環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成27年版 環境・循環型社会・生物多様性白書施策第2章>第3節 森・里・川・海のつながりを確保する取組

第3節 森・里・川・海のつながりを確保する取組

1 森・里・川・海のつながりを確保する取組

(1)生態系ネットワーク

 様々なレベルにおける生態系ネットワーク形成を進めていくことが重要であることから、関係省庁と連携し、現状の把握をはじめ、その実施に向けた方策を検討します。

 国有林野においては、原生的な森林生態系や希少な野生動植物を保護する観点から「保護林」や「保護林」を中心にネットワークを形成する「緑の回廊」の設定等を推進するとともに、モニタリング調査等の実施や人工林等における適切な間伐の実施等森林の整備・保全を通じた多様で健全な森林づくりを推進します。さらに、必要に応じて民有林とも連携しつつ、より広範で効果的な森林生態系保全の取組を推進します。また、渓流等水辺の森林等の連続性を確保することにより、よりきめ細かな森林生態系のネットワーク形成を推進します。

(2)重要地域の保全

ア 自然環境保全地域

 原生自然環境保全地域及び自然環境保全地域については、平成21年の自然環境保全法(昭和47年法律第85号)の改正を受け、生態系の現況調査や評価等を行った上で必要な対策を検討するなど、適正な保全管理の充実を図ります。

イ 自然公園

 平成21年に改正された自然公園法(昭和32年法律第161号)の着実な実施を図るため、以下の施策を重点的に進めます。

(ア)自然公園の指定、公園区域及び公園計画の見直し

 平成22年10月に公表した、今後新規指定又は大規模拡張を検討する国立・国定公園の候補地について、自然環境や利用状況の調査、保護や公園利用に関する計画の検討、関係者との調整等を行い、具体的な区域の指定に向けた検討を進めます。

 また、社会条件等の変化に対応するため、公園区域及び公園計画の全般的な見直し(再検討)を行います。さらに、再検討が終了した公園については、おおむね5年ごとに公園区域及び公園計画の点検を行います。国定公園については、都道府県から申出のある地域について検討を行い、見直し等の作業を進めます。

(イ)自然公園の管理の充実

 生態系維持回復事業制度に基づき、シカや外来種による生態系被害に対する総合的かつ順応的な対策を講じるため、これまで策定された7国立公園8計画の生態系維持回復事業計画に基づく事業を着実に実施するとともに、平成27年度末で計画期間を終える南アルプス、霧島錦江湾及び屋久島の生態系維持回復事業計画について再策定を検討します。また、生態系維持回復事業により本来の生態系の維持・回復を図ることが効果的な地域では、新たに生態系維持回復事業計画の策定を進めます。さらに、外来種により生態系被害が生じており、生物多様性の保全上、早急に対策を講じるべき国立公園においては、重点的な防除及びモニタリングを引き続き実施していきます。

 自然公園法に基づく許可、認可等を適正に運用するとともに、国立公園管理計画の定期的な見直しを行い、国立公園の保護及び適正な利用の推進を図ります。また、利用者に対する質の高い国立公園サービスの提供を目指し、地域の関係者による協議会の設置や管理運営計画の策定等により、協働型管理運営体制の構築を目指します。あわせて、地域密着型の公園管理を行う特定非営利活動法人等の公園管理団体の指定及び風景地保護協定の締結を推進し、管理体制の強化を進めます。

 国立公園の優れた自然環境を保全していくため、特に重要な地区については引き続き民有地買上げを進めます。また、アクティブ・レンジャーを全国に配置して、現場管理の充実に努めます。さらに、国立公園における登山道の補修や清掃作業、環境美化、外来種の駆除などを引き続き推進します。

 荒廃した登山道の整備、周辺の植生を復元するための対策及びシカの食害等から貴重な植生を保護するための対策を進めます。釧路湿原、サロベツ原野等においては、自然再生の取組を引き続き進めます。

(ウ)自然公園における適正な利用の推進

 自然とのふれあいを推進するため、自然観察会等の活動を実施するとともに、自然公園指導員の研修による利用者指導の充実やパークボランティアの養成や活動に対する支援を行います。

 国立公園の主な利用地域については、関係地方公共団体の協力の下に清掃活動を実施します。また、「自然公園クリーンデー」等の各種行事を実施し、美化活動の普及に努めます。

 国立公園等の山岳環境の保全及び登山利用の安全確保等を図るため、民間の山小屋事業者等による公衆トイレとしてのサービスを補完する環境配慮型トイレ等の整備の経費の一部を補助することにより、増加する登山利用者への対応を進めます。

ウ 鳥獣保護区

 鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律に基づき、国際的又は全国的な鳥獣の保護の見地から重要な区域を国指定鳥獣保護区に指定し、保護を図ります。

エ 生息地等保護区

 種の保存法に基づき、国内希少野生動植物種の生息・生育地として重要な地域である生息地等保護区の指定を進め、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存を図ります。

オ 名勝(自然的なもの)、天然記念物

 文化財保護法(昭和25年法律第214号)に基づき、日本の峡谷、海浜等の名勝地で観賞上価値の高いものを名勝(自然的なもの)に、動植物、地質鉱物等で学術上価値が高く我が国の自然を記念するものを天然記念物に指定し、保護を図ります。

カ 保護林・保安林

 我が国の森林のうち、優れた自然環境の保全を含む公益的機能の発揮のため特に必要な森林を保安林として計画的に指定し、適正な管理を行います。また、国有林野のうち、自然環境の維持、動植物の保護、遺伝資源の保存等を図る上で重要な役割を果たしている「自然維持タイプ」の森林については、自然環境の保全を第一とした管理経営を行います。特に原生的な森林生態系や希少な野生動植物の生息・生育地等については、「保護林」として積極的に設定するなどその拡充を図るとともに、モニタリング調査等により状況を的確に把握し、必要に応じて植生の回復等の措置を講ずるなど適切な保全・管理を推進します。

キ 特別緑地保全地区など

 第3節3(1)を参照。

ク 景観の保全

 景観の保全に関しては、自然公園法によって優れた自然の風景地を保護するほか、景観法(平成16年法律第110号)に基づき景観行政団体による景観計画の策定を推進します。また、人と自然の関わりの中で作り出されてきた文化的景観のうち、特に重要なものを文化財保護法に基づき重要文化的景観に選定し、その保存と活用に努めます。

(3)自然再生の推進

 自然再生推進法(平成14年法律第148号)の円滑な運用を図るため、自然再生協議会における技術的課題の解決に関する支援や自然再生に係る情報提供など、地域の自主的な自然再生の取組を推進します。

 自然再生事業については、河川・湿原・干潟・藻場・里地里山・森林など様々な環境を対象に全国で取り組まれるよう、関係省庁が連携し着実に推進します。あわせて、自然再生を通じた自然環境学習を進めます。

2 森林の整備・保全

 森林の多面的機能を持続的に発揮させるため、多様な森林づくりを推進するとともに、自然環境の保全など森林の公益的機能の発揮及び森林の保全を確保するため、保安林制度・林地開発許可制度等の適正な運用を図ります。また、森林での様々な体験活動を通じて森林の持つ多面的機能等に対する国民の理解を促進する森林環境教育や、市民やボランティア団体等による里山林の保全・利用活動など、森林の多様な利用及びこれらに対応した整備を推進します。

 治山事業においては、豊かな環境づくりや周辺の生態系に配慮しつつ、荒廃山地の復旧整備、水土保全機能の低下した森林の整備等を計画的に推進します。

 東日本大震災で被災した海岸防災林については、平成24年2月に策定した「今後における海岸防災林の再生について」等に基づき、被災箇所ごとに被災状況や地域の実情、更には地域の生態系保全の必要性等に応じ再生方法を決定するとともに、海岸防災林の有する津波に対する減災機能も考慮した復旧・再生を推進します。

 松くい虫等の病害虫や野生鳥獣による森林の被害対策の総合的な実施、林野火災予防対策等を推進します。

 企業、森林ボランティア活動等、広範な主体による森林づくり活動への支援や緑化行事の実施により、国民参加の森林づくりを進めます。

 森林資源のモニタリング調査を引き続き実施するとともに、時系列的なデータを用いた解析手法の開発を行います。また、これらの調査結果については、モントリオール・プロセスでの報告等への活用を図ります。

 「生物多様性国家戦略2012-2020」及び農林水産省生物多様性戦略に基づき、森林生態系の調査のほか、森林の保護・管理技術の開発など、森林における生物多様性の保全及び持続可能な利用に向けた施策を推進するとともに、我が国における森林の生物多様性保全に関わる取組を国内外に発信します。

 国有林野においては、育成複層林や天然生林へ導くための施業の推進、広葉樹林の積極的な造成等を図るなど、自然環境の維持・形成に配慮した多様な森林施業を推進します。また、優れた自然環境を有する森林の保全・管理や国有林野を活用して民間団体等が行う自然再生活動を積極的に推進します。さらに、野生鳥獣との棲(す)み分け、共存を可能にする地域づくりに取り組むため、地域等と連携し、野生鳥獣の生息環境の整備と個体数管理等の総合的な対策を実施します。

3 都市の緑地の保全・再生など

(1)緑地、水辺の保全・再生・創出・管理

 都市における緑地を保全するため、都市緑地法(昭和48年法律第72号)に基づく特別緑地保全地区等の指定を推進するとともに、地方公共団体及び緑地管理機構による土地の買入れ等を引き続き推進します。また、首都圏近郊緑地保全法(昭和41年法律第101号)及び近畿圏の保全区域の整備に関する法律(昭和42年法律第103号)に基づき近郊緑地の保全を図ります。さらに、緑が不足している市街地等において、緑化地域制度や地区計画等緑化率条例制度等の活用により建築物の敷地内の空地や屋上等の民有地における緑化を図るとともに、市民緑地契約や緑地協定の締結を引き続き推進します。加えて、風致に富むまちづくり推進の観点から、風致地区指定の推進を引き続き図ります。

 都市緑化の推進に当たっては、「春季における都市緑化推進運動」(4月~6月)、「都市緑化月間」(10月)を中心に、その普及啓発に係る各種活動を実施するほか、「緑の相談所(都市緑化植物園)」の設置等、取組の推進を図ります。

 都市における多様な生物の生息・生育地となる、せせらぎ水路の整備や下水処理水の再利用等による水辺の保全・再生・創出を図ります。

(2)都市公園の整備

 都市における緑とオープンスペースを確保し、水と緑が豊かで美しい都市生活空間等の形成を実現するため、都市公園の整備、緑地の保全、民有緑地の公開に必要な施設整備を支援する「都市公園等事業」を実施します。

(3)国民公園及び戦没者墓苑

 国民公園(皇居外苑、京都御苑、新宿御苑)及び千鳥ケ淵戦没者墓苑を広く国民の利用に供するため、引き続き施設の改修、園内の清掃、芝生・樹木の手入れ等を行います。

4 河川・湿地などの保全・再生

(1)河川の保全・再生

 河川やダム湖等における生物の生息・生育状況の調査を行う「河川水辺の国勢調査」を実施し、結果を「河川環境データベース」(http://mizukoku.nilim.go.jp/ksnkankyo/(別ウィンドウ))として公表します。また、世界最大規模の実験河川を有する自然共生研究センターにおいて、河川や湖沼の自然環境保全・復元のための研究を進めます。加えて、生態学的な観点より河川を理解し、川の在るべき姿を探るために、河川生態学術研究を進めます。

 河川の保全等に当たっては、河川全体の自然の営みを視野に入れ、地域の暮らしや歴史・文化との調和にも配慮し、河川が本来有している生物の生息・生育・繁殖環境等の保全・創出に取り組んでいる「多自然川づくり」、魚道整備等により魚類の遡上・降下環境の改善を図る「魚がのぼりやすい川づくり」等を引き続き推進します。また、災害復旧事業においても、「美しい山河を守る災害復旧基本方針」に基づき、河川環境の保全・復元の目的を明確にして、事業を実施します。

(2)湿地の保全・再生

 生物多様性保全の観点から重要性が高い地域として、平成13年度に選定した「日本の重要湿地500」について、選定から10年以上を経た環境の変化等を踏まえ見直した結果を環境省のウェブサイトなどにより情報発信することにより、湿地の保全・再生を推進します。

(3)土砂災害対策における自然環境の保全・創出

 山麓斜面に市街地が接している都市において、土砂災害に対する安全性を高め緑豊かな都市環境と景観を保全・創出するために、市街地に隣接する山麓斜面にグリーンベルトとして一連の樹林帯の形成を引き続き図ります。また、生物の良好な生息・生育環境を有する渓流や里山等を保全・再生するため、NPO等と連携した山腹工等を引き続き実施します。土砂災害防止施設の整備に当たり良好な自然環境の保全・創出に努めます。

5 沿岸・海洋域の保全・再生

(1)沿岸・海洋域の保全

 平成25年度に抽出した生物多様性の保全上重要度の高い海域(重要海域)の情報に基づき海洋保護区の充実とネットワーク化に向けた検討を行います。

 景観や生物多様性保全上重要な海域については、自然公園法に基づく海域公園地区に指定するなど海域の保護を図ります。

 有明海・八代海における海域環境調査、東京湾等における水質等のモニタリング、海洋短波レーダーを活用した流況調査、水産資源に関する調査等を行います。

 サンゴ礁生態系保全行動計画の実施を進め、その状況を点検するとともに本行動計画の見直しに向けた検討を開始します。

(2)水産資源の保護管理

 漁業法(昭和24年法律第267号)及び水産資源保護法(昭和26年法律第313号)に基づき、採捕制限等の規制を行います。また、海洋生物資源の保存及び管理に関する法律(平成8年法律第77号)に基づき、漁獲可能量や漁獲努力可能量の管理を行うほか、[1]「資源回復計画」の推進、[2]外来魚の駆除、環境・生態系と調和した増殖・管理手法の開発、魚道や産卵場の造成等、[3]ミンククジラ等の生態、資源量、回遊等の実態把握及び資源回復手法の解明に資する調査、[4]ウミガメ(ヒメウミガメ等)、鯨類(シロナガスクジラ等)及びジュゴンの原則採捕禁止等、[5]水産資源の持続可能な利用に向けた海洋保護区の検証・推進と希少海洋生物の実態調査、[6]サメ類の保存・管理及び海鳥の偶発的捕獲の対策に関する行動計画の実施促進等、[7]混獲防止技術の開発等を実施します。

 海洋生物の生理機能を解明して革新的な生産につなげる研究開発と生物資源の正確な資源量の変動予測を目的に生態系を総合的に解明する研究開発を実施するとともに、独立行政法人科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業として海洋生物の観測・モニタリング技術の研究開発を実施します。

(3)海岸環境の整備

 海岸保全施設の設備においては、海岸法(昭和31年法律第101号)の目的である防護・環境・利用の調和に配慮するなど、海岸環境の保全に取り組みます。

(4)港湾及び漁港・漁場における環境の整備

 良好な海域環境を保全・再生・創出するため、藻場・干潟・生物共生型港湾構造物等の整備を推進するとともに、港の環境保全の重要性を認識・理解し、環境保全のための行動が習慣となるよう、環境保全活動及び環境教育活動を支援します。

 また、海洋環境整備船による漂流ゴミ・油の回収や、放置艇の解消を目指した船舶等の放置等禁止区域の指定と係留・保管施設の整備を推進します。

 漁港・漁場では、水産資源の持続的な利用と豊かな自然環境の創造を図るため、海水交換機能を有する防波堤、水産動植物の生息・繁殖に配慮した護岸等の整備及び砂浜の再生に資する施設の整備など、自然調和・活用型の漁港漁場づくりを積極的に展開します。また、藻場・干潟の保全等を推進するほか、漁場環境を保全するための森林整備に取り組みます。さらに、木材利用率が高い増殖礁の開発や漁場機能を強化する技術の開発・実証に取り組むとともに、磯焼けガイドラインを活用した実証事業の実施や、対策の普及・啓発に取り組みます。加えて、サンゴの有性生殖による種苗生産を中心としたサンゴ増殖技術の開発に取り組みます。

(5)海洋汚染への対策

 第4章第6節を参照。