環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成25年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第1章>第2節 地球温暖化対策に係る国際的枠組みの下での取組

第2節 地球温暖化対策に係る国際的枠組みの下での取組

1 気候変動枠組条約に基づく取組

(1)国連気候変動枠組条約(1992年採択)

 気候変動に関する国際連合枠組条約(以下「気候変動枠組条約」という。)は、地球温暖化防止のための国際的な枠組みであり、究極的な目的として、温室効果ガスの大気中濃度を自然の生態系や人類に危険な悪影響を及ぼさない水準で安定化させることを掲げています。現在、温室効果ガスの排出量は地球の吸収量の2倍以上です。将来の自然吸収量が現状とは異なる可能性もありますが、長期的な(2100年以降の)気候の安定化の視点から考えると、上記の目的の実現のためには、2050年(平成62年)までに温室効果ガスを半減させることはひとつの中期的な道標といえます。

(2)京都議定書(1997年採択)

 1997年(平成9年)に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)において京都議定書が採択され、2005年(平成17年)2月16日に発効しました。2013年(平成25年)3月末現在、191ヶ国及びEUが京都議定書を締結しています(日本は2002年(平成14年)6月4日に締結)。なお、米国は2001年(平成13年)に京都議定書への不参加を表明し削減義務を負っていません。

 京都議定書は、先進国に法的拘束力のある数値目標を設定し、また柔軟性措置としての京都メカニズム等について定めています。2008年(平成20年)から2012年(平成24年)までの第一約束期間においては、日本の6%、欧州連合(EU)加盟国全体での8%等の削減目標が課されましたが、中国やインドなどの途上国等に対しては数値目標による削減義務は課せられておりません。2012年(平成24年)11月から12月にかけて行われた京都議定書第8回締約国会議(COP/MOP8)において、2013年(平成25年)から2020年(平成32年)までの第二約束期間の各国の削減目標が新たに定められましたが(以下(3)イ参照)、世界の二酸化炭素排出量のうち第二約束期間で削減義務を負う国の排出量の割合は、現在では15%程度に過ぎません(図1-2-1)。現在、京都議定書締約国のうち、第一約束期間で排出削減義務を負う国の排出量は世界の4分の1に過ぎず、こうした枠組みを固定化することは、我が国が目指す公平かつ実効的な国際枠組みにつながらないことから、我が国は第二約束期間に参加しないこととしました。


図1-2-1 世界のエネルギー起源二酸化炭素の国別排出量とその見通し

(3)最近の交渉状況

ア ダーバン決定(COP17、2011年11月/12月)まで

 2009年(平成21年)12月にデンマークのコペンハーゲンで開催されたCOP15及びCOP/MOP5では、2020年(平成32年)における、先進国は削減目標、途上国は削減行動を提出すること等を盛り込んだコペンハーゲン合意が作成され、条約締約国会議として「同合意に留意する」と決定されました。2010年(平成22年)1月、我が国は、コペンハーゲン合意への賛同の意思表明と、同合意に基づいて、「すべての主要国による公平かつ実効性ある国際的枠組みの構築と意欲的な目標の合意を前提として、温室効果ガスを2020年(平成32年)までに1990年(平成2年)比で25%削減する」との目標を気候変動枠組条約事務局に提出しました。

 2010年(平成22年)11月から12月にメキシコのカンクンで開催されたCOP16及びCOP/MOP6では、先進国・途上国両方の削減目標・行動の同じ決定への位置付け、「緑の気候基金」や技術メカニズムの設立等を内容とするカンクン合意が採択されました。

 2011年(平成23年)11月から12月にかけて南アフリカ・ダーバンで開催されたCOP17及びCOP/MOP7では、すべての国が参加する将来の法的枠組みを構築するための「強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)」を新たに設立することに合意しました(ダーバン決定)。

イ ドーハ気候ゲートウェイ(COP18、2012年11月/12月)

 2012年(平成24年)11月から12月にかけてカタールのドーハで開催されたCOP18及びCOP/MOP8では、以下の一連の決定が「ドーハ気候ゲートウェイ」として採択され、またその他の議題についてもCOP及びCMPの決定等が採択されました。これにより、「京都議定書の下での附属書I国のさらなる約束に関する特別作業部会(AWG-KP)」及び「条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会(AWG-LCA)」は終了することとなりました。

 (ア)ADPの作業計画を含むCOP決定

 (イ)京都議定書改正案の採択等に関するCMP決定

 (ウ)AWG-LCAに基づく合意された成果に関するCOP決定

 (エ)気候資金に関する一連のCOP決定

 (オ)気候変動による損失と被害(ロス&ダメージ)に関するCOP決定

 ADPについては、2013年(平成25年)以降の作業計画等が決定され、2013年は2つのワークストリーム(「2020年以降の将来枠組み」及び「2020年までの緩和の野心向上」)において、各国から提出される意見を基にラウンドテーブルやワークショップを開催し、より焦点を絞った実質的な議論に移行すること等が決定されました。

 第二約束期間設定のための京都議定書の改正については、同期間中の各国の排出抑制及び削減に関する約束が記載された附属書Bを含む改正案が成果文書として採択され、第二約束期間の長さを8年とすることや、EU、オーストラリア等の38の国と地域が削減義務を負うこと等が決定されました。

 AWG-LCAについては、ダーバン決定で立ち上げられた新たな組織やプロセスを実施に移すための、バリ行動計画の全ての議題に関する一連の決定が採択されたことにより、AWG-LCAが多くの成果を上げたことが確認され同作業部会は作業を終了しました。また、日本が提案している二国間オフセット・クレジット制度(JCM/BOCM)を含むさまざまなアプローチについては、実施のための「枠組み」について作業計画を実行していくことが決定されました。

 気候変動対策に関する資金については、先進国全体としての2010年(平成22年)から2012年(平成24年)までの資金拠出の約束を達成したことが確認され、2020年(平成32年)までの長期資金に関する作業計画の2013年(平成25年)までの延長、COP19の際の長期資金に関するハイレベル閣僚級対話の開催、資金に関する常設委員会の2013~2015年の作業計画の承認、緑の気候基金(GCF)のホスト国承認(韓国)等の決定が採択されました。

 気候変動による損失と被害(ロス&ダメージ)に関しては、COP19において、気候変動の影響に脆弱な国における被害の軽減に取り組むための組織を整備すること等が決まりました。

 なお、COP19はポーランド・ワルシャワで開催されることとなりました。

2 エネルギー効率に関する国際パートナーシップ(GSEP)

 2010年(平成22年)7月に、クリーンエネルギー大臣会合及び国際省エネルギー協力パートナーシップ(IPEEC)の下に、エネルギー効率向上に関する国際パートナーシップ(GSEP)が日米共同提案で設立されました。

 GSEPでは、エネルギー効率向上に関する国際的な官民パートナーシップの枠組みとして、日本が議長を務めるセクター別WG(鉄鋼WG、セメントWG、電力WG)を始めとする6つのワーキンググループが設置されており、2012年(平成24年)3月に第1回セクター別WG(鉄鋼WG、セメントWG、電力WG)が開催され、本格的にその活動を開始しました。また、2013年(平成25年)1月には電力WGワークショップをインドネシアで開催しました。ワークショップでは専門家同士の意見交換・情報共有に加え、実際に石炭火力発電所を訪れ、運転データの分析を通して省エネ診断を行ったところ、2%程度の熱効率向上と年間約15万トンのCO2削減ポテンシャルが確認されました。我が国は、GSEPでの活動を通し、世界各国との官民協力パートナーシップの促進、省エネルギー技術の普及を主導しています。

3 短寿命気候汚染物質に関する取組

 ブラックカーボン等の短寿命気候汚染物質については、その削減が短期的な気候変動防止と大気汚染防止の双方に効果があるとして国際的に注目されており、平成24年2月に米国、スウェーデン等により立ち上げられた「短寿命気候汚染物質削減のための気候と大気浄化のコアリション(CCAC)」に、平成24年4月に我が国も参加を表明しました。また、平成25年2月にタイ・バンコクで開催されたCCACアジア地域会合をバングラデシュとともに主催し、アジア地域における短寿命気候汚染物質削減の普及啓発に取り組みました。

4 開発途上国への支援の取組

 途上国においては、大気汚染や水質汚濁等の深刻な環境汚染問題を抱えているため、地球温暖化対策と環境汚染対策とを同時に実現することのできるコベネフィット・アプローチが有効です。我が国においては、平成19年12月の中国及びインドネシア両国の大臣との間で合意した内容に基づき、本アプローチに係る具体的なプロジェクトの発掘・形成や共同研究等を進めてきました。平成23年4月には日中間で、9月には日インドネシア間で、それぞれの協力の第2フェーズに係る文書に署名し、引き続き協力を実施しています。また、アジアの途上国におけるコベネフィット・アプローチの推進及びコベネフィット型事業の普及を目的とした「アジア・コベネフィット・パートナーシップ」の活動を支援するとともに、定期会合や専用ウェブサイトを通して、本アプローチの普及啓発に取り組みました。

5 京都メカニズムの活用と二国間オフセット・クレジット制度の構築・運用に向けた取組

 京都メカニズムとは、京都議定書を締結した先進国が、市場メカニズムを活用して削減約束を達成する仕組みであり、クリーン開発メカニズム(CDM)、共同実施(JI)及び排出量取引の3つの手法があります。

 京都議定書目標達成計画において、京都議定書の第一約束期間(平成17年~平成24年)における温室効果ガス排出量削減約束である6%のうち1.6%分についてはこれらの京都メカニズムを活用したクレジットを取得することにより対応するとされており、政府は独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を活用して平成25年3月末までに9,753万t-CO2のクレジットを契約取得しました。なお、平成25年以降、平成27年以降の今後定められる時期までは、第一約束期間の調整期間となっており、引き続き第一約束期間の目標達成のためのクレジットの取引等を行うことが可能です。

 また、京都メカニズムの総合的な推進・活用を目的として関係府省で構成する京都メカニズム推進・活用会議において、平成24年12月末までに計849件のCDM/JI事業を承認しました。また、CDMを活用してコベネフィット・アプローチを促進することを目的として、平成20年度から「コベネフィットCDMモデル事業」への資金支援を実施しました。

 このように、我が国も活用している京都メカニズム、特にCDMは、費用対効果の高い海外における削減分を自国の削減目標の達成に活用することを可能としつつ途上国の持続可能な開発や、さらには適応支援にも貢献するというユニークな仕組みである一方で、これまでプロジェクトの種類や実施国の偏在、取引費用の高さなどさまざまな課題が指摘されてきました。この点に鑑み、国連の会議等において、その改善に向けた働きかけを行ってきました。

 同時に、現在のCDMを補完する新たなメカニズムとして、我が国の優れた技術・製品・システム・サービス・インフラ等の普及や対策実施を通じて実現した排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価し、我が国の削減目標の達成に活用する二国間オフセット・クレジット制度(JCM/BOCM)の構築・運用に向けた取組を進めました。具体的には、平成22年度からアジア諸国を中心に途上国における排出削減・吸収プロジェクトの発掘・組成に向けた実現可能性調査を延べ190件実施し、現地での案件審査・温室効果ガス排出削減量の測定・報告・検証(MRV)のためのキャパシティ・ビルディングをアジア・アフリカ・中南米等の各国で実施しました。さらに、新たなメカニズムに関する世界各国の情報を収集するとともに、日本の取組等を情報発信するため、平成23年度から「新メカニズム情報プラットフォーム」を運営しています。

 平成24年12月6日、我が国の環境大臣とモンゴル国の自然環境・グリーン開発大臣が「環境協力・気候変動・二国間オフセット・クレジット制度に関する共同声明」に署名し、その後、平成25年1月8日にウランバートルにおいて、他国に先駆けて二国間文書への署名が行われ、本制度を正式に開始することとなりました。また、バングラデシュとの間でも平成25年3月19日に二国間文書に署名しました。その他、インド、ベトナムとの首脳共同声明において本制度の協議に関して言及しており、インドネシアとは政府間文書で本制度の協議推進に言及しています。

 また、世界銀行が平成23年4月に設立した市場メカニズム準備基金に拠出し、途上国における市場メカニズムの活用による温室効果ガス排出削減の促進に向けた議論において中心的な役割を果たしました。

6 気候変動枠組条約の究極的な目標の達成に資する科学的知見の収集等

 地球温暖化に対する国際的な取組に科学的根拠を与えてきたIPCCの活動に対して、我が国は、2014年(平成26年)10月に公表予定の第5次評価報告書のうち、第2作業部会による報告書の採択を行う第38回総会の横浜への招致を行いました。また、第5次評価報告書作成プロセスへの参画、資金の拠出、関連研究の実施など積極的な貢献を行いました。さらに、我が国の提案により地球環境戦略研究機関(IGES)に設置された、温室効果ガス排出・吸収量世界標準算定方式を定めるためのインベントリータスクフォースの技術支援組織の活動を支援しました。

 また、環境研究総合推進費では、「地球規模の気候変動リスク管理戦略の構築に関する総合的研究」を平成24年度から開始しました。同研究は、地球温暖化により世界や日本に生じるリスクとその不確実性を把握し、科学的にも社会的にも合理性の高い気候変動リスク管理戦略の考え方や選択肢を国民各層及び国際社会に対して提供することを目的としています。

7 その他の取組

 上記のほかにも、特に2013年(平成25年)以降の新しい国際枠組構築のための議論がさまざまな形で行われています。

 気候変動政策に関する政治的リーダーシップの創出に貢献することを目的として立ち上げられ、日本、米国、中国、EU等が参加する「エネルギーと気候に関する主要経済国フォーラム」(MEF)では、2012年(平成24年)4月及び9月に、新しい国際枠組のあり方等について議論を行っています。

 さらに、2012年(平成24年)4月には東京において東アジア低炭素成長パートナーシップ対話を開催し、同対話での合意を踏まえ、東アジアにおける低炭素成長実現に向けた長期的な低炭素社会シナリオや低炭素政策・技術のロードマップの策定など知見・情報・技術の共有を進めています。