環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部パート3>第3章 自然の循環と経済社会システムの循環の調和に向けて>第1節 循環型社会形成施策の現状

第3章 自然の循環と経済社会システムの循環の調和に向けて

 2015年(平成27年)5月のG7エルマウ・サミット(ドイツ)では、首脳宣言で「天然資源の保護と効率的な利用は、持続可能な開発のために不可欠である」とされ、平成20年にG7洞爺湖サミットで取りまとめられた「神戸3R行動計画」等に基づき、日本を含めたG7各国は、引き続き、資源生産性を向上させるための野心的な行動を取ることとされました。

 また、2015年(平成27年)9月に国連が取りまとめた持続可能な開発のための2030アジェンダには、持続可能な開発目標(SDGs)のターゲットとして「2030年(平成42年)までに、世界の消費と生産における資源効率を漸進的に改善させ…(中略)…経済成長と環境悪化の分断を図る」、「2030年(平成42年)までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する」、そして「2030年(平成42年)までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する」等が掲げられています。

 さらには、パート1第1章で述べたパリ協定で目標の一つとして掲げられた、「今世紀後半の人為的な温室効果ガスの排出と吸収の均衡」を達成するためにも、長期的かつ抜本的な視点で循環を見つめ直すことが重要です。

 これらの背景を踏まえ、本章では、循環型社会の形成に関する国内外の現状を概観したのち、改めて循環型社会の基本的な考え方を振り返った上で、循環型社会の実現に向けた課題を整理し、今後取り組むべき施策について述べていきます。

第1節 循環型社会形成施策の現状

1 国内における循環型社会形成施策の現状

(1)循環国会と循環型社会形成推進基本法

 今から15年前の平成12年は「循環型社会元年」と呼ばれ、同年に開催された第147回通常国会は「循環国会」と呼称されました。それは、経済成長の結果、当時深刻化した不法投棄の頻発、最終処分場の逼(ひっ)迫とそれによる更なる不法投棄の誘発といった悪循環を断つべく、この年に循環型社会形成推進基本法(平成12年法律第110号。以下「循環基本法」という。)を始めとした各種リサイクル法が制定されたことに基づきます。これにより、天然資源の消費の抑制及びできる限りの環境負荷の低減を図る循環型社会の形成を目指して、廃棄物の処理に優先順位を設け、3R(リデュース・リユース・リサイクル)と熱回収、適正処分を推進することとなりました。その後、同法に基づき循環型社会形成推進基本計画(以下「循環基本計画」という。)が平成15年3月に閣議決定され、同計画に基づき、国や地方公共団体等によって、循環型社会の形成に向けた様々な施策が行われています。その結果、平成12年当時と比べ、廃棄物の最終処分量は平成12年の約5,600万トンから平成25年には約1,630万トンと大幅に低減し、また、循環利用率(循環利用量/(循環利用量+天然資源等投入量))についても、平成12年の10.0%から平成25年には16.1%と、着実に増大しています。

(2)循環型社会形成の現状

 その一方で、平成25年5月に閣議決定された第三次循環基本計画では、循環基本法における優先順位がリサイクルよりも高いリデュース及びリユースの取組が遅れていると指摘されました。また、リサイクルについても、産業廃棄物に関する取組は平成25年現在で53.4%(うち再生利用量/産業廃棄物の排出量)と比較的進んでいるものの、我々の生活にとって身近な一般廃棄物に関する取組は20.6%(うち再生利用量/一般廃棄物の排出量)と、廃棄物処理の最終段階であり優先順位が低い熱回収や適正処理と比べ、十分に進められているとは言えない状況です。また、平成28年2月に行われた第三次循環基本計画の直近の点検では、資源生産性(GDP/天然資源等投入量)は平成12年度(24.8万円/トン)から長期的には向上しているものの(37.8万円/トン)、同基本計画における平成32年度目標(46万円/トン)の達成は非常に困難な状況であることが明らかとなりました。

 資源生産性を向上させるためには、国内総生産(GDP)を増大させるか、経済社会に投入される天然資源等投入量を削減する必要があります。そのため、実質的には、モノが廃棄・処分される段階の取組だけでなく、その前のモノの生産・流通・消費といった段階で、資源の消費量を削減することが重要と言うことができます。

 このように、当初の喫緊の課題であった不法投棄の頻発や最終処分場の逼(ひっ)迫への対応は進んでいるものの、循環型社会の本来の目的である天然資源の消費の抑制と環境負荷の低減を図るためには、今後、まだ再使用や再生利用が可能な資源を埋立材として利用したり、燃やしてしまったりするのではなく、リデュース・リユースを推進したり、品質の劣化を伴わず、同じものに再生できるリサイクル(水平リサイクル)等の、質が高くかつ効率的なリサイクルを進めていくことが必要です。

2 国外における循環型社会形成施策の現状

 世界に目を向けると、本章冒頭で示したとおり、G7やSDGsにおいて資源効率性の改善及び3Rに関連する取組が複数のターゲットとして掲げられるなど、循環型社会の実現に取り組んでいくことが世界的な潮流となりつつあります。

 2015年(平成27年)12月に発行された欧州連合(EU)の報告書である「EU新循環経済政策パッケージ(Closing the loop - An EU action plan for the Circular Economy。以下「新CEパッケージ」という。)」では、「循環」をキーワードとして、これまでの経済社会システムの在り方を見直し、新たな産業や経済を構築していくことが述べられています。そして、同報告書や政策提言等の中で、「資源効率」や「循環経済」といった概念が提唱され、各種施策が進められています。

 欧州委員会の定義によれば、資源効率とは、「環境へのインパクトを最小化し、持続可能な形で地球上の限られた資源を利用して、より少ない資源投入で、より大きな価値を生み出すこと」としています。一方、循環経済とは、「廃棄物の3Rや資源効率の向上を進めることで、資源の利用及び環境への影響と、経済成長との連動を断ち切る(デカップル:decouple)こと」を意味しています。

 これらを踏まえ、新CEパッケージでは「EUにとって持続可能な成長を確実にするためには、我々は我々の資源をより賢く、より持続的な方法で利用しなければならない」、「多くの天然資源に限りがあり、それらを使用していくのに環境的にも経済的にも持続可能な方法を見出さなくてはならない。それらの資源を最適な方法で利用することは、ビジネスの経済的利益でもある」と述べられています。そして、製造段階から廃棄物管理、二次材の利用に至るまで、“資源の環を結ぶ(closing the loop)”必要性についても言及しています(図3-1-1)。こうした考え方の背景として、EUが循環を通じて新たな産業の在り方を構築し、欧州の経済成長や雇用につなげ、さらには、人口増加・経済成長によって資源消費が増大し、資源需給が逼(ひっ)迫していく世界の経済・社会の将来を見据えていることが推察されます。


図3-1-1 EUが提案する循環経済(CE)のイメージ

 我が国も、このような海外の動向を踏まえ、廃棄物政策のみならず、生産・消費段階も含んだ、新たな産業や経済成長にもつながるような総合的かつ効果的な取組を検討していく必要があります。