環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第1章 地球環境の限界と持続可能な開発目標(SDGs)>第1節 持続可能な開発を目指した国際的合意 -SDGsを中核とする2030アジェンダ-

第1章 地球環境の限界と持続可能な開発目標(SDGs)

経済発展、技術開発により、人間の生活は物質的には豊かで便利なものとなりました。情報通信技術(ICT)の普及により、遠方にいる人と連絡を取ることは容易になり、飛行機等の交通手段の発達により、別の国で同日に開催される複数の会議に出席することも可能になりました。都市では電気、水道、ガス等が十分に供給され、私たちは物質的に豊かで便利な生活を享受しています。

一方で、私たちのこの便利な生活は、人類が豊かに生存し続けるための基盤となる地球環境の悪化をもたらしています。産業革命以降、排出量が急激に増加した温室効果ガスは気候変動を引き起こし、世界中で深刻な影響を与えつつあります。環境汚染物質は水大気環境を汚染し、鉱物・エネルギー資源の無計画な消費は、環境を破壊するだけでなく、時として奪い合いのための紛争を引き起こしています。さらに、現代は「第6の大量絶滅時代」とも言われ、開発や乱獲等人間活動を主な原因として、地球上の生物多様性が失われつつあります。

2015年9月に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(以下「2030アジェンダ」という。)は、国際社会全体が、これらの人間活動に伴い引き起こされる諸問題を喫緊の課題として認識し、協働して解決に取り組んで行くことを決意した画期的な合意です。この合意が採択されたことにより、国際社会の共通理念として「持続可能な開発」という考え方が深く浸透しつつあると言うことができます。

第1章では、2030アジェンダの中核をなす「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals、以下「SDGs」という。)について概説するとともに、今後世界がSDGsの達成に向けてどのように取り組んでいくべきか、その道しるべとなる様々な先進的取組について紹介します。

第1節 持続可能な開発を目指した国際的合意 -SDGsを中核とする2030アジェンダ-

1 持続可能な開発の歩み

1960年代から1970年代に掛けて、飛躍的な経済成長を遂げた先進諸国では地域的な公害が大きな社会問題となる一方で、開発途上国では貧困からの脱却が急務でした。こうした中、1972年にストックホルムで開催された国連人間環境会議において、ストックホルム宣言が採択され、環境保全を進めていくための合意と行動の枠組みが形成されました。ストックホルム宣言では、「自然の世界で自由を確保するためには、自然と協調して、より良い環境を作るための知識を活用しなければならない。現在及び将来の世代のために人間環境を擁護し向上させることは、人類にとって至上の目標、すなわち平和と、世界的な経済社会発展の基本的かつ確立した目標と相並び、かつ調和を保って追求されるべき目標となった」と記しており、経済や社会の発展のためには、環境保全の視点を持つことが重要だという考え方が明示されています。

しかし、先進諸国と開発途上国との間で公害をめぐる認識の対立は大きく、その後も、先進国においては、大量生産・大量消費・大量廃棄型のライフスタイルと経済活動の拡大が、開発途上国においては、貧困から脱却するため、持続可能とは言えない開発が優先的に進められました。他方、「成長の限界」(1972年ローマクラブ報告)、「西暦2000年の地球」(1980年米国政府特別調査報告)を始め、人類の未来について深刻な予測が相次いで発表されると、地球上の資源の有限性や環境面での制約が明らかとなり、世界の人々に大きな衝撃を与えました。

こうした中、我が国の提唱に基づき国連に設置された「環境と開発に関する世界委員会」が1987年に報告した「我ら共有の未来(Our Common Future)」において、「持続可能な開発」という概念が提唱され、一般に定着するきっかけとなりました。「持続可能な開発」は、「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」を意味するとされています。

これらの動きを踏まえ、1992年6月にブラジルのリオデジャネイロで開催された、環境と開発に関する国連会議(地球サミット)において、持続可能な開発を実現するための行動原則である「環境と開発に関するリオ宣言」とその具体的な行動計画である「アジェンダ21」等が採択され、「持続可能な開発」という概念が全世界の行動原則へと具体化されるとともに、持続可能な開発が、人類が安全に繁栄する未来への道であることが改めて確認されました。地球サミットから10年に当たる2002年には、持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグサミット)が、2012年には、国連持続可能な開発会議(以下「リオ+20」という。)が開催され、持続可能な開発に対する国際的な議論が進められてきました。

コラム:地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)

人間の活動が地球システムに及ぼす影響を客観的に評価する方法の一つに、地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)という考え方があります。地球の限界は、人間が地球システムの機能に9種類の変化を引き起こしているという考え方に基づいています。この9種類の変化とは、①生物圏の一体化(生態系と生物多様性の破壊)、②気候変動、③海洋酸性化、④土地利用変化、⑤持続可能でない淡水利用、⑥生物地球化学的循環の妨げ(窒素とリンの生物圏への流入)、⑦大気エアロゾルの変化、⑧新規化学物質による汚染、⑨成層圏オゾンの破壊です。これらの項目について、人間が安全に活動できる範囲内にとどまれば、人間社会は発展し、繁栄できますが、境界を越えることがあれば、人間が依存する自然資源に対して回復不可能な変化が引き起こされます。

生物地球化学的循環、生物圏の一体性、土地利用変化、気候変動については、人間が地球に与えている影響とそれに伴うリスクが既に顕在化しており、人間が安全に活動できる範囲を越えるレベルに達していると分析されています。

プラネタリー・バウンダリーの考え方で表現された現在の地球の状況

2 持続可能な開発目標(SDGs)の内容

(1)SDGsに至る道のり

SDGsを中核とする2030アジェンダは、2015年9月にニューヨーク国連本部で開催された持続可能な開発のための2030アジェンダ採択のための首脳会議国連総会で採択されました。SDGsは、17のゴールと各ゴールごとに設定された合計169のターゲットから構成されています(図1-1-1表1-1-1)。SDGsの採択に至るまでの道のりには、ミレニアム開発目標(MDGs)からの流れとリオ+20からの流れという大きな二つの流れがあります。

図1-1-1 SDGs17のゴール
表1-1-1 SDGs17のゴール
ア ミレニアム開発目標(MDGs)からの流れ

MDGsは、2000年に国連で採択された開発分野における国際社会の2015年までの共通目標で、極度の貧困と飢餓の撲滅や、環境の持続可能性の確保等の8つの目標から構成されます。国連によるMDGsの達成状況の評価によると、目標達成について一定の成果が上げられたとする一方で、目標の達成度は、目標、国・地域により異なっていることに加え、経済・環境に関わる目標の数が不十分だったという課題が指摘されています。

MDGsの達成に向けた取組が行われる中、2010年9月に国連で開催されたMDGs国連首脳会合では、MDGsの目標期限である2015年以降の開発分野での国際目標として、ポスト2015年開発アジェンダの議論を開始することが合意され、国連事務総長に対して検討の要請が行われました。

イ リオ+20からの流れ

2012年6月に開催されたリオ+20の成果文書「我々が望む未来(The Future We Want)」では、あらゆる側面で持続可能な開発を達成するために、経済的、社会的、環境的側面を統合し、それらの相関を認識し、あらゆるレベルで持続可能な開発を、主流として更に組み込む必要があることを宣言しました。その具体的な手段として、MDGsの課題を踏まえ、環境、経済、社会の三側面統合の概念を打ち出してSDGsを採択すること、さらに、これをMDGsの後継目標となるポスト2015開発アジェンダに統合することが決定されました。

ポスト2015年開発アジェンダの検討プロセスでは、開発の目標やターゲットだけでなく、その達成のために必要な資金の確保や活用も重要な検討課題となり、議論が進められました。さらに、SDGsは、国連加盟国を始め、国際機関・民間企業・市民社会・研究者等の多様なステークホルダーが関わって採択されました。この背景には、持続可能な開発は、私たち一人一人に影響があり、国際社会全体で取り組んでいく必要があるということに人々が気付き、行動し始めたと見ることができます。

(2)SDGsの内容
ア SDGsが中核をなす2030アジェンダの基本的な考え方

2030アジェンダは、SDGsの前身の一部であるMDGsの実施に当たって浮かび上がった様々な課題を踏まえ、基本的な考え方を提示しています。MDGsの課題の一つは格差の問題です。MDGsは、一つの国を単位として達成状況を測定するマクロな指標ですが、アジア諸国のように、経済成長を遂げる一方で、国内の地域間や教育、所得、文化的背景による格差が拡大している国も見られます。また、女性、子供、障害者、高齢者、難民等、立場の弱い人々が国内で取り残されないようにする取組もますます重要になります。この流れを受け、2030アジェンダでは目標達成に向けて、地球上の「誰一人取り残さない」ことを明確に掲げています。

また、2030アジェンダの冒頭では、持続可能な開発のキーワードとして、人間(People)、地球(Planet)、繁栄(Prosperity)、平和(Peace)、連帯(Partnership)の「5つのP」を掲げています。17のゴールは、この「5つのP」を具現化したもので、ゴール・ターゲット間は相互に関連しており、統合して解決していくことが必要です。

加えて、2030アジェンダでは、自身が掲げるゴール及びターゲットを「包括的、遠大かつ人間中心な一連の普遍的かつ変革的」なものであると表現しています。地球上には、依然として貧困や飢餓に苦しむ数十億人の人々がおり、国内・国際的な不平等は拡大しています。さらに、地球規模の健康の脅威、より頻繁に生じる甚大な自然災害、悪化する紛争及び深刻化する気候変動に向き合う必要があります。しかし、2030アジェンダでは、今日の世界をこれらの課題を解決する大きなチャンスの時と捉えています。過去、多くの開発の課題に対応するため、教育へのアクセスやデジタルデバイドの問題等で重要な進展がありました。2030アジェンダでは、SDGsで野心的な目標を掲げ、その達成のために必要な手段を逆算して決めていくバックキャスティングの考え方を採用するとともに、その実施を確保するために活性化された「グローバル・パートナーシップ」を必要とします。それは、全ての目標とターゲットの実施のために地球規模レベルでの集中的な取組を促進するとしています。

イ SDGsの概要及び特徴

SDGsには、これまでの国際目標とは異なる幾つかの画期的な特徴があります。大きな特徴の一つは、途上国に限らず先進国を含む全ての国に目標が適用されるというユニバーサリティ(普遍性)で、MDGsと比較すると、先進国が自らの国内で取り組まなければならない課題が増えています。次に、包括的な目標を示すと同時に、各々の目標は相互に関連することが強調されており、分野横断的なアプローチが必要とされています。加えて、グローバル・パートナーシップの重視も2030アジェンダの特徴です。具体的には、2030アジェンダの序文や、SDGsの「ゴール17(パートナーシップ)」において、目標達成のために、多種多様な関係主体が連携・協力する「マルチステークホルダー・パートナーシップ」を促進することが明記されています。

さらに、リオ+20で示された、環境、経済、社会の三側面統合の概念が、2030アジェンダ及びSDGsにおいて明確に打ち出されている点も特徴的です。具体的には、2030アジェンダの序文では、「持続可能な開発を、経済、社会及び環境というその三つの側面において、バランスがとれ統合された形で達成することにコミットしている」と明記されています。この経済、社会、環境の三側面をバランスがとれ、統合された形で達成するという考え方は、環境基本計画等に示された我が国の環境政策が目指すべき方向性と基本的に同様であると言えます。

ウ SDGsの環境との関わり

SDGsの17のゴールを見ると、「ゴール6(水)」、「ゴール12(持続可能な生産・消費)」、「ゴール13(気候変動)」、「ゴール14(海洋)」、「ゴール15(生態系・森林)」等のゴールは、特に環境と関わりが深くなっています。これは、SDGsの前身の一つであるMDGsには、8つのゴールのうち環境に直接関係するゴールが一つしか含まれなかったことと比較して、環境的側面が増加していることをよく表しています。また、これにとどまらず、SDGsの特徴の一つであるゴール間の関連から、その他のゴールにも環境との関わりが見られます。

例えば、一見環境との関わりが浅い「ゴール5(ジェンダー平等)」では、ゴールを達成するための手段の一つとして、「女性に対し、経済的資源に対する同等の権利、ならびに各国法に従い、オーナーシップ及び土地その他の財産、金融サービス、相続財産、天然資源に対するアクセスを与えるための改革に着手する」と明記されており、森林、土壌、水、大気、自然資源等、自然によって形成される資本(ストック)である自然資本を利用することが、ゴールの達成に深く関わることを示しています。また、「ゴール8(雇用)」では、「包摂的かつ持続可能な経済成長及び全ての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)」が目標であり、そのためには、ターゲット8.4で示されているように「世界の消費と生産における資源効率を漸進的に改善させ、先進国主導の下、持続可能な消費と生産に関する10年計画枠組みに従い、経済成長と環境悪化の分断を図る」ことが重要としています。

このように、各ゴールはターゲットを介して環境との結び付きが示され、持続可能な開発の三側面(環境、経済、社会)は一体不可分であるという考えが、ターゲットのレベルでも貫かれています。