環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第5章>第6節 国際的動向と日本の取組

第6節 国際的動向と日本の取組

1 国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM(サイカム))

 2002年(平成14年)のWSSDで定められた実施計画において、「2020年(平成32年)までに化学物質の製造と使用による人の健康と環境への著しい悪影響の最小化を目指す(WSSD2020年目標)」とされたことを受け、2006年(平成18年)2月に開催された国際化学物質管理会議(ICCM)においてSAICM(サイカム)が採択されました。

 国内においては、平成24年9月に策定されたSAICM(サイカム)国内実施計画の進捗状況について点検し、平成27年9月に開催されたICCMの第4回会合において、その結果を報告しました。

2 国連の活動

 PCB、DDTなど残留性有機汚染物質(POPs)26物質(群)の製造・使用の禁止・制限、排出の削減、廃棄物の適正処理等を規定しているPOPs条約、及び有害な化学物質の貿易に際して人の健康及び環境を保護するための当事国間の共同の責任と協同の努力を促進する「国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約(PIC条約)」の締約国会合が2015年(平成27年)5月に合同で開催されました。POPs条約においては、補助機関である残留性有機汚染物質検討委員会(POPRC)の2016年(平成28年)から2020年(平成32年)の委員が我が国から選出されました。また、東アジアPOPsモニタリングプロジェクトを通じて、アジア地域の国々と連携して環境モニタリングを実施するとともに、2016年(平成28年)1月にベトナムにおいて、東アジアPOPsモニタリングとUNEP/GEFプロジェクトのジョイントワークショップ及び第11回東アジアPOPsモニタリングワークショップを開催し、同地域におけるモニタリング能力の強化に向けた取組を進めました。

 化学物質の分類と表示の国際的調和を図ることを目的とした「化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS)」については、関係省庁が作業を分担しながら、化学物質の分類事業を行うとともに、ウェブサイトを通じて分類結果の情報発信を進めました。

3 水銀に関する水俣条約

 2009年(平成21年)の第25回国連環境計画(UNEP)管理理事会において水銀によるリスク削減のための条約を制定すべきことが決議されたことを受け、2013年(平成25年)10月に我が国で「水銀に関する水俣条約(以下「水俣条約」という。)」が採択されました。平成27年6月に、我が国において同条約を的確かつ円滑に実施し、また、条約で求められる対応以上の取組を盛り込んだ、水銀による環境の汚染の防止に関する法律(水銀汚染防止法)(平成27年法律第42号)及び大気汚染防止法の一部を改正する法律(平成27年法律第41号)が成立しました。また、平成27年末までに同条約を実施するために必要となるこれらの法に基づく政省令等の整備・公布が行われたことを踏まえ、我が国は同条約を2016年(平成28年)2月2日に締結し、23番目の締約国となりました(同条約は50か国目の締結の日の90日後に発効予定。平成28年3月31日現在、25か国が締結済みです)。

 我が国は過去の経験と教訓をいかし、国内対策のみならず、水俣条約が実効性のあるものとなるよう、条約の早期発効を促す取組や、途上国による水俣条約の適切な履行に向けた国際協力を実施しています。その一環として、環境省では、平成27年8月に「“水銀マイナス”プログラム(MINAS(マイナス))」を立ち上げました。同プログラムの下、途上国の水銀対策を支援するために、ニーズ調査やセミナー等を実施するとともに、米国と協力してアジア太平洋地域の水銀モニタリングネットワークの設立に向けて取り組んでいます。

 また、我が国における大気中の水銀のバックグラウンド濃度を把握するため、平成19年度から実施している沖縄県辺戸(へど)岬に加え、平成26年8月から秋田県男鹿半島においても大気中の水銀の濃度をモニタリングし、平成27年9月にデータ公表を行いました。

4 OECDの活動

 OECDでは、我が国は、化学品委員会及び化学品・農薬・バイオ技術作業部会合同部会(JM)において、環境保健安全プログラムを通じて、化学物質の安全性試験の技術的基準であるテストガイドラインの作成及び改廃等、化学物質の適正な管理に関する種々の活動に貢献しています。また、これに関する作業として、新規化学物質の試験データの信頼性確保及び各国間のデータ相互受入れのため、優良試験所基準(GLP)に関する国内体制の維持・更新、生態影響評価試験法等に関する我が国としての評価作業、化学物質の安全性を総合的に評価するための手法等の検討、内外の化学物質の安全性に係る情報の収集、分析等を行っています。平成27年度は、米国と共同提案した内分泌攪(かく)乱作用の生態影響評価のための二つの試験法が、新たにテストガイドラインとして採択されました。また、平成18年に設置された「工業ナノ材料作業部会」では、工業ナノ材料に係る安全性評価手法の開発支援推進のためのヒト健康と環境影響に関する国際協力が進められており、我が国もその取組に貢献しました。

5 諸外国の化学物質規制の動向を踏まえた取組

 欧州連合(EU)では、REACH(化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則)やCLP規則(化学品の分類、表示及び包装に関する規則)等の化学物質管理制度が施行され、アジア地域においても、韓国等で化学物質管理に関する新しい法律が制定されるなど化学物質対策の強化が進められています。このため、我が国でも化学物質を製造・輸出又は利用する様々な事業者の対応が求められています。

 こうした我が国の経済活動にも影響を及ぼす海外の化学物質対策の動きへの対応を強化するため、化学産業や化学物質のユーザー企業、関係省庁等が幹事を務める「化学物質国際対応ネットワーク」を通じて、ウェブサイト(http://chemical-net.env.go.jp(別ウィンドウ))等による情報発信やセミナーの開催による海外の化学物質対策に関する情報の収集・共有を行いました。

 また、日中韓3か国による化学物質管理に関する情報交換及び連携・協力を進め、2015年(平成27年)11月に「第9回日中韓における化学物質管理に関する政策ダイアローグ」が中国・南京で開催されました。日中韓の政府関係者による政府事務レベル会合では、3か国の化学物質管理政策に関して情報・意見交換を行うとともに、水俣条約の早期発効に向けた各国の国内対応の状況等について情報交換を行いました。また、2016年(平成28年)の次回会合では、化学物質の審査・評価手法、PRTR等についての情報交換を新たに開始するとともに、化学物質管理分野における3か国の共同行動計画の採択を目指すことに合意しました。さらに、同ダイアローグと同時に開催された日中韓専門家会合では、生態毒性試験の実施手法の国際調和に向けて、日中韓の共同研究として各国で実施した魚類急性毒性試験の結果が報告され、今後、共同研究のスコープを拡大して継続することが合意されました。さらに、近年成長著しい東南アジアの化学物質管理に貢献するため、2016年(平成28年)3月にベトナム及びインドネシアにおいて、当該国の中央政府等の化学物質対策の担当者を対象に、我が国の化学物質対策に関する経験等の共有を目的とした「アジア地域化学物質対策能力向上促進講習」を開催しました。