環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成27年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部>第2章 生物多様性の保全及び持続可能な利用~豊かな自然共生社会の実現に向けて~>第1節 生物多様性の現状

第2章 生物多様性の保全及び持続可能な利用~豊かな自然共生社会の実現に向けて~

 第2章では、我が国の生物多様性の保全と持続可能な利用に向けた取組について記述します。はじめに、生物多様性の現状として、世界及び我が国における絶滅危惧種の状況、愛知目標の達成状況について紹介し、新たな課題として生物多様性の観点からの地球温暖化の緩和策と適応策の推進に向けた取組や抜本的な鳥獣管理の推進について記述します。続いて、生物多様性国家戦略の5つの基本戦略に沿って、それぞれに関連する取組を報告します。また、東日本大震災からの復興・再生に向けた自然共生社会づくりの取組について記述します。

第1節 生物多様性の現状

1 世界における現状

(1)世界の絶滅危惧種

 世界の野生生物の絶滅のおそれの現状を把握するため、国際自然保護連合(以下「IUCN」という。)では、個々の種の絶滅のおそれの度合いを評価して、絶滅のおそれのある種(以下「絶滅危惧種」という。)を選定し、それらの種のリストを「レッドリスト」として公表しています。平成26年6月に公表されたIUCNのレッドリストでは、既知の約175万種のうち、7万6,201種について評価されており、そのうちの約3割が絶滅危惧種として選定されています。哺乳類、鳥類、両生類については、既知の種のほぼ全てが評価されており、哺乳類の2割、鳥類の1割、両生類の3割が絶滅危惧種に選定されています。また、既に絶滅したと判断された種は、903種(動物767種、植物136種)となっています(図2-1-1)。国連で平成13年~平成17年に実施されたミレニアム生態系評価では化石から当時の絶滅のスピードを計算しており、100年間で100万種あたり10~100種が絶滅していたとしています。過去100年間で記録のある哺乳類、鳥類、両生類で絶滅したと評価されたのは1万種当たりおよそ100種であり、これは、記録のないまま絶滅した種を含むと、これまでの地球史の1,000倍以上の絶滅のスピードになると言われています。


図2-1-1 国際自然保護連合(IUCN)による絶滅危惧種の評価状況

(2)COP12における愛知目標の中間評価

 2014年(平成26年)10月に韓国・ピョンチャンで開催された生物多様性条約第12回締約国会議(COP12。以下、締約国会議を「COP」という。なお、本章における締約国会議(COP)は、生物多様性条約締約国会議を指す)において、主要議題の1つとして、「生物多様性戦略計画2011-2020(以下「戦略計画」という。)」及び愛知目標の中間評価が行われました。その評価に当たっては、生物多様性条約事務局により作成され、公表された地球規模生物多様性概況第4版(以下「GBO4」という。)が参照されました。

 GBO4は、各国から提出された第5回国別報告書、生物多様性国家戦略、既存の生物多様性に関する研究やデータを分析し、戦略計画及び愛知目標の達成状況及び今後の達成見込みについて分析した報告書で、COP12における戦略計画及び愛知目標の中間評価に関する基礎資料として作成されました。各目標については入手可能なデータに基づき、将来予測やシナリオ分析が実施された上で今後の達成見込みについて分析されましたが、結果として、ほとんどの愛知目標は現状のまま施策を進めても達成することができず、目標達成に向けて緊急で効果的な行動が必要であることが確認されました。GBO4の結果概要は下記のとおりです。

[1]ほとんどの愛知目標の要素について達成に向けた進捗が見られたものの、生物多様性に対する圧力を軽減し、その継続する減少を防ぐための緊急的で有効な行動が執られない限り、そうした進捗は目標の達成には不十分。現時点で達成が見込まれるのは愛知目標11(陸域の保護地域面積)、16(名古屋議定書)及び17(生物多様性国家戦略の改定)のみ。

[2]愛知目標の達成は、飢餓や貧困対策、人間の保健の向上、エネルギー・食料・清浄な水の持続可能な提供の確保や、気候変動の緩和と適応の促進、砂漠化や土地の劣化への対処、災害に対する脆(ぜい)弱性の軽減に貢献。これらは国連のポスト2015年開発アジェンダや持続可能な開発目標にも寄与。

[3]愛知目標を達成するための行動は統合的に実施されるべき。特に生物多様性損失の根本原因への対処、生物多様性国家戦略・実施計画の策定と実施、情報の更なる生成・共有等の横断的な目標に対する行動は、他の目標の達成に特に強く影響。

[4]愛知目標の達成には、国レベルでの法的、政策的な枠組み、これらの枠組みと整合性のとれた社会経済的なインセンティブ、先住民の社会及び地域社会の効果的な参加を含む市民及びステークホルダーの参画、モニタリング、そしてコンプライアンス等が重要。また、これらの行動の効果的な実施には、省庁横断の一貫した政策が必要。

[5]戦略計画の実施と条約の目的の達成のためには、政治・市民の双方で支持を広げることが必要。そのためには、政府やステークホルダーが生物多様性と生態系サービスの価値を認識することが必要。

[6]戦略計画の実施に向けた行動を強化し、政府・経済・社会において生物多様性を主流化し、様々な多国間環境条約の実施における相乗効果を可能にするためには、あらゆるレベルでの協働が必要。

[7]科学技術協力の強化により戦略計画の実施を支援することができる。途上国には更なる能力育成支援や技術移転が必要。

[8]戦略計画の実施には、愛知目標20(資源動員)に従い、あらゆる財源から動員された資源が実質的に増加することが必要。

 我が国は、生物多様性条約事務局への拠出を通じてGBO4の作成を支援しました。また、愛知目標に沿って改訂した我が国の生物多様性国家戦略に関する点検結果を踏まえて、平成26年3月に第5回国別報告書を条約事務局に提出しました。さらに、GBO4のレビュープロセスに積極的に参加することにより、国連生物多様性の10年日本委員会(以下「UNDB-J」という。)や生物多様性国家戦略の策定プロセス等、日本の事例が多く紹介されました。また、生物多様性条約事務局に設置した生物多様性日本基金を通じ、途上国の国別報告書及び生物多様性国家戦略の策定支援を行い、GBO4の根拠資料の充実にも貢献しました。

 会議では、GBO4の結果を踏まえ、愛知目標の達成に向けた進展があった一方で、目標の達成には緊急で効果的な施策の追加が必要であることが認識され、GBO4の結果概要に留意するとともに、各締約国に対して同報告書に掲げられた各目標の達成に当たっての優先行動リストについて活用を奨励する決議が採択されました。我が国も、中間評価を踏まえ、「生物多様性国家戦略2012-2020」の実施にますます力を入れる必要があります。

2 我が国における現状

(1)日本の絶滅危惧種

 日本の野生生物の現状について、環境省では平成3年に「日本の絶滅のおそれのある野生生物」を発行して以降、定期的にレッドリストの見直しを実施しており、平成24年8月及び25年2月に第4次レッドリストを公表しました。絶滅のおそれのある種として第4次レッドリストに掲載された種数は、10分類群合計で3,597種であり、平成18年度~平成19年度に公表した第3次レッドリストから442種増加しました(表2-1-1)。


表2-1-1 日本の絶滅のおそれのある野生生物の種類

 今回の見直しにおいて干潟の貝類を初めて評価の対象に加えた等の事情はありますが、第4次レッドリストに掲載された種数は増加しており、我が国の野生生物が置かれている状況は依然として厳しいことが明らかになりました。

(2)数値から見る我が国の取組状況

 平成24年9月に閣議決定した「生物多様性国家戦略2012-2020」の第2部では、COP10において採択された愛知目標の達成に向けて我が国の国別目標を掲げているほか、それについて関連指標群を設定しています(表2-1-2)。


表2-1-2(1) 数値目標から見た基本戦略の達成状況

表2-1-2(2) 数値目標から見た基本戦略の達成状況

表2-1-2(3) 数値目標から見た基本戦略の達成状況

表2-1-2(4) 数値目標から見た基本戦略の達成状況

3 生物多様性の観点からの気候変動の適応策の推進

 「生物多様性国家戦略2012-2020」では、生物多様性の第4の危機として、新たに地球温暖化など地球環境の変化による危機を位置付けています。また、愛知目標においても、気候変動の緩和と適応への貢献が目標の1つになっています。平成26年3月に公表された、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書においては、「ここ数十年で、すべての大陸と海洋において、気候変動が自然及び人間システムへの影響を引き起こしている」とされています。我が国は、既に現れている影響や今後中長期的に避けることのできない影響への対処(適応)の観点から、政府全体の取組を適応計画として取りまとめることとしており、計画策定に向けて、平成27年3月に中央環境審議会において、「日本における気候変動による影響の評価に関する報告と今後の課題について(意見具申)」が取りまとめられました(1章3節1(5)を参照)。

 同意見具申は、自然生態系への影響を、陸域・淡水・沿岸・海洋の各生態系と生物季節、分布・個体群の変動の各項目について、自然生態系そのものに及ぶ影響と生態系サービスに及ぶ影響の2つに大別して評価が行われました(表2-1-3)。自然生態系そのものに及ぶ影響としては、ハイマツやブナ林の分布適域の面積が21世紀末に減少するなど、現在及び将来の陸域における植物の分布適域の変化、ニホンジカなど一部の野生鳥獣の生息域の拡大、サンゴ礁の減少・消滅、最高水温が3℃上昇すると冷水魚の生息適地の面積が現在の約半分に減少する等の河川の生物相への影響など、多岐にわたり重大な影響が出る可能性が指摘されています。生態系サービスに及ぶ影響については、生態系サービスの研究が最近始まったものであること、定量化が難しいことなどから、総じて既存の研究事例が少なく、現状では評価ができないという結果になりました。今後は生態系サービスへの影響に関する研究を進めていくことが重要となります。


表2-1-3 気候変動による自然生態系への主な影響

 影響の程度、発現時期は、地域、生態系、種により異なると考えられますが、気候変動により気温や降水量等の環境条件が変化することに応じて、我が国の生物多様性の状況は全体として変化していくと考えられます。生物多様性の減少や生態系サービスの低下を軽減するためには、気候変動の影響に対して自然や人間社会の在り方を調整する適応策を検討する必要があります。また、気候変動による影響は世界全体の緩和策の進展と密接な関係があり、気候変動がより早い速度で進んだり、その程度が大きかったりする場合は、適応でも対応できない可能性(適応の限界)があります。生態系は温室効果ガス吸収機能を有しているため、生態系の保全や再生は気候変動の緩和にも貢献します。生態系を上手に活用することで、緩和と適応の相乗効果を引き出すことが重要です。

 これらを踏まえ、環境省では、生物多様性分野における適応に関し、[1]気候変動が生物多様性に与える影響を低減するための適応、[2]適応策による生物多様性への負の影響の最小化、[3]生態系を活用した適応策の検討の3つの視点に着目して検討を行っています。

4 抜本的な鳥獣管理の推進

 我が国には700種以上の鳥獣(哺乳類・鳥類)が生息しており、それぞれの鳥獣は、自然環境を構成する重要な要素の1つとして、欠くことのできない存在です。しかし、近年、ニホンジカやイノシシなどの一部の鳥獣については、急速に生息数が増加するとともに生息域が拡大し、その結果、自然環境や農林水産業、生活環境への被害が拡大・深刻化しています(図2-1-2)。


図2-1-2 ニホンジカの推定個体数(北海道※を除く)

 平成25年12月には、環境省と農林水産省が共同で「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」を取りまとめ、この中で、当面の目標として、ニホンジカ、イノシシの個体数を10年後(平成35年度)までに半減させることを目指すこととしました。

 これらを受け、平成26年5月、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律の一部を改正する法律(平成26年法律第46号。以下「鳥獣保護法の一部を改正する法律」という。)が第186回国会において成立し、公布されました。これにより、法の目的に「鳥獣の管理」(増加しすぎた鳥獣を適正に減らすこと)を位置付け、法の題名が鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(平成14年法律第88号。以下「鳥獣保護法」という。)から鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(以下「鳥獣保護管理法」という。)に改められました。また、環境大臣が指定した鳥獣について、都道府県又は国が捕獲を行う事業を新たに創設するなど、「鳥獣の管理」のための新たな措置が導入されることとなりました(図2-1-3)。


図2-1-3 鳥獣保護法の改正概要

 法律の改正を受け、鳥獣の保護及び管理を図るための事業を実施するための基本的な指針(以下「基本指針」という。)の変更について、中央環境審議会自然環境部会において検討が行われ、変更案について同年10月に答申がなされました。そして、この答申を踏まえた新たな基本指針が、同年12月に公布されました。また、鳥獣保護法の一部を改正する法律の施行(平成27年5月29日)に向け、政省令の改正等を進めました。

 また、平成27年度税制改正において、生態系等に深刻な被害を及ぼす鳥獣の捕獲の担い手を確保するため、狩猟税の減免措置を新たに講じることとなり、必要な法令整備を行いました。

 さらに、都道府県による科学的・計画的な鳥獣の管理を支援するため、統計手法を用いて、ニホンジカについては都府県別に、イノシシについては広域ブロック別に、個体数推定及び将来予測を実施することにより、都道府県による科学的・計画的な鳥獣の管理を支援しました。