環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第4章 東日本大震災及び平成28年熊本地震からの復興と環境回復の取組>第1節 東日本大震災からの復興に係る取組

第4章 東日本大震災及び平成28年熊本地震からの復興と環境回復の取組

第1節 東日本大震災からの復興に係る取組

2011年3月11日に、マグニチュード9.0という日本周辺での観測史上最大の地震が発生し、それによって引き起こされた津波によって、東北地方の太平洋沿岸を中心に広範かつ甚大な被害が生じました。また、東京電力福島第一原子力発電所の事故によって大量の放射性物質が環境中に放出され、被災した多くの方々が避難生活を余儀なくされました。被災地では、放射性物質による環境汚染からの回復と生活再建に向けた懸命の努力が続けられてきました。そして、2017年3月末までに帰還困難区域を除く避難指示区域における面的除染が全て完了し、4月1日までに双葉町及び大熊町を除いた居住制限区域及び避難指示解除準備区域の避難指示が解除されるという、大きな節目を迎えました。

ここでは、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年法律第110号。以下「放射性物質汚染対処特措法」という。)に基づく放射性物質による環境汚染からの回復に向けた取組を中心に概観します。

1 東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う避難指示区域の状況

原子力災害対策本部は、2012年3月の空間線量率を基に、避難指示区域を、[1]避難指示解除準備区域(年間積算線量が20ミリシーベルト以下となることが確実である地域)、[2]居住制限区域(年間積算線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがある地域)、[3]帰還困難区域(事故後6年間を経過してもなお、空間線量率から推定された年間積算線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれのある地域)の三つに区分し、避難指示解除準備区域及び居住制限区域については、各市町村の復興計画等も踏まえ遅くとも事故から6年後(2017年3月)までに避難指示を解除し、住民の方々の帰還を可能にしていけるよう、除染の十分な実施や生活環境の整備を加速することとしていました。

2017年3月末までに、帰還困難区域を除く避難指示区域における面的除染が全て完了し、インフラや生活に密着したサービスの復旧が整ったと判断されたことから、4月1日までに双葉町及び大熊町を除いた居住制限区域及び避難指示解除準備区域の避難指示が解除されました(図4-1-1)。

図4-1-1 避難指示区域の概念図(2017年4月1日時点)

2 放射性物質汚染からの環境回復の状況

(1)空間線量率の状況

東京電力福島第一原子力発電所半径80km圏内における2016年10月時点の放射線量は、比較が可能な2011年11月時点のデータと比べて71%減少しています。東京電力福島第一原子力発電所事故によって放出された放射性物質は、主にヨウ素131、セシウム134、セシウム137で、半減期はそれぞれ約8日、約2年、約30年となっています。放射性物質の物理的減衰と降雨等の自然要因による減衰効果を考慮して、2011年8月時点と比較して2年後に約4割、5年後に約5割減少すると推定されていました。放射線量の減少は、この推定を上回るペースで進んでおり、除染の効果や降雨等の自然現象の影響等によるものと考えられます(図4-1-2)。

図4-1-2 東京電力福島第一原子力発電所80km圏内における空間線量率の分布
(2)水環境における放射性物質の状況

環境省では、2011年から水環境における放射性物質のモニタリングを継続的に実施しています。2015年度までの福島県及び周辺地域の公共用水域(河川、湖沼、沿岸)における放射性セシウムは、沿岸では全期間を通じて検出されていません。河川及び湖沼については、2013年度以降、福島県以外では検出されておらず、福島県においても、検出率及び検出値は減少傾向にあります(図4-1-3)。また、地下水中の放射性セシウムについては、2011年度に福島県の2地点において検出下限値である1ベクレル/ℓが検出されたのみで、2012年度以降検出されていません。

図4-1-3 福島県及びその周辺における公共用水域の放射性セシウムの検出状況

3 放射性物質に汚染された土壌等の除染等の措置

放射性物質汚染対処特措法では、除染の対象として除染特別地域と汚染状況重点調査地域を定めています。除染特別地域は、警戒区域又は計画的避難区域の指定を受けたことがある地域で、国が除染実施計画を策定し、除染事業を進めてきました。他方、汚染状況重点調査地域は、地域の放射線量が毎時0.23マイクロシーベルト以上の地域がある市町村について、当該市町村の意見を聴いた上で国が指定し、各市町村で除染を行ってきました。

両地域とも、2017年3月末までに除染実施計画に基づく面的除染を完了させるべく、自治体とも連携して全力で取り組んできました(帰還困難区域を除く)。ここでは、これまでの除染の取組を概観します。

(1)除染等の措置について

除染等の措置とは、事故由来放射性物質による環境の汚染が人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することを目的に、事故由来放射性物質により汚染された土壌、草木、工作物等について講ずる当該汚染に係る土壌、落葉及び落枝、水路等に堆積した汚泥等の除去、当該汚染の拡散の防止その他の措置のことを言います。具体的には、放射性物質が付着した土壌や落葉等の除去(取り除く)、表土と下層の土の入れ替え(遮る)、居住地域からの離隔(遠ざける)等を行うことを指します。(図4-1-4

図4-1-4 除染の措置

除染の方法は、放射線量、除染対象物の特性や状況等に応じて異なるため、除染に先立って、放射線量の測定や建物等の状況の調査を行い、それぞれに応じた最適な方法で丁寧に実施してきました。(図4-1-5

図4-1-5 除染の方法
(2)国直轄除染地域(除染特別地域)

除染特別地域に指定されている福島県内の11市町村では、環境省が除染作業を実施し、2017年3月末までに、全ての市町村で帰還困難区域を除く避難指示区域における面的除染が完了しました(図4-1-6表4-1-1)。その総数・総面積は、宅地約2万2,000件、農地約8,500ha、森林約5,800ha、道路約1,400haに及びます。

図4-1-6 除染特別地域における除染の進捗状況
表4-1-1 除染特別地域における除染終了の時期

面的除染を完了した市町村においては、除染の効果が維持されているか確認することなどを目的に、除染実施後のモニタリング等を行ってきました。こうした施策もあって、2017年4月1日までに、双葉町及び大熊町を除いた居住制限区域及び避難指示解除準備区域の避難指示が解除されました。

(3)市町村除染地域(汚染状況重点調査地域)

汚染状況重点調査地域では、各市町村が地域ごとの実情、優先順位や実現可能性を踏まえて除染実施計画を策定し、これに基づき除染を進めてきたところであり、2017年3月末には住宅や公共施設等日々の生活の場における除染作業がおおむね完了しました(図4-1-7)。

図4-1-7 汚染状況重点調査地域における除染の進捗状況

また、2017年3月末までに、12市町村において、地域の放射線量が毎時0.23マイクロシーベルト未満となったことが確認され、汚染状況重点調査地域の地域指定が解除されました。これにより、汚染状況重点調査地域に指定されている市町村は104市町村から92市町村になりました。

(4)除染の効果

除染により放射線量が低減するとともに、除染から一定期間(おおむね半年から1年)経過後の事後モニタリングにおいても、面的除染の効果が維持され、さらに放射性物質の物理的減衰や降雨等の自然要因による減衰効果により、放射線量が低減していることが確認されています。

例えば、国直轄除染地域の宅地全体について、除染の前後で放射線量が平均約56%低減したことが確認されました。さらに除染から一定期間経過後の事後モニタリングにおいても、除染前と比べて平均約71%の低減が確認されています(図4-1-8)。

図4-1-8 国直轄除染地域における地表面1m高さの空間線量率の平均値(土地区分ごとの変化)
(5)帰還困難区域の除染の取組方針

帰還困難区域の今後の取扱いについては、「帰還困難区域の取扱いに関する考え方」(2016年8月原子力災害対策本部、復興推進会議決定)において、5年をめどに、線量の低下状況も踏まえて避難指示を解除し、居住を可能とすることを目指す「復興拠点」を、各市町村の実情に応じて適切な範囲で設定し、整備するという方針を示すとともに、「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針」(2016年12月閣議決定)において、政府一丸となって、帰還困難区域の一日も早い復興を目指して取り組んでいくことを掲げています。

政府としては、これらを踏まえ、2017年2月に、特定復興再生拠点区域復興再生計画という一つの計画の下で、各事業主体が連携して、特定復興再生拠点区域における除染・解体とインフラ整備等とを一体的に進めることなどを内容とする「福島復興再生特別措置法の一部を改正する法律案」を第193回国会に提出しました。

(6)森林の放射性物質対策

森林については、2016年3月に復興庁・農林水産省・環境省の3省庁が取りまとめた「福島の森林・林業の再生に向けた総合的な取組」に基づき、住居等の近隣の森林、森林内の人々の憩いの場や日常的に人が立ち入る場所等の除染等の取組と共に、林業再生に向けた取組や住民の方々との安全・安心の確保のための取組等を関係省庁が連携して進めてきました。

また、除染を含めた里山再生のための取組を総合的に推進するモデル事業を実施することとし、2016年9月と12月に上記3省庁で計10地区をモデル地区として選定しました。

さらに、森林からの落葉等の飛散や土壌の流出に伴う放射性物質の動態に関する調査研究を実施しました。

4 中間貯蔵施設の整備

(1)中間貯蔵施設の概要

放射性物質汚染対処特措法等に基づき、福島県内の除染に伴い発生した放射性物質を含む土壌及び福島県内に保管されている10万ベクレル/kgを超える指定廃棄物等を最終処分するまでの間、安全に集中的に管理・保管する施設として中間貯蔵施設を整備することとしています。福島県内の除去土壌等の発生量は、減容化(可燃物を焼却)した後で1,600万~2,200万m3と推計され(2013年7月時点の除染実施計画等に基づく推計値)、その容量は東京ドームの約13~18倍に相当します。

環境省では、中間貯蔵施設の整備と継続的な除去土壌等の搬入を進めているところです。2016年3月に公表した「当面5年間の見通し」では、用地取得や施設整備に全力を尽くすことにより、「復興・創生期間」の最終年である2020年度までに、500万~1,250万m3 程度の除去土壌等を搬入できる見通しとしています(図4-1-9)。この見通しに沿って取組を進めることによって、少なくとも、学校や住宅等で現場保管されている除去土壌等に相当する量(公表時点の推計値で約180万m3)の中間貯蔵施設への搬入を目指すとともに、用地取得等を最大限進め、幹線道路沿いにある除去土壌等に相当する量(約300万~500万m3)の中間貯蔵施設への搬入を目指しています。

図4-1-9 中間貯蔵施設に搬入する除染土壌搬入の見通し
(2)中間貯蔵施設事業の進捗状況
ア 中間貯蔵施設の用地取得の状況

中間貯蔵施設整備に必要な用地は約1,600haを予定しており、予定地内の登記記録人数は2,360人となっています。2016年度までに地権者の連絡先を把握した面積は約1,530ha、用地調査を実施した面積は約1,090haに達しており、契約済み面積は約376ha(全体の約23.5%)、774人(全体の約32.8%)の方と契約に至るなど、着実に進捗してきています。政府では、用地取得については、地権者との信頼関係はもとより、中間貯蔵施設事業への理解が何よりも重要であると考えており、引き続き地権者への丁寧な説明を尽くしながら取り組んでいきます。

イ 中間貯蔵施設の整備の状況

2016年11月に受入・分別施設(図4-1-10)と土壌貯蔵施設(図4-1-11)の整備に着手しました。受入・分別施設では、福島県内各地にある仮置場等から中間貯蔵施設に搬入される除去土壌等を受け入れ、搬入車両からの荷下ろし、容器の破袋、可燃物・不燃物等の分別作業を行います。土壌貯蔵施設では、受入・分別施設で分別された除去土壌等を放射能濃度やその他の特性に応じて安全に貯蔵します。この施設は2017年の秋頃の稼働開始を予定しています。また、福島の復興に向けて、除去土壌の継続的な搬入が可能となるよう、施設予定地内に除去土壌等を一時的に保管する保管場の整備も進めています。

図4-1-10 受入・分別施設イメージ
図4-1-11 土壌貯蔵施設イメージ
ウ 中間貯蔵施設への輸送の状況

中間貯蔵施設への除去土壌等の輸送については、2016年度までに累計で20万m3程度の除去土壌等の輸送を目標としていました(写真4-1-1)。これに加えて、大熊町及び双葉町の協力の下、福島県内の学校等の現場に保管されている除去土壌等について、両町の町有地を活用した保管場へ輸送を進めました。2017年3月末までに累計で約23万m3の輸送を実施しました。

写真4-1-1 中間貯蔵施設への輸送の様子(輸送時は緑色のゼッケンを掲示)

また、2017年度以降の輸送に向けて、輸送実施計画を更新するとともに、中間貯蔵施設の輸送ルートで必要な箇所について舗装厚の改良等の道路交通対策を実施しました。

エ 2017年度事業方針の公表

2016年12月に、「2017年度の中間貯蔵施設事業の方針」として、[1]2017年度約50万m3程度を輸送し、とりわけ学校等に保管されている除去土壌は優先的に輸送する、[2]地権者への丁寧な説明を尽くしながら、用地取得に全力で取り組む、[3]土壌貯蔵施設等について2017年秋頃をめどに貯蔵開始するとともに、2018年度の輸送量に対応する施設を着工するなどの方針を示しました。あわせて、当面の施設整備イメージ図を公表しました(図4-1-12)。

図4-1-12 当面の施設整備イメージ
(3)減容・再生利用に向けた取組

福島県内の除去土壌等については、中間貯蔵開始後30年以内に福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずることとされています。福島県外における除去土壌等の最終処分の実現に向けては、減容技術等の活用により、除去土壌等を処理し、再生利用の対象となる土壌等の量を可能な限り増やし、最終処分量の低減を図ることが重要です。このため、県外最終処分に向けた当面の減容処理技術の開発や除去土壌等の再生利用等に関する中長期的な方針として、2016年4月に「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略」及び「工程表」を取りまとめました(図4-1-13)。また、同年6月には、除去土壌等の再生利用を段階的に進めるための指針として、「再生資材化した除去土壌の安全な利用に係る基本的考え方について」を取りまとめました。これらに沿って、2016年12月に南相馬市において除去土壌の再生利用実証事業に着手しました。

図4-1-13 中間貯蔵除去土壌等の減容・再利用技術開発戦略の概要

5 放射性物質に汚染された廃棄物の処理

(1)対策地域内廃棄物の処理

2017年3月末時点で、福島県の11市町村にまたがる地域が対策地域として定められています。2013年9月の「福島県の災害廃棄物等の処理進捗状況についての総点検」の結果を踏まえ、2013年12月に対策地域内廃棄物処理計画の見直しを行いました。

これまで、避難されている方々の円滑な帰還を積極的に推進する観点から、避難指示解除準備区域及び居住制限区域において、帰還の妨げとなる廃棄物を速やかに撤去し、仮置場に搬入することを優先目標としてきました。こうした取組により、2015年度には、帰還困難区域を除いて、帰還の妨げとなる廃棄物の仮置場への搬入を完了しました。また、地域住民の方々のご理解と地方自治体との緊密な連携によって、25か所の仮置場の供用を開始(うち4か所は原状復旧済)し、2017年3月末までに、140万トンの搬入が完了しました(図4-1-14)。仮置場に搬入した災害廃棄物等は、各市町村ごとに設置することとしている仮設焼却施設でその減容化を図っています。

図4-1-14 対策地域内の災害廃棄物等の仮置場への搬入済量

2016年度には、楢葉町で仮設焼却施設が稼働を開始し、2017年3月末時点で、計9市町村で10施設を設置することとしており、6施設が稼働中です(表4-1-2)。事業を実施ししている減容化施設においては、排ガス中の放射能濃度、敷地内・敷地周辺における空間線量率のモニタリングを行い、その結果を公表することにより、安全に減容化できていることを確認しています。

表4-1-2 稼働中及び建設工事中の仮設焼却施設

また、帰還困難区域の今後の取扱いについては、前述した「帰還困難区域の除染の取組方針」に基づいて進めていきます。

(2)指定廃棄物の処理

2017年3月末時点で、11都県において、焼却灰や下水汚泥、農林業系副産物(稲わら、堆肥等)等計約18.9万トンが指定廃棄物として環境大臣による指定を受けています(表4-1-3)。政府は、指定廃棄物の処理に関して、放射性物質汚染対処特措法に基づく基本方針(2011年11月閣議決定)で「当該指定廃棄物が排出された都道府県内において行う」としています。

表4-1-3 指定廃棄物の数量(2017年3月末時点)

指定廃棄物は、現在は各都県のごみ焼却施設や下水処理施設、農地等において、各施設等の管理者等が国のガイドラインに沿って、遮水シート等で厳重に覆って飛散・流出を防ぐとともに、空間線量率を測定して周辺への影響がないことを確認するなどにより、適切に一時保管されています。

ただし、こうした一時保管場所における保管は、国による処理方針が確立するまでの間、やむを得ず一時的に負担をお願いしている措置であることから、災害等に備え、長期にわたる確実な管理体制を早期に構築することが必要です。

ア 福島県内での処理

福島県内の指定廃棄物及び対策地域内廃棄物について、10万ベクレル/kg以下のものは既存の管理型処分場に搬入し、10万ベクレル/kgを超えるものは中間貯蔵施設に搬入する計画としています。

農林業系廃棄物や下水汚泥等の可燃性の指定廃棄物については、搬入の前に焼却等の処理によって処分量を削減し、性状の安定化を図る減容化事業を地元の協力と理解を得ながら進めています。これまでに、3件の減容化処理事業について焼却等処理を終えたほか、2016年1月、飯舘村蕨平(わらびだいら)地区において、飯舘村及び周辺5市町の可燃性廃棄物を焼却処理する仮設焼却施設が新たに稼働しました。加えて、田村市・川内村において、県中・県南等の24市町村の農林業系廃棄物を焼却処理する仮設焼却施設が稼働しました。また、安達地方の3市町村の農林業系廃棄物等の減容化事業についても、事業発注に向けて調整を進めています。

既存の管理型処分場(旧フクシマエコテッククリーンセンター)の活用については、2013年12月に環境大臣及び復興大臣が福島県を訪れ、受入要請を行いました。2015年12月に福島県、富岡町及び楢葉町から、当該処分場の活用を容認いただき、2016年4月に土地及び不動産の売買契約を締結し、国有化するとともに、同年6月には、国と県及び2町の間で安全協定を締結しました。現在、輸送計画の検討を行うとともに、処分場内では搬入に向けた準備を行っています。

今後も引き続き、地元のご理解を得ながら、安心・安全の確保に万全を期して、早期の事業開始に向け、関係者との調整に取り組んでいきます。

イ 福島県外での処理

環境省では、宮城県、栃木県、千葉県、茨城県、群馬県において、有識者会議を開催し、長期管理施設の安全性を適切に確保するための対策や候補地の選定手順等について、科学的・技術的な観点からの検討を実施し、2013年10月に長期管理施設の候補地を各県で選定するためのベースとなる案を取りまとめました。その後、それぞれの県における市町村長会議の開催を通じて長期管理施設の安全性や候補地の選定手法等に関する共通理解の醸成に努めた結果、宮城県、栃木県及び千葉県においては、各県の実情を反映した選定手法が確定しました。

このうち宮城県においては、2016年度末までに計12回の市町村長会議が開催されました。同県では2016年6月から10月にかけて指定廃棄物以外の汚染廃棄物の放射能濃度の測定を行い、同年11月の会議で結果が公表されました。

栃木県においては、2016年度末までに8回の市町村長会議を開催しました。同県では、2016年6月から9月にかけて再測定を行い、同年10月の会議では再測定の結果を公表するとともに、今後の指定廃棄物の処理の進め方に関する国の考え方を提示し、長期管理施設の整備の方針は堅持しつつ、一時保管による農家等の負担軽減策について、関係者と協議をしたい旨を説明しました。

千葉県においては、2016年度末までに計3回の市町村長会議を開催するとともに、長期管理施設の詳細調査の実施に理解を得られるよう取り組んでいます。

茨城県においては、2015年4月及び2016年2月に一時保管市町長会議を開催し、8,000ベクレル/kg以下となるのに長期間を要する指定廃棄物については、災害等のリスクの観点から、引き続き県内1か所に集約して安全に管理する方針を堅持しつつ、8,000ベクレル/kg以下となるのに長期間を要しない指定廃棄物については、現地保管を継続し放射能濃度の減衰後に段階的に処理を進めていく方針を決定しました。

群馬県においては、2016年度末までに3回の市町村長会議を開催し、2016年12月の会議で、茨城県と同様の処理方針で指定廃棄物の処理を行うことを決定しました。

このほか、2016年4月には放射性物質汚染対処特措法施行規則の一部改正を行い、指定廃棄物の指定解除の仕組みを整備しました。

6 放射線に係る住民の健康管理・健康不安対策

(1)福島県における健康管理

国は、福島県の住民の方々の中長期的な健康管理を可能とするため、福島県が2011年度に創設した福島県民健康管理基金に交付金を拠出するなどして福島県を財政的、技術的に支援しており、福島県は、同基金を活用し、2011年6月から県民健康調査等を実施しています。具体的には、[1]福島県の全県民を対象とした個々人の行動記録と線量率マップから外部被ばく線量を推計する基本調査、[2]「甲状腺検査」、「健康診査」、「こころの健康度・生活習慣に関する調査」、「妊産婦に関する調査」の詳細調査を実施しています。また、ホールボディ・カウンタによる内部被ばく線量の検査や、市町村に補助金を交付し、個人線量計による測定等も実施しています。

2016年3月に福島県「県民健康調査」検討委員会が取りまとめた「県民健康調査における中間取りまとめ」では、甲状腺検査について「これまでに発見された甲状腺がんについては、被ばく線量がチェルノブイリ事故と比べて総じて小さいこと、被ばくからがん発見までの期間が概ね1 年から4 年と短いこと、事故当時5 歳以下からの発見はないこと、地域別の発見率に大きな差がないことから、総合的に判断して、放射線の影響とは考えにくい」と評価しています。他方で、「放射線の影響の可能性は小さいとはいえ現段階ではまだ完全には否定できず、影響評価のためには長期にわたる情報の集積が不可欠であるため、検査を受けることによる不利益についても丁寧に説明しながら、今後も甲状腺検査を継続していくべきである」とされています。

なお、国際的な評価としては、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の2014年4月の「2011年東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響に関する報告書」によると、「線量が大幅に低いため、チェルノブイリ原発事故後に観察されたような多数の放射線誘発性甲状腺がんの発生を考慮に入れる必要はない」と評価されています。また、UNSCEARの2016年白書では、2013年報告書の知見は「引き続き有効であり、それ以降に発表された新規情報の影響をほとんど受けていないとの結論に達した」とされており、研究ニーズとして「福島県で現在実施中の健康調査を継続する」ことが位置付けられています。

(2)国による健康管理・健康不安対策

福島県及び福島近隣県における事故後の健康管理の現状や課題等を把握し、今後の健康管理の在り方を医学的及び科学的な見地から検討するため、環境省が開催した「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」が2014年12月に公表した中間取りまとめでは、「今回の事故による放射線被ばくによる生物学的影響は現在のところ認められておらず、今後も放射線被ばくによって何らかの疾病のリスクが高まることも可能性としては小さいと考えられる。しかし、被ばく線量の推計における不確かさに鑑み、放射線の健康管理は中長期的な課題であるとの認識の下で、住民の懸念が特に大きい甲状腺がんの動向を慎重に見守っていく必要がある」とされています。

こうした報告を踏まえつつ、環境省では当面の施策の方向性を公表し、以下の施策に取り組んでいます。

[1] 事故初期における被ばく線量の把握・評価の推進

事故後の外部被ばく線量や内部被ばく線量について、様々な実測や推計結果が地域やグループ単位で報告されているところです。これらを網羅的に考慮の上、大気拡散シミュレーション、土壌データ、行動データ、ホールボディ・カウンタ等による実測値、甲状腺代謝モデル等の被ばく線量に影響する様々なパラメータを包括的に検討し、事故後の住民の被ばく線量をより精緻に評価するための研究を実施しています。

[2] 福島県及び福島近隣県における疾病罹患動向の把握

福島県及び福島近隣県におけるがん及びがん以外の疾患の罹患動向を把握するために、全死亡率、疾患ごとの死亡率を始め、がん、循環器疾患、先天異常等について悉皆性の高い統計情報を活用し、地域ごとの各疾病の有病率、罹患率及び死亡率の変化等を分析する研究を実施しています。

[3] 福島県の県民健康調査「甲状腺検査」の充実

福島県は、県民健康調査「甲状腺検査」の結果、引き続き医療が必要になった方に対して、2015年7月より、治療にかかる経済的負担を支援し、診療情報を提供頂くことで「甲状腺検査」の充実を図る「甲状腺検査サポート事業」に取り組んでいます。国は、こうした取組を支援するほか、福島県の県民健康調査「甲状腺検査」の充実を図るため、県外検査実施機関の拡充に努め、実施機関の関係者間での情報交換会等を開催しています。

[4] リスクコミュニケーション事業の継続・充実

放射線に関する科学的知見や関係府省庁の取組等を集約した「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料」を作成し正確な情報発信を行うとともに、こうした資料を活用した、保健医療福祉関係者や教育関係者等を対象とした研修会や地域のニーズを踏まえた住民参加の意見交換会(車座集会)、福島県外に避難されている方等を対象としたセミナー等を行っています。また、住民等への情報発信として、「放射線による健康影響等に関するポータルサイト」を2015年3月より開設し、関係省庁及び自治体等におけるウェブサイトの情報や放射線に関する情報の掲載、自治体のウェブサイトでの相互リンクや周知等に取り組んでいます。

さらに、「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」(2013年12月閣議決定)、「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」改訂(2015年6月閣議決定)、「帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方(線量水準に応じた防護措置の具体化のために)」(2013年11月原子力規制委員会)等を踏まえ、帰還する住民の被ばく低減に向けた努力等を身近で支える相談員制度の創設や、相談員だけでは解決が困難な住民のニーズや各自治体だけでは解決が困難な課題等に対応できるような支援体制が求められています。

このような方針を踏まえ、2014年度より福島県いわき市に「放射線リスクコミュニケーション相談員支援センター」を開設し、東京電力福島第一原子力発電所の事故により避難指示が出された12市町村を中心に、住民を支える放射線相談員や自治体職員等の要望に応じて、住民からの個々の相談への対応や専門家の派遣、研修会や相談員等の意見交換会の開催等、科学的・技術的な面から組織的かつ継続的な支援を実施しています。

加えて、避難指示解除に伴い自宅に帰還したり又は帰還を予定している住民がふるさとで安心して生活していけるよう、生活関連の放射線に関する疑問や不安等について、専門家や住民、相談員等が協力し、住民目線で、疑問や不安を解決・納得するための考え方や参考情報(助言やヒント)をまとめた冊子「暮らしの手引き(専門家に聞いた放射線30のヒント)」 を作成しています。

そのほか、希望する住民に個人被ばく線量計を配布して外部被ばく線量を測定し、ホールボディ・カウンタによって内部被ばく線量を測定することで、住民に自らの被ばく線量を把握してもらい、不安軽減につなげています。

7 被災地における持続可能な地域づくり

東日本大震災の被災地では、人口減少、高齢化、産業の空洞化といった、全国の地域が抱える課題が特に顕著に表れています。震災復興を契機として、こうした課題に向き合いながら、持続可能な地域づくりに向けた新たな取組が各地で進められています。

事例:再生可能エネルギー100%と水素社会実現に向けた取組(福島県)

福島県では、2011年8月に策定した「福島県復興ビジョン」の中で、「再生可能エネルギーの飛躍的推進による新たな社会づくり」を復興に向けた主要施策の一つと位置付け、2012年3月に「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン」を改定し、2040年頃を目途に県内エネルギー需要量の100%以上に相当する量のエネルギーを再生可能エネルギーで生み出すことを目標として、再生可能エネルギーの導入拡大や関連産業の育成・集積に取り組んでいます。2015年3月末時点で27.3%の再生可能エネルギーが導入されています。

また、2016年9月に国等と策定した「福島新エネ社会構想」では、「水素社会の実現」を柱の一つに位置付け、再生可能エネルギーから水素を「作り」、「貯め・運び」、「使う」モデルを創出するため、2020年までに世界最大の1万kw級の大規模水素製造装置の運転を開始するとともに、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会での活用を目指しています。

再生可能エネルギーの導入実績と今後の見込み(原油換算)

事例:生ごみからエネルギーと肥料をつくる(宮城県南三陸町)

宮城県南三陸町では、町内のバイオマス資源を有効活用するため、2013年12月に「バイオマス産業都市構想」を策定し、ごみの減量・リサイクルの促進、し尿・合併浄化槽汚泥の町内循環システムの構築等に取り組んでいます。

その一環として、2015年10月から町民の協力を得て、家庭生ごみの分別回収を開始しており、アミタ株式会社が設置・運営するバイオガス施設「南三陸BIO(ビオ)」で、し尿処理汚泥等と生ごみをメタン発酵させ、バイオガスと液体肥料を生成しています。バイオガスは施設内で発電に利用し、液体肥料は地元農家に還元しています。2016年7月から町内の宿泊施設や飲食店等の事業者からの生ごみの受入れも開始し、町内の生ごみからできた液肥を使って米や野菜を生産し、町内で消費する地域内資源循環の構築を目指しています。

地域内資源循環のイメージ

また、町内の幼稚園から高校までの授業や文化祭等で資源循環の取組を取り上げており、住民手作りの紙芝居や新聞等にも活用されています。さらに、液肥の販売・散布を地元事業者が担うなど、町全体で主体的な活動が広がっています。

開所1年間で見学者が1,000人を超えた南三陸BIO(ビオ)

事例:宮古市スマートコミュニティ事業(岩手県宮古市)

岩手県宮古市では、東日本大震災において電力等のエネルギー供給が途絶えた経験を教訓として、2013年7月に宮古市スマートコミュニティ推進協議会を設立し、官民が連携して再生可能エネルギーの地産地消を行う「宮古市スマートコミュニティ事業」に取り組んでいます。その一環として、2015年に、津波で浸水し、住民の居住が制限されている市内の災害危険区域2か所において、合計4MWの大規模太陽光発電施設が整備され、地域新電力となる宮古新電力株式会社が設立されました。2016年9月には市内の小中学校、公共施設等への再生可能エネルギーの供給が開始されており、2017年2月現在、市内54施設に供給が拡大しています。また、カーシェアリング、EV充電器、CEMS・BEMS等の導入が進められており、地域エネルギーを有効活用することで、災害に強い地域づくりを目指しています。

津軽石発電所(宮古発電合同会社)