環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成25年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第2章>第6節 環境共生型の地域づくり

第6節 環境共生型の地域づくり

 我が国では、人口の少子・高齢化により、各地域の地域づくりにもさまざまな影響が生じています。都市の一部では人口が増加する一方で、それ以外の地域では人口減少が著しく、人の手が十分に行き届かない森林や農地が増えています。今後は少子・高齢化が一層進み、地域コミュニティのつながりを維持する担い手が不足してコミュニティの活力が弱まっていくことも懸念されます。


図2-6-1 日本の人口変化率(2005年~2010年)

図2-6-2 都道府県における総生産の増減率(2005年~2008年)

図2-6-3 都道府県における65歳以上人口の割合(2010年)

図2-6-4 都道府県における65歳以上人口の割合(2035年)

 また、我が国は、食料、エネルギー等の多くを海外からの輸入に頼っており、資源を保有する国・地域の影響を大きく受けています。東日本大震災等の災害時には、エネルギーや水・食料等の物資の供給、流通に支障が生じ、工場の操業など地域の経済活動や住民の日常生活にも大きな影響が生じました。

 こうした状況を考えると、地域における自然環境をいかにして維持していくか、地域内で再生可能エネルギーを街づくりにどう位置付けるか、ということが将来の地域づくりに当たって重要になります。一方、これまで見てきたとおり、地球規模での自然環境の変化に対し、国際的な取組や国レベルの取組が行われている中で、従来地球環境もしくは国全体のレベルでのみ捉えられてきた問題についても、地域に根ざした地域レベルでの取組として実施されてきています。これからの地域社会では、地球温暖化の問題、廃棄物の問題などに個別に対応するのではなく、地域社会というシステムの中で、複数の課題をあわせて解決できるような対策を講じることが求められています。そのためには、地域の自然資源や都市基盤、民間活力等に加えて、地域に特有の文化・風土、人的資源を活用していくことが重要になります。

1 都市部から郊外まで、多様性に富む大都市の取組(神奈川県横浜市)

 神奈川県横浜市は、ここ60年の間に人口が約3.5倍の約370万人にまで増え、エネルギー消費量も増加の一途を辿っています。一方で、2025年(平成37年)には65歳以上の高齢者が100万人に達すると見込まれており、急速な高齢化にも直面しています。また、同市には、多くの大企業が本社を構える、高層ビルが林立した地区と歴史的な構造物が並ぶ古くからの旧市街が共存するエリアがある一方で、郊外には閑静な住宅街や田畑、里山や雑木林などが広がっています。

 高度経済成長期には人口が急増し、深刻な廃棄物・公害問題を抱えましたが、一方で廃棄物の30%削減を目標とする「G30」など市民の主体的な取組によって克服してきた問題もあります。

 近年では、都市開発がさらに進む中で、家庭・業務部門の温室効果ガスが大幅に増加し、住宅・建築物の対策強化が課題となっています。そのため、「横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)」を立ち上げました。このプロジェクトでは、市内に立地する民間企業が中心となって協働し、市内の広範なエリアで再生可能エネルギーや未利用エネルギーの導入、家庭・ビル・地域でのエネルギーマネジメント、次世代交通システム等の構築に取り組んでいます。特に住宅では、一戸建てや社宅等の集合住宅への太陽光パネルや太陽熱利用システムの設置や、エネルギーの使用状況をリアルタイムで表示するなど、家庭におけるエネルギー管理を支援するHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)等を導入したスマートハウスの建設が民間事業者と一体となって進められています。


図2-6-5 横浜スマートシティプロジェクト実証イメージ

写真2-6-1 スマートハウスの例(HEMSを利用している例(上)と集合住宅(下))

 また、大都市でありながら身近な場所に豊かな自然が残され、それらを守り・育て・楽しむ活動が市民や学校、企業の間で盛んに行われています。行政は生物多様性保全分野にも力を入れており、生物多様性自治体ネットワークの代表として、「国連生物多様性の10年日本委員会」に参画しています。また、都市化に伴って生物多様性保全にも貢献する森林・農地等が減少してきたことを受け、独自の「横浜みどり税」を創設し、これを財源に「樹林地を守る」「農地を守る」「緑をつくる」の3つの柱で緑の保全・創造に取り組んでいます。


図2-6-6 横浜の緑地の変遷

 地域住民・民間事業者・行政・大学が連携しながら民間の活力を導入して、急速な高齢化や環境に配慮した持続可能な郊外のまちづくりに取り組んでいます。平成23年には我が国の環境未来都市に選定され、環境対策と経済成長の両立の実現に向けて、アジアの多くの都市が直面する課題の解決モデルを示す都市を目指しています。

2 公害経験から環境首都へ(熊本県水俣市)

 かつて水俣病により深刻な公害被害を受けただけでなく、地域が引き裂かれた水俣市では、公害の体験を広く世界の人々に伝え、水俣病のような世界に類例を見ない公害を二度と繰り返してはならないという強い決意の下に、平成2年に日本で初めて「環境モデル都市づくり宣言」を行い、地域が一体となって水俣病を教訓とした環境のまちづくりを進めています。

 その取組の一つが、地域のつながりをもう一度つくり直すために「寄(よ)ろ会」と称して始まった市民の活動です。昔から地域にある自然の恵み等を調べ、絵地図に落とし込んだ「あるものさがし」、人や技術を調べた「地域人材マップ」などの取組を行いました。ここから派生して始まったのが「菜の花のまちづくり」です。地域のお年寄りが小学生と菜の花を栽培し、菜種油を採ります。油は給食等に利用され、その廃油でつくったキャンドルを水俣病慰霊の鎮魂の催しで灯します。資源循環型の取組である菜の花の活動を通して、世代を超えて豊かな知識・技術、公害体験等を子供達に伝えています。


写真2-6-2 菜の花のまちづくり

 また、水俣市を環境モデル都市としてつくり上げていこうという市民の高い意識を反映して、家庭ごみの24種類分別に取り組んでおり、平成21年には「ゼロ・ウェイスト宣言」を行いました。山間部の集落では、自分たちの生活環境は自分たちで守る、という考えのもと「地区環境協定」を決め、環境保全や不法投棄の監視などを行っています。


写真2-6-3 資源ごみの収集風景

 これらの取組が評価され、平成23年には国内のNGOが主催するコンテストで「日本の環境首都」に選定されました。環境首都としての取組を深めていくため、地域市民、企業、行政等が参加する「円卓会議」を設置し、環境と地域経済、心豊かな市民生活の3つの要素がそれぞれ高め合い、「かけ算」の発想で相乗効果を生み出す「環境と経済が一体となって発展する持続可能な『真の豊かさ』が実感できるまちづくり」を引き続き目指しています。


図2-6-7 環境首都のマーク

 平成25年10月には、水銀の適切な管理のための「水銀に関する水俣条約」を採択・署名する外交会議が水俣市で開催されます。この条約には、水銀を使った製品の輸出入を2020年(平成32年)以降、原則禁止とする等の内容が盛り込まれており、水俣病と同様の健康被害や環境破壊を世界で繰り返さないという決意の下、採択される予定です。こうした場面でも、水俣病の教訓を活かした環境のまちづくりの取組を世界に向けて発信していきます。

「水俣だからこそ」のものづくりへ向けて

 多くの生き物と共存し、環境に負荷の少ない暮らしをしていくためには、環境や健康に配慮したものづくりが不可欠です。この認識の下、水俣市では平成10年から「安心安全で環境に配慮したものづくり」を行っている人たちを「環境マイスター」として認定する制度を始めています。お茶や和紙、いりこ、みかん、米、野菜、畳、せっけんなど幅広い分野でのマイスターが認定されています。


環境マイスターのロゴ

 環境マイスター以外にも、地元の生産者や商店街、市民の間に環境と健康に配慮した商品づくりを大事にしよう、という意識が浸透しています。例えば、水にさらさずに生で食べることができる「サラダたまねぎ」は、昭和63年頃から栽培を始め、都市部への販売を始めていますが、水俣産というだけで売れない、という風評被害も経験しました。そのため、栽培にあたっては減農薬・減化学肥料栽培や除草剤を使用しない、など安全性の確保を徹底し生産者の情報を箱に記載して送るなどの取組を行っています。このほかにも、地元の無添加天然素材を活かしたスイーツづくり、地域素材を使った焼酎づくり、手練の無添加石鹸などの商品づくりも進められています。こうした生産者が口を揃えて話すのは「水俣だからこそ」という言葉です。地域社会を揺さぶる公害を経験した水俣市だからこそ安全に気をつかいたいという強い想いがこめられています。


サラダたまねぎ

3 森林資源を活用した山村と都市の連携(岡山県西粟倉村)

 岡山県西粟倉村は、人口1,500人強の村です。村の総面積のうち95%を森林が占め、二酸化炭素の吸収量が排出量を上回っています。森林面積の約85%は人工林で、長期的な間伐などの手入れが必要です。森林を軸とした地域活性化、地球温暖化対策を通じて中山間地の小規模自治体としての生き残りを模索してきました。

 平成20年より、「齢百年の美しい森林に囲まれた『上質な田舎』を実現する」というビジョンを掲げ、「百年の森林構想」を着想し、事業を開始しました。この事業では、村が村内の森林を一括管理し、森林組合が施業管理を行う長期施業管理委託を行っています。そうした上で、株式会社を設立し、間伐の結果生じた残材を木材やバイオマス等として活用することで、地域資源から価値を生み出し、森林資源の消費地である都市との連携を図っています。また、都市部の市民から小口投資を募るための「共有の森ファンド」を設立して施業資金を確保する資金の流れをつくるとともに、体験施設での森林散策ツアーや木工体験等を通じて都市部の市民に森の恵みを伝える取組を行っています。さらに、カーボン・オフセットとして認定を獲得し、企業等と二酸化炭素の排出権を売買することで間伐面積のさらなる拡大等森林管理にかかわる事業の拡大を目指しています。


図2-6-8 百年の森事業の概要

写真2-6-4 体験施設「森の学校」における間伐材を利用した工作の様子

真に豊かな地域社会づくりを目指して[1]―島根県海士町

 島根県隠岐諸島の一つ、中ノ島に位置する人口約2,300人の海士町(あまちょう)は、過疎、少子高齢化、財政悪化という深刻な課題を解決するため、産業振興による雇用拡大と島外との積極的な交流に取り組んでいます。財政が危機的状況に陥った平成17年に行った行政改革を皮切りに、地域社会の再構築を始めました。経済的な繁栄を求める地域開発を進めることへの疑問から、地域づくりの中で重点を置いているのは住民の幸せの追求と産業振興による島のブランド化の実現です。

 住民の幸せを追求するため、平成20年に、町の基本方針となる「第四次総合振興計画」を策定した際には、15歳から70歳までの有志の町民と役場の若手職員が、「ひと」「暮らし」「産業」「環境」の視点から検討を行い、最終的には、本編とセットで、より分かりやすく表現を工夫した別冊を制作しました。この冊子は、海士町の生活者の視点から地球温暖化、資源等の環境問題、少子高齢化等の人口問題、行政主導のまちづくりの限界等の種々の問題を解決するための、24の「住民による具体案」を提示しています。1人でできること、100人でできることなど、人数別に課題解決のアイデアを紹介しているのが特徴です。


第四次海士町総合振興計画 別冊2009-2018「海士町をつくる24の提案」

 離島というと閉鎖的なイメージですが、海士町は島外の若い人材の積極的な受入れと、島の地域資源を組み合わせた新商品の開発や新産業・新規雇用の創出に取り組んでいます。島の食文化を商品化した「島じゃ常識!サザエカレー」、白イカや岩がきなどを獲れたての鮮度と美味しさそのままに都会の消費者に届けるCASシステムなど産業振興を行っています。そして、島の産品の販売のほか、企業・大学の研修や視察の誘致による島内外の交流を行っているのは、島外から移住した若者たちが興した企業です。


海士町の白イカ(上)と岩ガキ(下)

 島外から移住したIターン者は平成16年から平成23年までに310人、地元に戻ってきたUターン者は173人となり、島外の視点で島内の取組を活性化しています。また、地域づくりのモデルとして多くの自治体が視察に訪れるなど、海士町の持続可能な島に向けた取組は大きな注目を集めています。

真に豊かな地域社会づくりを目指して[2]―茨城県東海村

 茨城県東海村は、平成11年に村内で発生した原子力施設の事故により被災し、住民に対して避難や屋内退避が呼びかけられるなどの事態が生じました。

 この事故から12年が経過した平成23年2月、東海村は、平成24年度から平成32年度までの向こう10年間のまちづくりにおける基本的な指針となる「東海村第5次総合計画」を策定しました。この計画の策定に当たっては、100名超の東海村職員のほか、村民と有識者140名が参画し、100回以上にわたり会議を重ねるなど、徹底した村民・職員の共同参画が行われました。この計画においては、「真に豊かな社会の実現」と「10年後も持続可能なまちづくり」が念頭に置かれ、「村民の叡智が生きるまちづくり~今と未来を生きるすべての命あるもののために~」という理念が掲げられています。東海村ではこの理念を、策定直後の平成23年3月11日に発生した東日本大震災からの東海村の復旧復興を進める上での理念としても位置付けています。また、それまでの土地利用のあり方を、自然を守り育てる方向へと転換していくことや、自然への影響を与えない方法での開発、自然に影響を及ぼした場合に同等の環境を新たに創造することの重要性等について言及するなど、環境に配慮した新たな時代を切り拓こうとする積極的な姿勢が示されています。


サツマイモ畑と屋敷林