環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成27年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第6節 科学的基盤を強化し、政策に結びつける取組

第6節 科学的基盤を強化し、政策に結びつける取組

1 基礎的データの整備

(1)自然環境調査とモニタリング

 我が国では、全国的な観点から植生や野生動物の分布など自然環境の状況を面的に調査する自然環境保全基礎調査や、様々な生態系のタイプごとに自然環境の量的・質的な変化を定点で長期的に調査する「モニタリングサイト1000」等を通じて、全国の自然環境の現状及び変化状況を把握しています。

 自然環境保全基礎調査における植生調査では、詳細な現地調査に基づく植生データを収集整理した縮尺2万5,000分の1植生図を作成しており、我が国の生物多様性の状況を示す重要な基礎情報となっています。平成26年度までに、全国の約72%に当たる地域の植生図の作成を完了しました。また、砂浜・泥浜の面積等の変化状況についても調査を実施しています。

 「モニタリングサイト1000」では、高山帯、森林・草原、里地里山、陸水域(湖沼及び湿原)、沿岸域(砂浜、磯、干潟、アマモ場、藻場及びサンゴ礁)、小島しょの各生態系について、生態系タイプごとに定めた調査項目及び調査方法により、合計約1,000か所の調査サイトにおいて、モニタリング調査を実施しています。5年に1度に行うこととしている生態系毎の取りまとめと愛知目標の進捗状況評価や各種保全施策に効果的に活用するための解析作業を行い、その結果を公開しました。

 また、インターネットを使って、全国の生物多様性データを収集共有化し、提供するシステム「いきものログ」の運用を開始しました(http://ikilog.biodic.go.jp/(別ウィンドウ))。「いきものログ」により、全国の質の高い多くの生物多様性データを収集、提供しました。

モニタリングサイト1000の10年の成果から分かったこと

 モニタリングサイト1000は開始から10年が経過しており、10年間の生態系毎のこれまでの成果の取りまとめ報告書を作成、公表しました。里地調査と森林・草原調査の取りまとめ結果からはニホンジカの分布拡大、高山帯調査からは地球温暖化の影響を示唆するハイマツの生長量の増大、砂浜調査では全国的なウミガメの増加等が明らかになりました。今後、愛知目標の進捗状況評価や復興事業など様々な分野での活用が期待されます。渡り鳥のデータを用いてラムサール条約湿地の登録基準を満たしたサイトを明らかにする等、行政施策への活用のための取りまとめも行っており、これらの成果を基にした施策推進も期待されます。さらに、東日本大震災による影響を受けた沿岸地域では、突発的な災害である震災の前後の変化を把握するための貴重なデータとして活用できました(例:干潟調査からは津波被害を受けた松川浦サイトで底生動物の種数の大きな減少とその後の回復が確認されました)。


モニタリングサイト1000から分かったシカの分布拡大

干潟調査松川浦サイトにおける津波による底生動物種数の変動

 これらの報告書や各種調査結果はモニタリングサイト1000のウェブサイト(http://www.biodic.go.jp/moni1000/(別ウィンドウ))でダウンロードできます。

(2)地球規模のデータ整備や研究など

 地球規模での生物多様性保全に必要な科学的基盤の強化のため、アジア太平洋地域の生物多様性観測・モニタリングデータの収集・統合化などを推進する「アジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(AP-BON)」のワークショップを平成26年10月に韓国で開催しました。また、東・東南アジア地域での生物多様性の保全と持続可能な利用のための生物多様性情報整備と分類学能力の向上を目的とする「東・東南アジア生物多様性情報イニシアティブ(ESABII)」を推進するために分類学能力構築の研修等を26年11月にインドネシアで、又27年1月にはタイで実施しました。

 研究開発の取組としては、独立行政法人国立科学博物館において、「日本海周辺域の地球表層と生物相構造の解析」、「日本の生物多様性ホットスポットの構造に関する研究」などの調査研究を推進するとともに、約429万点の登録標本を保管し、これらの情報をインターネットで広く公開しました(http://www.kahaku.go.jp/research/(別ウィンドウ))。また、地球規模生物多様性情報機構(以下「GBIF」という。)の活動を支援するとともに、GBIF日本ノード(データ提供拠点)である国立科学博物館及び大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立遺伝学研究所と連携しながら、生物多様性情報を同機構に提供しました。

2 生物多様性の総合評価

 平成22年5月に公表した生物多様性総合評価(JBO)に引き続き、平成24年度までに国土全体の生物多様性の状態や変化の状況を空間的に把握するため、生物多様性評価の地図化を行い、平成25年6月からウェブサイト(http://www.biodic.go.jp/biodiversity/activity/policy/map/(別ウィンドウ))で成果を公表するとともに、GISデータ等を提供しています。また、平成26年度は生物多様性総合評価の見直しに向けて必要な情報を整理しました。

3 科学と政策の結び付きの強化

 生物多様性及び生態系サービスに関する科学と政策の連携の強化を目的として設立された「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(以下「IPBES」という。)」の第3回総会が、2015年(平成27年)1月にドイツ・ボンにて開催されました。第3回総会では、2014年(平成26年)から5か年の作業計画の履行状況の確認及び作業計画の見直しが行われたほか、2015年(平成27年)修正予算やIPBES運用規則が承認されました。我が国はIPBESの国際的な議論に積極的に参画するとともに、IPBES作業計画に我が国の知見を効果的にインプットし作業計画に貢献するため、IPBESに関わる国内専門家及び関係省庁間における国内連絡会を平成26年7月及び12月に開催しました。