第7章
 各種施策の基盤、各主体の参加及び国際協力に係る施策

 第1節 政府の総合的な取組

1 環境保全経費

 国の各府省の予算のうち、環境保全に関係する予算については、環境保全に係る施策が政府全体として効率的、効果的に展開されるよう、環境省において見積り方針の調整を行い、環境保全経費として取りまとめました。平成16年度予算における環境保全経費の規模は、総額2兆5,772億円で、前年度の当初予算に比べ、1,652億円、6.0%の減となっています。なお、16年度予算については、関係府省の環境保全経費の新規要求のうち、環境保全上の観点から特に高い効果が期待できると考えられる施策を「推奨事項」として選定しました。各府省別の環境保全経費は表7-1-1、事項別環境保全経費は事項別環境保全経費一覧のとおりです。

府省別環境保全経費一覧
事項別環境保全経費一覧

2 政府の対策

(1)環境基本問題懇談会
 平成15年9月、環境省は、環境基本問題懇談会を設置し、昨今の環境問題を巡る社会・経済状況の大きな変動を踏まえ、また、環境政策の大きな進展を省みつつ、今後の環境問題への取組はいかにあるべきか、既存の政策の枠組みのあり方も含め、「環境と経済活動の統合」等のテーマについて議論しています。(http://www.env.go.jp/policy/kankyo-k/index.html

(2)環境基本計画の進捗状況の点検
 中央環境審議会は、環境基本計画に基づく施策の進捗状況等を点検し、政府に報告しています。平成15年に行われた第2次環境基本計画の第2回目の点検は、環境基本計画の戦略的プログラムの「地球温暖化対策の推進」、「環境への負荷の少ない交通に向けた取組」、「環境保全上健全な水循環の確保に向けた取組」、「生物多様性の保全のための取組」及び「社会経済の環境配慮のための仕組みの構築に向けた取組」の5分野を対象に実施されました。その結果は、15年11月に中央環境審議会会長から環境大臣に報告され、その後環境大臣が閣議で報告しました。(http://www.env.go.jp/policy/kihon_keikaku/plan/gaiyo.html

(3)環境施策における予防的方策・予防原則のあり方に関する検討
 環境政策の基本的な推進の方策を示した環境基本計画の中においてその基本的指針として汚染者負担の原則、環境効率性の概念、予防的な方策、環境リスクの考え方があります。予防的方策については、近年国際社会においても予防的取組方法・予防原則についてさまざまな議論が交わされており、環境省においては条約や諸外国等における予防の考え方についての検討を開始しました。

(4)政府の環境管理システムの導入
 環境基本計画では、政府は率先して自主的に環境管理システムの導入に向けた検討を進めることとされています。これに基づき平成15年度までに、内閣府、防衛庁、総務省、公害等調整委員会、法務省、外務省、財務省、文部科学省、農林水産省、国土交通省及び環境省が環境配慮の方針を明らかにしました。

(5)適正な国土利用の推進
 国土利用計画は、全国計画、都道府県計画、市町村計画の三段階で構成されていますが、現行の第三次全国計画では、自然環境の保全を図りつつ、健康で文化的な生活環境の確保と国土の均衡ある発展を図ることを国土利用の基本方針として掲げています。
 国土の利用が基本方針に沿ったものとなるように、①安全で安心できる国土利用、②自然と共生する持続可能な国土利用、③美しくゆとりある国土利用、の観点から環境保全と美しい国土の形成などに必要な措置を講じました。
 平成15年度においては、国土の利用をめぐる課題の抽出等指針性の向上のための基礎的調査を実施するとともに、市町村計画の充実を図るために、計画策定過程における課題や対応策、市町村計画の活用方策について事例の収集・整理や、計画の策定・改定を行う市町村に対して、地域計画に精通した専門家を派遣し、機能強化策について検討するなどの支援を行いました。
 また、全国計画及び都道府県計画を基本として策定される土地利用基本計画に即して、公害の防止、自然環境の保全等に配慮しつつ、適正かつ合理的な土地利用の実現を図りました。

 第2節 環境教育・環境学習の推進及び環境保全活動の促進

1 環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進について

 近年、国民各界各層の環境保全に向けた自発的な取組や各主体の連携協力の重要性が高まっており、その基盤となる環境教育・環境学習のさらなる推進や取組への意欲を高めるための各種施策の充実が必要となっています。平成14年に開催されたヨハネスブルク・サミットで、日本は国内NGOの提言を受けて、「国連持続可能な開発のための教育の10年」の採択の検討を国連総会に勧告するよう提案し、サミットの成果文書である実施計画に盛り込まれました。これを受けて、14年末の国連総会において「国連持続可能な開発のための教育の10年」に関する決議が採択されました。
 平成15年7月には、「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律」(平成15年7月法律第130号)が成立し、同年10月1日に部分施行されました。この法律には、国民各界各層の環境保全に関する理解を深めるための環境教育・環境学習の推進、環境保全活動に取り組む意欲を高めていくための体験機会や情報の提供等の措置が盛り込まれています。
 平成16年2月には、副大臣会議において、エコスクールの充実・普及とそれを通じた住民を含めた環境学習の展開、公共建築物のグリーン化に向けた営繕関係職員に対する環境教育などを盛り込んだ「今後の環境教育の充実強化について」が取りまとめられました。

2 環境教育・環境学習の推進

(1)多様な場における環境教育・環境学習の推進
 行政、事業者、民間団体、個人が連携を図りつつ、幼児から高齢者までのそれぞれの年齢層に対して、学校、地域、職場、野外活動の場等多様な場において、環境教育・環境学習を総合的に推進することが重要であり、表7-2-1に例示するような各種施策を実施しました。

環境教育・環境学習に関する施策の例

(2)環境研修の推進
ア 環境研修の実施
 環境調査研修所において、国及び地方公共団体等の職員等を対象に、行政、国際、分析及び職員の各種研修を実施しています。
 平成15年度においては、行政研修14コース、国際研修8コース、分析研修16コース及び職員研修5コースの合計43コースを実施しました。また、JICA水環境モニタリングコース研修を受け入れるとともに、日中韓三カ国合同環境研修に参画しました。
 平成15年度の研修修了者は平成14年度より80名ほど増加して、1,740名となりました。修了者の研修区分別数は、行政研修(職員研修含む)が1,322名、国際研修が166名、分析研修が252名でした。その他、JICA水環境モニタリングコース研修の修了者が10名、日中韓三カ国合同環境研修の修了者が20名でした。
 所属機関別の修了者の割合は、国が23.4%、地方公共団体が72.0%、特殊法人等が4.6%となっています。
イ 各研修の内容
 行政研修では、廃棄物・リサイクル研修について、地方公共団体等からの要望がますます高まっていることに対応して、入門研修を前年度の1回から2回に増やして実施しました。 国際研修では、JICA水環境モニタリングコース研修と合同の講義などを設けることにより、研修効果を高める工夫を行いました。
 分析研修では、VOCs分析研修について、地方自治体等からの要望がますます高まっていることに対応して、前年度の1回から2回に増やして実施しました。また、外因性内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)環境モニタリング研修については、前年度のLC/MSコースに加えてGC/MSコースを実施しました。
 職員研修では、平成13年度途中に発足した地方環境対策調査官の業務遂行に必要な専門的知識や応用技能を習得することを目的として、地方環境対策調査官研修を新たに実施しました。
ウ 日中韓三カ国合同環境研修の実施
 日中韓三カ国合同環境研修は、日中韓三カ国環境大臣会合で優先取組分野の一つとして合意された「環境共同体意識の向上」の実現のため具体的な事業として実施するものであり、平成15年度には第3回を中国において実施しました。この研修では、三カ国それぞれの環境行政を担う行政官によって、三カ国の現状、課題、対策等について情報や認識の共有化が図られました。

3 環境保全活動の促進

(1)民間団体等による環境のための活動の推進
ア 市民、事業者、民間団体による環境保全活動の支援
 環境省では、事業者や市民が行う環境保全活動に対して助言・指導を行う人材の活用を図るため「環境カウンセラー登録制度」に基づき、平成15年度までに環境カウンセラー3,611名の登録を行うとともに、活動実績等報告書の提出の義務付け、研修の実施方法や更新要件の変更など制度を一部改正しました。また、地域環境保全基金等による地方公共団体の環境保全活動促進施策を支援するため、関連する情報の収集、提供等を行いました。
 政府の出資及び民間の出えんにより環境事業団に設けられた「地球環境基金」では、国内外の民間団体が国内や開発途上地域において行う環境保全活動に対する助成や「地球環境市民大学校」の開催など民間団体による環境保全活動を振興するための事業を行いました。このうち、平成15年度の助成については、466件の助成要望に対し、216件、総額約765百万円の助成決定が行われました(表7-2-2)。
平成15年度の助成要望と採択の状況(実績)

 さらに、里山林や都市近郊林について、「森林と人との共生林」の整備に向けた条件整備、民間団体等を対象とする公募モデル事業の実施や「里山利用林」の設定や「森林の育て親」の募集等を通じた参加型の保全・利用活動を推進しました。加えて、一般市民の森林ボランティア活動を促進するため、緑の募金等による活動への助成等を実施しました。
イ 各主体のパートナーシップによる取組の促進
 環境省では、事業者、市民、民間団体等のあらゆる主体のパートナーシップによる取組の支援や交流の機会を提供する拠点として、国連大学との共同事業として「地球環境パートナーシッププラザ」を開設しています。「地球環境パートナーシッププラザ」では、平成15年度は、パートナーシップへの理解と認識を深めることを目的に、主に行政職員を対象としたワークショップやセミナーを開催するとともに、市民や民間団体等の声を政策に反映することを目的として意見交換会などを開催しました。
 また、NGO/NPOや企業からの優れた政策提言を環境政策に反映することを目的に環境政策提言を募集し、発表の場として「NGO/NPO・企業環境政策提言フォーラム」を開催しました。また、平成15年度は実現可能性のある提案を対象として追加調査を実施しました。

(2)ライフスタイルの変革に向けた取組
 内閣府では、地球環境と調和したライフスタイルの形成促進のため、省資源・省エネルギー国民運動の展開を図るとともに、各種の普及啓発活動等を行いました。また、過剰包装を避ける、詰め替え商品を選ぶ等の実践がごみの減量化につながるなど、日常的な「買い物」と環境問題は密接に関係していることから、平成15年10月に「買い物」における環境配慮行動の実践を呼びかける「環境にやさしい買い物キャンペーン」を、全国39都道府県と流通事業者等と共同して実施しました。
 また、アイドリングストップをはじめとする環境負荷の軽減に配慮した自動車の使用(エコドライブ)の普及推進のため、関係4省庁(警察庁、経済産業省、国土交通省及び環境省)で「エコドライブ普及連絡会」を設置しました。

 第3節 社会経済のグリーン化の推進に向けた取組

1 経済的措置

(1)経済的助成
ア 環境保全事業の助成
(ア)環境事業団による助成
 環境事業団では、共同福利施設、大気汚染対策緑地、地球温暖化対策緑地の建設譲渡事業、地球環境基金による民間団体への環境保全活動に対する助成その他の支援事業を実施しました。
 平成15年度の建設譲渡事業に係る事業計画額は、51億円、また、地球環境基金事業を実施するため、環境事業団補助金として8億円を予算措置しました。
(イ)その他の政府関係機関等
 その他の政府関係機関等による環境保全事業の助成については、表7-3-1のとおりでした。

その他の政府関係機関等による環境保全事業の助成

イ 税制上の措置等
 平成15年度税制改正においては、再商品化設備等に係る特別償却制度及び事業所税の課税標準(課税される物件の金額・価額・数量等をいう。)の特例措置(主に軽減措置を意味する。)の対象設備への自動車破砕残さ再資源化施設の追加、PFI選定事業者が政府の補助を受けて設置する一般廃棄物処理施設の用に供する家屋に係る固定資産税及び不動産取得税等の課税標準の特例措置、試験研究費総額の一定割合の税額控除、認定NPO法人に係る認定要件の緩和などが講じられました。

(2)経済的負担
ア 基本的考え方
 環境への負荷の低減を図るために経済的負担を課す措置については、その具体的措置について判断するため、地球温暖化防止のための二酸化炭素排出抑制、廃棄物の抑制などその適用分野に応じ、これを講じた場合の環境保全上の効果、国民経済に与える影響及び諸外国の活用事例等につき、調査・研究を進めました。
イ 具体的な取組事例
 平成15年度においては、経済的措置の検討が深められた事例として以下のようなものがあります。
(ア)政府における環境関連税の検討状況
 政府税制調査会は、平成15年6月の「少子・高齢社会における税制のあり方(中期答申)」において、環境問題に対する税制面の対応について、国民に広く負担を求めることになる問題であり、国民の理解と協力が得られることが不可欠との認識に立ちつつ幅広い観点から検討していくこととしています。この中では、「特に、地球温暖化問題については、規制的手法、自主的取組、税制以外の経済的手法の活用に加えて、税制を活用することの必要性について広く議論が求められる」とされています。
 平成13年10月に設置された中央環境審議会の地球温暖化対策税制専門委員会では、温暖化防止のための税制について検討を行い、15年8月には「温暖化対策税制の具体的な制度の案~国民による検討・議論のための提案~(報告)」を公表しました。
 また、これを受け、中央環境審議会の下に施策総合企画小委員会を設置し、平成15年12月から、地球温暖化防止のための税制及びこれに関連する施策についての総合的な検討を開始しました。
(イ)地方公共団体における環境関連税導入の動き
 平成12年4月の「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(平成11年法律第87号)の施行により「地方税法」(昭和25年法律第226号)の一部が改正され、法定外普通税の許可制から同意制への移行、法定外目的税制度の新設など、地方公共団体の課税自主権の強化が図られました。
 これを受け、各地方公共団体において環境関連税の導入の検討が進められています。
 特に、産業廃棄物の排出量又は処分量を課税標準とする税について、これまで12の地方公共団体で条例が制定され、このうち9団体で施行されました。税収の使途については、主に産業廃棄物の発生抑制、再生、減量、その他適正な処理に係る施策に要する費用に充てられています。
 また、高知県では全国に先駆け、平成15年4月に森林環境の保全を目的とした森林環境税が施行されました。この税は、県民税均等割の額に500円を加算し、その税収を森林整備等に充てるために、森林環境保全基金を条例により創設して、実質的に目的税の性格を持たせたものとなっています。

2 環境配慮型製品の普及等

(1)グリーン購入の推進
 グリーン購入法は、環境物品等への需要転換を促進するため、国等の各機関(国や独立行政法人等の公的機関)による環境物品等(環境への負荷の低減に資する物品又は役務)の調達の推進、情報提供その他環境物品等への需要転換を促進するため、必要な事項を定めることにより、環境への負荷の少ない持続的な発展が可能な社会の構築を図ることを目的としています。国等の各機関は、環境保全という公益実現に責任を有するとともに、国民経済の中で大きな購入主体であることから、率先して環境物品等の調達を進めることにより、これを呼び水として日本全体の需要を環境物品等へ転換していくことが期待されます。
 グリーン購入法の仕組みについては、図7-3-1のとおりです。国等の各機関では、基本方針に即して平成15年度の環境物品等の調達方針を定めて公表し、これに基づいて環境物品等の調達を推進しました。また、平成14年度の調達方針に基づき調達を実施した結果として調達実績を取りまとめ、公表しています。

グリーン購入法の仕組み

 基本方針に定められた、国等の各機関が特に重点的に調達を推進すべき環境物品等の種類である特定調達品目及びその判断の基準等については、その開発・普及の状況、科学的知見の充実等に応じて適宜品目の追加・見直しを行っていくこととしています。平成15年度においても特定調達品目に関して募集した提案を参考とするなどにより検討を実施し、16年3月に基本方針の変更(変更後、特定調達品目は16分野199品目)について閣議決定しました。
 地方公共団体については、毎年度、環境物品等の調達方針を作成して調達を行うよう努めることが定められているところであり、平成14年度までに全ての都道府県、政令指定都市が調達の方針を作成してグリーン購入に取り組んでいます。その取組をさらに促すため、前記の基本方針の変更について、地方公共団体を対象とした説明会を全国12か所において開催しました。
 また、さらなるグリーン購入の推進のためには、各地域において行政、地元の事業者、住民等によるネットワークが組織されることが重要です。そこで、地方公共団体、消費者、事業者等に対し、グリーン購入地域ネットワークの構築を推進するために、情報提供や啓発のためのセミナーを開催しました。また、グリーン購入の実施のためには、その前提として、製造者等によるグリーン購入法の特定調達物品(基本方針の判断の基準に適合する物品)に関する情報の提供の場としての「グリーン購入法特定調達物品情報提供システム」を運用し、随時更新しています。

(2)環境ラベリング
 消費者が環境負荷の低い製品を選択する際に適切な情報を入手できるように、環境ラベルその他の手法による情報提供を進めています。日本唯一のタイプⅠ環境ラベル(ISO14024準拠)であるエコマーク制度ではライフサイクルを考慮した指標に基づく新しい商品類型を整備しています。平成16年3月末現在、エコマーク対象商品類型数は54、認定商品数は5,646となっています。
 また、事業者の自己宣言による環境主張であるタイプⅡ環境ラベルや民間団体が行う環境ラベル等の情報提供制度を整理、分析して提供する「環境ラベル等データベース」をインターネットのホームページ上に開設し、平成14年8月に本格運用し随時更新しています。
 さらに、購入者に対して製品やサービスの環境情報を定量的に開示するタイプⅢ環境ラベルであるエコリーフの普及を進めています。平成16年3月末現在のラベル公開数は、129件となっています。
 また、日本のエコマーク、アメリカのグリーンシールなどの世界のエコラベルの実施機関が情報交換、基準の国際調和に向けた検討等のために設立した「世界エコラベリングネットワーク」に対し、情報交換等が円滑に実施されるよう、各国のエコラベルの化学物質データベース構築を通じ支援を行いました。

(3)標準化の推進
 日本の標準化機関である日本工業標準調査会(JISC)は、平成14年4月に策定した「環境JISの策定促進のアクションプログラム」を15年4月及び16年3月に改定し、環境JISの推進に取り組んでいます。
 平成15年度は、「鉛フリーはんだ試験方法」、「ポルトランドセメント」、「鉛・クロムフリーさび止めペイント」等、32件のJISの制定・改正(平成14年度は58件)を実施しました。

(4)ライフサイクル・アセスメント(LCA)
 製品やサービスに関して、投入される資源、エネルギー量と生産される製品及び排出物のデータ収集、定量化などを行うインベントリ分析や、インベントリ分析の結果を各種環境影響カテゴリーに分類し、それを使用して環境影響の大きさと重要度を分析するインパクト評価の手法などライフサイクルアセスメントの手法を調査、研究してきました。その成果を踏まえ、LCAの結果を消費者が活用し「環境に配慮した製品購入」に結びつけるための情報提供の手法について、検討を行いました。

(5)環境適合設計
 製品やサービスの設計段階において、その製造から廃棄までのライフサイクル全般にわたる環境負荷を捉え、製品の長寿命化なども視野においた環境負荷の低減を図ろうとする環境適合設計については、国際的な規格としてISO/TR14062が発行され、JIS制度を補完する制度として創設された標準情報制度の中でその翻訳版を公表しました。

3 事業活動への環境配慮の組み込みの推進

(1)環境マネジメントシステム
 環境マネジメントシステムの仕様を定めた国際規格であるISO14001とそれを翻訳した日本工業規格JISQ14001についての情報提供等を行うとともに、中小企業への環境マネジメントシステムの普及を図るため、環境マネジメントシステム構築融資制度により、事業者のISO14001認証取得及びそれに伴う環境対策投資を支援しました。また、全国各地で講習会を開催しました。こうした結果、国内のISO14001審査登録件数は、平成16年2月末現在で14,309件となり、世界で最も取組が進んでいます。

(2)環境パフォーマンス評価
 事業者が環境関連データを自主的積極的に収集し、環境パフォーマンス指標等の形で活用する状態を創出するには、これらのデータを収集・管理することの効用や効果を明確に示すことが必要です。このため、「事業者の環境パフォーマンス指標ガイドライン-2002年度版-」の有効な活用方法についての調査・検討を実施し、活用事例集を取りまとめました。

(3)環境会計
 事業者による効率的かつ効果的な環境保全活動の推進に資する環境会計システムの確立に向けて、環境会計ガイドライン2002年版をさらに発展させるため、環境保全効果や環境会計の企業内部での活用に関する調査を実施したほか、環境会計ガイドラインに関する今後の方向性についての検討を行い、調査報告書として取りまとめました。さらに、環境会計の国際動向を把握するため、国連持続可能開発部環境管理会計専門家会合(UNDSDEMA-EWG)などの国際的な議論に積極的に参画しました。

(4)環境報告書
 さまざまな規模、業種を含め幅広い事業者に環境報告書の作成と公表の取組を広げ、関係者との意思疎通を促進していくため、平成13年2月に公表した環境報告書ガイドラインについて国内外の動向を踏まえ、「環境報告書ガイドライン(2003年度版)」として改訂しました。このほか、「ステークホルダー重視による環境レポーティングガイドライン2001」の日本語版及び英語版を経済産業省ホームページから閲覧可能にし普及を図ったほか、環境レポート大賞による表彰や環境報告書シンポジウムの開催、インターネット上に開設した環境報告書データベースや環境報告書プラザの運用などにより、環境報告書への取組支援を行いました。
 また、環境配慮への取組を一層促進するための方策について検討を行うため、平成15年9月に、中央環境審議会に「環境に配慮した事業活動の促進に関する小委員会」を設置し、16年2月にはその検討結果が「環境に配慮した事業活動の促進方策の在り方について(意見具申)」として取りまとめられました。この意見具申を受けて、国による環境配慮等の状況の公表、特定事業者による環境報告書の公表、及び民間の大企業による環境報告書等の自主的な公表、並びに環境情報の利用の促進などを主な内容とする「環境情報の提供の促進等による特定事業者等の環境に配慮した事業活動の促進に関する法律案」を平成16年3月に閣議決定し、国会に提出しました。

(5)中小企業の取組の促進
 中小企業等においても容易に環境配慮の取組を進めることができるよう、環境マネジメントシステム、環境パフォーマンス評価及び環境報告をひとつに統合した環境配慮のツールである環境活動評価プログラム(エコアクション21)について、平成14年度の検討結果も踏まえ、民間事業者の参加を得て認証制度の実施に向けたパイロット事業を実施しました。また、運輸関係企業に多い中小規模の事業者においても自主的な環境保全のための取組を推進することができるよう、15年5月までに、自動車関係、海事関係及び倉庫関係の各事業ごとに「グリーン経営推進マニュアル」を作成するとともに、15年10月にトラック事業者を対象とした「グリーン経営認証制度」を開始しました。

(6)公害防止管理制度
 工場における公害防止体制を整備するため、「特定工場における公害防止組織の整備に関する法律」(昭和46年法律第107号)によって一定規模の工場に公害防止に関する業務を統括する公害防止統括者、公害防止に関して必要な専門知識及び技能を有する公害防止管理者等の選任が義務付けられており、約2万の特定工場において公害防止組織の整備が図られています。
 同法に基づく公害防止管理者等の資格取得のために国家試験が、昭和46年度以降毎年実施されており、平成15年度の合格者数は5,417人、これまでの延べ合格者数は28万6,482人です。
 また、国家試験のほかに、一定の技術資格を有する者又は公害防止に関する実務経験と一定の学歴を有する者が公害防止管理者等の資格を取得するには、資格認定講習を修了する方法があり、平成15年度の修了者数は3,729人、これまでの修了者数は238,763人です。

4 環境に配慮した投融資の促進

 事業者の環境に配慮した事業活動を促進するためには、従来からの株式投資の尺度である企業の収益力、成長性等の判断に加え、企業が本来持つ社会的責任である法令遵守や雇用問題、人権問題などの社会・倫理面及び環境面から企業を評価・選別し、投資や融資する手法など、環境に配慮した事業者に対する投資の普及促進を図ることが重要です。このため、金融界と環境省との意見交換の場を設置し、金融機関に対する情報提供や意見交換を実施しました。また、環境面から投融資を行う際に対象事業者を選定するためのスクリーニング手法について調査を行いました。

5 その他環境に配慮した事業活動の促進

 環境保全に資する製品やサービスを提供する環境ビジネスの振興は、環境への負荷の少ない持続可能な社会の実現を目指す上で、極めて重要な役割を果たすものであると同時に、経済の活性化、国際競争力の強化や雇用の確保を図る上でも大きな役割を果たすものです。
 「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(平成15年6月26日 閣議決定)において、その着実な実施が求められている「530万人雇用創出プログラム」(平成15年6月 530万人雇用創出促進チーム)においても「環境サービス分野」が大きな柱の一つとして挙げられたところです。
 また、環境省においては、平成14年11月に設置した「環境と経済活動に関する懇談会」において、環境産業の振興を含む、より幅広い観点から、環境と経済の統合にむけた基本的考え方と、具体的な施策について検討を行い、15年6月に「環境と経済の好循環を目指して」を取りまとめました。さらに、金融業界、家電業界、商社業界、住宅業界といった産業界と環境大臣との懇談会を開催し、環境ビジネス振興のみならず、より幅広い観点から、環境と経済の統合にむけた基本的考え方、具体的な施策に関する意見交換を行いました。また、環境に配慮した事業活動の促進方策について検討するため、中央環境審議会総合政策部会に「環境に配慮した事業活動の促進に関する小委員会」を設置し、検討を進め、16年2月には「環境に配慮した事業活動の促進方策の在り方について(意見具申)」として取りまとめられました。このほか、海外、主としてアジア地域における環境ビジネスの市場規模調査を実施しました。
 経済産業省においては、「産業構造審議会環境部会 産業と環境小委員会」において、民間事業者の自主的な取組による環境に配慮した経営の促進や地域における環境ビジネス振興のために必要な施策等について議論を行い、15年6月に「環境立国宣言~環境と両立した企業経営と環境ビジネスのあり方~」として取りまとめました。

6 社会経済の主要な分野での取組

(1)物の生産・販売・消費・廃棄
ア 全般的な取組
 環境への負荷の評価手法であるLCAを製品選択に利用できるようにするための手法についての検討を行うなど引き続き所要の調査、研究、情報提供を行いました。
 環境保全型製品の普及促進については、製品のライフサイクルの観点を盛り込んだエコマーク制度を引き続き推進するとともに、消費者及び事業者への普及啓発を図りました。
 また、容器包装廃棄物に関しては、容器包装リサイクル法が平成12年度から完全施行され、飲料用紙パック、段ボールを除く紙製容器包装及びペットボトルを除くプラスチック製容器包装が新たに対象となりました。12年5月、再生資源利用促進法の一部が改正され、13年度から識別表示が義務化されることとなりました。
 さらに、地球温暖化、廃棄物・リサイクル問題など事業者を取り巻く環境制約の高まりを受けて、事業者が行う、海外でのエネルギー起源CO2の排出抑制事業、使用済み物品等の副産物の発生の抑制や再生部品の利用を新たな政策支援として追加する等の所要の改正を盛り込んだ、「エネルギー等の使用の合理化及び再生資源の利用に関する事業活動の促進に関する臨時措置法」の改正法が第156回国会で成立し、10月1日付けで施行されました。
 産業界では、地球温暖化問題への主体的取組として、(社)日本経済団体連合会は、1997年(平成9年)6月に経済団体連合会環境自主行動計画を策定しました。本計画は、2010年の二酸化炭素排出量を1990年比±0%以下に抑制することを目標とし、これまでに大きな成果を上げてきています。また、本自主行動計画の他にも、さまざまな業種で自主的な行動計画が策定されています。政府は、関係審議会等によりその進捗状況を点検し、その実効性を確保しています。また、行動計画を策定していない業種に対し、数値目標などの具体的な行動計画の早期の策定と公表を促すこととしています。
イ 農林水産業に関する環境保全施策
 農業においては、環境保全型農業の普及・定着に資するため、新たに土づくりと化学肥料、化学農薬の使用の低減をあわせて行う持続性の高い農業生産方式の導入に率先して取り組む農業者等の活動に対する支援や、生産方式導入の拠点となる施設整備を行いました。持続性の高い農業技術の普及に資する資料の作成や生産者団体、流通・消費者団体等が一体となった普及啓発活動を行うとともに、家畜排せつ物の適正な管理と耕種農業におけるたい肥の流通・利用を促進するため、たい肥化施設等の処理施設の整備等に取り組みました。また、未利用有機性資源等の循環利用・広域流通及び都市近郊から発生する生ごみ等の都市農業における活用の促進を図るため、都道府県におけるマスタープランの策定支援、生ごみの分別収集の啓発、たい肥化施設の整備等を行いました。さらに、生産基盤等の総合的整備の際に周辺環境基盤の造成整備を進めました。
 林業においては、持続可能な森林経営及び地球温暖化対策の推進を図るため、造林、保育、間伐等の森林整備を推進するとともに、計画的な保安林の指定の推進及び治山事業等による機能が低下した保安林の保全対策、多様な森林づくりのための適正な維持管理、二酸化炭素の貯蔵庫となるなどの特徴を有する木材利用の促進に引き続き努めています。
 水産業においては、「持続的養殖生産確保法」(平成11年法律第51号)に基づき、漁協等による養殖漁場の環境保全のための措置を講じました。また、つくり育てる漁業を推進するため、沿岸域の藻場・干潟の造成、底質改善等を実施しました。また、遺伝的多様性の確保、生態系への影響等に配慮しつつ、種苗の生産、放流等を実施し、養殖漁場の環境指標の設定と簡便な測定手法の開発を実施するとともに、内水面、海面における養殖業については、養殖業由来の環境負荷を低減するための実用的技術の開発を行いました。さらに、環境保全型養殖のガイドラインの策定等を行いました。一方、漁協等による「資源管理型漁業」を一層推進することにより、各地域の多種多様な漁業実態に即した水産資源の適切な保存・管理と持続的な利用を図るための事業を実施しました。
ウ 製造業・流通等に関する環境保全施策
 製造業・流通等においては、適切な環境対策指導を行うほか、省資源・再資源化推進のための環境整備事業を行いました。また、中小企業の公害対策について、実態を把握するとともに、中小企業自身の研究開発を支援しています。
 食品産業においては、生産段階では、環境に係る情報の提供、産業廃棄物管理票制度の普及推進を行いました。流通段階では、外食産業から排出される生ごみの有効利用化等を行いました。また、容器包装リサイクル対策を行うとともに、食品廃棄物の分別や運搬を行う技術、高度再生・変換利用技術など食品の資源循環システム構築に必要な技術の開発を実施しました。さらに、食品リサイクル法の普及啓発、先進的な食品リサイクルシステムの構築及び食品リサイクル施設の導入によるリサイクルの成果の実証を図ることにより、食品リサイクルを推進しました。

(2)エネルギーの供給と消費
 環境への負荷の少ないエネルギー供給構造の形成、汚染物質排出等に係る規制的措置を適切に実施するとともに、エネルギー消費効率向上に向けた取組を進めました。
 環境への負荷の少ないエネルギー供給構造を形成するため、発電部門、都市ガス製造部門等のエネルギー転換事業部門におけるエネルギー効率の向上や、環境への負荷の少ない新エネルギーの導入拡大を積極的に進めました。具体的には、燃料電池・太陽光等の新エネルギーの低コスト化・高性能化のための技術開発・実証試験や、事業者や地方公共団体等が新エネルギー設備を設置する際の補助を通じた導入促進等の支援措置を実施しました。また、海水・河川水・下水・ごみ焼却廃熱等の未利用エネルギーやコージェネレーション排熱を活用する熱供給システムの建設に対する支援等により、未利用エネルギー等の活用を進めました。さらに、平成15年4月に電気事業者に一定割合以上の新エネルギー等を利用して得られる電気の利用を義務付ける「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(平成14年法律第62号。以下「RPS法」という。)を完全施行し、電力分野における新エネルギーの導入拡大に努めました。原子力については、原子力発電所を巡る一連の不正問題を十分に踏まえ、原子力安全対策の強化を行ったほか、原子力立地の推進の観点から施設と地域の末永い共生を実現するため電源三法交付金制度を抜本的に見直し、核燃料サイクル及びバックエンド対策に係る技術の開発等を進めました。
 省エネルギー対策についても、地球温暖化対策推進大綱に基づく省エネルギー対策を着実に実施しているところです。具体的には、平成15年4月に、近年エネルギー需要の増加の著しい民生業務部門のオフィスビル対策の強化等を進めるため「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(昭和54年法律第49号)を改正しました。また、アイドリングストップ車の普及促進、省エネルギー型製品の普及促進を図るための販売事業者評価制度の創設、トップランナー基準対象機器の拡大(平成15年7月にLPガス乗用自動車を追加)、高効率給湯器の導入補助事業における対象機器の追加を行いました。さらに、省エネルギー技術戦略に沿った戦略的な省エネ技術開発に対する支援、IT技術を活用したエネルギーマネジメントシステムの開発・普及、包括的な省エネルギーサービスを提供するESCO(Energy Service Company)事業の普及促進等を実施しました。
 また一方で、燃料自体の更なるクリーン化を図るため、総合資源エネルギー調査会石油分科会石油部会石油製品品質小委員会において自動車燃料の更なる低硫黄化の検討を行い、硫黄分10ppm以下のガソリン・軽油の全面供給時期(ガソリンは平成20年、軽油は平成19年)を決めました。
 エネルギー政策全体の基本的な方針及び今後の施策の方向性については、「エネルギー政策基本法」(平成14年法律第71号)に定められた「安定供給の確保」、「環境への適合」、及びこれらを十分に考慮した上での「市場原理の活用」の基本方針に基づき平成15年10月にエネルギー基本計画を策定しました。
 さらに、エネルギー等の特別会計のグリーン化が一層促進され、新エネルギー対策、省エネルギー対策、京都メカニズムの活用等の取組が強化されました。

(3)運輸・交通
 運輸・交通分野における環境保全対策については、自動車1台ごとの排出ガス・騒音規制の強化を着実に実施しました。また、自動車NOx・PM法に基づく自動車使用の合理化等の指導を進めるとともに、冬季における高濃度の大気汚染に対応するため、入出荷貨物車台数の抑制等を内容とする「季節大気汚染対策」を実施しました。さらに、12月を「大気汚染防止推進月間」として、広く国民を対象に、公共交通機関の利用促進を訴える等大気汚染防止のための普及・啓発活動を実施しました。

ア 低公害車の導入等
 国等の各機関では、グリーン購入法に基づき低公害車の優先的な調達を推進しているところですが、特に一般公用車については平成13年5月に内閣総理大臣から、①原則として14年度以降3年を目途にすべて低公害車に切り替えること、②13年度においても、交換車両はすべて低公害車とする努力をすることとの指示があったことから、これを円滑に推進するため、低公害車の導入計画を公表し、これに基づいた積極的な取組を進めているところです。幹部用公用車については、14年9月末までにすべて低公害車への切替えを完了しており、国の有する一般公用車についても、平成14年度末までに約45%の低公害車の導入が進みました。
 また、低公害性の抜本的な改良を目指す燃料電池自動車、ジメチルエーテル自動車、次世代ハイブリッド自動車、高効率天然ガス自動車等の次世代低公害車の技術開発を促進するとともに、政府においても試験的市販が開始された燃料電池自動車を率先導入しました。
 また、日本全国をアイドリングストップ機能付き自動車で横断し、信号待ちや渋滞時におけるアイドリングストップの著しい省エネ効果を確認するとともに、各地におけるシンポジウムや試乗会開催のほか、交通の方法に関する教則により、アイドリングストップの普及啓発を図りました。
イ 交通管理
 道路交通公害の防止に資する以下の対策を講じました。
① 新交通管理システム(UTMS)の一環として、交通管制システムの高度化等により、交差点における発進・停止回数を減少させるとともに、光ビーコン等を通じて交通渋滞、旅行時間等の交通情報を迅速かつ的確に提供しました。また、交通公害低減システム(EPMS)を神奈川県、静岡県、兵庫県において運用しました。さらに、3メディア対応型VICS対応車載機の導入・普及等を積極的に推進しました。
② 都市部を中心に、各種交通規制を効果的に実施することにより、その環境の改善に努めました。具体的には、大型車を道路の中央寄りに走行させるための通行区分の指定を行うとともに、大量公共輸送機関の利用を促進し、自動車交通総量を抑制するため、バス優先・専用通行帯の指定、公共車両優先システム(PTPS)の整備等を推進しました。
③ 都市内における円滑な交通流を阻害している違法駐車を防止し、排除するため、駐車規制の見直し、悪質・危険性、迷惑性の高い駐車違反に重点を置いた取締り、違法駐車抑止システム、駐車誘導システム等の整備、違法駐車防止条例の制定の働きかけ等のハード・ソフト一体となった駐車対策を推進しました。
④ 大気汚染・騒音・振動等の原因ともなっている過積載運転に対しては、荷主等の背後責任追及を積極的に実施するなど、取締りを一層強化しました。
⑤ 道路交通情報通信システム(VICS)の推進や交通安全施設の整備等による交通流対策及び公共車両優先システム(PTPS)等の整備による公共交通機関の利用促進により、交通渋滞の緩和を図り、自動車からの人工排熱の低減を目指したヒートアイランド対策に努めました。
ウ 物流の効率化
 物流の効率化を図り、環境負荷の少ない物流体系を形成するため、平成13年7月に策定された「新総合物流施策大綱」においても、地球温暖化問題や大気汚染等の環境問題への対応が重要な課題とされています。
 環境負荷が小さく効率的な物流体系を構築するため、荷主・物流事業者等の関係者が協力して環境負荷低減策に取り組む場合に一定の効果が認められる実証実験について補助金を交付しました。
 また、静脈物流システムの構築を図るための調査検討を実施しました。
エ 公共交通機関利用の促進
 自家用自動車に比べ環境負荷の少ないバス・鉄道などの公共交通機関利用への転換を促進するため、軌道改良・曲線改良等の幹線鉄道の高速化等を行うとともに、都市鉄道についても、三大都市圏(東京、大阪、名古屋圏)の圏域における新線建設、複々線化等を進め、混雑緩和、輸送力増強、速達性の向上、都市構造・機能の再編整備への対応、空港等へのアクセス機能の強化を図っています。また、貨物線の旅客線化、既設線の延伸、駅施設や線路施設の改良などの既存ストックの高度利用を推進するとともに、鉄道駅のバリアフリー化、乗継円滑化の措置を講じることによる利用者利便の向上に加え、交通事業者が行う先進的な「広域的な公共交通利用転換に関する実証実験」等に対する支援を通じて、ICカードの導入、乗り継ぎ利便の改善等による公共交通サービスの利便性の向上による利用促進に努めています。

(4)情報通信の活用
 テレワークSOHO、テレビ会議、高度道路交通システム(ITS)、電子商取引などさまざまな情報通信システムが普及することにより、交通の代替、交通流の円滑化、生産・流通の効率化やペーパーレス化などを通じて大きな環境負荷の低減効果が期待できます。
 テレワークに関しては、総務省と厚生労働省が共同で、普及啓発を目的としたシンポジウムを行いました。また、国土交通省では、先進的なテレワークの取組状況等を把握し、課題を解決するための方策の検討を行うとともに、テレワークによる客観的な効果の把握を進め、その結果をセミナーにより広く周知する等の普及啓発活動を実施しました。

(5)戦略的環境アセスメント
 平成12年12月に閣議決定された環境基本計画において、上位計画や政策における環境配慮のあり方について、現状での課題を整理した上で、内容、手法などの具体的な検討を行うとともに、国や地方公共団体における取組の実例を積み重ね、その有効性、実効性の検証を行い、それを踏まえてガイドラインの作成を図ることが定められています。
 これを踏まえ、個別の事業の計画・実施に枠組みを与えることになる計画(上位計画)や政策における環境配慮の具体的なあり方についての内容、手法等の検討を進めました。

 第4節 地域づくりにおける取組の推進

1 地域における環境保全の現状

(1)地域における環境保全施策の計画的、総合的推進
① 平成15年7月に「循環・共生・参加まちづくりシンポジウム」を循環・共生・参加まちづくりネットワーク(全国92自治体で構成)と共催で開催し、パネルディスカッション等を行いました。
② 全国の地方公共団体の環境関連情報を提供するウェブサイト「地域環境行政支援情報システム(知恵の環)(http://www.chie-no-wa.com)」の全面リニューアルを行い、利便性の向上を図りました。
③ 各地方公共団体においてそれぞれ地域環境保全基金が設けられています。この基金により、ビデオ、学校教育用副読本等の啓発資料の作成、地域の環境保全活動に対する相談窓口の設置、環境アドバイザーの派遣、地域の住民団体等の環境保全実践活動への支援等が行われました。
④ 「緊急地域雇用創出特別交付金」を活用し、地域住民や企業退職者、さらには地域環境に詳しい人材が行う森林の下草刈り、「ごみマップ」の作成等の環境関連事業を幅広く推進しました。

(2)地方環境情勢の把握
 環境省では、全国9ブロックに配置している地方環境対策調査官(平成15年度末定員:89名)を活用し、廃棄物の不法投棄現場などの現地調査を行い、関係者の意見・要望を聞くなどして地方環境情勢の把握に努めました。また、全国7か所において地域環境問題懇談会を実施し、地方公共団体との環境保全に関する意見交換を行い、今後の施策を展開する上での参考としました。
 環境問題に関する国民の意見・要望などを全国的に把握するため、全国で約500人の環境モニターを委嘱しており、モニターからの意見・要望等は、環境省の各種施策の企画、立案等に活用されています。平成15年度の報告件数は715件でした。  
 都道府県及び政令市における騒音規制法、振動規制法及び悪臭防止法に係るそれぞれの施行状況に関する調査を実施しました。
 以上のほか、地方環境対策調査官事務所では、NGO/NPO、地方公共団体、地域企業などが一堂に会した各種会議や環境施策PRのための環境展などの行事の開催、また、相談窓口などを通じて、環境問題に関する情報や国民の要望の把握に努めました。

(3)地方公共団体の環境保全対策
ア 環境行政担当組織及び職員の現況
 都道府県・政令指定都市では、平成15年3月31日現在、公害等(廃棄物、下水道関係等を除く。市町村についても同じ。)担当職員数は6,979人、自然保護担当職員数は2,369人となっています。また、市町村では、15年3月31日現在、公害等担当職員数は、9,177人、自然保護担当職員数は、3,473人となっています。
イ 条例の制定状況
 地方公共団体においては、環境保全に関連した条例等の下、地球温暖化、循環型社会、環境への負荷の少ない交通、健全な水循環、化学物質、生物多様性等の分野において、地域の特性に応じたさまざまな施策が実施されました。地方公共団体の環境保全関連条例は表7-4-1のとおり4つに大別され、平成15年3月31日現在、都道府県・政令指定都市のうち、①は58団体、②は53団体、③は53団体が制定しています。
地方公共団体における環境保全関連条例区分

ウ 総合的な地域環境計画の策定状況
 「環境基本法」(平成5年法律第91号)の制定と環境基本計画の策定を契機として、地方公共団体においても、環境についての基本理念を明らかにした総合的な地域環境計画の策定が進んでおり、平成15年度末現在で、都道府県・政令指定都市のすべてで策定されています。また、市町村では、14年度末現在、538団体において策定されています。
エ 地方公共団体の事業者・消費者としての環境保全に係る行動の取組状況
 地方公共団体は、通常の経済主体として自らの経済活動に伴う環境負荷の削減が強く期待されており、多くの地方公共団体で、省資源・省エネルギー活動等のさまざまな環境負荷低減のための取組を内容とする計画や行動のための指針が策定されています。
オ 公害防止協定の締結状況
 平成14年4月~15年3月までの間に締結された公害防止協定数は、974件となっており、協定締結の事業所数を業種別に見ると表7-4-2のとおりとなっています。
業種別の公害防止協定締結事業所数(自治体-企業等)

 これによると、第2次産業の業種のみではなく、産業廃棄物処理やサービス業の第3次産業を中心とした「その他」に分類される業種が約5割を占めています。これらの協定のうち、住民も当事者として参加しているものは114、住民が立会人として参加しているものは65となっています。
カ 公害対策経費
 平成14年度において、地方公共団体が支出した公害対策経費(地方公営企業に係るものを含む。)は、4兆7,171億円(都道府県9,184億円、市町村3兆7,987億円)となっています。これを前年度と比べると、5,171億円(都道府県776億円減、市町村4,395億円減)、9.9%の減となっています(表7-4-3)。

地方公共団体公害対策決算状況(平成14年度)

 公害対策経費の内訳で見ると、公害防止事業費が4兆3,479億円(構成比92.2%)、次いで一般経費(人件費等)が1,873億円(同4.0%)等となっています。さらに、公害防止事業費の内訳をみると、下水道整備事業費が3兆2,351億円で公害対策経費の68.6%と最も高い比率を占めており、次いで廃棄物処理施設整備事業費が9,209億円(構成費19.5%)となっています。
 なお、平成16年度の地方財政対策において、地域環境保全・創造事業及びリサイクル推進対策事業として合わせて2,880億円程度が計上され、地方交付税措置等が講じられています。

2 循環と共生を基調とした地域づくり

(1)持続可能な地域づくりに対する取組
 環境省では地球環境問題からリサイクル対策まで多岐にわたる地域の課題を視野に入れ、市民との協働を図りながら、環境の恵み豊かな、持続可能なまちづくりに取り組んでいる地域を対象に、大臣表彰を行っています。平成15年度「循環・共生・参加まちづくり表彰」においては、紫波町(岩手県)、坂戸市(埼玉県)、日野市(東京都)、武生市(福井県)、朝来町(兵庫県)、梼原町(高知県)の6団体を表彰しました。(https://www.env.go.jp/press/4484.html
 環境、防災、国際化等の観点から都市の再生を目指す21世紀型都市再生プロジェクトの推進や土地の有効利用等都市の再生に関する施策を総合的かつ強力に推進するため、平成13年5月、内閣に都市再生本部が設置されました。15年度には、関係する行政機関が相互に密接な連携と協力を図り、施策を総合的に推進するため、「環境共生まちづくり」のモデル地域(室蘭市、飯田市、田原町、近江八幡市、京都市、北九州市、日南市の7地域)を選定し、それぞれの地域で環境共生まちづくりの課題について検討が行われました。
 新世代下水道支援事業制度水環境創造事業を引き続き推進するとともに、省エネルギー化を図った施設建築物を整備する市街地再開発事業等に対し特別な助成を行う先導型再開発緊急促進事業にて支援を行いました。また、環境への負荷を低減するモデル性の高い住宅市街地の整備を推進する「環境共生住宅市街地モデル事業」にて支援を行いました。

(2)自然と共生する地域づくりに対する取組
 ほ場整備による優良農地の確保、保全とあわせて地域の活性化のため、換地の手法を活用し、公共用地や宅地等地域の多様な土地需要に対応した非農用地を創出するとともに、既存集落と一体的に生活環境を整備することにより、潤いのある田園居住空間を創造する「農村振興総合整備事業(田園居住空間整備)」を実施しました。農業用水や農業水利施設が持つ景観形成、親水、生態系の保全などの地域用水機能の発揮に配慮した整備を行うことにより、都市住民にも開かれた豊かで潤いのある水辺空間を創出する地域用水環境整備事業を実施しました。たい肥化施設等の計画的な活用により、処理水と汚泥等の有機性資源の循環利用を促進する「農業集落排水資源循環総合補助事業」を実施しました。生態系の保全等に資する農業用水路等を子どもたちの遊び場、自然体験の場として活用する「あぜ道とせせらぎ」づくり推進事業を、関係府省が連携して行いました。自然エネルギー活用システムの導入等に対しては、次世代都市整備事業により支援を行い、環境負荷の軽減、自然との共生、アメニティの創出という環境共生都市(エコシティ)理念の実現を推進しました。
 
(3)景観を保全・創造する地域づくりに対する取組
 河川と一体になったまちなみ景観の保全・創造のために、美しい水辺空間を創出する「マイタウン・マイリバー整備事業」「ふるさとの川整備事業」等を各地域において推進しました。
 公共施設整備、市街地開発事業等を契機として、地方公共団体と地域住民とが協力して、地域の良好な景観形成を誘導するため、シンボルロード整備事業等による良好な公共施設の整備と、地区計画等による地域内の建築物の形態等の規制を実施し、美しい街並みが形成されるよう、積極的な支援を行いました。

(4)歴史的景観と調和する地域づくりに対する取組
 豊かな歴史的環境の確保・保全のため、史跡等の公有化及び整備・活用等を通じて地域づくり等を推進しました。
 市町村が行う伝統的建造物群保存対策調査及び重要伝統的建造物群保存地区内の伝統的建造物の保存修理、防災施設等の設置、建物や土地の公有化などの事業に対して補助を行いました。平成15年10月、滋賀県大津市を新たに古都に指定するとともに、「古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法」(昭和41年法律第1号)に基づき指定された歴史的風土保存区域において、特に枢要な部分を構成している地域については、歴史的風土特別保存地区の指定や地方公共団体による土地の買入れ等を推進しました。
 また、文化財としての価値を有する土地改良施設の補修等を、その歴史的価値の保全に配慮しつつ行いました。

3 公害防止計画

 平成14年度末に計画期間が終了した地域を含めた富士地域等5地域(図7-4-1参照)について、15年7月に環境大臣が各地域の関係県知事に対して新規計画の策定を指示しました。指示を受けた県知事は、環境大臣が示した基本方針に基づいて各地域の公害防止計画を作成しました。各計画は環境大臣によって16年3月に同意されました。(https://www.env.go.jp/press/4803.html

公害防止計画策定地域図(現行計画)

 公害の防止に関する施策の一層の推進を図るため、地方公共団体が公害防止計画に基づき実施する公害防止対策事業については、「公害の防止に関する事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」(昭和46年法律第70号)に基づいて、国の負担又は補助の割合のかさ上げ等、国が財政上の特別措置を講じています(表7-4-4)。

公害防止事業に係る事業費及び負担又は補助のかさ上げ額

 第5節 環境影響評価等

1 国の施策の策定等に当たっての環境保全上の配慮

 環境保全上の支障を未然に防止するため、環境基本法第19条は、国は環境に影響を及ぼすと認められる施策の策定・実施に当たっては、環境保全について配慮しなければならないものと規定しています。このため、各種計画の策定に当たり、環境の保全に関しては、環境基本計画の基本的方向に沿ったものとなるよう、これらの計画と環境基本計画との相互の連携を図りました。また、個別の事業の計画・実施に枠組みを与えることとなる計画(上位計画)や政策における環境配慮の具体的なあり方について検討を進めました。
 上位計画や政策に対する環境配慮として、現在、河川整備計画策定段階において従来の環境配慮をより充実させるための基本的考え方が提言される等各事業分野における検討が進んでいます。
 内容や制度に差異はありますが、平成13年7月EUにおいて政策及び計画案の環境評価に関する指令が成立するなど、諸外国において「戦略的環境アセスメント」と呼ばれる仕組みの導入に向けた取組がなされています。
 環境省では、学識経験者による研究会を設けて、廃棄物分野におけるケーススタディを中心に手法等の研究を行ったり、海外の専門家に依頼して海外事例の研究を行っています。
 また、国の実施する社会資本等の整備のための公共事業については、計画段階からのその実施が環境に及ぼす影響について、最新の知見により調査予測を実施し、環境への影響の防止のための対策の検討を行うなど、環境保全上の調査・検討に努めました。

2 環境影響評価の実施

(1)環境影響評価法に基づく環境影響評価
 「環境影響評価法」(平成9年法律第81号)は、道路、ダム、鉄道、飛行場、発電所、埋立・干拓、土地区画整理事業等の面的開発事業のうち、規模が大きく、環境影響が著しいものとなるおそれがある事業について環境影響評価の手続の実施を義務付けています(図7-5-1)。同法に基づき、平成16年3月末までに94件の事業が手続を開始し、そのうち、25件が手続を完了しており(環境影響評価法に基づき実施された環境影響評価の施行状況)、社会資本整備における環境配慮の徹底がはかられました。また、同法に基づいた環境影響評価方法書の手続は10年6月から行われています。

環境影響評価法の手続の流れ

環境影響評価法に基づき実施された環境影響評価の施行状況

(2)環境影響評価の適切な運用への取組
 環境の保全に関する各分野ごとに、学識経験者による検討会を設けて、環境影響評価に係る技術手法の向上、改善のための検討を行うとともに、環境影響評価における住民等の意見の収集を効果的かつ効率的に行う手法の検討を行いました。また、技術検討の成果及び環境影響評価の実施状況を踏まえ、基本的事項の点検に着手しました。
 さらに、国・地方公共団体等の環境影響評価事例や制度及び技術の基礎的知識の提供による環境影響評価の質及び信頼性の確保を目的として、環境影響評価の実施に際して必要となる情報等を集積し、インターネット等を活用した国民や地方公共団体等への情報支援体制の整備を進めました。

(3)個別法等による環境影響評価等
 「港湾法」(昭和25年法律第218号)等の個別法に基づく環境影響評価について、平成15年度に実施されたものの概要は表7-5-2のとおりです。

個別法などによる環境影響評価

(4)地方公共団体における取組
 都道府県・政令指定都市の多くは、条例や要綱による独自の環境影響評価手続きを設けていましたが、環境影響評価法の制定等を背景に、制度の見直しが活発に行われ、すべての都道府県及び政令指定都市において環境影響評価条例が公布・施行され、さらに知事意見を述べる際の審査会等第三者機関への諮問や事業者への事後調査の義務付けを導入しています。
 対象事業については環境影響評価法対象の規模要件を下回るものに加え、廃棄物処理施設やスポーツ・レクリエーション施設、畜産施設、土石の採取、複合事業なども対象としており、さらに環境基本法に規定されている「環境」よりも広い範囲の「環境」の保全を目的とし、埋蔵文化財、地域コミュニティの維持、安全などについても評価対象にするなど、地域の独自性が発揮されています。
 また、個別の事業の計画・実施に枠組みを与えることになる計画(上位計画)や政策における環境配慮について、東京都で計画段階に環境アセスメントを義務付けるための条例改正が平成14年7月に行われ、埼玉県では県が策定する計画を対象とした戦略的環境影響評価実施要綱が14年3月に制定されました。

 第6節 調査研究、監視・観測等の充実、適正な技術の振興等

1 調査研究及び監視・観測等の充実

(1)研究開発の総合的推進
 環境分野は、第2期科学技術基本計画において、日本の研究開発の重点分野の一つとされています。分野別推進戦略を踏まえ、特に重点化するとされた地球温暖化研究、ゴミゼロ型・資源循環型技術研究、自然共生型流域圏・都市再生技術研究、化学物質リスク総合管理技術研究、地球規模水循環変動研究の5課題については、環境研究イニシャティブ研究会合等を開催し、省際的な研究開発の推進を図りました。
 総合科学技術会議では、「環境研究開発推進プロジェクトチーム」において、上記の各重点課題の最新動向や関係府省における施策の取組・連携状況、不必要な重複及び実施中の施策の効果等について調査検討を行いました。また、京都議定書における温室効果ガス削減目標の達成に資するため、平成15年4月に「温暖化対策技術研究開発の推進について」を取りまとめ、さらに地球観測の推進に資するため、16年3月に「今後の地球観測に関する取り組みの基本について(中間取りまとめ)」を取りまとめました。

(2)環境省関連試験研究機関の整備と研究の推進
ア 独立行政法人国立環境研究所
 環境大臣が定めた5年間の中期目標(平成13~17年度)と、これを達成するための中期計画に基づき、以下の重点研究分野を中心に、環境研究の推進を図りました。
 ① 地球温暖化の影響評価と対策効果
 ② 成層圏オゾン層変動のモニタリングと機構解明
 ③ 内分泌かく乱化学物質及びダイオキシン類のリスク評価と管理
 ④ 生物多様性の減少機構の解明と保全
 ⑤ 東アジアの流域圏における生態系機能のモデル化と持続可能な環境管理
 ⑥ 大気中微小粒子状物質(PM2.5)・ディーゼル排気粒子(DEP)等の大気中粒子状物質の動態解明と影響評価
 また、環境行政の新たなニーズに対応した以下の政策対応型調査・研究を二つのセンターで実施しました。
 ① 循環型社会形成推進・廃棄物管理に関する調査・研究
 ② 化学物質環境リスクに関する調査・研究
 重点研究分野をはじめ、長期的視点に立った基盤研究や創造的・先導的調査研究を六つの研究領域等で実施しました。
 研究の効率的実施や研究ネットワークの形成に資するため、環境研究基盤技術ラボラトリーにおいて環境標準試料の作製等を実施するとともに、地球環境研究センターにおいて地球環境の戦略的モニタリング等を実施し、知的研究基盤の整備に取り組みました。
 環境情報センターにおいて、環境の保全に関する国内外の資料の収集、整理及び提供を行い、国民等への環境に関する適切な環境情報の提供サービスを実施しました。
イ 国立水俣病総合研究センター
 国立水俣病総合研究センターにおいては、水銀汚染問題に関する日本の経験の蓄積を活用し、国際共同研究等の国際協力に貢献していくなどの施策を実施しました。
ウ アジア太平洋気候センター
 アジア太平洋気候センターからアジア太平洋地域各国気象機関に対し、季節予報のための数値予報資料、異常天候の状況に関する資料、エルニーニョ現象の見通し等の基盤的な気候情報を提供しました。平成15年11月には人材育成協力の一環として、東南アジアの季節予報業務担当者による「アジア太平洋地域の気候監視・診断・予測に関する気候サービス専門家会議」を開催しました。

(3)公害防止等に関する調査研究の推進
 環境省に一括計上した平成15年度の関係行政機関の試験研究機関(国立機関及び独立行政法人)の地球環境保全等に関する研究のうち、公害の防止等に関する各府省の試験研究費は、総額16億4486万円でした。7府省25試験研究機関等において、環境の現状の的確な把握、環境汚染による環境変化の機構の解明、環境汚染の未然防止、汚染された環境の修復等の領域にわたり、69の試験研究課題を実施しました。その内容は表7-6-1のとおりです。

公害防止等に関する調査研究

(4)地球環境研究に関する調査研究等の推進
 地球環境の保全を科学的知見に基づき適切に推進し、国際的な取組に貢献するため、平成15年8月に地球環境保全に関する関係閣僚会議が策定した「平成15年度地球環境保全調査研究等総合推進計画」等を踏まえつつ、総合的な調査研究等を実施しました。
 関係府省の国立試験研究機関、独立行政法人、大学、民間研究機関等広範な分野の研究機関、研究者の有機的連携の下「地球環境研究総合推進費」により、学際的、国際的観点を重視しつつ地球環境研究を推進しました、平成15年度は、戦略的な研究課題として、陸域生態系の活用・保全による温室効果ガス吸収量の強化技術の開発研究に着手しました。中長期的視点から着実に推進すべき、関係行政機関の試験研究機関又は関係行政機関による研究については、「地球環境保全試験研究費」により、地球温暖化の防止に資する研究を行いました。また、衛星を利用した、赤潮・青潮の挙動を観測する海色監視データ処理システムを構築しました。15年度に実施した主な調査研究は表7-6-2のとおりです。

平成15年度に実施した主な地球環境分野の調査研究

(5)基礎的・基盤的研究の推進
 次世代の環境保全技術の基礎となる「知的資産」を蓄積するため、「環境技術開発等推進費」の「基礎研究開発課題」において、「遺伝子地図と個体ベースモデルに基づく野生生物保全戦略の研究」等計4課題の研究に対して、また、「自然共生型流域圏・都市再生技術課題」において、主要都市・流域圏の自然共生化に必要なシナリオの設計・提示を目指した2課題の研究に対して助成し、研究の推進を図りました。

(6)地球環境に関する観測・監視
 衛星による地球環境観測については、熱帯降雨観測衛星(TRMM)から取得された観測データを、地球環境の観測・監視や環境問題の原因解明に活用しています。オゾン層破壊の現象解明や気候変動の実態把握への貢献等を目指して打ち上げられた環境観測技術衛星(みどりⅡ)は、平成15年10月に運用異常に至ってしまいましたが、これまでに得られたデータを最大限活用すべく、データの精度の向上を図りました。また、環境省及び宇宙航空研究開発機構の共同により、温室効果ガスの観測を目的とした衛星搭載用センサの開発研究を行っています。

 地球規模の変動に大きく関わっている海洋における観測について、海洋の観測データを飛躍的に増加させるため、海洋自動観測フロート約3千個を全世界の海洋に展開し、地球規模の高度海洋観測システムの構築を目指すARGO計画を推進しています。文部科学省では、海洋地球研究船「みらい」等を用いた観測研究、観測技術の研究開発を推進しました。また、二酸化炭素等の温室効果ガスの直接観測を可能とする成層圏プラットフォームの研究開発を行いました。第45次南極地域観測隊が昭和基地を中心に、海洋、気象、電離層等の定常的な観測のほか、ドームふじ観測拠点での第二期南極氷床深層掘削計画(3年計画の1年目)を本格開始しました。約80万年前の気候や二酸化炭素濃度を解明するために、氷床下3,000mの氷床コアの採取を目指すなど、各種のプロジェクト研究観測とモニタリング研究観測を実施しました。
 地球変動予測研究については、世界最速のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を活用した地球温暖化予測モデル開発等を推進しています。
 全国の気象官署における観測開始以降の観測資料のデジタル化を実施しました。また、地球温暖化に伴う全球的な気候変動の予測を行い、その結果を「地球温暖化予測情報」として公表しました。さらに、GPS装置を備えた検潮所に精密型水位計を整備して地球温暖化に伴う海面水位上昇の監視体制を強化し、海面水位監視情報の提供業務に着手しました。また、国内の影響・リスク評価研究の推進にむけて、平成14年に公表した全球的な気候変化の予測結果をもとに、日本付近のより詳細な気候変化の予測結果を提供しました。地上観測としては、環境省及び気象庁により、それぞれ沖縄県波照間島や東京都南鳥島等で温室効果ガスの測定を行っています。さらに、気象庁ではWMO/GAW計画の一環として、温室効果ガス、CFC等オゾン層破壊物質、オゾン層、有害紫外線等の定常観測、エーロゾルライダーを用いたエーロゾルの高度分布の測定を引き続き実施しました。平成15年度からは、CLIMAT報の円滑な国際交換を推進するため、各国の気象局の担当者と直接連絡をとり技術的な問題について解決を目指すGSNデータのためのWMO基礎組織委員会(CBS)リードセンター業務を開始しました。さらに、黄砂に関する情報の発表を開始しました。
平成15年度に実施した主な観測・監視は表7-6-3のとおりです。
平成15年度に実施した主な地球環境分野の観測・監視

(7)廃棄物処理等科学研究の推進
 総合科学技術会議の「平成15年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」で重点を置くとされた研究イニシアティブのうち、「ごみゼロ型・資源循環型技術研究」を推進するため、競争的研究資金を活用し広く課題を募集し、45件の研究事業及び18件の技術開発事業を実施しました。
 研究については、「廃棄物処理に伴う有害化学物質対策研究」「廃棄物適正処理研究」「循環型社会構築技術研究」を公募分野とし、廃棄物をとりまく諸問題の解決とともに循環型社会の構築推進に資する研究を行いました。
 技術開発についても、「廃棄物適正処理技術」「廃棄物リサイクル技術」「循環型設計・生産技術」を公募分野とし、次世代を担う廃棄物処理等技術の開発を図りました。
 文部科学省では、廃棄物の無害化処理と再資源化を図るとともに、影響・安全性評価及び社会システム設計に関する研究開発を産学官の連携で行う「一般・産業廃棄物・バイオマスの複合処理・再資源化プロジェクト」を開始しました。

(8)環境保全に関するその他の試験研究
 そのほかにも、各府省庁で以下のとおり環境保全に関する試験研究に取り組みました。
 環境省では、ナノテクノロジーを環境分野に活用した環境モニタリング・健康生態影響評価・有害物質処理に関する技術開発を行いました。
 二酸化炭素の海洋隔離に伴う環境影響予測技術開発、二酸化炭素からメタノールを合成する技術開発等の温室効果ガスの固定化・有効利用・処分技術の研究開発、オゾン層を破壊せず、地球温暖化効果の小さい新規フロン代替物質の省エネルギーな合成技術の開発、二酸化炭素や環境負荷物質の排出の少ない環境調和型生産技術の研究開発、バイオテクノロジーの知見を利用した低環境負荷・環境調和型の化学原料生産、物質変換、廃棄物処理・リサイクル、環境汚染浄化等に資する革新的技術の研究を実施しました。
 内閣府では、地球温暖化ガス削減の国際的な枠組みの問題、自動車等の個別排出源の対策などの問題等について、国内外の研究機関による国際共同研究を実施しました。その結果は(http://www.esri.cao.go.jp/)に掲載しています。また、地球温暖化対策を念頭に置きながら、環境政策上の効果、費用効率性、所得分配への影響、技術革新への誘引等の観点から評価、相互比較し、望ましいポリシー・ミックスのあり方を研究しました。
 警察庁では、東京都と神奈川県の都県境付近をモデル地域として、「環境対応型交通管理プロジェクト」を、引き続き推進しました。
 総務省では、電磁波を利用した地球環境観測技術の研究については、GPM搭載降水レーダの開発、宇宙からの雲観測技術、宇宙からの風観測のためのライダ技術、宇宙からの大気微量成分の三次元観測技術、極域大気環境の総合計測技術に関する国際共同研究、高分解能映像レーダによる地表面の高精度観測技術、亜熱帯環境計測技術の研究開発を実施しました。
 農林水産省では、環境負荷を低減し、持続的農業を推進するための革新的技術の開発としては、家畜排せつ物や食品廃棄物等の有機性資源のリサイクル技術の開発、地球温暖化が農林水産業に与える影響の評価や二酸化炭素、メタン等の温室効果ガスの排出削減・固定化技術の開発、バイオマスを用いた新エネルギー生産技術の開発を実施しました。さらに、流域圏における水・物質循環の機構及び農林水産生態系の機能を解明し、流域圏環境を総合的に管理する手法の開発や、野生鳥獣による農林業被害を軽減する管理技術の開発等を引き続き実施するとともに、農林水産生態系における有害化学物質についての動態把握と生物・生態系への影響評価と分解・無毒化技術の実証研究等を通じたリスク低減技術の開発、アジアモンスーン地域における水循環変動が食料生産、特に稲作に及ぼす影響を評価し、予測する技術の開発等に着手しました。
 経済産業省では、循環型産業システムの創造を図る観点から、微生物や植物の機能を活用して工業原料を生産する技術開発、廃棄物等の生分解・処理技術の開発を実施しました。また、これからの基盤整備のための生物遺伝資源の収集に係る技術開発や、遺伝子組換え体のリスク管理に関する基盤研究等を実施しました。
 国土交通省では、循環型社会及び安全な環境の形成のための建築・都市基盤整備技術の開発、シックハウス対策技術の開発、建築物の総合的な環境性能の評価手法の開発、自然共生型国土基盤技術の開発、社会資本ストックの管理運営技術の開発、地球温暖化防止施策の施策評価手法を確立しようとする地球温暖化に対応した国土保全支援システムに関する研究、微生物群制御による内分泌かく乱化学物質の分解手法に関する研究等について実施しました。
 循環型社会の構築に向け、下水汚泥の建設資材利用や、他の有機質廃材と組み合わせた有効利用等の技術開発を推進しました。下水道技術開発プロジェクト(SPIRIT21)においては、下水汚泥有効利用の新技術開発を図る下水汚泥資源化・先端技術誘導プロジェクト(LOTUS Project)を平成15年12月に立ち上げました。
 また、環境への負荷が小さく、新たな海洋空間の創造が可能な超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)の普及促進のための調査を行いました。さらに窒素酸化物を大幅に削減できる環境低負荷型舶用推進プラント(スーパーマリンガスタービン)の実用化の促進を図るとともに、内航海運の活性化と物流における環境負荷低減に大きく貢献する次世代内航船(スーパーエコシップ)の研究開発、外航海運分野からの環境負荷(バラスト水問題等)の低減と採算性を両立した低環境負荷型外航船(グリーンシップ)の研究開発を実施しました。地球温暖化に伴う水資源への影響を把握し、これを回避・最小化するための対策技術に関する研究を推進しており、平成15年度には、全球大気・海洋結合モデル(CGCM2)を用いた予測結果をもとに将来の降水量の変化の傾向について分析しました。

2 調査研究、監視・観測等に係る国際的な連携の確保等

(1)戦略的な地球環境の調査研究・モニタリングの推進
 地球環境保全に関する調査研究については、「平成15年度地球環境保全調査研究等総合推進計画」を踏まえ、国際的な研究計画に参加・連携しつつ、積極的に推進しました。また「地球環境研究総合推進費」制度の一環として、研究者を招聘して日本の国立試験研究機関等において共同研究を行う「国際交流研究」の枠組み等を活用し、調査研究等の充実、強化を図りました。
 また、平成15年6月のG8エビアン・サミットで合意された行動計画に基づき、今後10年間の各国の観測戦略を調整した実施計画を策定することとなり、15年7月に米国で開催された第1回地球観測サミットに参加し、各国と協力して作業に着手しました。
 監視・観測については、UNEPにおける地球環境モニタリングシステム(GEMS)、世界気象機関(WMO)における全球大気監視(GAW)計画、WMO/ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)合同海洋・海上気象専門委員会(JCOMM)の活動、全球気候観測システム(GCOS)及び全球海洋観測システム(GOOS)等の国際的な計画に参加、連携して実施しています。このうち、世界気象機関(WMO)の全球大気監視(GAW)計画の一環として、温室効果ガス、CFC等オゾン層破壊物質、オゾン層、有害紫外線等の定常観測、エーロゾルライダーを用いたエーロゾルの高度分布の測定を引き続き実施しました。また、WMO温室効果ガス世界資料センターとして全世界の温室効果ガスのデータ収集・管理・提供業務を、WMO品質保証科学センターとしてアジア・南西太平洋地域における観測データの品質向上に関する業務を、WMO全球大気監視較正センターとしてメタン等の観測方法などについての国際的な統一を図る業務を実施しました。また、全地球規模での観測を衛星観測機関と地上観測機関の協力により実現するため、平成10年に関係国際機関により統合地球観測戦略(IGOS)パートナーシップが発足しており、文部科学省及び宇宙航空研究開発機構が地球観測衛星委員会(CEOS)を通じこれに参加しています。また、世界の地上気候データ(CLIMAT)のリアルタイム収集やその品質などを監視するCLIMATリードセンター(GSNMC)の業務を平成11年1月からドイツ気象局と共同で実施しています。
 また、VLBI(超長基線電波干渉法)や、GPS(汎地球測位システム)による国際共同事業に参画し、グローバルな地殻変動等の観測・解析を実施しました。また測地基準系に基づく地球規模の海面変動の監視のための共同研究等を推進しています。
 さらに、アジア地域において、残留性有機汚染物質(POPs)の汚染実態把握を目的としたモニタリングの連携を推進しています。

(2)国際的な各主体間のネットワーキングの充実、強化
 アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)は、アジア太平洋地域において、特に開発途上国の地球変動研究の推進を積極的に支援しています。APNでは、平成11年に神戸市内に開設したAPNセンターを中核として、気候変動や生物多様性に関する国際共同研究などに対し支援を行い、地域内諸国の研究者及び政策決定者の能力向上に大きく貢献しました。また、開発途上国の地球温暖化に関する科学的能力の強化を図るために、ヨハネスブルグ・サミットにおけるパートナーシップ・イニシアティブのひとつとして提唱した「持続可能な開発のための科学的能力向上プログラム(CAPaBLE)」として、地球温暖化の影響及び緩和策に関する先導的研究や、温室効果ガスの測定手法等について開発途上国の研究者の能力向上等を推進しました。
 また、地球環境の現状と変動の把握のための「地球地図構想」を提唱し、国際標準化機構(ISO)等と連携を図りつつ、平成10年度からアジア地域の一部で地球地図データ整備を実施しています。15年7月にはデータ整備と利用の一層の推進を目的として「地球地図フォーラム2003」を沖縄で開催しました。
 さらにアジア太平洋地域の持続可能な開発のための政策決定を支援するため、「アジア太平洋環境イノベーション戦略プロジェクト(APEIS)」を推進しました。本プロジェクトでは、アジア太平洋地域の研究機関と共同で、衛星データを活用した統合的環境モニタリング、環境・経済統合モデルによる分析・評価、革新的な戦略オプションの開発を推進し、平成15年6月のエコアジアにおいてその成果を政策決定者に発信しました。

3 技術の振興

(1)環境技術の開発支援
 「持続可能な開発」の推進のため、汚染物質等の直接的な処理技術はもとより、資源、エネルギーの効率的利用のための技術等、地球環境の変化を緩和するための技術開発が必要です。また、特定の地球環境問題の解決のための技術が他の環境問題を起こさないよう配慮するとともに、開発途上国の自然的・社会的条件に適した技術の開発を推進する必要があります。
 このような観点から、地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨等国際的に対応が必要になっている分野において技術開発を推進するとともに、技術開発体制の整備、充実を図りました(表7-6-4)。
 また、環境政策上対応が急がれる技術の開発を行うため、「環境技術開発等推進費」の「実用化研究開発課題」において、「車載型NOxセンサの実用化とその利用技術に関する研究」等計10課題に対して助成を行い、環境技術の開発を促進しました。
 また、既に適用可能な段階にありながら、普及が進んでいない先進的環境技術の環境保全効果等を、第三者が客観的に実証する事業を試行的に実施する「環境技術実証モデル事業」を開始しました。
 このほか、地方公共団体の環境測定分析機関等を対象として、各分析機関における環境測定分析技術の向上を図る契機とするとともに環境測定分析の信頼性の確保に資する観点から、環境測定分析統一精度管理調査を実施しています。
平成15年度に実施した主な環境技術の開発支援

 平成15年度は、基本精度管理調査(SOx、NOx)と高等精度管理調査(ベンゼン、フタル酸ジエチルへキシル、鉛、ダイオキシン類等)について調査を実施しました。また、ホームページを利用した分析結果回収システムの改善を実施しました。さらに、引き続き極端な分析結果(外れ値等)の原因究明に取り組むとともに、従来の解析・評価に加え、より定量的な解析等を目指して新たな統計処理手法を用いた解析を実施しました。

(2)技術開発等に際しての環境配慮及び新たな課題への対応
 マイクロエレクトロニクス、新素材、バイオテクノロジー等のいわゆる先端技術を中心とした技術の開発・利用に伴い、発生源、排出形態、影響の面で新たなタイプの環境汚染の可能性が指摘されており、先端技術の産業利用に当たっては、環境面への影響を事前に十分検討して将来環境問題が生ずることがないよう配慮していくとともに、先端技術の成果の環境保全分野への応用を積極的に図っていくことが重要です。
 バイオテクノロジーのうち遺伝子組換え技術については 関係省より公表された実験段階における安全確保のための指針及び産業利用に係る指針に基づき、遺伝子組換え生物等の閉鎖系利用及び開放系利用が行われてきましたが、平成16年2月に「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」が施行され、本法の下で適切な利用の確保を図っています。組換え植物の利用については、実験室段階で利用後、隔離ほ場試験等を行い、開放系利用における生物多様性に対する安全性の確認が行われています。
 これまで、遺伝子組換え技術等バイオテクノロジーの開発・利用により、環境保全上特段の問題が生じた事例は報告されていませんが、環境省においては、環境への影響についての知見を集積してきました。
 また、農林水産省、経済産業省においては、バイオレメディエーションに関する研究開発等を実施しました。さらに、経済産業省及び環境省においては、非遺伝子組換え生物(微生物等)を用いたバイオレメディエーションに係る安全指針の適切な制度の検討に着手しました。

4 国による基盤整備等

 科学技術振興調整費による生活・社会基盤研究の生活者ニーズ対応研究において設定された「廃棄物の減量・処理などリサイクルを考えた社会の実現」、「安心して暮らすことのできる水・空気等の生活環境の創出」、「効率的で環境にやさしいエネルギーの開発」等の研究領域について関係府省の連携のもと、これらに対応した研究課題の推進を図りました。さらに、大学等において、地球環境問題に関連する幅広い学術研究の推進や大学等の研究施設の整備、充実を図るとともに、関連分野の研究者の育成を行いました。また、地球環境問題の解決に向けて、総合地球環境学研究所が実施する人文・社会科学から自然科学までの幅広い学問分野を総合化する研究プロジェクトの推進を図りました。
 また、科学研究費補助金、未来開拓学術推進事業、戦略的基礎研究推進事業、私立大学が内外の研究機関と行う環境分野等の共同研究を支援する学術フロンティア推進事業等により、環境に関する基礎研究の推進を図りました。

5 地方公共団体、民間団体等における取組の推進

 地方公共団体の環境関係試験研究機関は、監視測定、分析、調査、基礎データの収集等を広範に実施するほか、地域固有の環境問題等についての研究活動も活発に推進しています。
 これらの地方環境関係試験研究機関との緊密な連携を確保するため、平成15年度においては、地方環境試験研究機関等所長会議を開催したほか、徳島県において、環境保全・公害防止研究発表会を開催し、最新の成果の発表やパネルディスカッションを通じて情報交換の促進を図りました。
 また、独立行政法人国立環境研究所は、29の地方環境関係試験研究機関と延べ59課題の共同研究を実施しました(数値は平成15年12月現在)。

6 成果の普及等

 環境保全に貢献する技術の普及と啓発を図るため「環境技術情報ネットワーク」ホームページ(http://e-tech.eic.or.jp)を開設し、広く一般への提供を開始しました。
 地球環境保全等試験研究費(公害防止等試験研究費)及び環境技術開発等推進費に係る研究成果については、環境保全研究発表会、環境保全研究成果集等を通じ公開し、行政機関、民間企業への紹介、普及を図りました。
 廃棄物処理等科学研究については、廃棄物処理技術情報ホームページにおいて、その研究成果を広く一般に公開しているほか、「廃棄物処理科学研究発表会」と題して、研究成果の発表を行うとともに関連する海外情報も広く普及を図りました。
 地球環境研究についても、地球環境研究総合推進費ホームページにおいて、研究成果及びその評価結果を広く一般に公開しているほか、「しのびよる温暖化-健康・食・社会・生態系への影響最新知見-」と題した地球環境研究総合推進費公開シンポジウムを開催し、地球温暖化の影響に関する最新のトピックスを一般の方々にも分かりやすく紹介しました。

 第7節 環境情報の整備と提供・広報の充実

1 環境情報の体系的な整備

(1)環境情報の整備と国民等への提供
 各種の環境情報を体系的に整備し、国民等にわかりやすく提供するため、次のような取組を行いました。
 環境省ホームページ(http://www.env.go.jp/)において環境行政資料や各種ガイドライン等を掲載し、情報提供を行いました。
 「環境白書」、「図で見る環境白書」、「子ども環境白書」、英語版「図で見る環境白書」を作成、発行するとともに、全国11か所での「環境白書を読む会」の開催により積極的に白書の内容を広く普及することに努めました。環境への負荷、環境の状態、環境問題の対策に関する基礎的データを収集整理した「環境統計集」を作成しました。
 環境の状況を地理情報システム(GIS)を用いて提供する「環境GIS」を環境省と独立行政法人国立環境研究所が連携して整備し、インターネットにより情報提供しました。
 河川環境データベースについては第6章第6節参照。また、河川に関する国民の意識の高まりに応えるため、河川流量と流域からの排水量等に着目した新たな指標を考案し、全国の15の代表河川において試算しました。
 生物多様性に関する情報については、自然環境保全基礎調査(緑の国勢調査)の成果やレッドデータブック掲載種に関する情報等を整備し、「生物多様性情報システム(J-IBIS)」によりインターネットを通じて情報提供しました。また、情報の所在を横断的に検索・把握する情報源情報の検索システムとして「生物多様性情報クリアリングハウスメカニズム(CHM)」の試験運用版を公開しました。
 国立公園・野生生物のライブ映像などの各種自然情報、国立公園の利用情報などを「インターネット自然研究所」として整備し、情報提供を行いました。
 国際サンゴ礁研究・モニタリングセンターにおいて、サンゴ礁の保全に必要な情報の収集・公開等を行いました。

(2)各主体のパートナーシップの下での取組の促進
 環境省では、事業者、市民、民間団体等のあらゆる主体のパートナーシップによる取組の支援のための情報を「地球環境パートナーシッププラザ」を拠点としてホームページ(http://www.geic.or.jp/geic/)やメールマガジンを通じて情報収集や発信をしました。
 また、団体自らが実施する環境保全活動を支援するデータベース「環境らしんばん(http://plaza.geic.or.jp/)」を整備し、イベント情報等の広報のための発信支援を行いました。

2 広報の充実

(1)一般広報
 関係機関の協力によるテレビ、ラジオ、新聞、雑誌等各種媒体を通じての広報活動や、広報誌「かんきょう」の配布、広報用パンフレット等の作成・配布を通じて環境保全の重要性について広く国民に訴え意識の高揚を図りました。

(2)「環境月間の実施」
 環境基本法に定められた「環境の日」(6月5日)を含む「環境月間」(6月)においては「はじめています。地球にやさしい新生活」をテーマとし、環境展「エコライフ・フェア」をはじめとする各種行事を実施するとともに、地方公共団体等に対しても関連行事の実施を呼びかけ、環境問題に対する国民意識の一層の啓発を図りました。

(3)「環境保全功労者等表彰」の実施
 6月9日には、環境保全・地域環境保全及び地域環境美化に関し特に顕著な功績のあった人等に対し、その功績をたたえるため表彰を行いました。

(4)タウン・ミーティングの実施
 環境省発足以来、全国の主要都市において、タウン・ミーティングを開催し、地元の問題から地球環境問題まで幅広い環境問題について大臣と国民との直接意見交換を行いました。

(5)MOEメールの実施
 環境行政に関する意見・要望を受け付けるMOEメールには、平成15年度、34,962件の意見・要望が寄せられました。
 環境省では、双方向性のある情報提供を行うべく、主要な意見等を整理し、ホームページ上で回答とともに呈示しています。

 第8節 環境保健対策、公害紛争処理、環境犯罪対策

1 健康被害の救済及び予防

(1)公害健康被害の補償・予防等
ア 公害健康被害補償・予防制度の概要
 「公害健康被害の補償等に関する法律」(昭和48年法律第111号。以下「公健法」という。)は、公害健康被害者の迅速かつ公正な保護を図るため、昭和49年9月から施行され、公害健康被害者の保護に大きな役割を果たしてきました。今後とも、認定された患者の保護とともに、健康被害の予防を図る現行施策の着実な推進に努めることとしています。
イ 大気汚染系疾病
(ア)既被認定者に対する補償給付等
 平成15年12月末現在の被認定者数は53,502人であり、昭和63年3月1日をもって第一種地域の指定が解除されたため、新たな患者の認定は行われていません(表7-8-1)。平成15年度においても、被認定者に対しては、従来どおり公健法に基づき、認定の更新、補償給付( ①療養の給付及び療養費、②障害補償費、③遺族補償費、④遺族補償一時金、⑤児童補償手当、⑥療養手当、⑦葬祭料 )、公害保健福祉事業( ①リハビリテーションに関する事業、②転地療養に関する事業、③家庭における療養に必要な用具の支給に関する事業、④家庭における療養の指導に関する事業 )等が実施されています。

公害健康被害の補償等に関する法律の被認定者数等

 補償給付等に要する費用については、ばい煙発生施設等の固定発生源と自動車とに分けて負担させることとし、負担割合は8対2と定められています。
 なお、認定又は補償給付の支給に関する処分に係る審査請求を審査するため、公害健康被害補償不服審査会が設置されていますが、第一種地域関係では、平成15年12月末現在264件の審査請求があり、これまで取消し23件、却下16件、棄却144件の裁決を行ったほか、取下げが56件ありました。
(イ)健康被害予防事業の実施
 昭和63年3月の改正法の施行により、新たに大気汚染の影響による健康被害を予防するため公害健康被害補償予防協会(以下「協会」という。)により健康被害予防事業が実施されています。
 平成15年度の健康被害予防事業の実施状況は次のとおりです。
① 協会が直接行う事業
  調査研究として、大気汚染による健康影響に関する総合的研究、大気環境の改善に資する調査等を、知識の普及として、ぜんそく児水泳フェスティバルをはじめ、大気汚染防止推進月間等のキャンペーン、ぜんそく等の予防、回復等のためのパンフレットの作成等を行うとともに、健康被害予防事業従事者に対する研修を行いました。
  また、住民保健ニーズを把握するため、旧指定地域を対象に専門医による電話相談事業を試行的に実施しました。
② 協会による助成金の交付
  地方公共団体等に対して助成金を交付し、旧第一種地域等を事業実施対象地域として、大気汚染改善のための計画作成、ぜんそく等に関する健康相談、乳幼児を対象とする健康診査、ぜんそくキャンプ等の機能訓練、電気自動車等低公害車の導入、大気浄化植樹、大気汚染対策緑地整備等が行われました。
ウ 水俣病
(ア)水俣病患者の救済
【水俣病の認定】
  水俣病は、熊本県水俣湾周辺において昭和31年5月に、新潟県阿賀野川流域において40年5月に発見されたものであり、四肢末端の感覚障害、運動失調、求心性視野狭窄、中枢性聴力障害を主要症状とする中枢神経系疾患です。昭和43年にそれぞれチッソ株式会社(以下「チッソ」という。)、昭和電工株式会社(以下「昭和電工」という。)の工場から排出されたメチル水銀化合物が魚介類に蓄積し、それを経口摂取することによって起こった中毒性中枢神経系疾患であることが政府の統一見解として発表されました。
  被害の発生に際して、熊本県、新潟県等でそれぞれ独自の水俣病対策がなされていましたが、昭和44年12月に公布された「公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法」(昭和44年法律第90号。以下「救済法」という。)によりそれぞれの関係地域が指定され、法に基づく患者の認定が行われることとなり、49年9月には救済法を引き継いだ公健法に地域指定及び認定業務が引き継がれました。熊本の水俣病について、認定申請者の急増に伴い認定業務の促進が緊急の課題となったため、52年6月、水俣病に関する関係閣僚会議において「水俣病対策の推進について」の申合せを行い、これを受けて、52年7月、「後天性水俣病の判断条件について」を環境保健部長通知として示し、認定のための水俣病の医学的な診断基準を具体化、明確化しました。さらに、54年2月には「水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法」(昭和53年法律第104号)が施行され、国においても認定業務を行えることとなりました。なお、同法に基づく認定申請処分は平成14年7月をもって終了し、これまでに439件の申請があり、うち認定33件、棄却328件の処分を行ったほか、取下げが78件ありました。
  水俣病の認定については、従来から医学的な判断に基づいて行ってきたところであり、昭和60年10月の水俣病に関する医学専門家会議及び平成3年11月の中央公害対策審議会答申「今後の水俣病対策のあり方について」において、昭和52年7月の判断条件の妥当性を確認しています。
  被認定者は、平成16年2月現在で2,955人(15年2月末は2,955人)(熊本県1,775人(同1,775人)、鹿児島県490人(同490人)、新潟県690人(同690人))です。このうち生存している人は、1,043人(同1,082人)(熊本県552人(同572人)、鹿児島県200人(同204人)、新潟県291人(同306人))です。被認定者は、補償協定に基づき原因企業から直接補償を受けています。また、原因企業たるチッソには、チッソ金融支援措置が行われています。
(イ)水俣病問題の解決
【水俣病総合対策事業】
  認定申請を棄却された人を中心として行政不服審査請求や行政訴訟が行われるなど、水俣病発生地域の住民に健康上の問題が大きな社会問題となったことから、平成3年11月、中央公害対策審議会は、「今後の水俣病対策のあり方について」の答申を行いました。
  この答申を踏まえ、平成4年6月から、水俣病にも見られる四肢末端優位の感覚障害を有すると認められる者に療養費、療養手当等を支給する医療事業、地域住民に対する健康診査等を行う健康管理事業等を内容とする水俣病総合対策事業を実施しています。医療事業の対象者は、平成16年2月末現在で8,617人(15年2月末は8,777人)(熊本県6,263人(同6,375人)、鹿児島県1,929人(同1,967人)、新潟県425人(同435人))です。
【水俣病問題の解決策】
  行政不服審査請求や行政訴訟が行われるなど、未解決の水俣病問題に関し、平成7年9月、当時の与党三党(自由民主党、日本社会党、新党さきがけ)により関係者の意見を踏まえ、最終的かつ全面的な解決に向けた最終解決策が取りまとめられました。これに基づいて、7年12月までに、企業(チッソと昭和電工)と主要患者団体との間で解決のための合意が成立しました。
  この合意の概要は、水俣病に関するさまざまな紛争については、企業は、救済を求める者のうち、総合対策医療事業の対象者等に対して一時金を支払うこと、国及び県は遺憾の意など何らかの責任ある態度の表明を行うこと、救済を受ける者は訴訟等の紛争を終結させることによって早期に最終的かつ全面的な解決を図ること、紛争の終結に際し、国及び県は、所要の施策を行うことです。
  この関係当事者間の合意を踏まえ、国として水俣病問題の最終的かつ全面的な解決を図るための措置を速やかに講ずるため、平成7年12月に「水俣病対策について」を閣議了解するとともに、あわせて水俣病問題の解決に当たっての内閣総理大臣談話を閣議決定しました。
  政府としては、上記閣議了解に基づき以下の施策を実施しました。
 ① 水俣病総合対策医療事業の申請受付を平成8年1月に再開し、同年7月まで受付を行いました。
 ② 水俣病問題の最終的かつ全面的な解決にかかる救済対象者に対して、チッソが支払う一時金に関して、支援措置を講じました。
 ③ 地域再生・振興施策については、地元市町に対し、地域住民の絆の修復などのための施設である「もやい直しセンター」の設置・運営などを支援することとし、平成10年2月までに水俣市などに三つのセンターが設置されました。また、国立水俣病総合研究センターにおいては、水俣病発生地域としての特性を活かした研究機能の充実等を図りました(以下(ウ)参照)。
  閣議了解に基づく国の施策が実行に移されたことを受けて、国家賠償請求訴訟のうち関西訴訟を除き、平成8年2月及び5月に原告から訴えが取り下げられました。関西訴訟については、13年4月27日に控訴審判決が出されましたが、国などが最高裁に上告し係属中です。
(ウ)国立水俣病総合研究センター
 国立水俣病研究センターは、水俣病に関する医学的研究を行うとともに、水俣病患者の医療の向上を図るため、昭和53年熊本県水俣市に設立され、水俣病の臨床研究、基礎研究、疫学研究等が行われています。さらに平成8年度には、「国立水俣病総合研究センター」に改組し、従来の水俣病の医学的研究に加え、新たに水俣病に関する社会科学的研究、自然科学的研究、資料の収集・整理・提供を幅広く行うこととしました。また、平成13年度に水俣病情報センターを開館しました。
(エ)国際貢献
 水俣病問題の解決に当たって、平成7年12月の内閣総理大臣談話では、水俣病の悲劇を教訓として謙虚に学び、我が国の環境政策を一層進展させ、さらに、世界の国々に対し、我が国の経験や技術を活かして積極的な協力を行うなど国際的な貢献をしてまいる旨述べられました。15年度はタイ、インドネシア、中国などの国から行政担当者などを招聘し、語り部さんの講話を中心に研修を行いました。
 国立水俣病総合研究センターは、昭和61年に「有機水銀の健康影響に関するWHO協力センター」に指定されました。国内外の研究者が共同研究を行う「国際研究協力棟」を活用し、共同研究体制の強化を図りました。また水銀汚染の調査研究、技術移転等を目的として、JICAからの委嘱を受け、ブラジル、中国、タンザニアなどに専門家の派遣を行っています。
(オ)国内普及啓発
 水俣市と連携し、語り部さんの講話を行うなど国内の水俣病経験の普及啓発を行いました。平成15年度は「水俣病経験の普及啓発セミナー」を大学等の教育者・研究者40名の参加を得て東京で開催し、水俣病の教訓の共有を図りました。
エ イタイイタイ病
 平成15年12月末現在の被認定者数は4人(認定された者の総数187人)です。また、富山県は指定地域における要観察者3人(平成15年12月末現在)について経過を観察しています。
オ 慢性砒素中毒症
 平成15年12月末現在の被認定者数は、土呂久地区で58人(認定された者の総数167人)、笹ヶ谷地区で5人(認定された者の総数21人)です。

(2)環境保健に関する調査研究
ア 環境保健施策基礎調査等
(ア)大気汚染による呼吸器症状に係る調査研究
① 局地的大気汚染の健康影響に関する調査研究
  道路沿道の局地的大気汚染による健康影響については、その調査手法を確立することを目的として、昭和62年度から調査研究を実施してきました。平成15年度は、大気汚染物質の個人暴露量を把握するための試行調査を調査地域を拡充して(平成14年度2地域→平成15年度4地域)実施するとともに、客観的健康影響指標の導入のための調査研究を進め、平成17年度からの幹線道路沿道における疫学調査の実施に向けた準備を進めました。
② 環境保健サーベイランス調査
  平成15年度も引き続き、全国38地域で調査を行いました。また、平成13年度調査分のデータ解析を行い、取りまとめた結果を平成15年9月に公表しました。本調査結果によると、現在の大気汚染の濃度ではぜん息有症率と単調な相関を示す結果は得られませんでした。
③ その他
  動物を用いた暴露実験により、大気汚染物質のぜん息等の症状悪化への影響に関する調査研究を進めました。また、公害健康被害補償予防協会においても、大気汚染の影響による健康被害の予防に関する調査研究を行っています。
(イ)新たな環境要因による健康影響に関する調査研究
① 大気汚染と花粉症の相互作用に関する基礎的研究
  平成3年度から、大気汚染の花粉症発症・症状増悪への関与を究明するため、動物実験、疫学調査等を行っています。12年2月にこれまでの調査研究の成果等を取りまとめ、花粉症のメカニズムや対策、保健指導のあり方等を盛り込んだ保健指導マニュアルを作成し、15年度には各種データの更新や最近の調査研究等の取組状況を踏まえた改訂を行い、その普及に努めています。
② 電磁環境の健康影響に関する調査研究
  電磁環境の健康影響については、関係省庁が連携して調査研究を進めており、環境省では、平成2年度から文献調査等を進めるとともに、11年度からは超低周波電磁界等の個人暴露量把握に関する調査研究を実施しています。また、WHOにおいては電磁波に関する環境保健クライテリアの作成作業が進められています。
イ 重金属等の健康影響に関する調査研究
 環境中に存在している、水銀やカドミウムといった重金属等の健康影響に関して、科学的な知見を得るために、以下のような調査研究が行われています。
① 水銀
  水俣病については、昭和31年に公式認定されてから数多くの調査研究が実施され、発症原因の究明をはじめ、水俣病像の確立など多大な研究成果を上げてきたところです。
  一方、メチル水銀の毒性メカニズム等、いまだ十分に解明されていない課題も残っており、また、低濃度メチル水銀への暴露による健康影響等の新しい課題もでてきています。
  これらに対応するため、基礎的研究及び応用的研究の推進、情報収集・整理等により、水俣病やメチル水銀に関する最新の知見の収集に努めているほか、国際的に高く評価されている水銀の分析法がさらに広く供されるよう、水銀分析マニュアルを策定し、公表しました。
② カドミウム
  イタイイタイ病の発症の仕組み及びカドミウムの健康影響については、なお未解明な事項もあるため、現在も基礎医学的な研究や、富山県神通川流域の住民を対象とした健康調査などを引き続き実施し、その究明に努めています。

2 公害紛争処理等

(1)公害紛争の処理状況
 公害紛争については、公害等調整委員会及び都道府県に置かれている都道府県公害審査会等が「公害紛争処理法」(昭和45年法律第108号)の定めるところにより処理することとされています。
 公害紛争処理法に定められている公害紛争処理手続には、あっせん、調停、仲裁及び裁定の4つがあり、これらのうち裁定には、公害に係る被害についての損害賠償責任の有無及び賠償すべき損害額を判断する責任裁定と、加害行為と被害の発生との間の因果関係の存否について判断する原因裁定の2種類があります。
 公害等調整委員会は、裁定を専属的に行うほか、重大事件(水俣病やイタイイタイ病などの事件)、広域処理事件(航空機騒音や新幹線騒音)等について、あっせん、調停及び仲裁を行い、都道府県公害審査会等は、それ以外の紛争について、あっせん、調停及び仲裁を行っています。
ア 公害等調整委員会に係属した事件
 平成15年中に公害等調整委員会が受け付けた公害紛争事件は10件で、これらに前年から繰り越された12件を加えた計22件が15年中に係属しました。係属した事件の内訳は、表7-8-2のとおりです。

公害等調整委員会に係属した事件

 このうち平成15年中に終結した事件は11件で、残り11件が平成16年に繰り越されました。
 終結した主な事件として、尼崎大気汚染公害訴訟における大阪高等裁判所での和解条項を誠実に履行することを求めたことについて、①大型車の交通量低減のための総合的な調査の実施、②環境ロードプライシングの試行、③大型車の交通規制の可否の検討に係る警察庁への要請、④連絡会の運営の円滑化、⑤関係機関等との連携の推進の5項目についてのあっせんが成立した「尼崎市大気汚染被害防止あっせん申請事件」、かつてメッキ工場が排出した有害物質が土壌汚染の原因であるとの裁定を求め、職権により調停が成立した「大阪市におけるメッキ工場による土壌汚染財産被害原因裁定申請事件」があります。
 また、新たに受け付けた主な事件としては、有明海における漁業被害は国営諫早湾土地改良事業の工事によるものであるとの裁定を求めた「有明海における干拓事業漁業被害原因裁定申請事件」があります。
イ 都道府県公害審査会等に係属した事件
 平成15年中に都道府県の公害審査会等が受け付けた公害紛争事件は34件で、これに前年から繰り越された54件を加えた計88件(すべて調停事件)が15年中に係属しました。このうち平成15年中に終結した事件は37件で、残り51件が16年に繰り越されました。
ウ 公害紛争処理に関する連絡協議
 公害紛争の適切な処理を図るため、公害紛争処理連絡協議会、公害紛争処理関係ブロック会議等を開催し、公害等調整委員会及び都道府県公害審査会等の相互の情報交換・連絡協議に努めました。

(2)公害苦情の処理状況
ア 公害苦情処理制度
 公害に関する苦情は、地域住民の生活に密着した問題であり、その適切な処理は、住民の生活環境を保全するためにも、また、将来の公害紛争の未然防止のためにも極めて重要です。
 このような観点から、公害紛争処理法においては、地方公共団体は、関係行政機関と協力して公害に関する苦情の適切な処理に努めるべきものと規定され、さらに、都道府県及び市区町村は、公害苦情相談員を置くことができるとされています。
 また、公害等調整委員会は、地方公共団体の長に対し、公害に関する苦情の処理状況について報告を求めるとともに、地方公共団体が行う公害苦情の適切な処理のための指導及び情報の提供を行っています。
イ 公害苦情の受付状況
 平成14年度に全国の地方公共団体の公害苦情相談窓口が受け付けた苦情件数は、9万6,613件です。このうち、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下及び悪臭のいわゆる「典型7公害」の苦情件数は6万6,727件で、前年度に比べて905件(1.3%)減少しました。一方、廃棄物の不法投棄、動物の死骸放置、害虫等の発生など「典型7公害以外」の苦情件数は2万9,886件で、前年度に比べて2,751件(10.1%)増加しました。種類別では廃棄物の不法投棄が1万3,649件と最も多く、「典型7公害以外」の苦情件数の45.7%を占めています。
ウ 公害苦情の処理状況
 平成14年度において、典型7公害の苦情の申立てから処理までに要した期間をみると、1か月以内に74.3%が処理されています。
エ 公害苦情処理に関する指導等
 地方公共団体が行う公害苦情の処理に関する指導等を行うため、公害苦情の処理に当たる地方公共団体の担当者を対象とした公害苦情相談研究会及び公害苦情相談員等ブロック会議を開催しました。

3 環境犯罪対策

(1)環境犯罪対策の推進
 警察では、環境を破壊する悪質な行為を環境犯罪ととらえ、特に廃棄物の不法投棄事犯等を重点対象として、組織的・広域的な事犯、暴力団が関与する事犯、行政指導を無視して行われる事犯等を中心に取締りを推進しています。
平成15年中に検挙した環境犯罪の検挙件数は3,911件で、過去5年間における環境犯罪の法令別検挙件数の推移は、表7-8-3のとおりです。
環境犯罪の法令別検挙件数の推移(平成11年度~平成15年度)

(2)廃棄物事犯の取締り
 警察が平成15年中に廃棄物処理法違反で検挙した3,784件の態様別検挙件数は、表7-8-4のとおりです。このうち不法投棄事犯が75.4%、また、産業廃棄物事犯が42.7%を占めています。

(3)水質汚濁事犯の取締り
 警察では、平成15年中に水質汚濁防止法違反により水質汚濁事犯を5件検挙し、いずれも工場等が水質汚濁防止法に定められた基準に違反して汚水を排出した排出基準違反でした。
廃棄物処理法違反の態様別検挙件数(平成15年度)

(4)検察庁における公害関係法令違反事件の受理・処理状況
 最近5年間において全国の検察庁で取り扱った公害関係法令違反事件の受理・処理人員の推移は、表7-8-5のとおりであり、平成15年中の通常受理人員は5,461人で、前年より599人増加しています。
 平成15年中における罪名別公害関係法令違反事件の通常受理・処理人員は、表7-8-6のとおりです。受理人員は、廃棄物処理法違反の4,818人が最も多く、全体の約88.2パーセントを占め、次いで、海防法違反(411人)となっています。処理人員は、起訴人員が3,805人、不起訴人員が1,622人となっており、起訴率は約70.1パーセントとなっています。起訴人員のうち公判請求された者は983人、略式命令請求された者は2,822人となっています。
公害関係法令違反通常受理・処理人員の推移

罪名別公害関係法令事件通常受理・処理人員(平成15年)

 第9節 国際的取組に係る施策

1 地球環境保全等に関する国際協力等の推進

 地球環境問題に対処するため、①国際機関の活動への支援、②条約・議定書の国際交渉への積極的参加、③諸外国との協力、④開発途上地域への支援を積極的に行っています。
 また、政府一体となった地球環境保全関係施策の効果的な推進に資する観点から、関係省庁全体の地球環境保全関係予算を集計しており、平成15年度の総額は9,230億円でした。平成16年度の総額は8,334億円であり、前年度に比べ9.7%減となっています(表7-9-1)。

平成16年度及び平成15年度地球環境保全関係予算について

(1)地球環境保全に関する国際的な連携の確保
ア 多国間の枠組みによる連携
(ア)国連を通じた取組
①国連持続可能な開発委員会(CSD)
  国連持続可能な開発委員会(CSD)第11会期が、2003年(平成15年)4月~5月に米国・ニューヨークの国連本部にて開催されました。今回の会合では、2002年(平成14年)に開催された持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)の成果を踏まえて、CSDの今後の行動計画を主なテーマとして議論が行われました。
②国連環境計画(UNEP)における活動
  日本は、創設当初から一貫して国連環境計画(UNEP)の管理理事国であるとともに、国連環境基金に対し、2002年(平成14年)は約410万ドルを拠出する等多大な貢献を行っています。2004年(平成16年)3月には、UNEP第8回管理理事会特別会合及び第5回グローバル閣僚級環境フォーラムが韓国・済州島で開催され、ヨハネスブルグ・サミットのフォローアップ(CSDへ向けたUNEPの貢献)や国際環境ガバナンスなどについて議論が行われました。
  2003年(平成15年)10月には UNEP・金融イニシアティブ(FI)の金融と環境に関する国際会議が東京で開催され、経済的発展と環境保護の両立について積極的に情報交換が行われました。
  また、UNEP親善大使である加藤登紀子さんが、2003年(平成15年)5月にウズベキスタン共和国等を、9月にフィジー諸島共和国等を訪問し、草の根レベルの環境保全活動を視察するとともに関係者と交流し、広報を行うなどの活動を支援・推進しました。
  そのほか、日本に事務所を置くUNEP国際環境技術センター(IETC)が実施する開発途上国等への環境上適正な技術(EST)の移転を目的とした環境保全技術データベース等の事業を支援・推進しました。
③国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)における活動
  国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)のグローバリゼーション対処委員会が2003年(平成15年)11月にタイ・バンコクにて開催され、環境分野では「環境と持続可能な開発」がテーマとして議論が行われました。
(イ)経済協力開発機構(OECD)における取組
 最近の経済協力開発機構(OECD)・環境政策委員会では、拡大生産者責任(EPR)ガイダンスマニュアル、環境アウトルック等が公表され広く活用されています。
 環境政策委員会ではこの数年、各加盟国が順次「OECD21世紀最初の10年の環境戦略」の実施について報告しており、日本は2003年(平成15年)11月の環境政策委員会で報告を行いました。
 2002年(平成14年)10月より経済審査のテーマの1つとして持続可能な開発に関する国別審査が行われており、日本は2003年(平成15年)3月に審査ミッションを受け入れ、2003年(平成15年)10月の審査会合を経て同テーマの審査を含む審査報告書が作成、出版されています。
 OECDの輸出信用グループは、輸出信用機関による環境配慮のための「環境と輸出信用に関する共通アプローチ」を作成し、一部の国を除く同グループのメンバー国は、2001年(平成13年)11月、同アプローチを2002年(平成14年)より自主的に実施することとしました。さらに、この自主的実施の経験・実績を踏まえ、2003年(平成15年)に、より環境に配慮した内容をめざした改訂作業を行い、改訂された同共通アプローチはOECD勧告として同年12月に合意されました。
(ウ)世界貿易機関(WTO)等における取組
 2001年(平成13年)11月にカタール・ドーハで開催された世界貿易機関(WTO)第4回閣僚会議で採択された閣僚宣言に基づき、WTO貿易と環境に関する委員会(CTE)では、WTOルールと多国間環境協定(MEAs)が規定する特定の貿易上の義務との関係や、環境関連の物品及びサービスの関税・非関税障壁の削減または撤廃等について、WTOドーハ開発アジェンダ交渉の下で交渉が行われています。2003年(平成15年)9月にメキシコ・カンクンで開催された第5回閣僚会議では合意は得られなかったものの、現在引き続き交渉が行われています。
 WTOにおける多国間の貿易自由化に加え、二か国間や地域ごとの自由貿易や経済連携を進める協定の締結が急速に進められています。日本は2002年(平成14年)にシンガポールと経済連携協定を締結し、2004年(平成16年)3月にはメキシコとの経済連携協定について大筋で合意、現在は韓国、ASEANなどとの間でも交渉を行っています。このような状況を踏まえ、自由貿易協定・経済連携協定と環境保全との相互支持性を向上させるための具体的手法について検討を行っています。
(エ)主要国首脳会議(G8サミット)における環境問題への取組
 2003年(平成15年)6月のフランスで開催されたエビアン・サミットでは、「持続可能な開発のための科学技術G8行動計画」が策定され、地球観測、エネルギー技術の研究・開発・普及、農業及び生物多様性、物質フロー及び資源生産性に関する作業の促進などのために、国際的な協力を推進していくことを確認しました。
(オ)G8環境大臣会合
 2003年(平成15年)4月にフランス・パリにおいて、G8環境大臣会合が開催されました。ヨハネスブルグ実施計画や第3回世界水フォーラムの閣僚宣言を踏まえた活発な議論が行われ、持続可能な生産・消費、国際環境ガバナンスなどに焦点を当てたコミュニケを採択しました。
(カ)アジア・太平洋地域における取組
①アジア太平洋環境会議(エコアジア)
  2003年(平成15年)6月に、神奈川県葉山町において第11回アジア太平洋環境会議(エコアジア)を開催しました。同会議には、5名の環境大臣を含むアジア太平洋地域の20カ国及び12国際機関が参加し、「循環型社会実現への取組」、「持続可能な開発に関する世界首脳会議の具体的実施」をテーマとして議論が行われました。
②アジア太平洋環境開発フォーラム(APFED)
  2003年(平成15年)8月に、アジア太平洋環境開発フォーラム(APFED)の第4回会合がモンゴル・ウランバートルで開催され、2004年(平成16年)中に取りまとめる予定の最終報告書についての議論を行いました。
③アジア太平洋環境イノベーション戦略プロジェクト(APEIS)
  アジア太平洋地域の持続可能な開発の実現に向けて、各国との共働により、衛星データ等を活用した統合的モニタリング・評価体制の構築、革新的な環境戦略オプションの開発を行い、その成果をアジア太平洋地域の政策決定者に発信しています。
④ESCAP・北東アジア環境協力高級事務レベル会議
  2004年(平成16年)3月に、ロシア・モスクワにおいて第9回ESCAP・北東アジア環境協力高級事務レベル会議が開催されました。会議では、現在実施されているプロジェクトなどについて話し合われました。
⑤環日本海環境協力会議(NEAC)
  2003年(平成15年)11月に、富山県富山市において第12回環日本海環境協力会議(NEAC)が開催されました。会議では、「黄砂を取り巻く各国の現況」と題した公開シンポジウムを行うとともに、「海洋環境の保全」「循環型社会の形成」「地方公共団体を中心とした北東アジア地域の環境協力」について、幅広い観点から議論が行われました。
⑥日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM)
  2003年(平成15年)12月に、中国・北京市において第5回日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM)が開催され、気候変動問題等の地球環境問題や、黄砂等の北東アジア地域の環境問題について話し合われました。また、大臣会合に基づくプロジェクトの推進について意見交換が行われ、その成果が共同コミュニケとして取りまとめられました。
⑦東南アジア諸国連合(ASEAN)+3(日中韓)環境大臣会合
  2003年(平成15年)12月に、東南アジア諸国連合(ASEAN)に日中韓の三カ国を加えたASEAN+3環境大臣会合の第2回会合がミャンマー・ヤンゴンで開催され、ASEAN+3の域内における環境協力の具体化に向けた意見交換が行われたほか、ASEAN+3の協力枠組を今後どう強化していくかについて議論が行われました。
⑧ASEM環境大臣会合
  2003年(平成15年)10月にイタリア・レッチェにおいてアジア欧州会合(ASEM)第2回環境大臣会合が開催され、ヨハネスブルグ・サミットのフォローアップ、多国間環境問題、気候変動(地球温暖化問題)、将来のASEMにおける更なる対話と協力等について議論が行われました。
⑨日本・太平洋諸島フォーラム(PIF)首脳会議
  2003年(平成15年)5月に、日本・太平洋諸島フォーラム(PIF)首脳会議(通称:太平洋・島サミット)が沖縄で開催され、小泉総理を始め各国首脳級の参加があり、環境セッションでは、ゴミ処理、自然環境保全、地球温暖化等について議論が行われました。
⑩交通と環境に関するマニラ政策対話(Manila Policy Dialogue on Environment and Transport in the Asian Region)
  2004年(平成16年)1月、環境省はフィリピン運輸通信省と「交通と環境に関するマニラ政策対話」を共同開催し、環境面から持続可能な交通の構築に向けた国・地域レベルの戦略計画策定の必要性を認識し、各国の環境と交通に関連した問題について情報交換・意見交換を進める地域フォーラムを設立することなど「マニラ宣言」において採択しました。
(キ)世界水フォーラムのフォローアップ
 2003年(平成15年)3月、日本政府が主催した第3回世界水フォーラム閣僚級国際会議において発表された「水行動集」をフォローアップするためのウェブサイト(「PWAウェブサイトネットワーク」http://www.pwa-web.org/)を11月に本格供用しました。また、水に関する国際会議への積極的な参加及び日本提案の水行動の具体的取組に着手する等、世界的な水問題の解決に向けた国際連携に努めました。
(ク)国内における取組
①「アジェンダ21」に基づく取組
  日本は、「アジェンダ21」行動計画に則り、持続可能な開発の達成に向けた種々の取組を行っています。また、アジェンダ21においては、その実施主体として地方公共団体の役割を期待しており、地方公共団体の取組を効果的に進めるため、ローカルアジェンダ21を策定することを求めていますが、平成15年3月1日現在、47都道府県、12政令指定都市、318市区町村で策定されています。さらに、ヨハネスブルグ・サミットでは、国際環境自治体協議会(ICLEI)などのイニシアティブにより、ローカルアジェンダ21を具体的な行動に移していくための「ローカルアクション21」を進めていくことが合意されました。
②持続可能な開発のための日本評議会(JCSD)
  持続可能な開発のための日本評議会(JCSD)では、ヨハネスブルグ・サミットで合意された実施計画の我が国におけるフォローアップ等について、情報の共有及び意見交換を行いました。
イ 二国間の枠組みによる連携
(ア)環境保護協力協定に基づく取組
 米国とは、2004年(平成16年)1月、東京で第12回日米環境保護合同企画調整委員会(JPCC)を開催し、両国の環境政策、化学物質対策などについて意見交換を行いました。
 ロシアとは、2003年(平成15年)6月に、第4回日露環境保護合同委員会を開催し、両国の環境政策について意見交換を行いました。また2003~2004年度の環境保護協力計画について議論を行いました。
 韓国とは、2003年(平成15年)7月に、第8回日韓環境保護協力合同委員会が韓国において開催され、両国の環境政策などさまざまな環境問題について話し合われたほか、継続分19件とともに、新たに4件の新規プロジェクトを実施することが決定されました。
 このほか、ドイツ及び中国と環境保護協力協定に基づく協力を進めています。
(イ)科学技術協力協定に基づく取組
 米国、カナダ、フランス等との科学技術協力協定に基づく合同委員会が開催され、環境分野における共同研究等の協力が進められています。他にも、ドイツ、ロシア、中国等と科学技術協力協定に基づく協力プロジェクトを通じ、環境分野の国際協力を実施しています。
(ウ)その他の取組
 2003年(平成15年)7月に小泉総理大臣とブレア首相は日英首脳会談を行った際、気候変動問題など環境問題についても意見交換をしました。両首脳は、科学面、技術面及び政策面での日英両国の一層の協力が必要であるとして、「科学技術」、「排出量削減」などの6分野において日英間の具体的な協力を明らかにした「環境問題に取り組むための日英協力」と題する共同声明を発表しました。
 1997年(平成9年)9月に当時の橋本総理と中国の李鵬総理との間で「日中環境開発モデル都市構想」と「環境情報ネットワーク整備計画」の2本柱からなる「21世紀に向けた日中環境協力」について意見の一致をみました。「日中環境開発モデル都市構想」は、重慶、貴陽及び大連をモデル都市として大気汚染対策等に集中的に円借款等を供与するもので、専門家の派遣や開発調査等も組み合わせて事業を実施しています。また、「環境情報ネットワーク整備計画」は、中国の100都市に環境情報のためのコンピュータネットワークを無償資金協力で整備する構想で、2004年(平成16年)3月までにすべての都市についてネットワークの整備が行われました。
ウ 海外広報の推進
 環境省は、日本の環境政策の紹介のための広報パンフレット「Annual Report on the Environ-ment in Japan 2003」(図でみる環境白書の英語版)等海外広報資料の作成・配布やインターネットを通じた海外広報を行っています。また、アジア太平洋地域内の各国及び各国際機関がインターネットを通じて環境情報を提供するアジア太平洋環境情報ネットワーク(エコアジア・ネット、http://www.ecoasia.org/)により、英語による環境情報の提供を行っています。

(2)開発途上地域の環境の保全
 わが国は政府開発援助(ODA)による開発途上国支援を積極的に行っていますが、ODAの原則となる「政府開発援助大綱」が、社会・経済的な状況等の変化を受けて、平成15年8月29日に、11年ぶりに改定されました。『環境』は、「重点課題」の中の「地球的規模の問題」の一つとされ、『環境と開発の両立』が、引き続き「援助実施の原則」の第一番目に位置付けられています。さらに、「公平性の確保」といった「基本方針」や、「適正な手続きの確保」といった「効果的実施のために必要な事項」の中にも、『環境』が新たに明記されるなど、重要な観点として記述されています。
 さらに、ODAを中心としたわが国の国際環境協力についての理念、基本方針及び行動計画を示すものとして、平成14年8月に「持続可能な開発のための環境保全イニシアティブ(EcoISD)」が表明されています。具体的には①人間の安全保障、②自助努力と連帯、③環境と開発の両立の3つを理念とし、①環境対処能力向上、②積極的な環境要素の取り込み、③我が国の先導的な働きかけ、④総合的・包括的枠組みによる協力、⑤我が国の経験と科学技術の活用の5つを基本方針とし、①地球温暖化対策、②環境汚染対策、③「水」問題への取組、④自然環境保全を重点分野とする行動計画を掲げています。
ア 技術協力
 国際協力機構(JICA)を通じて、研修員の受入、環境専門家の派遣、機材供与、またそれらを組み合わせた技術協力プロジェクト(表7-9-2)、さらに開発途上国の環境保全に関する計画策定を支援するための開発調査など、開発途上国への技術協力を積極的に行っています。

主な技術協力プロジェクト

イ 無償資金協力
 無償資金協力は、居住環境改善(都市の上水道整備、地方の井戸掘削など)、地球温暖化関連(エネルギー効率向上)等の各分野において実施しています(表7-9-3)。また、草の根・人間の安全保障無償資金協力についても貧困対策に関連した環境分野の案件を積極的に実施しています。

主な地球環境無償の実績(平成13~15年度)

ウ 有償資金協力
 有償資金協力は経済インフラ型案件・社会インフラ型案件への援助等を通じ開発途上国が持続可能な開発を進める上で大きな効果を発揮します。環境関連分野でも同様であり、上下水道、大気汚染対策、地球温暖化対策等の事業に対し、日本は国際協力銀行(JBIC)を通じ、積極的に円借款を供与しています(表7-9-4)。

主な有償資金協力(円借款)プロジェクト

エ 国際機関を通じた協力
 各種国際機関を通じた協力は、特に二国間協力のみでは十分に対応できない地球環境保全対策、共通の取組のための指針作り、情報量の少ない国・分野への取組等を進める観点から重要です。
 日本は、UNEPの国連環境基金、UNEP国際環境技術センター技術協力信託基金等に対し拠出を行っており、また、日本が主要拠出国及び出資国となっている国連開発計画(UNDP)、世界銀行、アジア開発銀行等の国際機関も環境分野の取組を強化しており、これらの機関を通じた協力も環境分野では重要になってきています。
 地球環境ファシリティ(GEF)は、開発途上国で行う地球環境保全のためのプロジェクトに対して、主として無償資金を供与する国際的資金メカニズムです。日本は主要な資金の拠出国として、実質的な意思決定機関である評議会の場等を通じて、GEFの活動に積極的に参画しています。

(3)国際協力の円滑な実施のための国内基盤の整備
 国際会議における専門的かつ技術的議論の進展と国際世論づくりに一層貢献していくため、政府内の専門家の育成に努めるとともに、政府外の専門家の知見の活用を図るため、NGO、学術研究機関、産業界などとの連携を強めました。
 また、開発途上国に移転可能な技術、国内に蓄積されている経験等各種情報を収集・整理し、円滑な技術移転のための基盤整備を進めました。さらに、国民の理解と支持を得るための環境省ホームページを活用した広報等を行いました( 『持続可能な開発に向けた国際環境協力』http://www.env.go.jp/earth/coop/coop/index.html)。

2 国際協力の実施等に当たっての環境配慮

(1)ODA及び輸出信用等における環境配慮
 技術協力等を担当する国際協力機構(JICA)では、現行の環境配慮ガイドラインを改定するため平成14年度より「JICA環境社会配慮ガイドラインに関する改定委員会」を設置し検討を行い、15年9月に同委員会より提言が出されました。同年10月にJICAが独立行政法人化されましたが、JICA中期目標及び中期計画に基づき、JICAは同委員会提言をも踏まえる形で、新ガイドラインを策定しました。
 国際協力銀行(JBIC)においては、円借款事業と輸出信用等で別に作成していた環境ガイドラインを一本化し、より強化するために「環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン」を策定し、平成15年10月より全面的に適用しています。また、「新環境ガイドラインに基づく異議申立て手続きに係るパブリック・コンサルテーション」を開催し、JBICのガイドライン不遵守に係る異議申立て制度の検討を行い、15年5月に「環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドラインに基づく異議申立手続要綱」を制定・公表し、15年10月より施行しています。
 輸出信用機関である日本貿易保険(NEXI)では、平成14年4月に改正した「貿易保険における環境社会配慮のためのガイドライン」を、15年10月から全面的に実施するとともに、15年9月には「貿易保険における環境社会配慮のためのガイドライン異議申立手続等について」と題する手続要綱を制定し、同年10月から実施しています。
 また、OECD開発援助委員会(DAC)では、開発援助と環境に関するネットワークにおいて、途上国が開発政策に環境を統合して持続可能な国家戦略を作成する上での支援方策、及び途上国が地球環境関係の諸条約に対応する上での支援方策に関するガイドラインが策定されており、これらの普及に向けた検討が行われています。

(2)民間の海外事業に対する環境配慮
(社)経済団体連合会(現・(社)日本経済団体連合会)が「経団連環境アピール」(平成8年)をまとめ、「経団連環境自主行動計画」(平成9年)を発表したり、海外の日本人商工会議所が、現地の環境の情報をまとめたりするなど経済団体が自主的な取組を行っています。
 環境省においては、平成8年度から在外日系企業の環境配慮活動の取組や経験に関する具体的な事例を国別に調査し提供しています。15年度は中国を対象に現地調査を含めた関連調査を実施しました。

3 地方公共団体又は民間団体による活動の推進

(1)地方公共団体の活動
 地方公共団体は、国内や世界の地方公共団体などと共同して、生活環境から地球規模の環境問題まで積極的に取り組んでいます。地方公共団体の主なネットワークとして、クリーンな環境のための北九州イニシアティブ持続可能な都市のための20%クラブ、国際環境自治体協議会(ICLEI)などがあります。このようなネットワークは、地方公共団体の連携を強化するとともに、国や国際機関などさまざまな主体との連携にも拡がっています。
 国際協力機構(JICA)を通じて、多数の地方公共団体の環境専門家を開発途上国へ派遣しています。また、多くの開発途上国からの研修員が全国各地の地方公共団体やその試験研究機関等で技術を修得しています。
 さらに、姉妹友好都市等からの研修員受入れ、会議の開催及び情報交換、開発途上国現地における技術指導、機材等の贈与など地方公共団体が独自に行う環境協力も進められています。

(2)民間の活動
 公害防止装置をはじめとする環境保全技術の多くは、政府の規制・指導、国民意識の高まり等に応じて、民間企業によって開発されてきたものです。また、開発途上国への技術移転においては、直接投資等、民間企業が果たす役割も大きくなっています。
 公益法人やNPO法人、任意団体をはじめとする多くの民間団体が、政府レベルから草の根レベルまでの環境保全プロジェクトの実施、環境協力に関するシンポジウム、講演会、セミナーの開催等により国際環境協力の推進に取り組んでいます。こうした民間団体の活動は、環境事業団の地球環境基金、外務省のNGO事業補助金、日本NGO支援無償資金協力及び草の根・人間の安全保障無償資金協力、日本郵政公社の寄附金付お年玉付郵便葉書等に付加された寄附金や国際ボランティア貯金の寄附金の配分等による支援が行われていることや国民の関心の高まりにつれて、ますます活発となっています。