環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第5節 地球規模の視野を持って行動する取組

第5節 地球規模の視野を持って行動する取組

1 愛知目標の達成に向けた国際的取組への貢献

(1)生物多様性条約

2014年10月に韓国・ピョンチャンにおいて開催されたCOP12で決定された「生物多様性戦略計画2011-2020」及び愛知目標の中間評価結果等も踏まえつつ、引き続き関係省庁間で緊密な連携を図り、愛知目標や「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(Access and Benefit-Sharing)に関する名古屋議定書(以下「名古屋議定書」という。)」を始めとするCOP10決定事項の実施に向けて取り組んでいます。

また、2016年12月にメキシコ・カンクンで開催されたCOP13やそれに先立つ条約補助機関会合等の条約関連会合では、COP13ビューロー国として国際的な議論及び会合運営に積極的に参加するとともに、これら会合について開催支援を行いました。愛知目標の達成を含め、生物多様性条約に基づく取組を地球規模で推進していくためには、途上国への資金供与や技術移転、能力養成が必要であることが強く指摘されています。このため、我が国は、愛知目標の達成に向けた途上国の能力養成等を支援するため、「生物多様性日本基金」に拠出しており、条約事務局において本基金により生物多様性国家戦略の実施を支援するワークショップ開催等が進められています。

(2)名古屋議定書

COP10において採択された名古屋議定書については、関係省庁において締結に必要な国内措置を検討し、2017年1月に「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針」の案を取りまとめた上で、2017年2月24日に、名古屋議定書の締結について国会の承認を求めることについて閣議決定しました。

我が国は、COP10の際に、名古屋議定書の早期発効や効果的な実施に貢献するため、地球環境ファシリティ(GEF)によって管理・運営される名古屋議定書実施基金の構想について支援を表明しており、2011年に10億円を拠出しました。2016年12月現在、パナマ、コロンビア、フィジー、ガボン、コスタリカ、ブータン、中央アフリカ地域等の各国や地域等を対象とした13件のプロジェクトが承認され、世界52か国において国内制度の発展、遺伝資源の保全及び持続可能な利用に係る技術移転、民間セクターの参加促進等の活動が支援されています。

(3)カルタヘナ議定書及び名古屋・クアラルンプール補足議定書

国内担保法であるカルタヘナ法に基づき、議定書で求められている遺伝子組換え生物等の使用等の規制に関する措置及びカルタヘナ法の施行状況の点検を実施しました。また、「名古屋・クアラルンプール補足議定書」について、関係省庁において締結に向けた情報収集と検討を進め、カルタヘナ法の一部を改正する法案を第193回国会に提出するとともに、2017年2月24日に、名古屋・クアラルンプール補足議定書の締結について国会の承認を求めることについて閣議決定しました。

2 自然資源の持続可能な利用・管理の国際的推進

(1)SATOYAMAイニシアティブ

二次的な自然環境における自然資源の持続可能な利用と、それによる生物多様性の保全を推進するための取組である「SATOYAMAイニシアティブ」を普及しました。具体的には、「SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)」の下で、2016年6月にペルー・クスコにおいて中南米地域会合をペルー政府との共催により開催しました。また、11月には日本・宝塚市においてIPSI第11回運営委員会を開催し、IPSI行動計画(2013-2018)の中間レビュ-を行い、今後のIPSI活動の方向性について討議しました。なお、IPSIの会員は2017年3月現在、16か国の政府機関を含む202団体となりました。

また、2013年に発足した、SATOYAMAイニシアティブの理念を国内において推進するための組織「SATOYAMAイニシアティブ推進ネットワーク」により、SATOYAMAイニシアティブの国内への普及啓発、多様な主体の参加と協働による取組の促進に向け、ネットワークへの参加を呼び掛けたロゴマークや活動事例集の作成や「エコプロダクツ2016」等の各種イベントへの参加を行いました。なお、本ネットワークの会員は2017年2月現在、52地方自治体を含む108団体となりました。

(2)ワシントン条約

ワシントン条約に基づく絶滅のおそれのある野生動植物の輸出入の規制に加え、同条約附属書Iに掲げる種については、種の保存法に基づき国内での譲渡し等の規制を行っています。また、2016年9~10月に開催されたワシントン条約第17回締約国会議において、条約の適切な執行のための議論に貢献しました。加えて、関係省庁、関連機関が連携・協力し、象牙の適正な取引の徹底に向けた官民協議会を設置し、取組を進めました。

(3)保護地域に係る国際的な取組

第1回アジア国立公園会議を契機に設立された「アジア保護地域パートナーシップ(APAP)」の初代共同議長国として、同枠組みの活動を主導しました。具体的には、保護地域の協働型管理推進をテーマとした「保護地域の協働型管理に関するAPAPワークショップ」を2017年2月に神奈川県箱根町で開催しました。

3 生物多様性に関わる国際協力の推進

(1)ラムサール条約

国内に50か所あるラムサール条約湿地における普及啓発活動を、ラムサール条約登録湿地関係市町村会議等の関係者と共に進めました。また、カンボジアに対して、ラムサール条約湿地の新規登録に向けた協力を行いました。

(2)アジア太平洋地域における渡り性水鳥の保全

東アジア・オーストラリア地域の渡り性水鳥及びその生息地の保全を目的とする国際的連携・協力のための枠組み「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAFP)」の下に設置されている渡り性水鳥重要生息地ネットワークに「東よか干潟」(佐賀県佐賀市)が新たに参加し、国内のネットワーク参加地は33か所になりました。ネットワーク参加地のうち、ツル類の生息地を対象として、関係自治体・団体間の交流促進事業を行いました。また、2017年1月にシンガポールにおいて開催されたEAAFP第9回パートナー会議では、日本からも積極的に議論に参加し、EAAFPの実施の基盤となる今後10年間の戦略計画を2年後の次回会議で採択することを目指して作業を進めることなどが決定しました。

(3)二国間渡り鳥条約・協定

米国、ロシア、オーストラリア、中国及び韓国との二国間の渡り鳥条約等に基づき、ズグロカモメに関する共同調査等を引き続き実施するとともに、2016年10月に豪州・ケアンズにおいて、オーストラリア、中国及び韓国との間で二国間渡り鳥保護協定等会議を開催しました。会議では、渡り鳥の保全施策等に関する意見・情報交換を行い、渡り鳥保全のための協力を推進することを確認しました。

(4)国際的なサンゴ礁保全の取組

2016年11月に、フランス・パリで開催された国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)第31回総会に出席し、地球規模サンゴ礁モニタリングネットワーク(GCRMN)の今後の活動に関する議論や日本の取組の報告等を行いました。また、2017年2月に、シンガポールでGCRMN東アジア会合を開催し、東アジア地域におけるサンゴ礁生態系モニタリングデータの地域解析の進め方について議論を行いました。

(5)持続可能な森林経営と違法伐採対策

世界の森林は、陸地の約31%を占め、面積は約40億haに及びます。植林等による増加分を差し引いた森林減少の面積は、2010年から2015までの5年間では、1990年代に比べて約半分に低下しているものの、依然として森林減少が続いています。地球温暖化や生物多様性の損失に深刻な影響を与える森林減少・劣化を抑制するためには、持続可能な森林経営を推進する必要があります。我が国は、持続可能な森林経営の推進に向けた国際的な議論に参画・貢献するとともに、関係各国、各国際機関等と連携を図るなどして森林・林業分野の国際的な政策対話を推進しています。

2015年5月の第11回国連森林フォーラム(UNFF11)において、「森林に関する国際的な枠組(IAF)」を強化し、2030年まで延長することなどが決定されるとともに、2017年1月のUNFF特別会合において、2030年までに達成すべき目標・ターゲットを盛り込んだ国連森林戦略計画2017-2030が採択されました。

2016年11月に神奈川県横浜市で開催された第52回国際熱帯木材機関(ITTO)理事会では、持続可能な森林経営と熱帯木材の適正な貿易の推進に向け、運営や予算の議論が行われたほか、新事務局長が選出されました。

また、特に持続可能な森林経営の阻害要因の一つとなっている違法伐採への対策として、我が国では、グリーン購入法に基づき、国等の機関で合法性が証明された木材・木材製品等の調達を推進するとともに、地方公共団体や民間事業者等に対する普及等を行っています。

さらに、森林の減少及び土地利用の変化に伴う温室効果ガス排出量は世界全体の人為的な排出量の約1割を占めるとされており、2015年12月にフランス・パリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議で採択された、2020年以降の新たな国際枠組みであるパリ協定においては、森林を含む吸収源の保全及び強化に取り組むこと(5条1項)に加え、途上国の森林減少及び劣化に由来する温室効果ガスの排出の削減等(REDD+)の実施及び支援を推奨すること(同2項)などが定められました。また、同会合でREDD+に関する三つの締約国会議決定(非炭素便益、非市場アプローチ、セーフガード)が採択され、条約の下でのREDD+方法論の検討が終了しました。

4 世界的に重要な地域の保全管理の推進

(1)世界遺産条約

我が国では、世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)に基づき、屋久島、白神山地、知床及び小笠原諸島の4地域が自然遺産として世界遺産一覧表に記載されています。これらの世界自然遺産については、遺産地域ごとに関係省庁・地方公共団体・地元関係者からなる地域連絡会議と専門家による科学委員会を開催しており、関係者の連携によって適正な保全・管理を実施しました。小笠原諸島については、世界遺産委員会の勧告を踏まえ、外来種対策を推進しており、侵略的外来種であるグリーンアノールや、陸産貝類に深刻な影響を与えているクマネズミについて、引き続き、関係者の協働により重点的に防除対策を実施しました。また、知床については、世界遺産委員会の勧告・要請事項に対応するため、関係省庁及び関係地方公共団体等が連携し、専門家による科学委員会で、科学的検討を行い、2016年11月に世界遺産センターへ保全状況報告書を提出しました。

世界自然遺産の国内候補地である奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島については、専門家による科学委員会や、地域との情報共有や合意形成の場である地域連絡会議を開催し、2017年2月に自然遺産として、世界遺産一覧表へ記載するための推薦書を世界遺産センターへ提出しました。

(2)生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)

「生物圏保存地域」(Biosphere Reserves、以下「BR」という。)は、ユネスコの「人間と生物圏(Man and the Biosphere(MAB))計画」の枠組みに基づいて国際的に認定された地域で、生態系の保全と持続可能な地域資源の利活用の調和を目的としています。なお、「ユネスコエコパーク」は、我が国での通称です。

BRは、「保存機能(生物多様性の保全)」、「学術的研究支援」及び「経済と社会の発展」の三つの機能を発揮するため、ゾーニングとして、法律等に基づいて厳格に保護される「核心地域」、核心地域を保護するための緩衝的な機能を有し、保全目標と両立する活動のみ行える「緩衝地域」、及び持続可能な地域資源の利活用が展開・促進される「移行地域」の設定が求められており、核心地域と緩衝地域については、国立・国定公園や国有林の保護林等として保全されており、現在の登録総数は120か国、669地域(2017年3月現在)です。現在、志賀高原(長野県・群馬県)、白山(富山県・石川県・福井県・岐阜県)、大台ヶ原・大峯山・大杉谷(奈良県・三重県)、屋久島・口永良部島(鹿児島県)、綾(宮崎県)、只見(福島県)及び南アルプス(山梨県・長野県・静岡県)の7地域がBRに登録され、豊かな自然環境を保全するとともに、それぞれの自然や文化の特徴をいかした地域づくりが積極的に進められています。また、2016年9月には、祖母・傾・大崩(大分県・宮崎県)及びみなかみ(群馬県・新潟県)が新たなBR候補地としてユネスコに推薦書が提出されました。

(3)ユネスコ世界ジオパーク

「ユネスコ世界ジオパーク」は、ユネスコの「国際地質科学ジオパーク計画(International Geoscience and Geoparks Program)」の枠組みに基づいて国際的に認定された地域で、地層、岩石、地形、火山、断層など、地質学的な遺産を保護し、研究に活用するとともに、自然と人間とのかかわりを理解する場所として整備し、科学教育や防災教育の場とするほか、新たな観光資源として地域の振興にいかすことを目的としています。

現在日本からは、洞爺湖有珠山(北海道)、アポイ岳(北海道)、糸魚川(新潟県)、山陰海岸(京都府・兵庫県・鳥取県)、隠岐(島根県)、室戸(高知県)、島原半島(長崎県)、阿蘇(熊本県)の8地域がユネスコ世界ジオパークとして認定されています。ユネスコ世界ジオパークにおいて、国立公園や日本ジオパークの取組と連携して、公園施設の整備、シンポジウムの開催、学習教材・プログラム作り、エコツアーガイド養成等を行いました。

(4)世界農業遺産等

世界農業遺産は、社会や環境に適応しながら何世代にもわたり形作られてきた伝統的な農林水産業と、それに関わって育まれた文化、ランドスケープ、生物多様性等が一体となった世界的に重要な農林水産業システムをFAOが認定するものであり、我が国では、現在8地域が認定されています。これらの地域では、保全計画に基づき、農林水産業システムに関わる生物多様性の保全等に取り組んでいます。世界農業遺産の拡大に向けた取組を推進するとともに、こうした取組を更に盛り上げていくため、世界農業遺産の国内版として2016年4月に日本農業遺産を創設し、2017年3月に8地域を日本農業遺産として初めて認定しました。さらに、3地域の世界農業遺産への申請を承認しました。

(5)砂漠化への対処

砂漠化とは、国連の砂漠化対処条約(UNCCD)(1996年発効)において、「乾燥地域における土地の劣化」と定義されています。砂漠化の原因として、気候的要因のほか、過放牧、過耕作、過度の薪炭材採取による森林減少、不適切な灌漑(かんがい)による塩分集積等が挙げられます。その背景には、開発途上国における人口増加、貧困、市場経済の進展等の様々な社会的・経済的要因が関係しています。

UNCCDでは、加盟している開発途上国は砂漠化対処のための行動計画を作成し、先進国がその支援を行うことで砂漠化対策に取り組むこととされています。我が国も締約国会議に参画・貢献するとともに関係各国、各国際機関等と連携を図りつつ国際的な取組を推進しています。2016年度は、モンゴルにおける住民参加による持続可能な牧草地利用等検討事業のフォローアップとして、モンゴル及び日本において国際シンポジウムを開催しました。また、米国に次ぐ規模の拠出国として条約活動を支援しています。

(6)南極地域の環境の保護

南極地域は、近年、基地活動や観光利用の増加による環境影響の増大も懸念されています。

南極の環境保護に向けた国際的な取組は、南極の平和的利用と科学的調査における国際協力の推進のため南極条約(1961年発効)の下で定められた、南極の環境や生態系の保護を目的とする「環境保護に関する南極条約議定書」(1998年発効)により進められています。

我が国は、南極条約の締約国として、環境保護に関する南極条約議定書を適切に実施するため制定された南極地域の環境の保護に関する法律(平成9年法律第61号)に基づき、南極地域における観測、観光、取材等に対する確認制度等を運用するとともに、環境省のウェブサイト等を通じて南極地域の環境保護に関する普及啓発、指導等を行いました。また、2016年5月にチリで開催された第38回南極条約協議国会議に参加し、環境影響評価ガイドラインの改訂や、南極特別保護地区等の管理計画等、南極における環境の保護の方策について議論を行いました。また、職員が第58次南極地域観測隊に同行し、基地活動による南極地域の環境への影響を確認しました。