環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第6章>第7節 環境影響評価等

第7節 環境影響評価等

1 戦略的環境アセスメントの導入

環境保全上の支障を未然に防止するため、環境基本法第19条では、国は環境に影響を及ぼすと認められる施策の策定・実施に当たって、環境保全について配慮しなければならないと規定されており、個別の事業に先立つ計画や政策段階の戦略的環境アセスメントについて我が国での導入に向けた検討を行いました。また、風力発電等については、個別の事業の実施に先立つものとして、環境情報等の重ね合わせを行い、関係者による調整の下で、環境保全を優先するエリア、風力発電等の導入を促進するエリア等の設定を行うゾーニング手法の確立と普及を目的として、モデル地域を地方公共団体から公募し、モデル事業を実施しました。

2 環境影響評価の実施

(1)環境影響評価法に基づく環境影響審査の実施等

環境影響評価法(平成9年法律第81号)は、道路、ダム、鉄道、飛行場、発電所、埋立て・干拓、土地区画整理事業等の開発事業のうち、規模が大きく、環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業について環境影響評価の手続の実施を義務付けています。同法に基づき、2017年3月末までに計447件の事業について手続が実施されました。そのうち、2016年度においては、新たに52件の手続を開始、また、24件が手続完了し、環境配慮の徹底が図られました(表6-7-1)。

表6-7-1 環境影響評価法に基づき実施された環境影響評価の施行状況

特に、風力発電については、環境保全と両立した導入のため、バードストライクや騒音に関する環境配慮等の観点から審査しました。また、石炭等火力発電については「東京電力の火力電源入札に関する関係局長級会議取りまとめ(2013年4月)」や、2016年2月に環境大臣・経済産業大臣が合意した電気事業分野における地球温暖化対策を踏まえ、最新鋭の高効率技術の採用の有無や国の目標・計画との整合性等について審査しました。加えて、パリ協定発効以降の石炭火力発電の配慮書について、環境保全面からの事業リスクが極めて高いことを自覚し、CO2排出削減への対応の道筋が描けない場合には事業実施を再検討することを含めあらゆる選択肢を検討すること等の環境大臣意見を勘案して、経済産業大臣が、石炭火力発電を巡る環境保全に係る国内外の状況を十分認識し事業を検討すること等の意見を述べました。さらに、同取りまとめに基づき、利用可能な最良の技術の普及を促進するため、2017年2月に、火力発電に関する「最新鋭の発電技術の商用化及び開発状況(BATの参考表)」を更新しました。

環境影響評価の信頼性の確保や評価技術の質の向上に資することを目的として、調査・予測等に係る技術手法の開発を推進するとともに、国・地方公共団体等の環境影響評価事例や制度及び技術の基礎的知識の情報等を集積し、インターネット等を活用して国民や地方公共団体等への情報支援を行いました。また、2011年に創設された報告書制度について、作成・公表等の考え方を取りまとめ、周知しました。

(2)環境影響評価の迅速化等に関する取組

風力・地熱発電所の設置や火力発電所のリプレースの事業に係る環境影響評価手続について、3~4年程度かかるとされる手続期間を、風力・地熱発電所の設置については半減、火力発電所のリプレースについては最短1年強まで短縮させることを目指すこととしています。

これらについて、地方公共団体の協力を得て、運用上の取組により、対象となった案件について、おおむね想定のとおりに国の審査期間の短縮を実現しました。また、風力・地熱発電所については、環境や地元に配慮しつつ、導入をより短期間かつ円滑に実現できるよう、風況等から判断し風力発電等の適地と考えられる地域の環境情報(貴重な動植物の生息・生育状況等の情報)等の収集・整理を行い、これらの情報を「環境アセスメント環境基礎情報データベースシステム」(https://www2.env.go.jp/eiadb/(別ウィンドウ))を通じて公開するとともに、環境影響調査の前倒し実施による期間短縮の方法論を確立するための検討を行いました。さらに、地方公共団体が主導して、事業化までの長期化の要因となっている先行利用者との調整や各種規制手続と一体的に環境配慮の検討を進め、関係者と合意形成を図りながら風力発電等の適地を抽出する手法を検討するとともに、上記のゾーニングに関するモデル事業を実施しました。

また、今後導入の拡大が見込まれる洋上風力発電について、現時点での環境影響評価における基本的な考え方に関する報告書を取りまとめ、公表しました。

(3)環境影響評価に係る国際展開

アジア地域においては、環境影響評価制度の導入が進んでいるものの運用面に課題があり、事業実施に伴い環境影響が生じている事例があります。このため、環境影響評価制度とその実施の強化に向けた知見の共有を目的として、2016年5月に「アジア地域における環境影響評価の促進に関する国際会議」を開催し、議長サマリーでは、各国が相互に学びあうことは有意義であり、この会議で構築されたネットワークの強化を通じて、参加者のコミュニケーション及び協力を継続していく方向性が示されました。

3 自主的な環境配慮等の促進

環境影響評価は、法、条例、自主的なものを組み合わせて環境配慮を行うことが重要です。近年、環境影響評価法の対象規模未満、特に、規模要件を僅かに下回る程度の小規模火力発電の建設計画が増加しています。このような背景を踏まえ、自主的な環境アセスメントを通じて適切な環境配慮や住民理解等を促進するため、調査・予測・評価や関係者との情報交流・参加等の具体的な方法を紹介した「小規模火力発電等の望ましい自主的な環境アセスメント 実務集」を作成・周知しました。

また、太陽光発電の急速な普及は、地球温暖化対策の観点からは望ましい一方、地域の自然環境・生活環境や景観等への影響について懸念されるケースが見受けられるようになったため、地方公共団体に実務的な参考資料としていただくことを目的として、「太陽光発電事業の環境保全対策に関する自治体の取組事例集」を公表・周知しました。