環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成25年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第2章>第7節 未来を担う子供達を育てる環境教育の取組

第7節 未来を担う子供達を育てる環境教育の取組

 2002年(平成14年)のヨハネスブルグサミットでの我が国の提案をきっかけに、2005年(平成17年)からの10年は、国連「持続可能な開発のための教育の10年」とされました。現在、持続可能な開発のための教育、いわゆるESD(Education for Sustainable Development)に、世界中が取り組んでいます。私たち一人ひとりが、世界の人々や将来世代、また環境との関係性の中で生きていることを認識し、行動を変革することが必要であり、そのための教育がESDです。ESDでは、環境分野だけでなく、貧困、人権などさまざまな問題を扱っています。


図2-7-1 ESDの考え方

 2012年(平成24年)に開催されたリオ+20においても、ESDを一層推進していくことなどが合意されました。

 環境教育の分野では、平成23年に改正法として成立した「環境教育等による環境保全の取組の促進に関する法律」及び同法に基づく基本方針において、学校教育における環境教育の充実や、さまざまな主体が適切な役割分担の下で相互に協力して行う協働取組の重要性などが明記され、現在、国内各地でこれらに基づく取組が行われています。また、海外においても国連大学が中心となって、世界各地でのESDに関する地域拠点(RCE:Regional Centre of Expertise on ESD)の整備等を推進しています。

1 学校における取組

 多くの子供達に確実に行われる学校教育は、人材育成の観点で大きな役割を担っています。平成20年及び平成21年に改正された新学習指導要領(平成23年4月から順次施行)において、持続可能な開発の考え方が盛り込まれたほか、さまざまな教科において環境教育を実施することが明記されました。


図2-7-2 学校教育における環境教育の位置付け

 また、愛知県豊田市の小学校では、学校の改修の際に環境に配慮した施設整備を行い、改修した校舎を使って日照のコントロールや自然エネルギーの有効利用について学習した上で、学校を訪れる近隣の人などに対して校舎の説明をすることを通して、環境に配慮した望ましい働き掛けができる子供を育むさまざまな取組を行っています。


写真2-7-1 こっちは冷たい!あっちは熱い!~二重ガラスの効果について説明する6年生と教わる1年生

2 身近な地域における取組

 地域においては、行政やNPO、大学などが連携することで、効果的な環境保全等の取組を実施しています。例えば、地域の多様な主体が連携し、子供達とともに地元の資源を活用しながら課題解決の方策を考えていくことを通して、環境保全の取組を促進している地域もあります。

 新興住宅地の広がる愛知県春日井市では、市内の小学校において、教員と大学・NPO・企業・福祉施設などが協力し、身近な自然環境や、地域に暮らすさまざまな人々との絆を取り戻す「かすがいKIZUNA」プロジェクトに取り組んでいます。同プロジェクトでは、各主体が協力して会議を開催し、自然との共生についてのフィールドワークと教科教育をつなげる小学4年生から6年生までのカリキュラムを作成しました。カリキュラムを実践する段階では、大学生がアシスタントとして子供達の学びをサポートし、その経験から大学生自身も大きく成長する、重層的な学びの場が生まれています。


図2-7-3 かすがいKIZUNAプロジェクトの概要

写真2-7-2 フィールドワークを行う子供達

 また、環境省や文部科学省の指導・助言を得ながら、企業、民間団体、地方公共団体等が連携・協力して全国に活動を展開している「こどもエコクラブ」は、幼児から高校生までが、地域に根ざした環境教育・環境保全活動を、自発的・継続的に行うことを促す優れた取組であり、全国で約11万人が参加しています。


写真2-7-3 こどもエコクラブの活動

3 豊かな自然を生かした取組

 自然とのふれあいを大切にした取組も行われています。

 人々の行動やライフスタイルをより環境に配慮したものにするためには、都市化で失われつつある自然の恵みによって人が生かされている存在であると実感する機会を増やすことが有効です。我が国では、エコツーリズム推進法(平成19年法律第105号)を制定しています。エコツーリズムとは、地域ぐるみで自然環境や歴史文化など、地域固有の魅力を観光客に伝えることにより、その価値や大切さが理解され、保全につながっていくことを目指していく仕組みです。エコツーリズムを実施することにより、観光客が自然環境とつながる機会が得られるとともに、地域住民にとっても地域資源の価値を再認識する機会となることから、環境教育にもつながる取組と言えます。

 群馬県みなかみ町は、上信越高原国立公園に指定されている谷川岳を持続的に活用するためにエコツーリズムの取組を進めており、日本三大岩壁に数えられる一ノ倉沢を巡りながら周辺の歴史的建造物を巡るツアーをはじめとしたトレッキングツアーが実施されています。同ツアーでは、旅行者が生態系に悪影響を及ぼすことなく、谷川岳を中心とした地域の自然や文化等を楽しむことができます。同ツアーは、我が国の国立公園内におけるエコツーリズムとしては初めてエコツーリズム推進法に基づき認定されたツアーであり、地域の発展につながることが期待されています。同町では、「地域活性化」と「観光振興」そして「環境保全」の三つの要素を意識しながら、子供だけでなく大人も含めたすべての人が自然の恵みを再認識することを目指しています。


写真2-7-4 谷川岳一の倉沢

子供達がつくるこれからの地域

 子供達が現実のプロジェクトを企画・実行しながら、専門的な知見を学び、地域社会のことを考えるというプロジェクトがあります。

 2009年(平成21年)から2011年(平成23年)にかけて、フィンランド、スペイン、デンマーク、ベルギーの4カ国が協働して行った「Fantasy Design in Community」プロジェクトでは、子供達が、専門家のサポートを受けながら、環境や都市設計、ファッション、交通機関などさまざまな分野に関する「夢」をどうやって実現するのかを考えました。例えば、フィンランドでは、子供達がプロの建築家や都市設計の専門家のサポートを受けながら、人が訪れなくなった公園のデザインを行いました。住んでいる街や環境のことを考慮しながら、公園をつくっていく過程を経験しました。


専門家と公園のデザインを考える

公園で調査を行う子供達

※「Fantasy Design in Community(2009年~2011年)」は国際的デザインの教育プロジェクトとして、EU文化プロジェクトから資金援助を受け、ヘルシンキ・デザイン・ミュージアムを中心として活動してきました。このプロジェクトでは、フィンランド・ベルギー・デンマーク・スペインの4か国の子供達や若者が携わり、自分たちの生活をよりよくするためのデザインを考えたり、国境を越えて議論を行いました。

本格的なゲームを活用した子供達へのアプローチ

 ゲームというとテレビゲームなど、遊んで楽しむものというイメージがありますが、近年、他分野における可能性が注目されつつあります。デジタル、アナログにかかわらずその面白さや大人をも魅了するメカニズムには、環境問題を解決するためのヒントが隠されているかもしれません。

 ゲームの面白さを利用した取組としては、スマートフォンを使って野生生物を探す「Noah Project」というサービスがアメリカで提供されています。このサービスでは、発見した野生生物の写真と位置情報をスマートフォンのアプリを経由して他のユーザーと共有することができます。共有すると点数や褒賞を入手でき、ゲーム感覚で野生生物を「収集」することができます。


「Noah Project」の画面。他のユーザーが生物を見つけた場所の地図(左)と生物を選ぶ画面(右)

 ゲームそのもので環境のことを考えさせる取組も多くあります。

 地球や生態系、環境問題をテーマにしたカードゲーム「マイアース」は、カードを集めて対戦しながら環境のことを学べるトレーディングカードです。授業の一貫などでオリジナルのカードをつくることもでき、大会も開かれています。


マイアースで遊ぶ子供達(左)、生物のカード(中)、オリジナルのカード(右)

 アメリカで2007年(平成19年)に行われたプロジェクト「World Without Oil」は、インターネットを利用したゲームです。10代から高齢者までのユーザー約1,900人が、「もし明日、石油危機が起こったらどうすればいいのか」という問題に対して、その後の32週間の展開を現実の32日でシミュレーションして考えるというものです。ユーザーは、日々ゲーム内で刻一刻と提供されるニュースと他のユーザーの言動を見て、電気や交通などの社会インフラや国際関係など社会で何が起きるのかを予想し、生き延びるための行動を考えなければなりません。最終的に、ユーザーたちは起こり得る最悪の事態の予測と石油消費量を減らすアイデアを含む約1,500のシナリオを描き出しました。このゲームは32日間で終了しましたが、いまでもシミュレーションの結果を見ることができ、シミュレーションを再現することもできるようになっています。

 また、アメリカの小学校教師ジョン・ハンターは、「World Peace Game」というゲームを使って子供達に世界の課題解決を考えさせています。子供達は、チームを組んで各国の大統領や大臣になり地球温暖化や戦争、恐慌などの危機から世界を救うために国際交渉や経済政策などを行います。ゴールはすべての危機を回避することです。非常に複雑な状況に最初は関心がなさそうにしていた子供達も、徐々にゲームにのめりこみ、自分たちの頭で世界を救うための方法を考え、仮想の通貨も使った駆け引きを繰り広げます。


「World Peace Game」で交渉の様子をうかがう子供達

 日本でもさまざまなカードゲーム等が考案されており、各種取組が見られます。子供達、そして大人にとっても環境問題について考えるための有効なアプローチとして、今後もゲームの力がもっと活用されるようになるかもしれません。