環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部パート3第3章>第2節 循環型社会及び循環の考え方に関するこれまでの経緯

第2節 循環型社会及び循環の考え方に関するこれまでの経緯

1 「循環型社会」の検討の経緯

 我が国の循環型社会についての考え方の初期のものとしては、平成2年に環境庁(当時)が開催した「環境保全のための循環型社会システム検討会」における定義が挙げられます。本検討会では、経済社会活動の核であるモノの生産、流通、消費、廃棄、そして再生という過程に即して、環境保全のための社会の在り方について検討しました。同検討会では、「『持続可能な開発』を達成するには、地球の大気、水、土壌、野生生物といった資源やこれらが織りなす生態系(エコロジー)の大循環に適合するような経済活動の在り方を考え、具体化していかなければならず、自然生態系の循環と掛け離れた人間の経済活動を自然生態系と適合させるためには、廃棄よりも再使用、再生利用を第一に考え、新たな資源の導入をできるだけ抑えることや、自然生態系に戻す排出物の量を最小限とし、環境を攪(かく)乱しないものとすることが必要」と提言しています。そして、そうした経済社会システムの在り方を「循環型社会」と定義しています。

 すなわち、将来の世代のニーズを満たしつつ、現代の世代のニーズも満足させるような開発(持続可能な開発)を達成するためには、人間界の経済社会システムにおける物質循環の適正化、すなわち循環型社会の形成を通じて、健全な形での自然界における資源の循環(以下「自然の循環」という。)を維持することが必要であると言えます。例えば、降雨が川となって山を下り、海に流れた後に蒸発して空に還り、再び雨として降ってくるという水の循環や、動植物の食物連鎖・食物網の中で、生態系ピラミッドの頂点にある生物の遺骸(いがい)が他の生物の糧となるといった生態系の循環のように、自然界では絶妙な循環のバランスが維持されています。しかし、こうした自然の循環は人間の経済活動の影響を少なからず受けており、時には資源の過度な採掘、加工、流通、消費、廃棄等の過程で、生態系を破壊したり、自然界に様々な汚染物質を排出するなど、自然の循環に悪影響を与えてしまう事例もあります。

 そのことから、健全な形で自然の循環を維持し、自然との共生を図るためには、人間界(経済社会システム)の中で使用する資源をなるべく節約したり、再利用を進めたりすることに加えて、自然界からの新たな資源の採掘や廃棄物の埋立て等による環境負荷を抑制し、人間界による自然の循環への悪影響を最小限にしなければならないと言えます。

2 環境政策の長期的な目標としての「循環」

 環境基本法(平成5年法律第91号)に基づき、平成6年に策定された環境基本計画(同年12月閣議決定)の第2部「環境政策の基本方針」の中では、環境政策の長期的な目標として、「循環」、「共生」、「参加」及び「国際的取組」が掲げられています。

 このうち「循環」については、「大気環境、水環境、土壌環境等への負荷が自然の物質循環を損なうことによる環境の悪化を防止するため、生産、流通、消費、廃棄等の社会経済活動の全段階を通じて、資源やエネルギー面でのより一層の循環・効率化を進め、不要物の発生抑制や適正な処理等を図るなど、経済社会システムにおける物質循環をできる限り少なくし、循環を基調とする経済社会システムを実現する」ことを長期的な目標としています。

 つまり、環境基本計画では、環境政策の基本として、資源やエネルギー面での循環・効率化を通じた経済社会システムにおける物質循環を進め、健全な自然の循環を損なうことによる環境の悪化の防止を目指していることが明確であると言えます。

3 二つの循環の調和

 本節第1項及び第2項で挙げた循環型社会及び循環の趣旨を整理すると、「自然の循環」と「経済社会システムにおける物質循環」の、「二つの循環の調和」というキーワードが見えてきます(図3-2-1)。


図3-2-1 自然界及び経済社会における物質循環の調和

 本節第1項で述べたとおり、「自然の循環」とは、「大気環境、水環境、土壌環境、生態系等が織りなす自然界の健全な形での資源の循環」を指しています。また、「経済社会システムにおける物質循環」とは、「自然の一部である資源を開始点として、経済社会システムにおける活動の中核であるモノの生産、流通、消費、廃棄という一連の過程」を指しています。そして、「二つの循環の調和」とは、こうした経済社会システムにおける健全な物質循環を通じて自然の循環に与える悪影響を最小限とし、健全な自然の循環を維持しようとするという考え方です。

 こうした「二つの循環の調和」を図るためには、経済社会システムにおける廃棄段階に着目するだけでは不十分です。なぜならば、経済社会システムでは、資源採掘や原料調達、生産、流通、消費、廃棄の各段階で環境負荷を発生させており、そのため、それぞれの段階で、可能な限り環境負荷を低減する必要があるからです。より具体的に説明すると、廃棄や再生段階のリデュースやリユース、リサイクル、適正処分にとどまらず、環境負荷の少ない資源採掘や原料調達、生産、流通、消費等、モノの様々な段階にわたって環境負荷を低減するための取組まで視野を広げて考える必要があります。

 こうした考え方は、1960年代から提唱されている、地球を一つの宇宙船と見立て、地球上の資源の有限性や、資源の適切な利用を訴える、いわゆる「宇宙船地球号」の発想に遡ることができます。

4 二つの循環の調和による「循環型社会」の形成

 平成12年に制定された循環基本法は、先述したとおり、天然資源の消費の抑制及びできる限りの環境負荷の低減を図る循環型社会の形成を目的としており、二つの循環の調和を踏まえたものとなっています。例えば、同法第8条は「循環型社会の形成に関する施策を講ずるに当たっては、自然界における物質の適正な循環の確保に関する施策その他の環境の保全に関する施策相互の有機的な連携が図られるよう、必要な配慮がなされるものとする」とされています。

 一方で、本法律を踏まえた具体的な施策については、必ずしも上記の趣旨が十分には反映されてはおらず、その施策は、廃棄物を始めとする「循環資源」の3Rの取組が中心となっています。中でも、不法投棄対策や最終処分場の逼(ひっ)迫への対応といった、特に当時の喫緊かつ中心的課題であった廃棄物・リサイクル対策に力点が置かれています。

 平成15年に策定された循環基本計画でも、第2章「循環型社会のイメージ」において、「自然の循環と経済社会の循環」が記述され、二つの循環の調和が述べられているものの、具体的施策として廃棄物問題関連分野の対策についてのみ、記述されているにとどまっています。

 これは、第二次(平成20年策定)及び第三次(平成25年策定)の循環基本計画でも同様です。