環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書>平成28年度 環境の状況 平成28年度 循環型社会の形成の状況 平成28年度 生物の多様性の状況>第1部 総合的な施策等に関する報告>はじめに

平成28年度 環境の状況
平成28年度 循環型社会の形成の状況
平成28年度 生物の多様性の状況
第1部 総合的な施策等に関する報告

はじめに

近年のソーシャルネットワーキングサービス(SNS)に代表される情報通信技術(ICT)の発展は目覚ましいものがあります。スマートフォンの普及がその発展に拍車をかける形になり、「机に座って使う」パソコンから、「手元でいつでも使える」スマートフォンが主流になったことで、私たちのライフスタイルが変わりつつあります。SNSにより、誰もが一種のメディアを持つことになり、ある人の発信が国内外に大きな影響を与えるという、かつてはあり得なかったことが現実のものになってきています。

また、IoT(モノのインターネット)やビッグデータ、AI(人工知能)等が活用される「第4次産業革命」においては、大小様々なモノが高速ネットワークでつながり、リアルタイムで情報の受発信がなされ、バーチャルな事象とリアルな事象が融合し、相互作用が働きます。このような世界では、他に影響を与えずに自分だけで物事を完結させることは困難です。何かを行うと、必ず他への影響が出てくるという状況になり、ゼロサムゲーム的発想では、他者のマイナスがないと自分がプラスにならないという前提で行動しがちです。「身の周りの状況だけ改善すればいい」ではなく、Win-Winの発想で「みんなで一緒に改善しましょう」という方法を探っていくべきではではないでしょうか。

平成29年版の環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書では、「環境から拓く、経済・社会のイノベーション」をテーマに掲げました。SDGsやパリ協定など持続可能な社会の実現に向けた国際社会の動向を概観するとともに、我が国が直面する環境・経済・社会の課題に対して、環境政策によって環境問題を解決すると同時に、社会経済のイノベーションを創出し、経済・社会の課題をも解決していくための方向性を提示します。

この考えにつながる、国際的な二つの大きな潮流を紹介します。一つは、第1章で取り上げる、2015年9月の国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中核となる「持続可能な開発目標(SDGs)」です。SDGsに至る流れの一つに「ミレニアム開発目標(MDGs)」がありましたが、これは開発途上国のみが対象であり、先進国も含めた全世界的な動きではありませんでした。MDGsの採択から15年が経過し、地球規模での人口増加や経済規模の拡大の中で、人間活動に伴う地球環境の悪化はますます深刻となり、地球の生命維持システムは存続の危機に瀕しています。気候変動を始めとしたグローバルな問題の解決には、先進国・開発途上国が共に取り組むことが重要であるという認識が共有され、SDGsの採択に至ったと言えます。

SDGsでは、経済、社会、環境の諸課題を統合的に解決することの重要性が示されています。この考え方は、2006年に策定された第三次環境基本計画(2006年4月閣議決定)や現行の第四次環境基本計画(2012年4月閣議決定)において、恵み豊かな環境を保全し、持続可能な社会を構築するために、我が国の環境政策が重視すべき方向性として示された「環境・経済・社会の統合的向上」と親和性があるものです。SDGsで世界が共有するに至った「統合性」という考え方は、同計画ではSDGs採択に先駆けて取り入れていたと言えます。我が国における「環境・経済・社会の統合的向上」は、これまで環境配慮を社会経済システムにいかに織り込むかという観点を中心に展開されてきました。これは引き続き最も重要な観点である一方、経済・社会的課題が深刻化・複雑化する現在において、環境政策の展開に当たり、環境保全上の効果を最大化することに加え、諸課題の関係性を踏まえて、経済・社会的課題の解決に資する効果をもたらせるよう政策を発想・構築していくことが重要となっています。

もう一つは、第2章で取り上げる、2015年12月の気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」です。パリ協定は、歴史上初めて全ての国が参加する公平な合意であり、今世紀後半に温室効果ガスの人為的な排出量と吸収源による除去量との均衡を達成することを目指しています。こうしたことは、今後数十年にわたる社会経済活動の方向性を根本的に変える「ゲームチェンジャー」としての性質を有しています。京都議定書から続く、温室効果ガス削減に向けた国際協調は着実に進展し、世界は今世紀後半の脱炭素社会に向けて大きく動き出しています。

上記のようなダイナミズムを踏まえ、第3章において、我が国が直面する社会経済の課題を概観するとともに、我が国が直面する環境・経済・社会の課題に対して、環境政策によって環境問題を解決すると同時に、経済・社会の課題の解決に資する効果をもたせるための方向性と具体的事例を紹介します。

また、第4章では、東日本大震災及び平成28年熊本地震を取り上げます。地震に加えて、津波や原子力発電所事故の複合災害として甚大な被害をもたらした東日本大震災から6年が経過しました。2017年3月末までに帰還困難区域を除く避難指示区域における面的除染が全て完了し、2017年4月1日までに双葉町及び大熊町を除いた居住制限区域及び避難指示解除準備区域の避難指示が解除されるという大きな節目を迎えました。さらに、2016年4月に熊本県から大分県にかけて発生した平成28年熊本地震は、甚大な被害をもたらし、東日本大震災、阪神・淡路大震災に次ぐ量の災害廃棄物が発生しました。被災地ではいまなお復興に向けた懸命な取組が進められています。また、震災復興を契機として、持続可能な地域づくりに向けた新たな取組が始まりつつあり、このような動きを紹介します。