環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>パート2 被災地の復興と環境回復の取組>第1章 東日本大震災からの復興に係る取組>第1節 震災後の環境の状況の変化

パート2 被災地の復興と環境回復の取組

第1章 東日本大震災からの復興に係る取組

 平成23年3月11日にマグニチュード9.0という日本周辺での観測史上最大の地震が発生し、それによって引き起こされた高い津波によって東北地方の太平洋沿岸を中心に広範かつ甚大な被害が生じました。また、震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故によって大量の放射性物質が環境中に放出され、今なお我が国にとって最大の環境問題となっています。被災地では、生活再建に向けた懸命の努力が続けられており、国は、今後も被災地の復興に向けた様々な取組を講じる前提として、被災地の人々の立場に立って考え、被災地の人々に寄り添い、親身になって説明し、対応していきます。

 本章は、環境の側面を切り口に、東日本大震災以降の環境の変化について代表例を取り上げながら説明した後、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年法律第110号。以下「放射性物質汚染対処特措法」という。)に基づく復興への取組等の進捗状況及び放射線に係る住民の健康管理・健康不安対策について概観していきます。

第1節 震災後の環境の状況の変化

 本項では、震災及び事故後5年が経過したことも踏まえ、震災等が海岸環境等の自然環境に与えた影響とその後の変化の状況、東京電力福島第一原子力発電所の事故による汚染やその回復状況について、ウェブサイト等で公表されているデータを用いて、その要点を紹介していきます。

1 自然環境の回復等の状況

 国は、東日本大震災からの復興の基本方針(平成23年8月11日東日本大震災復興対策本部決定)に基づき、震災等が自然環境に与えた影響とその後の変化状況の継続的なモニタリング調査を実施しています。

(1)重点地区調査の状況

 重点地区調査は、復興計画への支援も視野に入れ、森里川海のつながりや地震・津波等による生態系サービスへの影響の把握を目的に、重要な自然が残存するエリアでベルトトランセクト調査、動物・植物相調査、希少種の確認調査を実施し、環境区分ごとの生物情報等を連続的に取得するものです。

 平成26年度に、過年度調査地区の中から特に重要と考えられた6地区を選定し、ベルトトランセクト調査、環境区分ごとの動植物相調査等を実施しました。動植物相の調査は夏、秋の2季節に行っていますが、前年度と比較できる秋季についてみると、いずれの地区も出現種数の増加が認められ、環境の回復を示唆していました(図1-1-1)。


図1-1-1 重点地区における出現種数の比較

(2)植生調査

 植生調査は、植生の変化の把握を通じて、震災後の自然環境変化の変遷を捉えることを目的に、青森県から千葉県までの津波浸水域(577.9km2)で実施しました。平成27年度に、平成24年度~平成26年度の植生の改変状況を整理した植生改変図から土地利用に関連する変化、自然植生に関連する変化、樹林地に関連する変化についての集計結果を公表しました(図1-1-2)。


図1-1-2 植生調査に関する経年的な変化

ア 土地利用

 浸水域の多くは住宅地や耕作地であったことから、三つのグラフの中でも人為的な土地利用の割合が高くなっています。その内容を見ると「荒地化」が減少し、「耕作開始」や「構造物建設」が大きく増えています。これは荒地化した箇所を造成し、耕作地や構造物を整備する一連の復興・復旧事業が大規模に進んでいることを示しています。

イ 自然植生

 「自然植生が残存・再生」、「自然植生から他の自然植生へ変化」は年々減少傾向が認められています。一方、「無植生地から自然植生へ変化」は年々増加しています。自然植生の主な内訳は砂丘植生や塩沼地植生等であることから、新たな立地にこれらの自然植生が発達していることが伺えます。

ウ 樹林地

 樹林地については、「残存」や「倒伏・枯死」が年々減少している一方で、「新たな植林・植栽」が増加していました。被災した海岸林から新たな海岸林を整備していることが推察されます。

 同調査全体を見ると、復旧・復興工事による大規模な人為的改変によって自然植生や樹林地の減少が続いている中、一部の自然植生については回復していることも確認されます。

 また、津波被害を受けた海洋生態系については、文部科学省が地元の地方公共団体や関係省庁と連携して構築した「東北マリンサイエンス拠点」において、海洋生態系の回復過程を含めた長期的な調査研究を実施しています。

2 空間線量率の状況

(1)放射線モニタリングの結果

 東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う放射線モニタリングについては、国が定めた総合モニタリング計画に基づき、関係府省、地方公共団体、原子力事業者等が連携して実施しています。

 本計画の一環として、東京電力福島第一原子力発電所事故以降の放射性物質の沈着状況の変化を確認することを目的に、平成23年4月から、定期的に東京電力福島第一原子力発電所の周囲において、航空機による放射線モニタリングを実施しています。

 平成28年2月に取りまとめた最新の同モニタリング結果によると、平成27年9月時点における東京電力福島第一原子力発電所半径80km圏内の放射線量は、事故7か月後と比べて65%減少(約3分の1まで減少)しているという結果になりました(図1-1-3)。減少した理由としては、放射性物質の物理的減衰に加え、降雨等の自然現象の影響や除染の効果等によるものと考えられます。


図1-1-3 80km圏内における空間線量率の分布マップ

 また、避難指示区域等を対象に継続的に実施しているモニタリングの結果を見ても、東京電力福島第一原子力発電所半径10~20km圏内において、事故直後から現在にかけて、全ての測定点で空間線量がおおむね減少して推移しており、一部の測定点は空間線量率が半減以下になっていることを読み取ることができます(図1-1-4)。


図1-1-4 東京電力株式会社福島第一原子力発電所の20km圏内のモニタリング結果の推移(10~20km)

(2)除染作業による効果――楢葉町を例に

 放射性物質汚染対処特措法は、国が除染を行う除染特別地域及び市町村等が除染等の措置を行う汚染状況重点調査地域を定めています。

 その進捗等の詳細については後述しますが、ここでは除染が完了した地点の効果を紹介します。なお、除染作業は、汚染状況等により効果的な手法が異なるため、それぞれの地域の実情に合わせ、最適な方法が選択されています。

 除染特別地域のうち楢葉町を例に挙げると、平成24年4月に除染実施計画が策定され、同年9月より除染実施計画に基づく除染作業が行われた結果、平成26年3月に除染作業を完了しました。

 その成果をみると、全ての土地区分において除染後の1m空間線量率の低減が見られ、その後の事後モニタリングでも効果が維持されていることが確認されています(図1-1-5)。


図1-1-5 楢葉町の空間線量率の変化

 例えば宅地について、1m空間線量率で比較すると、除染前では平均値で0.74マイクロシーベルト/hであったのに対し、除染後には平均値で0.40マイクロシーベルト/hに低減(除染前から46%減)し、事後モニタリング(1回目)では平均値で0.30マイクロシーベルト/hとなり、効果を維持(除染前から59%減)していることが分かりました(図1-1-6)。


図1-1-6 楢葉町の1m空間線量率土地区分ごとの変化

 このような除染作業の成果及びインフラの復旧等によって、平成27年9月、楢葉町は全町避難していた市町村として初めて避難指示が解除されました(58ページコラム「除染の成果」も参照)。

3 水環境における放射性物質の状況

 国では、東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、当該事故由来の放射性物質の水環境における存在状況を把握することを目的に、福島県及び周辺地域での放射性物質モニタリングを実施しています。この調査は、公共用水域の約600地点、地下水の約400地点で、平成23年8月以降継続的に実施しています。以下では、同モニタリングによる放射性セシウム(セシウム134とセシウム137合計。なお、セシウム134とセシウム137の検出下限値は、水質:1ベクレル/ℓ、底質:10ベクレル/kg)の検出状況を説明します。

(1)モニタリング結果

ア 公共用水域(水質)

 河川(全検体数7,000以上)の検出率は、全体として減少傾向にあります。平成26年度は、福島県浜通り以外では検出されていません。検出値についても、平成26年度は福島県浜通りで最大1.6ベクレル/ℓの検出が認められた以外は、放射性セシウムは検出されていません(図1-1-7)。


図1-1-7 公共用水域(河川水質)の放射性セシウムの検出率の推移

 湖沼(全検体数4,100以上)の検出率は全体として減少傾向にあります。平成25年度以降は、福島県浜通り以外では検出されていません。検出値についても、平成26年度は、福島県浜通りで最大34ベクレル/ℓの検出が認められた以外は、放射性セシウムは検出されませんでした(図1-1-8)。


図1-1-8 公共用水域(湖沼水質)の放射性セシウムの検出率の推移

 沿岸(全検体数1,700以上)については、全ての地点で放射性セシウムは検出されませんでした。

イ 地下水(8県で約2,600検体の調査を実施)

 平成23年にセシウム134について1地点、セシウム137について2地点(いずれも福島県)において検出下限値である1ベクレル/ℓが検出されたのみで、平成24年以降は全ての地点で検出されていません。

ウ 公共用水域(底質)

 河川(全検体数7,000以上)の検出率は60~100%で推移し、経年的には微減の傾向はありますが、平成26年度も80%以上の検出率が多くの自治体で認められました。一方、検出値については、高濃度の検出地点が減少するとともに、低濃度の検出地点が増加しており、全体的には経年的に減少していることが認められました。

 湖沼(全検体数2,400以上)の検出率は83~100%で推移し、平成26年度も全ての自治体で90%以上の検出率が認められました。検出値については、全体的には高濃度の地点が減少し、より低濃度の地点が増加している傾向が認められました。ただし、福島県浜通り地域では、10万ベクレル/kg以上の検出値が認められています。

 沿岸(全検体数900以上)の検出率は検体数の少ない自治体を除いては50~100%で推移し、平成26年度も50%以上の検出率が認められました。検出値については、福島県及び宮城県では、経年的に低濃度の検出地点が増加しており、全体的には経年的に減少していることが認められました。ただし、宮城県では、1,000ベクレル/kg以上の検出値が認められました。

(2)調査の評価・今後に向けた考え方

 これまでのモニタリングの結果からは全体として放射性セシウムの検出率は年々低下傾向にあることが分かりますが、地点によっては、採取回ごとの試料の採取場所及び性状の僅かな違いによっても数値に変動が見られています。このような状況に鑑み、地域住民の安全・安心のためにも、次年度以降も継続してモニタリングを実施していきます。

4 帰還困難区域等での鳥獣被害の発生状況と対策

 東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、放射線量の高い帰還困難区域等は、原則立入禁止となりました。これらの区域内では、農業生産活動等の人為活動が停滞していること、また、狩猟者の他市町村への避難等により、狩猟や有害鳥獣捕獲を行うことが難しい状況となっています。これにより、イノシシ等の野生鳥獣の人里への出没が増加し、農地を掘り返したり、家屋に侵入したりする被害が発生する状況となっています。これらの鳥獣をこのまま放置すれば、住民の帰還準備や帰還後の生活、地域経済の再建に大きな支障が生じるおそれがあります。このため、国、福島県、市町村が連携して野生鳥獣の捕獲等の対策を進めています。今後も、野生鳥獣による生活環境被害等を抑えて住民の帰還が円滑に進むよう、取組を継続していくこととしています。