環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第3章>第3節 環境・経済・社会の諸課題の同時解決に向けた取組事例

第3節 環境・経済・社会の諸課題の同時解決に向けた取組事例

1 再生可能エネルギーの導入拡大

(1)再生可能エネルギーの導入状況

2013年の環境省の試算によれば、我が国全体の再生可能エネルギーの導入ポテンシャルは、CO2に換算して約21億トンCO2とされており、2015年度のエネルギー起源CO2排出量の約1.8倍に相当します。

我が国における再生可能エネルギーの導入については、エネルギー基本計画(2014年4月閣議決定)において、「2013年から3年程度、再生可能エネルギーの導入を最大限加速していき、その後も積極的に推進していく」としています。同計画を踏まえて2015年7月に策定された長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)においては、2030年度の再生可能エネルギーの導入水準を22~24%としており、再生可能エネルギーの導入拡大に向けた様々な施策を展開してきました。

我が国における再生可能エネルギーの導入量は、2012年7月の固定価格買取制度(FIT制度)の導入以来、特に太陽光発電を中心に急速に拡大しており、2014年に発電量に占める割合は約13%に達しています(図3-3-1)。

図3-3-1 再生可能エネルギー発電容量(大規模水力を除く)

政府は、日本再興戦略2016(2016年6月閣議決定)等において、再生可能エネルギーの最大限の導入を目標に掲げており、発電設備の効率化や蓄電池システムの低コスト化・高性能化に係る研究開発等を推進しています。このうち、利便性の高い電気を貯蔵することで、いつでもどこでも利用できるようにする蓄電池は、エネルギー需給構造の安定化を強化することに貢献するとともに、再生可能エネルギーの導入拡大に貢献する、大きな可能性を持つ技術です。我が国を含む世界全体で、蓄電技術等の革新によって、太陽光や風力等の再生可能エネルギーの本格導入が進んでいます。FIT制度に加え、こうした技術革新と低コスト化により、今後、再生可能エネルギーの導入が一層拡大することが見込まれます。

(2)地域エネルギーによる地域経済循環

前述したとおり、全国の約9割の市町村でエネルギー代金の収支が赤字になっており、地域外に資金が流出しています。一方で、再生可能エネルギーの導入ポテンシャルは、東京都、大阪府等の大都市圏では小さく、北海道、東北を始めとする地方部では総じて大きくなっています。これに加え、導入ポテンシャルが大きな地域ほど一人当たりGDPは平均的に低くなっており、再生可能エネルギーを地方部で生産し、都市部で消費することによって、エネルギー代金の支払先を産油国から国内、更には都市部から地方部へシフトさせることで、エネルギー収支の改善分を地方創生に活用できる可能性があります(図3-3-2)。こうしたことに着目して、再生可能エネルギーを活用した地域経済循環の実現に向けた取組が各地で行われるようになってきています。

図3-3-2 再生可能エネルギーポテンシャルと域内一人当たりGDPの関係

コラム:ドイツ・シュタットベルケに学ぶ地域エネルギーによる地域経済循環

再生可能エネルギーの導入が進むドイツでは、地域資源を有効活用した地域エネルギー供給の取組が進んでおり、その中心的な役割を担っているのが「シュタットベルケ」です。

シュタットベルケは、電力、ガス、水道、公共交通等、地域に密着したインフラサービスを提供する公益事業体で、ドイツ全土で約900あると言われており、地元の自治体によって出資されています。1990年代以降のドイツの電力自由化の中にあっても、再生可能エネルギー等の地域資源を有効活用した電力の発電・配電・小売事業やガス供給事業、地域熱供給事業及びエネルギー関連事業によって地域内経済循環を実現し、地域での新たな雇用を創出しています。

我が国でもシュタットベルケを参考として、自治体が中心となった地域新電力の取組が行われるようになってきています。

事例:エネルギー供給から総合的なインフラサービスへ(福岡県みやま市)

福岡県みやま市では、2015年2月に、みやま市、地方銀行、九州スマートコミュニティ株式会社が出資して、みやまスマートエネルギー株式会社を設立し、2016年4月の電力全面自由化とともに、自治体主導の地域新電力としては全国で初めて、家庭向けの電力小売サービスを提供しています。

みやまスマートエネルギー株式会社は「電力の地産地消」のため、これまでFIT制度に基づき売電されていた市内のメガソーラー発電所を始めとする太陽光設備の電力を、同制度より1円高い価格で買い取り、販売を行っています。市民に対しては、売電サービスの提供のみならず、タブレットを使った防災情報等の行政情報の配信や、高齢者の見守りサービス、家事代行、食事・日用品の宅配等を行っており、シュタットベルケを参考に、ソフト面も含めた総合的なインフラサービスの提供を行っています。こうした取組により、地域外に流出する支出を削減し、地域内で循環させることを目指しています。

みやま市スマートエネルギーの取組

事例:エネルギーの地産地消によるスマート防災エコタウン(宮城県東松島市)

東日本大震災の津波によって大きな被害を受けた宮城県東松島市では、2016年6月から津波被災者向けの災害公営住宅と周辺の病院、公共施設にマイクログリッドで再生可能エネルギーを供給する電力マネジメントシステムを稼働させています。

これは、太陽光発電による電力をFIT制度で売電するのではなく、自営線により災害公営住宅85戸と周辺の4つの病院や公共施設にCEMS(コミュニティ・エネルギーマネジメントシステム)で最適制御しながら電力を供給し、再生可能エネルギーを地産地消するもので、年間256tのCO2排出量の削減を見込んでいます。災害時には、非常用発電機と太陽光発電、大型蓄電池を組み合わせることで、最低3日間は通常の電力供給が可能となっており、停電が長期にわたる場合でも、病院や避難所等へは太陽光発電と大型蓄電池により最低限の電力供給が可能となっています。

また、宮城県内初の地域新電力であり、様々な地域の復興支援事業を手掛けてきた一般社団法人東松島みらいとし機構(HOPE)がこの電力事業を担うことで、地域に新たな雇用を創出し、事業収益を地域に還元する、地域内経済循環を構築しようとしています。

スマート防災エコタウンの取組
(3)再生可能エネルギーの導入による地域経済効果の試算

再生可能エネルギーの導入に当たっては、地域への経済効果を試算することが重要となります。例えば、後述する長野県飯田市のおひさま進歩エネルギー株式会社の太陽光発電事業の事例では、18.1億円の初期投資に対して、2013年までに9人の雇用を生み出し、2030年までに31.5億円の売上げがあり、17.8億円の地域経済付加価値が生まれると試算されています。また、地元の出資比率を高めることで、更なる地域経済付加価値が生まれると指摘されています。(図3-3-3

図3-3-3 おひさま進歩エネルギー株式会社事業による地域経済付加価値の累計ポテンシャルの予測(2030年まで)

事例:信用金庫による先進的なグリーン投資の取組(長野県飯田市)

2007年に環境文化都市宣言を行った飯田市は、地域を挙げて太陽光発電の導入に取り組んできました。2004年に設立されたおひさま進歩エネルギー株式会社を中心に、公益的協働事業として、全国の市民、飯田市、地域の工務店等の協力を得て、市の施設や事業所の屋根等に6,700kW、計351か所の太陽光発電を導入してきました。注目すべきは、「おひさま0円システム」と呼ばれる独自の取組です。おひさま進歩エネルギー株式会社が希望する個人住宅に初期投資ゼロで太陽光パネルを設置し、個人住宅は9年間定額を支払うと、10年目以降は太陽光パネルを譲渡されます。また、その間も余剰電力の売電収入があるため、導入に当たる金銭面の障壁を低くしています。事業に当たっては、地元の信用金庫が持続可能な地域を築いていくためのグリーン投資を行うことで、市民出資事業の安定性を確保しています。このほか、保育園や学校等の教育施設に太陽光パネルを設置し、子供たちへの環境教育を行うなど、エネルギーの地産地消と循環型社会の構築に向けて取り組んでいます。

おひさま0円システムの仕組み
(4)木質バイオマスの活用

我が国の森林蓄積は約50億m3と、バイオマスに関して先進的な取組を行っているドイツの34億m3を大きく上回っています。バイオマスは、エネルギーとして利用しても温室効果ガスの実質的な増大がないカーボンニュートラルなエネルギー源です。地域の土地利用計画や産業構造とうまく合致させることができれば、農山漁村へのエネルギー等の供給という新たな役割を与えることで林業の衰退を食い止め、森林の適正管理により農林漁業の自然循環機能(森・里・川・海の連環)を維持増進させ、地域への経済効果や雇用機会の増大をもたらすことが期待されています。

地域における木質バイオマス発電事業の導入には、長期にわたる安定的な原料の確保や地域密着型の小規模熱電併給(コージェネレーションシステム)等によるエネルギー効率の改善といった課題もありますが、近年、林業が盛んな山村地域において、様々な取組が行われるようになってきています。

事例:木質バイオマス資源の総合的な活用(岡山県真庭市)

2014年に農林水産省ほか6府省共同で推進する「バイオマス産業都市」に選定された岡山県真庭市では、市域8割近くが森林である地の利をいかし、森林の間伐材や製材後の端材等を燃料にしたバイオマス発電に取り組んでいます。2009年には「真庭バイオマス集積基地」を建設し、近隣から間伐材や端材を買い取るシステムを構築しました。さらに地元の製材会社や木材事業協同組合等と共同出資し、「真庭バイオマス発電株式会社」を設立し、10MWの木質バイオマス発電所が2015年から稼働しています。市の試算によると、未利用材等の購入により約13億円が地元の山林所有者や林業関係者に還元され、約50人の雇用効果があるとされています。また、木質バイオマスによるエネルギー自給率は、稼働前の12%から32%に上昇しました。

真庭バイオマス発電所

また、電気だけでなく、市庁舎等の公共施設でのバイオマスの熱利用に加え、国内初のCLT(直交集成板)生産拠点の設立、セルロースナノファイバーの開発・利用を進めるベンチャー企業の設立等、バイオマス資源を総合的に利用する取組が進んでいます。このような取組に対する視察の要望が多くあり、2006年から真庭市と観光連盟が連携して開始した「バイオマスツアー真庭」には、年間約3,000人の参加者があり、地域の誇りにもつながっています。

コラム:100年前に再生可能エネルギーの活用を訴えた内村鑑三

思想家の内村鑑三(1861年~1930年)は、1911年に行った講演において、再生可能エネルギーの可能性について言及しています。

内村鑑三

富は大陸にもあります、島嶼にもあります。沃野にもあります、沙漠にもあります。大陸の主かならずしも富者ではありません。小島の所有者かならずしも貧者ではありません。善くこれを開発すれば小島も能く大陸に勝るの産を産するのであります。ゆえに国の小なるはけっして歎くに足りません。これに対して国の大なるはけっして誇るに足りません。富は有利化されたるエネルギー(力)であります。しかしてエネルギーは太陽の光線にもあります。海の波濤にもあります。吹く風にもあります。噴火する火山にもあります。もしこれを利用するを得ますればこれらはみなことごとく富源であります。かならずしも英国のごとく世界の陸面六分の一の持ち主となるの必要はありません。デンマークで足ります。然り、それよりも小なる国で足ります。外に拡がらんとするよりは内を開発すべきであります。

(内村鑑三著『後世への最大遺物・デンマルク国の話』岩波文庫より引用)

内村は、19世紀後半にプロイセン王国との戦いに敗れ、国土が大幅に縮小したデンマークが、荒廃した土地を植林し、牧草地に変え、豊かな国となった様子から、国内にある資源の有効活用を説きました。地下資源に乏しい我が国にとっても、国内にある再生可能な自然資源の活用は、大きな可能性を秘めたものと言えます。

2 資源生産性の向上に向けた3Rの推進

(1)食品ロス削減に向けた取組

食品ロスの削減は、2015年に合意されたSDGsにおけるターゲットの一つとなっていることに加え、2016年5月に開催されたG7富山環境大臣会合において採択された富山物質循環フレームワークにおいても、具体的な国内施策の例として取り上げられています。我が国においては、食品の製造、流通、消費の各段階で生じる動植物性残さ等の食品廃棄物について、食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(平成12年法律第116号)の制定により、その利活用が推進されています。

2016年10月には、「おいしい食べ物を適量で残さず食べきる運動」の趣旨に賛同する地方自治体により、広く全国で食べきり運動等を推進し、食品ロスを削減することを目的として「全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会」が福井県を事務局として設立されました。協議会には2017年3月現在44都道府県、234市区町村が参加しており、自治体の取組の優良事例の共有や、共同キャンペーンの実施等を行っています。例えば、スーパーに対して少量やばら売り等の使い切り食材販売を要請する「食材おいしく使い切り」や、2016年末の忘年会シーズンには飲食店に対して食品ロス削減への協力を呼びかける活動を全国共同キャンペーンとして実施しました。

特に宴会時には大量の食べ残しが生じる傾向にあります。このため、長野県松本市は宴会開始後30分と終了前10分は着席して食事に集中する取組を「3010運動」と銘打ち、現在この取組は全国各地に広がっています。環境省としても、オリジナル・デザインの三角柱ポップを作成し、外食店などで活用してもらえるようホームページで提供することで普及を行いました(図3-3-4)。

図3-3-4 3010運動の普及啓発用チラシ

事例:食品廃棄物等の地域内循環の取組(NPO法人循環生活研究所)

NPO法人循環生活研究所(福岡県福岡市)は、「暮らしに必要なものを地域内で循環させることで享受できる楽しく安全で創造的な生活」を「循環生活」と名付け、ダンボールコンポストによる生ごみ等の食品廃棄物や落ち葉を使った堆肥づくりやその堆肥を使った野菜づくり、地域の不要物のフリーマーケット活動等、様々な地域循環の取組を続けています。また、福岡市内の高層マンション街区においてコミュニティガーデンを運営し、住民が段ボールコンポストで作った堆肥を用い、都市で生活しながら有機野菜を育てる活動も行っています。

ダンボールコンポストで作った堆肥を用いた市民農園

長年にわたる地域での地道な活動は、国内のみならず海外からも注目を集め、海外からの研修や視察を受け入れたり、国際会議等で情報発信を行うなど、循環生活の国内外への普及に努めています。

(2)2R推進型ビジネスモデルの多様化

資源生産性向上のためには、3R(リデュース・リユース・リサイクル)の中でも、とりわけ2R(リデュース・リユース)の取組が重要となります。2Rを推進するビジネスモデルとしては、店舗を構え、消費者等からのリユース品の買取りと販売を行う店舗型のリユースビジネス等が従来から存在していましたが、情報通信技術の発達等に伴い、近年、様々な新しいビジネスモデルが普及しつつあります。リユースに関して見てみると、インターネットを活用したオークションやフリーマーケット等、事業者を介さずとも消費者同士がより手軽に取引を行えるようにするプラットフォームが普及しつつあり、特に、フリマアプリの利用は、若年層を中心に急拡大しています。

2015年12月に発行された欧州連合(EU)の報告書「EU新循環経済政策パッケージ(Closing the loop - An EU action plan for the Circular Economy)」では、リユースをこれまで以上に進めるため、「リペア(修理)」、「リファービッシュ」、「リマニュファクチュアリング」等、一旦使い終わった製品を素材に戻してしまうリサイクルではなく、製品に残された価値を可能な限りそのまま活用するビジネスモデルが提唱されました。

また、リデュースをこれまで以上に進めるためのビジネスモデルの一つに数えられる「シェアリングビジネス」は、個人等が保有する遊休資産(スキルや時間等無形のものを含む)を、インターネットを介して他者が利用できるようにするサービスのことで、宿泊、交通、駐車スペース等の分野で動きが見られています。こうしたシェアリングビジネスには、従来の業法規制等との兼ね合いや、信頼性の向上等の課題もありますが、2018年度までには2014年度の233億円から市場規模が倍増すると予測されています(図3-3-5)。

図3-3-5 シェアリングエコノミー国内市場規模の予測

こうした新たなビジネスモデルは、リデュースやリユースをこれまで以上に進めるために、いずれも、物が持つ機能を可能な限り長い期間、生産的に利用し続けることで、これまで顕在化していなかった価値を掘り起こし、社会全体の資源生産性を高める効果を有するものです。こうした2R推進型ビジネスモデルの更なる創造・普及が期待されます。

事例:地域におけるリユースの推進(福井県鯖江市)

福井県鯖江市では、ヤフー株式会社が提供するオークションサービス「ヤフオク」と提携し、市民の遊休資産となっている古家具や工芸品、市役所内で使われなくなったじゅう器等を市がまとめて競売にかけ、その収益で環境教育を推進する「サバオク」が2016年9月に開催されました。普段インターネットオークションと接点のなかった市民の遊休資産を自治体が一括して出品することで、市民にとっては価値が低いと思われていた古家具等に価値を見いだす人たちとつながることができたという声も聞かれました。市民からの出品数は395点、落札総額は約46万円となり、公有財産売却と併せて53万円の収益がありました。

サバオクの募集ウェブサイト

事例:リマニュファクチュアリング(リコー株式会社)

重機や自動車、OA機器といった製品は多くの部品から構成されており、部品によって消耗年数も異なります。そこで、廃棄段階となった商品を完全に分解し、再生利用可能な部品に再生処理を施して新品と同様若しくは必要程度の品質まで回復させて再出荷することを「リマニュファクチュアリング」と言います。リコー株式会社は1997年に初の再生複写機を発売し、2009年には初のデジタルフルカラー再生機を発売するなど、リマニュファクチュアリングに積極的に取り組んできました。最新の再生機においては、質量比で平均80%のリユース部品を使用することで、製造工程の環境負荷を新造機と比べて79%削減しています。

製造工程でのCO2排出量比較
(3)都市鉱山

パソコンや携帯電話といった家電製品には鉄や銅といった金属に加え、金等の貴金属や様々なレアメタルが使われています。これらの金属を含んだ家電製品は「都市鉱山」とも呼ばれ、資源効率性の観点から、積極的にリサイクルする取組が行われています。特に、電子機器には様々な部品が存在し、希少・有価な金属を含有するものもあります。例えば、携帯電話には、金・銀・銅・アルミの主要金属に加え、20種類以上のレアメタルが使用されています。

我が国は、こうした鉱物資源のほとんどを輸入によって賄っていますが、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)の試算によると、我が国の都市鉱山に含まれる金・銀・銅等は、世界の2~3年相当の消費量に匹敵し、電池材として期待されるリチウムや、触媒・燃料電池電極として不可欠とされる白金の蓄積量が多いとされています(図3-3-6)。都市鉱山を活用することは、資源に乏しい我が国において、資源の安定的な確保につながるのはもちろんのこと、採掘における樹木の伐採や重金属の不適正処理による水質汚濁の防止等、地球規模の環境影響を小さくする効果があります。例えば1gの金属資源を採取するのに必要な物質総量は、鉄約8g、銅約360g、プラチナ約520kg、金に至っては約1.1tとされています。都市鉱山の活用を含む希少金属のリサイクルを進めることは、地球規模での環境保全につながり、資源効率性の向上に寄与します。

図3-3-6 世界の年間消費量と我が国の都市鉱山との比較

このため、国内では小型家電リサイクル制度を推進し、市町村が主体となって市民から使われなくなった小型家電を回収し、高度な処理・選別技術を持つ事業者に引き渡し、鉄や銅、アルミ、金や銀に選別した後、製錬事業者に引き渡すことで、国内での資源の循環利用を進めています。また、特に開発途上国を始めとする海外において適正処理が困難な電気電子廃棄物等の有害廃棄物を積極的に受入れ、我が国の高度な処理技術を活用して適正に処理することは、世界全体の環境負荷低減にもつながります。このため、中央環境審議会及び産業構造審議会の合同会議において取りまとめられた、特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律(平成4年法律第108号)に基づく輸入手続の緩和等を行うことを含む報告書を受け、制度の見直しを進めています。

コラム:2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会のメダルを都市鉱山から

2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会では、都市鉱山を活用してメダルをつくるプロジェクトが進められています。2017年2月には、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会が、入賞メダルを使用済携帯電話やパソコン等の小型家電から取り出したリサイクル金属で作成することを発表しました。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会では合計約5,000枚程度のメダルが作成されますが、そのために必要な金属は、製造過程において発生する材料ロスも考慮すると、金約40kg、銀約4,900kg、銅約3,000kgと試算されています。

都市鉱山から作る!みんなのメダルプロジェクト関連イベント

今後は同組織委員会が選定した二つの事業協力者(株式会社NTTドコモ及び一般財団法人日本環境衛生センター)を代表として、市町村や小型家電リサイクル法に基づく認定を受けた事業者が中心となって、リサイクルメダルの作成に向けた小型家電の回収をこれまで以上に強化する必要があります。日本中の全ての国民の参加を得て、リサイクルメダルを作成することで、オリンピック後も小型家電リサイクルが我が国の循環型社会として定着する「レガシー」となることが期待されています。

3 持続可能なまちづくり

(1)コンパクトなまちづくり

人口減少社会においては、それぞれの地域内において各種機能をコンパクトに集約すると同時に、各地域がネットワークでつながることによって、一定の圏域人口を確保し、生活に必要な機能を維持することが、環境対策の観点からも効果的です。そのような各種機能は日常生活に必要なものから、特定のときにしか利用しないものまで様々であり、それに応じて必要な圏域規模が規定されるため、都市レベル、集落レベル等、階層的に「コンパクト+ネットワーク」を構築していくことが重要となります。

2016年5月には、地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号)が改正され、都道府県及び市町村が策定する地方公共団体実行計画に係る記載事項の例示として、新たに「都市機能の集約の促進」が追加されました。

政府全体では、まち・ひと・しごと創生総合戦略(2016年12月閣議決定)に基づき、関係府省からなるコンパクトシティ形成支援チームを設置して市町村の取組を支援しており、各地でコンパクトシティ形成に向けた取組が始められています。

事例:公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり(富山県富山市)

2016年5月にG7環境大臣会合が開催された富山県富山市では、鉄軌道を始めとする公共交通を活性化させ、その沿線に居住、商業、業務、文化等の都市機能を集積させる、公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくりの取組を全国に先駆けて進めており、その都市構造を「お団子と串」に例えて市民へPRしています。

富山市における「お団子と串」の都市構造

富山市のコンパクトなまちづくりのリーディングプロジェクトとして整備され、2006年に開業した富山ライトレールは、旧JR富山港線の鉄道施設を活用し、我が国初の本格的LRT(次世代型路面電車システム)として再生した取組です。バス車両や自動車に比べてCO2排出量が少ない路面電車の特徴をいかし、振動の少ない軌道形式の採用やバリアフリー化だけでなく、運行間隔の短縮や新駅の設置など利便性を向上させることにより、利用者数は開業前に比べて平日で約2倍、休日で約3.5倍と大きく増加しています。

富山ライトレール

LRTネットワークの形成と合わせて、都心部や公共交通沿線への居住推進や中心市街地の活性化に向けた取組が進められています。過度に自動車に依存したライフスタイルを見直し、歩いて暮らせる集約型の都市構造への転換を推進しており、中心市街地の人口動態においては、2008年から転入超過(社会増)を維持するとともに、高齢者の外出機会の増加等、まちづくりの効果も現れつつあります。

(2)スマートコミュニティの構築

スマートコミュニティは、再生可能エネルギーや熱を地域で最大限活用する一方で、エネルギーの消費を最小限に抑えるため、家庭やビル・交通システムをITネットワークでつなげ、地域でエネルギーを有効活用する次世代の社会システムです。地域で発生するエネルギーや熱を地産地消することで、地域資源の活用や地域への雇用創出効果が期待されるとともに、災害に強いレジリエントなまちづくりとして、各地で取組が進められています。

事例:Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(神奈川県藤沢市)

神奈川県藤沢市の「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」は、パナソニックグループの工場跡地に、戸建て住宅約600戸、集合住宅約400戸の計1,000世帯のスマートタウンを整備する官民共同プロジェクトです。全ての戸建住宅には、太陽光発電、蓄電池、HEMS(ホーム・エネルギーマネジメントシステム)が標準装備され、CO2排出量70%削減、生活排水30%削減、再生可能エネルギー利用率30%、非常時の3日間のライフラインの確保を目標に掲げています。

Fujisawaサスティナブル・スマートタウン

また、インフラ整備にとどまらず、「くらし起点」のスマートタウンとして、街に関わる人々がスマートライフを育み、新たなサービス・技術を取り入れることで、100年先も続くまちづくりを目指しています。2017年3月には、スマートタウン内への各宅配事業者の荷物をヤマト運輸株式会社が集約し、各住宅に設置されたスマートテレビに配達予定等を配信する一括配送サービスが開始されています。配送センターには、太陽光発電やLEDを導入し、従来の集配拠点と比べてCO2排出量を約30%削減しています。さらに、荷物の集配には、台車、電動アシスト付き自転車、電気自動車を使用することで、エコでスマートな物流サービスを提供しています。

事例:田町スマエネパーク(東京都港区)

田町スマエネパークは、東京都港区が策定した街づくりビジョンの下、田町駅東口北地区(約8ha)における街区全体の1990年比45%のCO2削減目標を掲げて整備が進められています。このうち、整備が先行する公共街区では、エネルギーの需要側である港区及び愛育病院と供給側である第1スマートエネルギーセンター(東京ガスグループ)で構成され、需要側と供給側の官民が連携し、「低炭素で災害に強いまちづくり」をコンセプトに、2014年11月より供用が開始されています。

当地区では、高効率ガスコージェネレーションシステム(CGS)を核に、太陽光・熱等の再生可能エネルギーや地下トンネル水の未利用エネルギーを最大限活用し、街区全体を熱、電気、情報のネットワークでつなぐ「スマートエネルギーネットワーク」の構築を始め、需要側・供給側双方で様々な低炭素化技術が採用されています。

熱・電気・情報のネットワーク(イメージ)

第1スマートエネルギーセンターには、ICTを活用して街区全体のエネルギー需給の最適化を図るSENEMS(スマートエネルギーネットワーク・エネルギーマネジメントシステム)が導入され、エネルギーを一体的にマネジメントしています。また、災害等の非常時には、第1スマートエネルギーセンターより、港区の防災拠点施設(みなとパーク芝浦)にCGSから電気を供給するとともに、愛育病院に熱を一定量継続的に供給することで、エネルギー面での高いレジリエンスを実現しています。

公共街区の構成施設
(3)グリーンインフラの取組

グリーンインフラとは、社会資本整備、土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土づくりや地域づくりを進めるものです。

第4次社会資本重点整備計画(2015年9月閣議決定)においては、自然環境が有する多様な機能を積極的に活用して、地域の魅力・居住環境の向上や防災・減災等の多様な効果を得ようとするグリーンインフラの取組を推進することとされています。また、国土強靱化基本計画(2014年6月閣議決定)、国土形成計画(全国計画)(2015年8月閣議決定)、国土利用計画(全国計画)(2015年8月閣議決定)、気候変動の影響への適応計画(2015年11月閣議決定)等にも自然生態系の有する機能の活用について言及されているところです。

自然災害が多い我が国では、古くから自然生態系を積極的に防災や減災に活用してきました。例えば、土砂崩れを防ぐ森林の保全、海岸での砂や風の被害を防ぐ海岸林の整備、水害を減らす堤防沿いの竹林の整備、風を防ぐ屋敷林の整備等がそれに当たります。また、社会資本整備や土地利用において、社会・経済の状況を踏まえ、自然環境が有する機能を活用した取組が行われてきました。さらに最近では、地球温暖化による集中豪雨等への適応策という観点からも、まちづくりの中にグリーンインフラを積極的に活用しようという取組が見られます。

例えば、1990年代にアメリカ・メリーランド州で始まった「レインガーデン(雨庭(あめにわ))」は、アスファルトや屋根に降った雨水を一時的に貯留し、時間をかけて浸透させるための植栽空間のことで、小規模な緑地を住宅の庭、広場、道路の植栽帯、建物の屋根等に数多く整備することで、豪雨時に雨水が一気に下水道に流れ込むことを防いでいます(写真3-3-1)。こうした取組は、大規模な雨水貯留施設を整備するよりも維持管理コストが小さいという報告もあり、また、生態系の創出・保全を通じて、都市における野生生物の回復やヒートアイランドの緩和、水質の向上、住民のコミュニティの場の提供等、様々な効果が確認されています。

写真3-3-1 アメリカにおけるグリーンインフラ(レインガーデン)の事例

我が国においては、今後人口減少や都市機能の集約等によって、空き地や低・未利用地が増加することが予想されており、そうした土地の有効活用策としても期待されています。

事例:京都市内における「雨庭(あめにわ)」づくり(京都府京都市)

京都市内では、伝統的な日本庭園の知恵をいかした雨庭(あめにわ)づくりが進められています。

京都学園大学京都太秦キャンパスでは、2015年にキャンパスの中庭に枯山水をモチーフにした雨庭を設置しており、時間当たり100mmの豪雨でも1~2日かけてゆっくり排水できる設計になっています。植栽には、イロハモミジやツツジ類等の地域の在来種に加え、フジバカマやフタバアオイといった希少種も選定されており、京都の伝統文化と関わりの深い植物の普及啓発の場や希少種の避難場所(レフュージア)としても機能しています。

京都太秦キャンパスの枯山水

京都駅ビルの「緑水歩廊」は、「ビル型雨庭(あめにわ)」として2012年に京都駅ビルに設置されました。駅ビルの高低差を利用して、屋上に降った雨水を徐々に下の階のプランターに供給する仕組みとなっており、湧水の汲み上げには、太陽光発電による電力のみが使われています。京都の原風景である里山、棚田・湿地、池沼のゾーンに分かれ、かつて京都で身近に生育していたキクタニギク等の植生が再現されています。

京都駅ビルの緑水歩廊

こうした小規模な雨庭(あめにわ)を適切に配置していくことで、豪雨時の内水氾濫のリスクを軽減するとともに、都市における生物多様性の保全や生態系ネットワークの形成にも資することが期待されています。

(4)ストックの適切な維持管理・有効活用

社会資本は、現在及び未来の国土・地域を形づくる礎であり、長期間にわたって、幅広い国民生活や社会経済活動を支えるものです。本格的な人口減少を迎える中にあっても、我が国経済社会の活力と魅力を維持・向上させるため、必要な社会資本整備を着実に進めていくとともに、既存の社会資本の戦略的なメンテナンスと有効活用(賢く使う取組)を進めていく必要があります。

人口減少社会において、既存の建築物等の適切な維持管理を怠れば、老朽化が早く進行することで短期間で解体・撤去し、新たに更新せざるを得なくなります。この場合、建築物等を長期間活用した場合に比べて、廃棄物の発生量及び資源の投入量が増大し、所有者の財政負担が増します。さらに、全国各地で所有者等が不明なまま放置された空き家や廃墟となった施設が、防犯やまちの魅力といった点において地域で問題化するケースが生じつつあります。また、適切に管理されないまま老朽化した施設は災害に対して脆弱であり、小さな災害でも倒壊等の被害が発生して災害廃棄物となり、自治体の負担で撤去・処理を行う必要が生じるケースが生じています。

人口減少社会において、廃棄物発生量や資源投入量を抑えた持続可能で活気のあるまちづくりを進めていくためには、既存の建築物等を適切に維持管理することで、できるだけ長く地域で活用していく工夫をこらす必要があります。一部の地域では自治体やNPO等が中心となり、地方で空き家となった民家等を再生し、地方に移住した人に提供したり、観光や地域住民が交流する施設として再整備するなどの取組が進められています。さらに、地域で再活用することが困難となった老朽施設については良好な都市景観を損ね、倒壊等の危険な状態となってしまう前に解体・撤去し、発生した廃棄物を可能な限り再生利用した上で、適正に処分していく必要があります。

事例:空き家となった古民家と集落丸山の再生(兵庫県篠山市)

兵庫県篠山市の山あいにある丸山集落では、築150年以上の古民家と豊かな里山が織りなす美しい景観が見られます。しかし、かつては12軒のうち7軒が空き家となり、農地の多くが放棄され限界集落と言われていました。集落の将来に危機感を持った住民、篠山市の職員、専門家等が2008年からワークショップを繰り返し開催してビジョンを練りました。そして、2009年から住民が立ち上げたNPO法人集落丸山と中間支援組織である一般社団法人ノオトが有限責任事業協同組合丸山プロジェクトを立ち上げ、3軒の空き家を宿泊施設やレストランとして再生しました。現在、海外からも宿泊客が訪れるなど丸山プロジェクトそのものが成果を上げるだけでなく、耕作放棄地を都市部の住民が借りて農業を始めるなど集落全体の再生につながってきています。この取組を環境の視点で見ると、いずれ誰かがコストを負担して、廃棄物として処理せざるを得ない空き家を集落の財産に変えた取組であり、自然と一体となった豊かな里山を保全する取組であると言えます。現在、一般社団法人ノオトは集落丸山の再生の経験を踏まえて、他の集落の古民家再生、旧城下町の町屋の再生など篠山市全体に古民家をいかした地域再生の取組を広げています。

集落丸山の風景
古民家を再生した宿泊施設

事例:門前町の再生(長野県長野市)

長野県長野市は千年以上の歴史を持つ善光寺の門前町を中心に栄えてきました。しかし、近年は長野駅周辺や郊外に人口が移動し、門前町は空き家が目立つようになってきていました。このような中、2000年代前半頃から地元誌の編集者、建築家、デザイナー等がそれぞれ空き家や空き店舗等を再生して、活動や営業の拠点とする取組を始めました。また、2003年には地元の商工会議所、長野市、企業等が出資する株式会社まちづくり長野が設立され、住民による保存活動が行われていた古い商家や蔵を、飲食店や音楽会等が開催される中庭等として再生する事業等が行われました。さらに、2009年から建築家、デザイナー等が有限責任事業協同組合を設立して古い木造家屋や蔵等をカフェ、書店、シェアオフィス等に一体的に再生する事業や空き家見学会等を行う「長野・門前暮らしのすすめ」という連携プロジェクト等が行われるようになり、2010年には空き家・空き店舗の仲介、設計、施工、賃貸管理を行う企業も設立されました。現在までに、門前町の多くの古い空き家や空き店舗が再生され、善光寺の門前町としての歴史や文化を踏まえつつ新たな活気にあふれる門前町に生まれ変わっています。この取組を環境の視点で見ると、古い建築物を解体し新たな建築物に建て替えた場合に比べて廃棄物発生量や資源投入量の大幅削減を同時に実現した取組と言えます。現在、門前町以外の中心市街地にも同様の取組が広がっています。

門前町の再生

事例:空家等対策の推進に関する特別措置法に基づく行政代執行(東京都板橋区)

東京都板橋区において、所有者がため込んだごみや建物の老朽化により、1995年頃から近隣住民の生活に重大な悪影響を与える状態が続く家屋がありました。板橋区では関係部署が連携して指導や説得を行い、敷地外にはみだしたごみの一部撤去を実施するなどの対応を行ってきましたが、抜本的な解決には至りませんでした。2015年に所有者が亡くなり、同年に空家等対策の推進に関する特別措置法が完全施行されたことを受け、庁内検討会議や学識経験者等で構成される協議会での意見聴取等を経て、2017年1月17日から行政代執行を実施し、2017年3月30日までに建物及び敷地内の残置物の撤去を行いました。

4 国立公園を活用したインバウンドの拡大

(1)国立公園を活用したインバウンドの意義

近年、世界全体の海外旅行者数は増加傾向が続いており、訪日外国人旅行者数は急増しています。2016年には2,400万人を突破し、旅行消費額は3.8兆円に達しています(図3-3-7)。

図3-3-7 訪日外国人旅行者数と旅行消費額の推移

2016年3月に、安倍内閣総理大臣を議長とする「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」は、「明日の日本を支える観光ビジョン」を決定し、訪日外国人旅行者数の新たな目標として、2020年に4,000万人(旅行消費額8兆円)、2030年に6,000万人(旅行消費額15兆円)を掲げ、我が国の豊富で多様な観光資源を誇りを持って磨き上げ、観光の力で、地域に雇用を生み出し、人を育て、国際競争力のある生産性の高い観光産業に変革していくこととしています。この目標を達成するためには、訪日外国人旅行者数を増やすだけでなく、観光サービスの高付加価値化によって、一人当たり旅行支出を増加させていく必要があります。

この中で、国立公園については、迎賓館や文化財等と共に、改革を進める10の柱の一つに位置付けられ、世界水準の「ナショナルパーク」を目指し、充実した滞在アクティビティ等民間の力もいかし、体験・活用型の空間へと生まれ変わらせることで、訪日外国人国立公園利用者数を2020年までに2015年の2倍以上の1,000万人に増やすことを目標に掲げています。

訪日外国人旅行者が訪問前に期待することは、「日本食」、「ショッピング」に次いで、「自然・景観地観光」が高くなっていますが、実際に訪問した後の満足度は89.3%で、おおむね高い評価が得られています。国立公園を活用したインバウンドの推進は、こうした訪日外国人旅行者のニーズとも合致したものと言えます(図3-3-8)。

図3-3-8 訪日外国人旅行者の訪日前の期待と満足度
(2)国立公園満喫プロジェクト

1872年にアメリカのイエローストーン国立公園が世界最初の国立公園に指定され、国立公園制度が世界に広がっていきました。

我が国では、1915年に内務省(当時)が国立公園の候補地の調査を開始し、1931年に国立公園法が制定され、1934年3月に我が国の最初の国立公園として、瀬戸内海、雲仙、霧島が指定されました。当時は1929年の世界恐慌を背景として、外貨獲得のために外国人観光客を誘致することが目的の一つにあり、原始性の高い山岳の大風景地や伝統的風景観に基づく名勝地を中心に国立公園の指定がなされました。その後、時代のニーズに対応して、サンゴ等の海中景観、広大な湿原景観等についても新たに国立公園としての価値が認められ、2017年3月末現在、全国で34か所の国立公園が指定され、その総面積は国土の5%超に及んでいます。

国立公園は、人口減少・高齢化が進む地方部に多く分布しており、産業が乏しい地域にあって、国立公園の資源をいかした観光は長年にわたって地域の主要な産業として大きな経済効果をもたらしてきました。しかしながら、全国の国立公園の利用者数は、1990年代前半をピークに減少傾向にあり、最初の国立公園の指定から80年以上の年月を経て、再び国立公園のインバウンドに地域の期待が高まっています(図3-3-9)。

図3-3-9 国立公園利用者数の推移

環境省では、2016年7月にインバウンド拡大に向けて先行的・集中的に取組を実施する国立公園として、まず8つの国立公園を選定しました。各国立公園においては、多様な関係者からなる地域協議会を設置し、現地での議論を重ね、2016年12月に「ステップアッププログラム2020」が策定されました(図3-3-10)。現在、本プログラムに基づき、世界水準の「ナショナルパーク」を目指し、最大の魅力は自然そのものをコンセプトに、国立公園区域の周辺も含めた景観の改善を図り、美しい自然の魅力を最大限引き出すための取組や、大自然の中に身を置き、体感できるよう、上質な宿泊・滞在施設の誘致やツアープログラム等の検討を行い、高品質・高付加価値なツーリズムの提供に向けた取組を進めています。

図3-3-10 先行的取組の8国立公園におけるステップアッププログラム2020

コラム:やんばる国立公園と奄美群島国立公園 ~ 世界自然遺産に向けた新たな国立公園 ~

2016年9月にやんばる国立公園(沖縄県)が、2017年3月に奄美群島国立公園(鹿児島県)が新たな国立公園として指定されました。

やんばる国立公園は、沖縄島北部(通称:やんばる)に位置し、国内最大級の亜熱帯照葉樹林が広がり、琉球列島の形成過程を反映して形成された島々の地史を背景に、ヤンバルクイナなど多種多様な固有動植物や希少動植物が生息・生育し、石灰岩の海食崖やカルスト地形、マングローブ林など多様な自然環境を有しています。

ヤンバルクイナ(やんばる国立公園)

また、奄美群島国立公園は、奄美大島、徳之島、喜界島、沖永良部島及び与論島が対象で、アマミノクロウサギ等の固有動植物が生息・生育し、国内最大規模の亜熱帯照葉樹林、琉球石灰岩の海食崖や世界的北限に位置するサンゴ礁、マングローブ、干潟など多様な自然環境を有しています。

今回指定した奄美大島、徳之島、沖縄島北部やんばる地域及び西表島を合わせて、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」として、2018年夏の国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界自然遺産への登録を目指して、2017年2月に推薦書を提出しています。

2015年度の環境省「環境経済の政策研究」によると、奄美大島では世界自然遺産に登録されると、観光客が1.4倍に増加すると予測されています。エコツーリズム等の活用によって、貴重な自然環境を守りながら、地域の活性化にもつながるような仕組みづくりが求められています。

湯湾岳(奄美群島国立公園)

事例:観光と環境の好循環によるまちづくり(北海道ニセコ町)

支笏洞爺国立公園やニセコ積丹海岸国定公園を有し、スノーリゾートとして有名な北海道ニセコ町は、豊かな自然をいかした夏のカヌーやラフティングも人気となっており、一年を通して東アジアや東南アジア、オーストラリアから多くの外国人が訪れています。訪日外国人宿泊客数は、2004年の1.4万人から2015年の17.7万人まで10倍以上に増加しています。

ラフティングツアーの様子

ニセコ町の主要産業は観光と農業で、いずれも自然資本を基盤としています。また、ニセコ町は内閣府の環境モデル都市として、地域の自然資源を最大限活用し、2050年度のCO2排出量86%削減(1990年度比)という高い目標を掲げ、再生可能エネルギーの導入、温泉熱の利用、雪氷熱を利用した農産物の保管等により、低炭素まちづくりに取り組んでいます。同時にリゾート地として、年間約170万人の観光客が訪れる中で、住民だけでなく観光客にも環境配慮行動を促す仕組みの構築を行っています。

こうした環境への取組は、「国際環境リゾート」としてのまちのブランド化にも寄与しており、町の人口は1990年の4,511人から、外国人や観光事業者の移住等により、現在は5千人を超えるまでに回復しています。

5 環境金融等の拡大

(1)ESG投資の促進

環境・経済・社会が共に発展し、持続可能な経済成長を遂げるためには、長期的な投資環境を整備し、ESG投資を促進することが重要です。

ESG投資については、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の視点から評価することにより、企業価値を中長期的に評価し、持続的成長に資する投資を喚起する効果が期待されます。環境の視点からの評価については、2017年1月に環境省の持続可能性を巡る課題を考慮した投資に関する検討会(ESG検討会)が「ESG投資に関する基礎的な考え方」を公表しました。また、経済産業省でも「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会」において、ESG投資の促進といった視点に加え、持続的な企業価値を生み出す企業経営・投資の在り方や、それらの評価・情報提供の在り方について検討しました。

ESG情報を考慮した投資環境の整備は、貸借対照表や損益計算書に基づく財務情報からは読み取れない、ビジネスに関連する「リスク」と「機会」に関する定性情報の的確な評価につながります。時間軸で捉えると、投資時間軸が長くなるにつれて非財務情報の重要度は増してくると整理できます。(図3-3-11

図3-3-11 投資時間と非財務情報の関係

世界最大の年金資産規模を持つ年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2014年5月に日本版スチュワードシップ・コードの受け入れを行い、2015年9月に国連責任投資原則(PRI)に署名しました。2016年4月には、初めて実施した上場企業向けアンケートの結果を公表しました。アンケート結果によれば、回答企業の6割が「機関投資家の変化を認め、経営戦略及びESGに関する質問が増えたことを肯定的に捉えて」いるとしています。

(2)グリーン投資の促進

我が国においては、グリーンボンドの発行やグリーンボンドへの投資の事例が少しずつ出てきていますが、その発行件数及び総額はまだ少ない一方、発行を検討する地方公共団体や企業が増加しています。グリーンボンドの発行・投資が拡大すれば、再生可能エネルギーや自然資源の持続可能な管理に関する事業等のグリーンプロジェクトが推進され、様々な環境改善効果がもたらされるのみならず、環境関連産業の育成、雇用の創出、地域活性化、災害対策にも資することが期待されます。

環境省では、現在グリーンボンドの市場において国際的に広く認知されている「グリーンボンド原則」との整合性に配慮しつつ、発行体、投資家その他の市場関係者の実務担当者がグリーンボンドに関する具体的対応を検討する際に判断に迷う場合に参考とし得る具体的対応の例や我が国の特性に即した解釈を示すことで、グリーンボンドの環境改善効果に関する信頼性の確保と、発行体のコストや事務的負担の低減の両立につなげ、もって我が国におけるグリーンボンドの普及を図ることを目的として、2017年3月に「グリーンボンドガイドライン2017年版」を公表しました。

事例:東京都によるグリーンボンド発行の動き

東京都では、グリーンボンド発行に向けた検討が進められており、そのトライアルとして、2016年12月に、「東京環境サポーター債」を発行しました。発行総額は約100億円で、この債券によって調達された資金は、都有施設における太陽光発電設備の設置や照明のLED化、都市の緑化等、地球温暖化を始めとした環境問題の解決に資する事業に充当されています。

(3)地域資金を活用した地域経済循環への取組

環境省は、地域における再生可能エネルギー事業等の低炭素化プロジェクトに、地域の資金を含む民間資金を呼び込むため、これらのプロジェクトを地域低炭素投資促進ファンドからの出資により支援しています。地域金融機関や地域事業者等が低炭素化プロジェクトに融資や出資を行い、当該プロジェクトの組成や運営を通じて雇用が創出されることなどにより、地域経済循環が促進されます。また、再生可能エネルギー事業等に係る地方公共団体と地域金融機関向けに、事業の留意事項や関係者の連携促進に関する研修会の開催、相談窓口の設置、電源種別ごとの事業性評価の手法等を解説した手引きの更新等、再生可能エネルギー事業創出に向けた支援を行っています。

コラム:カーボンプライシング

COP21決定(成果文書)において、「国内政策、カーボンプライシング等のツールを含む、排出削減行動にインセンティブを付与する取組の重要な役割を認識する」ことが記載されており、同様の記載が2016年5月のG7伊勢志摩サミット首脳宣言でも記載されているところです。国内排出量取引制度、炭素税等炭素に価格を付けるカーボンプライシングに関する近年の動向及びその効果に関する評価は様々であり、例えば、IPCC第5次評価報告書では、カーボンプライシングに関して「原理的には、キャップ・アンド・トレード制度や炭素税を含む炭素価格を設定するメカニズムにより、費用対効果の高い形で緩和を実現できるが、制度設計に加えて国情等のために、効果には差がある形で実施されてきた。キャップ・アンド・トレード制度の短期的効果は、キャップが緩いか排出を抑制することが証明されなかったため、限られたものになっている(証拠が限定的、見解一致度が中程度)。いくつかの国では、温室効果ガスの排出削減に特に狙いを定めた税ベースの政策が、技術や他の政策と組み合わさり、温室効果ガス排出とGDPの相関を弱めることに寄与してきた(確信度が高い)」と記載されています。また、2016年のOECD「Effective Carbon Rates:Pricing CO2 through Taxes and Emissions Trading Systems」において、炭素ベースのエネルギ-価格を引き上げ、これに対する需要を低下させるため排出削減に効果的であり、パリ協定の目標に向けて更なる削減を追求する場合にはより重要な検討事項となる旨を記述しています。

温室効果ガスの排出量に影響を与える要素としては、エネルギーの本体価格、カーボンプライシング等の政策的に設定された価格やコスト、産業構造や都市構造といったものが考えられますが、第2章で紹介した「実効炭素価格」(炭素税額、排出量取引制度によって生じる排出枠価格、エネルギー課税額の合計)に注目し、実効炭素価格と一人当たりCO2排出量との関係を分析をしたところ、OECD諸国全体では相関が確認できませんでしたが、我が国と同等以上の所得水準を達成し、一定の人口規模を有する国で比較した場合には、実効炭素価格と、一人当たりCO2排出量に相関関係が見られました。

一人当たりCO2排出量と実効炭素価格の関係(2012年)

また、温室効果ガス排出量の削減と経済成長を同時に実現し、デカップリングを達成している国の中には、デカップリング達成の前に炭素税等を導入していた国もあります。具体的には、炭素税導入国としてスウェーデンやデンマークなどが、排出量取引導入地域としてEU-ETSを導入する欧州や北米北東部州地域GHGイニシアティブ(RGGI)が挙げられます。

カーボンプライシングは、その導入に伴い発生する収入を政府が活用することによって、環境以外の側面に貢献できる可能性があります。競争力強化のための法人税や所得税の減税、雇用促進、社会保障、低所得者向けの事業、インフラ投資、財政赤字解消のためなど、カーボンプライシングの収入が多様な政策に使われている国があります(スウェーデン、スイス、フランスなど)。

我が国においては、東京都が2010年4月から従来の地球温暖化対策計画書制度を強化し、「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」を開始しています。2010~2014年度を第一計画期間と位置づけており、総量削減目標を6%に設定し、対象となる事業所に6%又は8%の削減義務を課していました。この第一計画期間の5年間で約1,400万トンの総排出削減を実現し、全対象事業所が総量削減義務を遵守しました。その上で、都全体で全国平均を上回る最終エネルギー消費削減を実現し、都内総生産とのデカップリングにも成功しています。また、対象事業者の意識においても、CO2の排出削減への関心が高まり、高効率機器への設備更新を積極的に行うなど、具体的な行動にも結びついた結果となりました。

東京都温室効果ガス総量削減義務と排出量取引制度