し、IPSI行動計画2013-2018の改定や今後の活動の方向性等について討議しました。なお、IPSIの会員は、4か国の政府機関を含む18団体が2017年度に新たに加入し、2018年3月時点で19か国の政府機関を含む220団体となりました。

SATOYAMAイニシアティブの理念を国内において推進するために2013年に発足した「SATOYAMAイニシアティブ推進ネットワーク」に環境省及び農林水産省が参加しています。本ネットワークは、SATOYAMAイニシアティブの国内への普及啓発、多様な主体の参加と協働による取組の促進に向け、ネットワークへの参加を呼び掛けたロゴマークや活動事例集の作成や「エコプロダクツ2017」等の各種イベントへの参加を行いました。なお、本ネットワークの会員は2017年11月時点で51地方自治体を含む110団体となりました。

(2)ワシントン条約

ワシントン条約に基づく絶滅のおそれのある野生動植物の輸出入の規制に加え、同条約附属書Iに掲げる種については、種の保存法に基づき国内での譲渡し等の規制を行っています。また、2017年11月〜12月に開催されたワシントン条約第69回常設委員会において、条約の適切な執行のための議論に貢献しました。加えて、関係省庁、関連機関が連携・協力し、象牙の適正な取引の徹底に向けて、官民協議会を中心に取組を進めました。

(3)保護地域に係る国際的な取組

2013年11月に開催した第1回アジア国立公園会議を契機に設立された「アジア保護地域パートナーシップ(APAP)」の初代共同議長国として、2017年11月にブータンにおいて開催された「人と野生生物の軋轢」をテーマとしたワークショップを始めとする同枠組みの活動を主導しました。同パートナーシップの参加国は2018年3月時点で、13か国となりました。

3 生物多様性に関わる国際協力の推進

(1)ラムサール条約

国内に50か所あるラムサール条約湿地における普及啓発活動を、ラムサール条約登録湿地関係市町村会議等の関係者と共に進めました。また、2017年11月に佐賀市で開催したアジア湿地シンポジウム2017には、アジア各国から約450名が参加し、アジアの湿地の保全と賢明な利用に関して議論が行われました。このほか、カンボジアに対してラムサール条約湿地の新規登録に向けた協力を行いました。

(2)アジア太平洋地域における渡り性水鳥の保全

東アジア・オーストラリア地域の渡り性水鳥及びその生息地の保全を目的とする国際的連携・協力のための枠組み「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAFP)」の下に設置されている渡り性水鳥重要生息地ネットワーク参加地のうち、西ブロックの生息地を対象として、関係自治体・団体間の交流促進事業を行いました。

(3)二国間渡り鳥条約・協定

米国、ロシア、オーストラリア、中国及び韓国との二国間の渡り鳥条約等に基づき、ズグロカモメに関する共同調査等を引き続き実施するとともに、2017年11月にロシア・モスクワにおいて、ロシアと二国間渡り鳥保護条約会議を開催しました。会議では、渡り鳥の保全施策等に関する意見・情報交換を行い、渡り鳥保全のための協力を推進することを確認しました。

(4)国際的なサンゴ礁保全の取組

2017年12月に、ケニア・ナイロビで開催されたICRI第32回総会に出席し、地球規模サンゴ礁モニタリングネットワーク(GCRMN)の今後の活動に関する議論や日本の取組の報告等を行いました。また、2017年11月に、フィリピン・セブで第2回GCRMN東アジア会合を開催し、東アジア地域におけるサンゴ礁生態系モニタリングデータの地域解析の進捗の共有及び今後の進め方についての議論を行いました。

(5)持続可能な森林経営と違法伐採対策

世界の森林は、陸地の約31%を占め、面積は約40億haに及びます。植林等による増加分を差し引いた森林減少の面積は、2010年から2015年までの5年間では、1990年代に比べて約半分に低下しているものの、依然として森林減少が続いています。地球温暖化や生物多様性の損失に深刻な影響を与える森林減少・劣化を抑制するためには、持続可能な森林経営を推進する必要があります。我が国は、持続可能な森林経営の推進に向けた国際的な議論に参画・貢献するとともに、関係各国、各国際機関等と連携を図るなどして森林・林業分野の国際的な政策対話を推進しています。

国連森林フォーラム(UNFF)において採択された国連森林戦略計画2017-2030は、2017年4月に国連総会において決議され、我が国もその実施にかかる議論に参画しています。

国際熱帯木材機関(ITTO)の第53回理事会が2017年11月にペルー・リマで開催され、持続可能な森林経営と熱帯木材の適正な貿易の推進に向け、運営や予算の議論が行われたほか、合法・持続可能な林産品のサプライチェーンの促進等に力点を置いた事業計画等が決定されました。

特に持続可能な森林経営の阻害要因の一つとなっている違法伐採への対策として、我が国では、グリーン購入法に基づき、国等の機関で合法性が証明された木材・木材製品等の調達を推進するとともに、地方公共団体や民間事業者等に対する普及等を行っています。

森林の減少及び土地利用の変化に伴う温室効果ガス排出量は世界全体の人為的な排出量の約1割を占めるとされており、2015年12月に気候変動枠組条約第21回締約国会議で採択されたパリ協定においては、森林を含む吸収源の保全及び強化に取り組むこと(5条1項)に加え、途上国の森林減少及び劣化に由来する温室効果ガスの排出の削減等(REDD+)の実施及び支援を推奨すること(同2項)などが定められました。また、同会合でREDD+に関する三つの締約国会議決定(非炭素便益、非市場アプローチ、セーフガード)が採択され、条約の下でのREDD+方法論の検討が終了しました。

4 世界的に重要な地域の保全管理の推進

(1)世界遺産条約

我が国では、世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)に基づき、屋久島、白神山地、知床及び小笠原諸島の4地域が自然遺産として世界遺産一覧表に記載されています。これらの世界自然遺産については、遺産地域ごとに関係省庁・地方公共団体・地元関係者からなる地域連絡会議と専門家による科学委員会を開催しており、関係者の連携によって適正な保全・管理を実施しました。知床については、世界遺産委員会の勧告を踏まえて、専門家による科学的助言に基づき、河川工作物等の改良の検討を行いました。また、小笠原諸島については、外来種対策や希少種保全の拠点となる小笠原世界遺産センターを整備し、運用を開始するとともに、遺産登録後の状況の変化を踏まえて世界遺産地域管理計画を改訂しました。

2018年夏の世界自然遺産登録を目指して、ユネスコ世界遺産センターに推薦書を提出した奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島については、2017年10月に世界遺産委員会の諮問機関である国際自然保護連合の専門家による現地調査が行われるなど、登録に向けた審査が進められました。

(2)生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)

「生物圏保存地域(Biosphere Reserves、国内呼称はユネスコエコパーク)」は、国連教育科学文化機関(以下「ユネスコ」という。)の「人間と生物圏(Man and the Biosphere(MAB))計画」の枠組みに基づいて国際的に認定された地域です。各地域では、「保存機能(生物多様性の保全)」、「学術的研究支援」及び「経済と社会の発展」の三つの機能により、生態系の保全のみならず持続可能な地域資源の利活用の調和を図る活動を行うこととされています。

現在の登録総数は120か国、669地域(2018年3月時点)であり、国内では、只見、志賀高原、南アルプス、白山、大台ヶ原・大峯山・大杉谷、綾及び屋久島・口永良部島に、2017年6月に新たに登録されたみなかみ及び祖母・傾・大崩を加えた9地域が登録され、豊かな自然環境の保全と、それぞれの自然や文化の特徴を活かした持続的な地域づくりが進められました。

(3)ユネスコ世界ジオパーク

「ユネスコ世界ジオパーク」は、ユネスコの「国際地質科学ジオパーク計画(International Geoscience and Geoparks Program)」の枠組みに基づいて国際的に認定された地域で、地層、岩石、地形、火山、断層など、地質学的な遺産を保護し、研究に活用するとともに、自然と人間とのかかわりを理解する場所として整備し、科学教育や防災教育の場とするほか、新たな観光資源として地域の振興に活かすことを目的としています。

2018年3月時点で日本からは洞爺湖有珠山、アポイ岳、糸魚川、山陰海岸、隠岐、室戸、島原半島、阿蘇の8地域がユネスコ世界ジオパークとして認定されています。ユネスコ世界ジオパークにおいて、国立公園や日本ジオパークの取組と連携して、公園施設の整備、シンポジウムの開催、学習教材・プログラム作り、エコツアーガイド養成等が行われています。

(4)世界農業遺産及び日本農業遺産

農業遺産は、社会や環境に適応しながら何世代にもわたり継承されてきた独自性のある農林水産業と、それに関わって育まれた文化、ランドスケープ及びシースケープ、農業生物多様性等が相互に関連して一体となった農林水産業システムを認定する制度であり、国連食糧農業機関(FAO)が認定する世界農業遺産と、農林水産大臣が認定する日本農業遺産があります。認定された地域では、保全計画に基づき、農林水産業システムに関わる生物多様性の保全等に取り組んでいます。2017年度には、新たに3地域が世界農業遺産に認定され、我が国の認定地域は11地域となりました。また、2016年4月に創設した日本農業遺産には8地域が認定されています。

(5)砂漠化への対処

1996年に発効した国連の砂漠化対処条約(UNCCD)において、先進締約国は,砂漠化の影響を受ける締約国に対し、砂漠化対処のための努力を積極的に支援することとされています。我が国は、先進締約国として、引き続き締約国会議に参画・貢献するとともに、科学的・技術的側面から国際的な取組を推進しています。2017年度は、UNCCD第13回締約国会合において我が国の取組を広く発信するサイドイベントを実施したほか、モンゴルにおける住民参加による持続可能な牧草地利用等検討事業のフォローアップを実施しました。また、米国に次ぐ規模の拠出国として条約活動を支援しています。

(6)南極地域の環境の保護

南極地域は、近年、観測活動や観光利用の増加による環境影響の増大が懸念されています。南極の環境保護に関しては、南極の平和的利用と科学的調査における国際協力の推進のため南極条約(1961年発効)及び南極の環境や生態系の保護を目的とする「環境保護に関する南極条約議定書」(1998年発効)による国際的な取組が進められています。

我が国は、南極地域の環境の保護に関する法律(平成9年法律第61号)に基づき、南極地域における観測、観光、取材等に対する確認制度等を運用するとともに、環境省のウェブサイト等を通じて南極地域の環境保護に関する普及啓発、指導等を行っています。また、拠出金により南極条約活動を支援しているほか、2017年5月に北京で開催された第40回南極条約協議国会議において、南極特別管理地区及び南極特別保護地区の管理計画の改訂など、南極における環境の保護の方策について議論を行いました。