第6章
 自然環境の保全と自然とのふれあいの推進

 第1節 自然環境等の現状

1 自然環境の現状

 ここでは、自然環境保全基礎調査(緑の国勢調査)の調査結果を中心に国土の自然環境を概観します。

(1)日本列島の植生
 日本の代表的な気候的極相は、①南西諸島から東北南部に広がるタブ、カシ類、シイ類といった常緑広葉樹(照葉樹)の森林、②九州南部から北海道南部までの、常緑広葉樹林より寒冷な地域に広がるブナ林などの落葉広葉樹の森林、③北海道に広がるエゾマツ、トドマツといった針葉樹とミズナラ等の落葉広葉樹の混成する針広混交林、④エゾマツ、トドマツ林に代表される亜寒帯針葉樹林等です。自然性の高い地域ではこうした極相の植生が見られますが、その地域は必ずしも多くはありません。
 植生区分別に見ると、自然植生が減少し、植林地・耕作地植生やその他が増加しています。また、自然度別に見ると、自然林等が減少し、農耕地(水田・畑)や市街地・造成地等が増加しており、自然林に自然草原を加えた自然植生は国土の2割を切っており、その半分以上が北海道にあります(表6-1-1地方別に見る植生自然度の構成比)。
植生自然度の変化状況

地方別に見る植生自然度の構成比

 日本で、森林・草原・農耕地等何らかの緑で覆われた地域は、全国土の92.4%に達します。中でも森林は66.5%を占め、アメリカ(23.2%)、イギリス(9.9%)、フランス(27.3%)、ドイツ(30.7%)、カナダ(26.5%)(海外の数値はFAOの1999年次の統計値)と比較しても高い比率といえます。

(2)日本列島の多様な動物分布
 本州以北に生息する大部分の日本の動物は、例えばトガリネズミ類、リス類、イタチ類は中国華中以北のユーラシア大陸に生息する動物との類縁性が高く、渡瀬線以南の奄美・琉球諸島の動物、例えばケナガネズミは台湾や東南アジア諸国に近縁種が多く生息します。また、島国という地理的特徴による隔離効果により、ヒミズ、ヤマネ、アマミノクロウサギのような固有種も多数存在します。

(3)湖沼
 480湖沼を対象にした第5回調査では、自然湖岸が減少し人工湖岸が増加しており、自然地が保全されている湖岸は全体の約57%、人為的改変を受けている湖岸は約43%となっています。
 60湖沼を対象にした生息魚種数の調査では、1つの湖沼に生息する魚種は、平均で約25種です。外国産の移入魚種であるブラックバス、ブルーギル、ソウギョ等の生息が調査対象の湖沼の約3分の1で確認されています。こうした外国産移入魚種は各地の湖沼で定着しつつあり、湖沼の魚類相を含む生態系への悪影響が懸念されています。

(4)河川
 日本の河川の原生流域(1,000ha以上にわたり人工構造物、森林伐採等の人為の影響が見られない流域)は102流域、面積201,037ha存在し、北海道、東北、中部地方に偏在しています。北海道・本州以外の原生流域は鹿児島県屋久島、沖縄県西表島のみです。平成4年度(第4回調査)から平成10年度(第5回調査)にかけて3つの原生流域が新たに選定されましたが、流域面積は203,519 haから201,037haに、2,482 ha減少しています。減少の理由は、伐採・車道の新設などです。
 
(5)海岸、藻場、干潟、サンゴ礁の状況
 海岸は、人工海岸が増加傾向にあり、自然海岸の減少がさらに深刻化しました(表6-1-2)。
 藻場は、全国で142,459ha(10m以浅を対象。兵庫県及び徳島県を除く。)の面積が確認されています。藻場の消滅の原因の上位は、埋立てと磯焼けが占めています。
 干潟は、49,380.3ha(兵庫県及び徳島県を除く。)確認され、うち有明海が約4割を占めています。また、第4回調査時以降、1,870haの干潟が消滅したことが判明しました。最も多く干潟が消滅したのも有明海で、その面積は322.3haに達していました(図6-1-2)。

全国の海岸線延長の推移
全国の干潟面積の推移

 サンゴ礁地形は、鹿児島県のトカラ列島以南に多く存在します。八重山列島には国内最大の面積のサンゴ礁があり、同海域の造礁サンゴ類の種の多様性は世界でも屈指のものです。近年、海水温の上昇による白化現象、オニヒトデの食害、陸域からの赤土等の流入負荷等による影響が懸念されています。

2 野生生物種の現状

(1)生物多様性
 日本には、動物は脊椎動物約1,400種、無脊椎動物約35,000種、植物は維管束植物約7,000種、藻類約5,500種、蘚苔類約1,800種、地衣類約1,000種、菌類約16,500種(いずれも海棲のものを除く。)の存在が確認されています。多様な生物種の生息を可能にしている要因は、亜熱帯から亜寒帯にわたる気候帯や起伏に富み標高差のある国土といった多様な自然環境です。
 日本では、自然林や干潟等が減少し、都市化等に伴う汚染や汚濁など生物の生息環境の悪化・消滅、あるいは希少な動植物の乱獲、密猟、盗掘等も進みました。さらに里地自然地域等と人とのかかわりの減少も、二次的な自然環境に適応してきた生物の生息・生育の場を減少させています。この結果、多くの種が存続を脅かされています。
 また、国外あるいは地域外からの生物種の移入は、他の種を捕食することや生息場所を奪うことにより在来種を圧迫すること、在来の近縁な種と交雑すること等によって生態系をかく乱し、生物多様性の減少をもたらしています。日本では南西諸島のマングース、小笠原諸島のノヤギ等、各地で生物多様性への影響が指摘されています。

(2)絶滅の危機にさらされている野生動植物
 絶滅のおそれのある野生生物の種を「哺乳類」「鳥類」等の分類群ごとに取りまとめたレッドリストでは、種の存続の危機の高い順に「絶滅危惧ⅠA類」、「絶滅危惧ⅠB類」、「絶滅危惧Ⅱ類」、「準絶滅危惧」のカテゴリーに分類しています(表6-1-3)。日本に生息する哺乳類、両生類、汽水・淡水魚類、維管束植物の2割強、爬虫類の2割弱、鳥類の1割強に当たる2,663種が、絶滅のおそれのある種に分類されています。

わが国における絶滅のおそれのある野生生物の種類(レッドデータブック・レッドリスト掲載種数表)

(3)鳥獣の保護管理
 西中国山地のツキノワグマ等のように生息域の分断などにより地域的に絶滅のおそれがある鳥獣や、ニホンジカなどのように地域的に増加又は分布域を拡大して、農林業被害や自然生態系のかく乱など人とのあつれきをおこしている鳥獣もいます。

(4)水産資源
 水産物の生産量は平成元年以降減少し、平成14年の生産量は約440万tになりました。主要魚種別には、まいわし、すけとうだら、さば類及びまあじの生産量が減少しています。日本の周辺水域では、するめいか、かつお等の一部の魚種で資源状態が高い水準にあるものの、まいわし、まさば、底魚類等の多くの魚種で低い水準にあります。水産資源が減少した原因としては、水温等の海洋環境の影響に加え、藻場・干潟の埋立て等の沿岸域の開発や漁船性能の向上等による漁獲能力の向上等が大きく関与していると考えられます。

 第2節 生物多様性の保全のための取組

 日本は、平成5年に「生物の多様性に関する条約」を締結し、平成7年に「生物多様性国家戦略」を定めました。平成14年3月には、「自然と共生する社会」を政府全体として実現することを目的とした自然の保全と再生のためのトータルプランとして、「新・生物多様性国家戦略」が地球環境保全に関する関係閣僚会議で決定されました(図6-2-1)。

新・生物多様性国家戦略の概要

 また、平成11年度からは第6回自然環境保全基礎調査として、植生、環境指標種(身近な生きもの)、浅海域生態系、生物多様性等の調査を実施しました。

 第3節 原生的な自然及びすぐれた自然の保全

1 原生的な自然の保全

 自然環境の保全を図るため、国は、「自然環境保全法」(昭和47年法律第85号)に基づき、人の活動によって影響を受けることなく原生の状態を維持している区域を原生自然環境保全地域に指定し、厳格な行為規制等により保全を図っています。平成15年度末現在、遠音別岳、十勝川源流部、南硫黄島、大井川源流部及び屋久島の5地域5,631 haが指定されています。
 国立・国定公園の景観を維持するため、特に必要があるときは、その区域内に特別保護地区を指定することができるとされており、平成15年度末現在、国立公園内に273,853ha、国定公園内に66,488haが指定されています。
 主要な森林帯を代表し、又は地域特有の希少な原生的な天然林を保存するため国有林野内に設定した森林生態系保護地域の適正な保護・管理を行いました。平成15年4月1日現在27か所、約39万haが設定されています。
 世界遺産一覧表に記載された自然遺産の屋久島、白神山地について管理計画に基づき、入山者の増加に対応した保全対策を講じるなど、引き続き適正な保護・管理を行いました。屋久島及び白神山地では、世界遺産センターにおいて遺産地域の管理、調査研究等を行うとともに、普及啓発事業を実施しました。

2 すぐれた自然の保全

(1)自然環境保全地域の保全
 自然環境の保全を図るため、国は、自然環境保全法に基づき、原生自然環境保全地域以外の区域で、高山性植生や亜高山性植生が相当部分を占める森林や草原、すぐれた天然林が相当部分を占める森林など、自然的社会的条件から見て自然環境を保全することが特に必要な区域を自然環境保全地域に指定し、行為規制や計画的な保全事業の実施により保全を図っています。平成15年度末現在、10地域21,593haが指定されています。
 また、都道府県においても、条例に基づき、周辺の自然的社会的条件から見て自然環境を保全することが特に必要な区域を、都道府県自然環境保全地域として指定することができ、平成15年度末現在、534地域76,333.26haが指定されています。

(2)自然公園
 「自然公園法」(昭和32年法律第161号)に基づき指定される自然公園には、日本の風景を代表するに足りる傑出した自然の風景地を指定する国立公園、国立公園に準ずるすぐれた自然の風景地を指定する国定公園、都道府県の風景を代表する風景地を指定する都道府県立自然公園があり、自然環境の保全とともに、野生体験、自然観察、野外レクリエーション等の自然とふれあう場として重要な役割を果たしています。
 近年の自然公園を取り巻く状況の変化、生物多様性国家戦略の見直しの動き等を踏まえ、自然公園法の改正が行われ、平成15年4月に施行されました。
 平成15年度末現在、国立公園では28か所2,061,040ha、国定公園では55か所1,343,882ha、都道府県立自然公園では308か所1,962,220haが指定されており、面積を合計すると5,367,142haとなり、国土面積の約14%を占めています(図6-3-1自然公園の地域別面積)。

国立公園及び国定公園配置図

 平成14年の自然公園の利用者数は、国立公園が3億6,955万人、国定公園が2億9,625万人、都道府県立自然公園が2億7,018万人、合計すると9億3,598万人です(図6-3-2)。

自然公園の地域別面積
自然公園利用者数の推移

ア 自然公園の区域及び公園計画の見直し
(ア)公園区域及び公園計画の見直し
 自然公園の適正な保護及び利用の増進を図るため各公園ごとに公園計画を定めることとされていますが、国立公園を取り巻く社会条件等の変化に対応するため、公園区域及び公園計画の全体的な見直しを行っています。また、全体的な見直しが終了した公園については、おおむね5年ごとに公園区域及び公園計画の見直しを行うこととしています。
 平成15年度は、国立公園では利尻礼文サロベツ国立公園、瀬戸内海国立公園(岡山県地域)の見直しを行い、国定公園では三河湾国定公園(西部地域)、壱岐対馬国定公園の見直しを行いました。また、北海道長距離自然歩道の路線選定にあわせ、北海道内の6か所の国立公園と4か所の国定公園について公園計画の一部を見直しました。
(イ)海中公園地区の指定
 海中公園制度は、海中の景観を維持するため、環境大臣が国立・国定公園の海面の区域内に海中公園地区を指定し、必要な規制を行うとともに、その適正な利用を図るものです。平成15年度末現在、国立公園に33地区、国定公園に31地区、合計64地区2,664.2haの海中公園地区が指定されています。
(ウ)乗り入れ規制地域の指定
 近年普及の著しいスノーモービル、オフロード車、モーターボート等の乗り入れによる植生や野生生物の生息・生育環境への被害を防止するため、国立・国定公園の特別地域のうち環境大臣が指定する区域において、車馬もしくは動力船を使用し、又は航空機を着陸させることが規制されています。平成15年度末現在、国立公園に31地域、国定公園に14地域の合計45地域24万1,514haの乗り入れ規制地域が指定されています。
イ 風致景観の保護
 自然公園内には、風致景観の保護のため、特別地域、特別保護地区及び海中公園地区が指定されています。これらの地域において各種行為を行う場合は、環境大臣又は都道府県知事の許可が必要であり、その際、自然公園法施行規則に規定する許可基準の適用等により、風致景観の適正な保護に努めています。国立公園内の特別地域及び特別保護地区における各種行為の許可申請のうち環境大臣の権限に係る件数は、平成14年度1,807件でした。また、普通地域においても一定の行為は環境大臣又は都道府県知事への届出を要することとしています。なお、近年、新エネルギーの導入が急速に進みつつあることを受け、国立・国定公園における風力発電施設設置のあり方に関して検討し、基本的な考えを取りまとめました。これを踏まえて審査基準の追加を行いました。
 自然公園の風致景観の核心部を構成する貴重な自然を有する地域の保護管理を図るため、地域特有の生態系に変化をもたらす要因の解明調査等を行い、保護管理手法の樹立に努めています。平成15年度は、屋久島のウミガメ産卵地保全等のため、当該地の管理方針に係る調査等を実施しました。
 平成15年12月末現在、公園管理団体は、阿蘇くじゅう国立公園と栗駒国定公園において各1団体が指定されており、阿蘇では、ボランティアの活動を中心に草原の野焼き、輪地切りなどの風景地の管理作業を、栗駒山では、NPO法人のメンバーを中心に登山道の補修や清掃、高山植物の盗掘パトロールなどを行っており、きめ細かな公園管理を推進しました。
ウ 自然公園における環境保全対策
 自然公園等において、太陽光パネルなど自然エネルギーを利用した地球環境にやさしい施設の整備を行いました。また、国立・国定公園内の植生、動物、自然景観等の保護、復元等を目的とした保護施設の整備を図るため、植生復元施設、自然再生施設等の整備を行いました。
 自然公園の利用者のもたらすごみについては、美観や悪臭等の問題だけでなく、野生生物の生態系にも悪影響を及ぼすことがあるので、特に、利用者の多い国立公園内の主要な地域で、地方自治体及び美化清掃団体と協力し清掃活動を行いました。また、8月の第1日曜日を「自然公園クリーンデー」とし、関係都道府県等の協力の下に全国の自然公園で一斉に美化清掃活動を行いました。
 自然公園内のすぐれた自然環境を有する地域への自動車乗り入れの増大により、植生の損傷、快適・安全な公園利用の阻害等が生じているため、国立公園内における自動車利用適正化要綱に基づき、自家用車等に代わるバス運行等の対策を講じました。
 国立公園等の貴重な自然環境を有する地域において、自然や社会状況を熟知した地元住民等を雇用し、利尻礼文サロベツ国立公園における海岸線の投棄ゴミ回収や白山国立公園における高山植物の違法採取の監視、その他、山岳地における登山道の簡易な補修、海中公園地区におけるサンゴ礁景観の保護を目的としたオニヒトデ等の駆除等の国立公園等民間活用特定自然環境保全活動(グリーンワーカー)事業を行いました。
 国立公園等の山岳地域における環境浄化及び安全対策を図るため、山小屋事業者等がし尿・排水処理施設等の整備を行う場合に、その経費の一部を補助しており、平成15年度は、富士山等で整備を実施しました。
エ 管理体制の強化
 国立公園の管理については、自然保護事務所等を各国立公園に設置し、地方公共団体、民間団体の協力を得て、引き続き地域の特性に応じた管理体制の強化に努めました。また、国立公園内における風致景観を保護管理し、公園事業者に対する指導、公園利用者への自然解説等広範囲な業務を行うため、自然保護事務所を置くとともに、自然保護官を公園の各地区に配置しています。平成15年度末現在の自然保護官定数は223人です。また、各公園ごとに地域の実情に即した適正な管理を行うため、管理計画を各地域で作成しています。
オ 自然保護のための民有地買上げの推進
 国立・国定公園内の風致景観の維持、国指定鳥獣保護区内の野生鳥獣の保護及び生息地等保護区内の国内希少野生動植物種の保護とこれらの地域における民有地の所有者の有する私権との調整を図るため、都道府県が行う買上げについて、助成を行っています。平成15年度末現在、70地区8,078.49haが買い上げられています。

(3)生息地等保護区
 「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(平成4年法律第75号。以下「種の保存法」という。)に基づき国内希少野生動植物種の生息・生育地として重要な地域である生息地等保護区の指定を進めることとしています。平成15年度は新たに沖縄県石垣島の米原イシガキニイニイ生息地等保護区を指定しました。
 平成15年度末現在、8か所の生息地等保護区が指定され、生息・生育状況調査や巡視等の管理業務が行われています。

(4)鳥獣保護区
 特に鳥獣の保護を図る必要のある地域として、鳥獣の捕獲を禁止し、生息環境の改善に努めるために、鳥獣保護区を指定し、さらに必要に応じて特別保護地区を指定することとしています。平成15年度は新たに国指定鳥獣保護区を3か所、そのうち1か所で特別保護地区を指定しました。また更新した鳥獣保護区で新たに1か所の特別保護地区を指定しました。平成15年度末現在、59か所の国指定鳥獣保護区(51.4万ha)、3,882か所の都道府県指定鳥獣保護区(311.8万ha)が指定されており、その合計面積は363.2万haで国土面積の9.6%を占めています。また、46か所の国指定鳥獣保護区と576か所の都道府県指定鳥獣保護区に合計26.6万haの特別保護地区が指定されています(表6-3-2)。
鳥獣保護区等の現況

(5)史跡、名勝、天然記念物
 古墳、貝塚、城跡等の遺跡で歴史上又は学術上の価値の高いものを史跡に、庭園等の名勝地で芸術上又は観賞上価値の高いものを名勝に、動植物、地質鉱物等で学術上価値の高いものをそれぞれ天然記念物に指定し、現状変更等には、文化庁長官の許可を要することとしています。平成16年4月1日現在の指定件数は、史跡1,495件(うち特別史跡60件)、名勝289件(うち特別名勝29件)、天然記念物927件(うち特別天然記念物72件)となっています。また、史跡等の保存上、特に必要がある場合は公有化を図るとともに、当該史跡等の活用を図るため、整備等の保護事業を行いました。さらに、国土開発等による天然記念物の衰退に対処するため関係地方公共団体と連携して、特別天然記念物コウノトリの野生復帰事業など20件について保護増殖事業を実施しました。

(6)保安林等
 保安林について、すぐれた自然環境の保全を含む公益的観点から計画的な配備、適正な管理等を行っています。国有林野においては、貴重な野生動植物の生息地又は生育地の保護、その他の自然環境の保全に配慮した管理を行う必要がある国有林の区域を保護林に設定し、その適切な保護管理を行いました。平成15年4月1日現在824か所、約62万2千haの保護林が設定されています。

(7)都市の緑地保全
 都市における緑地を保全するため、「都市緑地保全法」(昭和48年法律第72号)に基づき緑地保全地区の指定を推進するとともに、地方公共団体及び緑地管理機構による土地の買い入れ等を推進しました。
 また、「首都圏近郊緑地保全法」(昭和41年法律第101号)及び「近畿圏の保全区域の整備に関する法律」(昭和42年法律第103号)に基づき指定された近郊緑地保全区域内において、特に枢要な部分を構成している緑地は、近郊緑地特別保全地区の指定を推進するとともに、地方公共団体及び緑地管理機構による土地の買い入れ等を推進しました。
 さらに、風致に富むまちづくり推進の観点から、風致地区指定の推進を図りました。

(8)ナショナル・トラスト活動による保全
 ナショナル・トラスト活動は、国民自らの手による自然保護活動として極めて有意義なものであり、さらに普及、定着していくことが期待されます。平成15年度には、ナショナル・トラスト活動を始めようとする団体のための手引書の作成、同活動への企業の参加に関する調査など、普及啓発の施策を講じました。

 第4節 二次的自然環境の維持、形成

1 森林

 森林の有する多面的な機能を持続的に発揮させるため、重視すべき機能に応じた森林の区分である水土保全林、森林と人との共生林、資源の循環利用林ごとにそれぞれの機能に応じた森林整備を推進するため、全国森林計画の策定等を行いました。
 また、持続可能な森林経営の推進及び地域森林計画等の樹立等に資するため、森林資源モニタリング調査を引き続き実施しました。
 林地開発許可制度の適正・円滑な運用を図るため、都道府県知事が行う許可処分及び連絡調整に必要な審査、監督等につき助言しました。
 保安林整備計画に基づき、特定保安林の指定を行い、保安林の適正な維持管理に努めました。保安林の指定面積は、平成14年度末で約984万haです。また、これら保安林の指定目的を達成するために、周辺の生態系に配慮しつつ、荒廃山地の復旧整備、機能の低位な森林の整備等を緊急かつ計画的に推進しました。
 森林・林業基本計画等に基づき、重視すべき機能に応じて森林を水土保全林、森林と人との共生林、資源の循環利用林に区分し、その機能が最大限に発揮されるような施策体系へと見直すとともに、間伐等の森林整備を適正に実施することなどにより、森林の有する多面的機能を持続的に発揮し得る多様な森林づくりを推進しました。
 「森林病害虫等防除法」(昭和25年法律第53号)等に基づき、松くい虫等の森林病害虫等の防除等を総合的に実施しました。保全管理水準の維持・向上を図るべき森林について、森林保全推進員等による森林パトロール等の保全管理活動、防火林道等の整備について助成するとともに、「全国山火事予防運動」の実施等啓発活動を推進しました。また森林ボランティア活動を推進するための事業、「緑と水の森林基金」を活用した森林資源の整備、利用等に関する総合的な調査研究、普及啓発等を推進しました。
 国有林野については、公益的機能の維持増進を旨とする管理経営方針の下で、林木だけでなく下層植生や動物相、表土の保全等森林生態系全般に着目した森林施業を行いました。
 身近な里山林や都市近郊林については、森林と人との共生林の整備に向けた条件整備、民間団体等を対象とする公募モデル事業や多様な利用活動の場となる「里山利用林」の設定、利用活動を通じてその保全・整備に寄与する「森林の育て親」の募集、里山林等を活用した健康づくりを行う「健康と癒しの森」推進モデル事業を実施しました。また、里地里山の代表的な生態系のタイプごとに、里地里山の保全と利用のあり方について検討を進めました。

2 農地

 土地改良事業をはじめとする農業農村整備事業においては、原則としてすべての事業で調査、計画の段階から環境との調和へ配慮しつつ事業を実施しました。ため池等の周辺において生態系空間(ビオトープ)を保全する事業や生活環境の整備等を生態系の保全に配慮しながら総合的に行う事業等に助成し、農業の有する多面的機能の発揮や魅力ある田園空間の形成を促進するほか、農村地域に存在する生物の情報を調査・データベース化するとともに、生息・生育地(農地、水路等の農業用施設、樹林)の生態系ネットワーク化等、生物多様性を確保するための手法開発を進めました。また、農業生産活動と調和した自然環境の保全・再生活動の普及・啓発を図るため、「田園自然再生活動コンクール」を実施しました。
 中山間地域における地域住民活動を通じた土地改良施設や棚田等の保全を推進するための調査研究、人材育成、保全活動等への支援のほか、農村地域の美しい景観や環境を良好に整備、管理していくために、地域住民、地元企業、地方公共団体等が一体となって身近な環境を見直し、自ら改善していく地域の環境改善活動(グラウンドワーク)の推進を図るための事業を行いました。また、自然環境の維持・形成に資するため、農業集落排水事業を促進するとともに、地域の実情に応じ、特定環境保全公共下水道等の整備を進めました。
 環境保全型の農業の一層の推進を図るため、たい肥等による土づくりを基本として化学肥料・農薬の使用の低減を一体的に行う「持続性の高い農業生産方式」の導入を推進し、導入を図ろうとする農業者に対する金融・税制上の特例措置を引き続き講じました。また、この生産方式導入の拠点となる技術確立ほ場や土壌診断施設の整備を進めるとともに、たい肥等を含めた適正使用指針の策定等の地力増進対策の実施を図りました。また、家畜排せつ物等有機性資源のたい肥化・飼料化等による循環利用の促進、緑肥の導入等による効率的な土づくり、消費者・食品産業との連携による安全でおいしい農産物の供給等を図りました。
 市街化区域内農地のうち、生産緑地地区については、緑地としての機能の維持を図るほか、都市住民の交流の場としての活用を図るため、市民農園整備事業等により市民農園の整備を推進しました。

 第5節 湿地の保全

1 野生生物の生息地等として重要な湿地の保全

 生物多様性の観点から選定した500か所の重要湿地について、保全にかかわる検討を進めるとともに、重要湿地及びその周辺地域の開発計画等に際して保全上の配慮を促すため、「インターネット自然研究所」等を活用し、普及啓発を行いました。
 また、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地の保全に関する条約」(以下「ラムサール条約」という。)に基づき、国際的に重要な湿地の保全を推進するため、平成17年の第9回締約国会議までに、国内のラムサール条約湿地を22か所以上に増加させることを目標に準備を行っています。

2 沿岸海域の保全

 石西礁湖等の石垣島及び西表島周辺海域を中心に、サンゴ礁モニタリング調査を実施し、サンゴ礁の現況の把握と保全に資するモニタリング手法の検討を行いました。

 第6節 自然の減少が顕著な地域における自然的環境の回復

1 自然再生事業の推進

 釧路湿原における蛇行河川の復元、湿地の復元、集水域の広葉樹林の復元や、埼玉県くぬぎ山における廃棄物中間処理施設等の立地により改変された里山の再生などについて、関係各省が連携し、専門家、地元自治体、民間団体、地域住民の参加を得て過去に損なわれた自然環境を再生する事業を推進しました。
 また、平成15年4月には、「自然再生推進法」(平成14年法律第148号)に基づく「自然再生基本方針」が閣議決定され、10月には自然再生推進会議及び自然再生専門家会議が立ち上げられるとともに、釧路湿原や荒川において同法に基づく自然再生への取組が始まりました。

2 自然的環境の整備

(1)都市における緑地の整備等
 市町村による「緑の基本計画」の策定を通じた総合的かつ計画的な緑地の保全及び緑化を推進し、公共空間における緑のストックの増加、公共公益施設等における高木植樹の推進を図りました。
 がけ崩れ対策においては、貴重な緑の空間である斜面環境・景観を保全しつつ安全度を向上するため、既存樹木を活用した緑の斜面工法による斜面整備を推進しました。
 また、土砂災害に対する安全性を高め緑豊かな都市環境と景観を創出するため、市街地に隣接する山麓斜面にグリーンベルトとして一連の樹林帯の形成等を実施し、無秩序な市街化の防止や都市周辺に広がる緑のビオトープ空間の創出に寄与しました。

(2)都市公園等
 安全で安心な魅力ある都市づくり、個性と工夫に満ちた地域社会の形成、少子・高齢社会への対応、循環型経済社会の構築や地球環境問題への対応に重点をおいて、都市公園等整備事業の推進を図りました。
 国営公園については、全国17か所において整備を進めました。
 また、市町村が策定する「緑の基本計画」に基づき、都市の景観形成、環境改善及び防災機能向上のため、緑化の必要性が特に高い地区において緑地の整備等を実施する「緑化重点地区総合整備事業」、工場等からの大規模な土地利用転換など自然的環境を積極的に創出すべき地域や廃棄物の埋立処分等により良好な自然的環境が消失した地域において、自然的環境の再生、多様な生物の生息生育基盤の確保等を図る「自然再生緑地整備事業」等、各種施策に応じた都市公園等の整備を推進しました。また、水と緑のネットワークの形成に資するよう関連事業と連携し、効果的な事業の展開を図りました。

(3)国民公園及び戦没者墓苑
 旧皇室苑地の皇居外苑、新宿御苑及び京都御苑は国民公園として、広く一般に利用され親しまれています。千鳥ケ淵戦没者墓苑は戦後海外各地から収集された遺族に引き渡すことのできない戦没者の遺骨が安置されています。これら公園の快適な利用に資するため、園内の清掃や、芝生、樹木の手入れを行うとともに、平成15年度においては、新宿御苑玉藻池周辺歴史的景観復元工事等を行いました。

(4)河川環境等の整備
ア 河川とダム
 河川環境に関する基礎情報の収集整備のため、河川並びにダム湖及びその周辺における生物の生息・生育状況の調査を行う「河川水辺の国勢調査」を全国の一級河川及び主要な二級河川、国が管理するダム等で実施し、その結果を河川環境データベース(http://www.mlit.go.jp/river/IDC/)として情報提供を開始しました。また、河川環境に関する専門的知識を有する地域の方々の参加を得て、きめ細かな河川環境の管理に資する「河川環境保全モニター制度」を実施しました。
 自然環境に配慮した河川管理の取組として、世界最大規模の実験河川を有する自然共生研究センターにおいて、河川湖沼の自然環境保全・復元のための研究を行いました。また、生態学観点より川のあるべき姿を探ることを目的に河川生態学研究を実施しました。
 また、河川環境管理基本計画の策定を推進し、自然環境の保全に配慮するとともに、河川の蛇行復元や、乾燥化傾向にある湿地の再生を行うなどの自然再生事業を実施し、地域住民と連携しながら、渡り鳥等の生物の良好な生息・生育環境を有する自然河川や、湿地・干潟などのウェットランドの再生を進めました。また、良好な潤いのある水辺空間の保全並びに形成等を図る「河川環境整備事業」等を実施しました。また、治水上の安全性を確保しつつ、多様な河川環境を保全し、環境を改変せざるを得ない場合でも最低限の改変にとどめ、良好な自然環境の復元が可能となるように川づくりを行う「多自然型川づくり」、河川横断施設とその周辺の改良、魚道の設置等により魚類の遡上環境の改善を行う「魚がのぼりやすい川づくり推進モデル事業」等を実施しました。また、「美しい山河を守る災害復旧基本方針」に基づき、河川環境に配慮した災害復旧を実施しました。
 ダム貯水池において整地、法面保護、緑化対策等を図り、ダム湖の活用、親水性の向上を図る「ダム湖活用環境整備事業」を実施し、また、ダム下流の河川環境の回復を目的とした「ダム水環境改善事業」を実施しました。
イ 砂防設備周辺等
 土砂災害の防止の実施に当たり、生物の良好な生息・生育環境を有する渓流・里山の環境等を保全・再生するため、NPO等と連携した山腹工などにより、里地・里山などの多様な自然共生型の砂防事業を推進しました。
 また、土砂災害の防止とあわせて、すぐれた自然環境や社会的環境を持つ地域等の渓流において、自然環境との調和を図り、緑と水辺の空間等の生活環境の整備、景観・親水性の向上や生態系の回復等を図り良好な渓流環境の再生など、個々の渓流の特色を活かした砂防事業を展開しました。
 がけ崩れ対策においては、貴重な緑の空間である斜面環境・景観を保全しつつ安全度を向上するため、既存樹木を活用した緑の斜面工法による斜面整備や崩壊土砂を捕捉する緩衝樹林帯整備を推進しました。
ウ 総合的な土砂災害
 河川環境等の面から土砂移動について配慮が必要であり、山地部から海岸までの土砂の運動領域を「流砂系」という概念で捉え、ダム堆砂の進行、河床低下、海岸侵食等の土砂管理上の問題が顕在化している流砂系において、砂防、ダム、河川、海岸の各領域が連携を図り、土砂の量と質に関するモニタリング等の取組を実施しました。

(5)港湾及び漁港・漁場における環境の整備
ア 港湾
 環境と共生する港湾(エコポート)の形成を目標に、水質・底質を改善する汚泥しゅんせつや覆砂、干潟の創出、緑地の整備などを推進しました。港湾の親水性を高め快適な環境を創出し、港湾を利用する人々に憩いの場を提供するため、平成15年度は神戸港等123港において緑地等の整備、大阪港等18港において干潟等の整備を行いました。また、歴史的港湾施設の保存、活用を図るとともに、周辺の環境整備を一体的に進める「歴史的港湾環境創造事業」を実施しました。なお、13年12月に都市再生プロジェクトとして決定された「臨海部における緑の拠点の形成」については、自然と共生する社会の実現にむけた自然再生型公共事業の一環として、東京港中央防波堤内側、大阪湾堺臨海部、同尼崎臨海部での大規模緑地整備が位置付けられており、尼崎臨海部において緑地整備に着手し、東京湾及び堺臨海部においては大規模緑地開発に関する調査を行いました。
 また、自然環境の保全との調和を図りつつ、快適な環境を創造する観点から、マリーナの整備を推進しています。
イ 漁港及び漁場
 漁港漁場整備長期計画に基づき、昭和50年代初頭の沿岸域の漁場環境に回復させることを目標として、藻場・干潟の保全・創造などの取組を推進するため、漁港区域内の汚泥・ヘドロの除去覆砂並びに藻場・干潟等の整備を行う水域環境保全対策等を全国6地区で実施したほか、藻場・干潟の整備保全事業を支援するための地方財政措置を講じました。
 さらに、海水交流機能を有する防波堤等の整備、水産動植物の生息、繁殖が可能な護岸等の整備等の整備を総合的に行う「自然調和活用型漁港漁場づくり推進事業」を全国47地区で実施しました。また、漁村の生活排水対策として漁業集落排水施設整備を全国124地区で実施しました。貝殻等の水産系副産物を漁港及び漁場の環境整備へ活用する「水産系副産物活用推進モデル事業」を全国2地区で実施しました。

(6)海岸における環境の整備
 多様な海洋性レクリエーション需要の増大に伴う海浜利用の進展に対処するとともに、快適で潤いのある海岸環境の保全と創出を図るため、砂浜の保全・復元により生物の生育・生息地を確保しつつ、景観上もすぐれた人と海の自然のふれあいの場を整備する「海岸環境整備事業」を平成15年度は、全国202か所において実施しました。

(7)緑化推進運動への取組
 緑化推進連絡会議を中心に国土の緑化に関し、全国的な幅広い緑化推進運動の展開を図っているところであり、「平成15年度緑化推進運動の実施計画」を取りまとめ、以下のような施策を実施し、運動の一層の展開と定着化を図りました。
① 全国植樹祭等を開催する事業、森林ボランティアなどの森林づくりを促進する事業、学校林の活用を促進する事業等に助成し、その普及・啓発を推進しました。また、巨樹・巨木林や里山林等身近な森林・樹木の適切な保全・管理のために必要な技術開発と普及啓発を促進しました。さらに、「みどりの日」、「みどりの週間」(4月23日~29日)を中心に緑化活動等の全国的な展開を推進したほか、緑の募金及び緑と水の森林基金の助成による森林整備等への取組を推進しました。
② 都市緑化の推進に当たっては、「春季における都市緑化推進運動」期間(4~6月)、「都市緑化月間」(10月)を中心に、その普及啓発に係る各種活動を実施したほか、緑の相談所(都市緑化植物園)、都市緑化基金の拡充強化等を図りました。
③ 身近な場所に実のなる木など野鳥の好む樹木等を保全又は植栽し、野鳥の観察のための施設の整備により、野鳥の生息に適した環境の創出と野鳥に親しむ場の整備を図る「小鳥がさえずる森づくり運動」を推進しました。

 第7節 野生生物の保護管理

1 野生動植物の捕獲・譲渡等の規制、生息・生育環境の整備等

 種の保存法では、日本に生息・生育する絶滅のおそれのある種を国内希少野生動植物種に、また、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(以下「ワシントン条約」という。)及び「渡り鳥等保護条約」に基づき国際的に協力して保存を図るべき絶滅のおそれのある種を国際希少野生動植物種に指定し、個体や器官・加工品の譲渡し等を規制しています。国内希少野生動植物種については、捕獲や譲渡し等を規制しているほか、必要に応じ、その生息・生育地を生息地等保護区として指定し、各種の行為を規制しています。また、個体の繁殖の促進や生息・生育環境の整備等を内容とする保護増殖事業を積極的に推進することとしており、その適正かつ効果的な実施のために保護増殖事業計画を策定することとしています。
 平成16年3月現在、国内希少野生動植物種としては、哺乳類2種、鳥類39種、爬虫類1種、両生類1種、汽水・淡水魚類3種、昆虫類5種、植物11種の計62種を指定しています。また、国際希少野生動植物種として、約650分類群を指定しています。
 保護増殖事業計画については、ツシマヤマネコ、シマフクロウ等21の計画が策定されています。特に、トキについてはかつての生息地であった佐渡島への野生復帰を目標として事業を推進することが定められました。また、絶滅のおそれのある野生動植物の保護増殖事業や調査研究、普及啓発を推進するための拠点となる野生生物保護センターが、平成16年3月末現在8か所に設置されています。
 国有林野においては、希少な野生動植物の生息地又は生育地であり、自然環境の保全に配慮した管理を行う必要のある国有林の区域に、必要に応じて森林生態系保護地域等の保護林を設定するとともに、その保護管理を行いました。また、保護林のネットワークの形成を図るため、緑の回廊を設定し、野生生物の自由な移動の場として保護するなど、より広範で効果的な森林生態系の保護に努めました。平成15年4月1日現在、17か所が設定されています。さらに、ツシマヤマネコ等の国内希少野生動植物種を対象として、その生息・生育環境の維持・整備のために必要な調査事業を実施しました。
 また、絶滅のおそれのある野生動植物種の保存を図るための保護増殖事業、調査等を実施しました(表6-7-1)。

保護増殖事業等の概要

2 鳥獣の保護管理の推進

(1)鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律の施行
 「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」(大正7年法律第32号)が改正され、「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」(平成14年法律第88号。以下「鳥獣保護法」という。)が平成15年4月に施行されました。この改正では、法律の目的に「生物多様性の確保」が新たに加わり、鳥獣の保護を通じた生物多様性の確保の方向性が示されたほか、鳥獣の保護に支障を及ぼすおそれのある猟法による鳥獣の捕獲について、区域を定めて規制する「指定猟法禁止区域」制度の導入や、狩猟等に使用される鉛製銃弾による鳥獣の鉛中毒の防止等を図るために山野への捕獲した鳥獣の放置を禁止する規定等が新たに盛り込まれています。

(2)鳥獣保護事業及び鳥獣に関する調査研究の推進
 長期的ビジョンに立った鳥獣の科学的・計画的な保護管理を促し、鳥獣保護行政の全般的ガイドラインとしてより詳細かつ具体的な内容とした鳥獣の保護を図るための事業を実施するための基本的な指針(平成15年4月16日から19年3月31日まで)に基づき、鳥獣保護区の指定、有害鳥獣捕獲及びその体制の整備、違法捕獲の防止等の対策を総合的に推進しました。
 また、鳥獣の生息状況等に関する調査として、「鳥類観測ステーション」における標識調査、ガンカモ科鳥類の生息調査等渡り鳥の生息状況調査等を実施しました。

(3)適正な狩猟と鳥獣管理
 狩猟者人口は、昭和45年度の約53万人が平成13年度には約21万人にまで減少しており、しかも高齢化がかなり進んでいるため、有害鳥獣の捕獲に当たる従事者の確保が困難な地域も見受けられます(表6-7-2)。

狩猟免状の交付及び狩猟による鳥獣の捕獲数

 適正な管理下での狩猟は、鳥獣を適正な生息数にコントロールする手段として一定の役割を果たすことから、事故防止、違法行為防止の徹底等適正な狩猟を確保するため、都道府県及び関係狩猟者団体に対し、事故及び違法行為の防止を徹底し、適正な狩猟を推進するよう助言しました。
 なお、管理された狩猟や狩猟を行い得る場を指定している猟区は、放鳥獣などにより積極的に狩猟鳥獣の保護繁殖を図る一方で、入猟日、入猟者数等を制限することにより、秩序ある管理された狩猟を実現するための制度です。

(4)農林漁業被害の防止対策
 特定鳥獣保護管理計画の策定及び実施の推進を目的として、「野生鳥獣管理適正化事業」等に要する経費を地方公共団体に補助しました。また、将来にわたる鳥獣管理体制の構築及び担い手の育成を目的として、「野生鳥獣保護管理技術者育成事業」を実施しました。
 鳥獣を適正に管理し、農林業被害を軽減する農林生態系の管理技術の開発等の試験研究、防護柵等の被害防止施設の設置、効果的な被害防止システムの整備等の対策を推進するとともに、新たに農業被害防止に必要な知識の普及を図り、鳥獣との共生にも配慮した多様な森林の整備等を実施しました。
 また、近年、トドによる漁業被害が増大しており、トドの資源に悪影響を及ぼすことなく、被害を防ぐための対策として、被害を受ける定置網の高度強化を促進しました。

(5)鳥獣の生息環境の整備
 国指定鳥獣保護区とその周辺において、人の利用の適正な誘導、鳥獣の生態等に関する普及啓発、鳥獣の生息に適した環境の保全整備を図る「野生鳥獣との共生環境整備事業」を秋田県森吉山において実施するとともに、渡り鳥の渡来地である干潟の保全と環境学習などへの活用のための拠点施設の整備を愛知県の藤前干潟において実施しました。
 渡り鳥の保護対策としては、生息状況調査を実施したほか、出水平野に集中的に飛来するナベヅル、マナヅルについて、その生息環境を改善し、周辺への農業被害を軽減するために遊休地の確保等の事業を実施しました。また、ツル類について、集中して越冬することで生じる伝染病などの発生による種の絶滅の危惧や農業被害を軽減するために、調査を実施し、分散化などについて報告書をまとめました。

3 水産資源の保護管理の推進

 水産資源の保護・管理については、「漁業法」(昭和24年法律第267号)及び「水産資源保護法」(昭和26年法律第313号)に基づく採捕制限等の規制や、「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」(平成8年法律第77号)に基づき、海洋生物資源の採捕量の管理に加え、新たに漁獲努力量に着目した管理を行ったほか、①保護水面の管理、調査等、②資源管理型漁業の推進、③「資源回復計画」の作成・実施、④魚類の遡上を円滑にした地域用水環境の整備、増殖管理手法の確立、外来魚の駆除等、⑤シロナガスクジラ等の生態、資源量、回遊等調査、⑥ウミガメ(2種)、鯨類(シロナガスクジラ、ホッキョククジラ、スナメリ)及びジュゴンの原則採捕禁止等、⑦混獲防止技術等の開発等を実施しました。

4 外来生物等への対応

(1)外来生物対策
 具体的な外来生物対策の検討を行うため、平成15年1月に中央環境審議会に対して「移入種対策に関する措置の在り方について」を諮問し、野生生物部会に設置された移入種対策小委員会での審議を経て、15年12月に答申がなされました。この答申の内容を踏まえ、平成16年3月には、特定外来生物の飼養や輸入等を禁止するとともに、防除を促進するなど、生態系等への被害を防止するための措置を盛り込んだ「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律案」を第159回国会に提出したところです。
 河川においては、平成13年3月に「河川における外来種対策に向けて(案)」を取りまとめたのに続き、15年6月には、河川で問題となっている主要な侵略的外来種に対する全国の取組事例をまとめて「河川における外来種対策の考え方とその事例」として取りまとめ、現地における適正な外来種対策に活用されています。
 また、鹿児島県の奄美大島、沖縄やんばる地域において希少動物に影響を及ぼしているマングースの排除のための事業、沖縄県の西表島において生態系に影響を及ぼすおそれのあるオオヒキガエルの監視のための事業を進めました。

(2)遺伝子組換え生物対策
 遺伝子組換え生物については、生物の多様性に及ぼす可能性のある悪影響が懸念されるため、遺伝子組換え生物の輸出入に関する国際的な枠組みを定めたカルタヘナ議定書が2000年1月に採択され、2003年9月に発効しました。この議定書を締結するための国内制度として、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(平成15年法律第97号)を平成15年6月に公布し、その後、施行規則の制定など法の施行のための準備を進め、16年2月に同法を全面施行しました。

5 調査研究等の推進

 絶滅のおそれのある野生動植物については、各分類群についてそれぞれレッドリストを公表し、これに基づき平成15年5月までに、「爬虫類・両生類」、「植物Ⅰ(維管束植物)」、「植物Ⅱ(維管束植物以外)」、「哺乳類」、「鳥類」及び「汽水・淡水魚」について、改訂版レッドデータブックの出版を行いました。また、14年度から、18年度末の完了を目標にして、これらのレッドリストを見直すための検討に着手しています。
 また、野生生物保護思想の普及啓発を推進するため、愛鳥週間行事の一環として鳥取県において第57回「全国野鳥保護のつどい」を開催したほか、愛鳥モデル校を中心に野生生物保護の実践活動を発表する「全国野生生物保護実績発表大会」等を開催しました。
 また、高病原性鳥インフルエンザの感染経路と渡り鳥等の野鳥との関係について、関係府省が連携して実施する緊急調査研究等において、渡り鳥の渡来ルートの解析、渡り鳥を含む野鳥のウイルス保有調査等を実施しました。

 第8節 飼養動物の愛護・管理

 「動物の愛護及び管理に関する法律」(昭和48年法律第105号。以下「動物愛護管理法」という。)により、動物の虐待防止や適正な飼養などの動物愛護に関する事項及び動物の適正な管理に関する事業を実施しました。
 動物愛護週間(9月20日~26日)には、関係行政機関、団体との協力の下、「動物愛護管理功労者表彰」、「動物愛護管理法制定30周年記念シンポジウム」等の催しの実施や児童向け啓発読本等を作成・配布すること等により、動物愛護管理の普及啓発を実施しました。
 地域における動物適正飼養体制を確保していくため、都道府県等の動物愛護管理行政担当職員を対象に、講習会を実施しました。また、動物の適正な飼養保管方法等について、動物販売業者から動物購入者に対して適切な説明が行われるよう、その指針となる販売説明マニュアル(鳥類)を作成しました。
 不適正な飼養による近隣とのトラブルが顕在化するとともに、遺棄・逸走動物が希少な野生動物を捕食するなど生物多様性の保全に重大な影響が生じている沖縄県やんばる地域においては、国、県、民間団体等が連携し、適正飼養の普及啓発、所有者明示措置、繁殖制限等を実施しました。
 また、動物愛護管理法の施行状況及び同法の改正に係る附帯決議等を踏まえ、現状等の整理及び今後の在り方について検討を始めるとともに、昭和51年に策定された「展示動物の飼養及び保管に関する基準」の見直しを行いました。

 第9節 自然とのふれあいの推進

1 自然解説活動及び健全なふれあい利用の推進

 自然の営みに感動し、安らぎを得ることにより、自然を大切にする心、子どもたちの健全な心を育み、人間性を回復するとともに、自然との共生に関する理解を深めるため、自然とのふれあいを推進します。
 人々の自然への理解を深め、自然に対する愛情とモラルを育成するため、ビジターセンターや自然観察路等の施設を活用し、「みどりの日」、「自然に親しむ運動」(7月21日~8月20日 )、「全国・自然歩道を歩こう月間」(10月)の行事を通じ、自然環境教育を積極的に推進しました。
 自然公園の利用の適正化のため、国立・国定公園における利用者指導を行う約3,000名の自然公園指導員を委嘱し、指導者育成事業を実施しました。また、自然保護事務所において約2,000名のパークボランティアの養成及びその活動に対する支援を全国23国立公園36地区で実施しました。さらに、自然解説活動における指導者育成のため、ビジターセンター等の職員の研修を実施しました。
 さらに、全国の国立公園等において、自然保護官(レンジャー)等の指導・協力の下、小中学生を「子どもパークレンジャー」に任命し、国立公園等のパトロールやマナーの普及、自然環境の維持・復元活動等に参加してもらう自然学習プログラムを提供しました。
 国有林野においては、森林教室、体験セミナー等を通じて、森林とのふれあいを楽しみながら理解を深める森林倶楽部(森林ふれあい推進事業)等を実施しました。
 子どもたちの川での活動を推進するためのプロジェクトや指導者の育成、情報発信を行うとともに、地域でのネットワーク形成等の拠点機能を形成するブロック連絡会議を4箇所で開催しました。また、漁場環境保全に関する情報の収集・提供及びボランティアによる海浜清掃活動の支援等を行いました。
 国営公園においては、専門講師やボランティア等による自然ガイドツアーや、環境・自然をテーマに体験活動型のイベントを開催しました。

2 利用のための施設の整備

(1)国立・国定公園等の利用施設
 国立・国定公園の核心となる特にすぐれた自然景観を有する広域な地域において、自然の保全や復元のための整備を一層強化するとともに、高度な自然学習や自然探勝のためのフィールドの整備(緑のダイヤモンド計画)を雲仙天草国立公園雲仙地域等3地域において整備を進めました。
 国立・国定公園のすぐれた自然環境を有する集団施設地区及びその周辺地域で、自然環境を保全するとともに、時代に即した滞在型、高齢者・障害者対応型の公園利用を推進し、地域の再活性化を図るための総合的な施設の整備(自然公園利用拠点新活性化事業)を、日光国立公園那須地域等3地域において進めました。
 国立・国定公園において、大自然の中での暮らし、学び、冒険を通じて自然や地域との共生を体験するための参加・自主活動型の自然教育の拠点(ふれあい自然塾)を、玄海国定公園満越地区において整備を進めました。
 国立・国定公園の主要利用拠点において、子どもたちが生き物や自然の植生などとふれあい自然を学ぶことができる、自然ふれあい体験のための中核施設(エコ・ミュージアム)の整備を、霧島屋久国立公園えびの地区ほか4地域において進めました。
 自然公園等において、二酸化炭素の吸収源・貯蔵庫となる植生の復元、ソーラーや自然エネルギーを利用した地球環境にやさしい施設の整備(環境共生推進特別整備事業)を推進しました。
 国立・国定公園において、自然環境の保全に配慮しつつ、自然とのふれあいを求める国民のニーズにこたえ、安全で快適な利用を推進するため、歩道、野営場、園地、公衆トイレ等利用の基幹となる施設を整備しました。特に、公衆トイレや野営場のうち、緊急に改善を要する施設についての再整備を引き続き実施しました。

(2)ふるさと自然ネットワーク
 トンボやホタルなどの小動物が生息する身近な自然環境を保全活用し、生き物とふれあい自然の中で憩い自然の中に滞在・体験しながら自然を学ぶことのできる場づくりを推進しています。多様なメニューの中から地域のニーズにマッチした事業(①ふるさといきものふれあいの里、②ふるさと自然のみち、③ふるさと自然塾、④ふれあい・やすらぎ温泉地、⑤ふるさと自然公園国民休養地)を選定し、整備するものです。
 平成15年度は、13か所において整備を実施しました。

(3)長距離自然歩道等
 自然公園や文化財などを有機的に結ぶ長距離自然歩道の整備、登山者の集中による植生荒廃等を招いている地域の登山歩道の整備を進めています。長距離自然歩道は、四季を通じて、安全で快適に利用できるよう配慮しつつ整備を行っており、平成15年3月末現在、計画総延長は約2万1,000kmに及びます。
 平成15年度は、引き続き近畿自然歩道の整備を行うとともに、北海道自然歩道の整備に着手しました。また、老朽化した東北、首都圏、東海、中部北陸、中国、四国、九州の各自然歩道の施設について再整備を行いました。
 なお、平成14年における利用者数は、5,252万人に達しました。

(4)森林の多様な利用の推進
 主として都市近郊等における保健保安林等の安全快適な利用の促進を図るための施設整備につき助成等を行ったほか、保健保安林等を対象として防災機能、環境保全機能等の高度発揮を図る共生保安林整備事業を推進しました。また、国民が自然に親しめる森林環境の整備を行う森林空間総合整備事業等につき助成しました。
 国有林野については、自然休養林等のレクリエーションの森において、森林及び施設の整備等を行うとともに、利用者にレクリエーションの森の整備等への協力を求める「森林環境整備推進協力金」制度を推進しました。
 また、スポーツ施設、保健休養施設等の総合的な整備により、家族等が気楽に自然とふれあえる場を提供する「森林ふれあい基地づくり整備モデル事業」を推進しました。
 また、国民が中心となった森林の整備等の活動の場として「ふれあいの森」の設定を推進するとともに、貴重な環境指標であり、次世代に残すべき遺産として選定した国有林野内の巨樹・巨木100本(「森の巨人たち百選」)の保護を図るための地域の取組に対する支援を行いました。
 平成14年度からの完全学校週5日制等の導入に対応して森林環境教育、林業体験学習の場となる森林・施設の整備、フィールド及び指導者の募集・登録・情報提供、企画・運営者の育成や、学校林の整備・活用、都市部の子どもたちを対象にした山村滞在型の森林・林業体験交流活動等を推進するとともに、子どもたちの入門的な森林体験活動を促進する「森の子くらぶ活動推進プロジェクト」を実施しました。
 さらに、森林総合利用施設等において、年齢や障害の有無にかかわらず多様な利用方法の選択肢を提供するユニバーサルデザイン手法の導入を図るとともに、新たに里山林等を活用した健康づくりを行う「健康と癒しの森」推進モデル事業等を推進しました。
 また、国有林においては、フィールドを学校等の体験学習の場として利用できる「遊々の森」の設定を推進しました。

(5)独立行政法人国立少年自然の家
 国立少年自然の家は、少年を自然に親しませ、団体宿泊訓練を通じて、少年が心身を鍛練するとともに、自ら実践し、創造する態度を身につけることを目的とする青少年教育施設であり、全国14か所に設置されています。平成15年度は、施設の整備や事業の充実を図りました。

(6)海岸などへのふれあい施設
 自然豊かな海岸づくりを推進するため、海岸事業と治山事業を一体的に行い、海と緑の豊かな海岸環境を確保する白砂青松の創出を実施しました。
 また、生物の生息・繁殖場所となる砂浜、干潟などの保全や創出を行う「エコ・コースト事業」を35か所で実施しました。

(7)河川等へのふれあい施設
 河川の高水敷やダム周辺等を公園、緑地、運動場等に利用するための諸施設の整備を「河川環境整備事業」等により行いました。カヌーポートや水辺の楽校等の整備により、水辺での活動を促進し、親水レクリエーションの促進を図りました。

3 エコツーリズムの推進

 自然とのふれあいを通した体験旅行を求める国民のニーズに対して、自然環境の保全を確保しつつ、自然や文化を活かした観光と地域振興の両立を目的とし、環境教育にも役立つ持続可能な「新しい観光」としてのエコツーリズムの普及・定着を推進するため、環境省では、平成15年11月に「エコツーリズム推進会議」を開催し、エコツーリズムの推進方策の検討を開始しました。また、15年度より屋久島(鹿児島県)及び裏磐梯(福島県)の2か所において、先行的にモデル事業に取り組み、地域資源に関する調査やガイドラインの設定等エコツーリズムの運営体制づくりに着手しました。

4 都市と農山漁村の交流

 健康、ゆとり、やすらぎ、自然など都市住民の農業・農村への多様なニーズが高まっている中、①都市と農山漁村の共生・対流に向け、グリーン・ツーリズムの新たなスタイルを提案・普及、②都市部での農山漁村情報提供、都市側と受入れ側とのマッチングの推進、③グリーン・ツーリズムビジネスの起業家、体験指導員等の人材の育成・確保、④地域ぐるみの受け入れシステムや交流空間の整備等を通じて、グリーン・ツーリズムを推進しました。また、子どもたちの都市農村交流機会の増大を図るため、農村部における都市部からの小中学生の受入れ体制を整備し、修学旅行や夏休み、週末等を利用した農業・農村体験活動を促進しました。
 「構造改革特別区域法」(平成14年法律第189号)により、①民間団体、民間企業等による市民農園の開設を可能とする「特定農地貸付けに関する農地法等の特例に関する法律」(平成元年法律第58号)等への特例措置、②農家民宿等にかかる消防用設備等にかかる消防法施行令の規定に対する柔軟な対応の容認等について規制緩和措置を講じ、パンフレットの配付、研修会等の開催により周知を図りました。
 山村においては、都市部の子どもたちを対象とした山村滞在型の森林・林業体験交流活動を実施するとともに、都市が山村で行う「ふるさと共生の森」の設定等森林と人との共生林の整備に向けた条件整備を実施するとともに「緑の募金」及び「緑と水の森林基金」の助成により森林整備等に関する事業を推進しました。
 漁港、漁村においては、親水機能を有する護岸やキャンプ場等の整備を行う「漁港交流広場整備事業」を全国50地区で、植栽や親水施設等の整備を行う「漁港環境整備事業」を全国76地区で実施しました。また漁業関係者と遊漁船業者等との協議会、海洋利用に関するルール・マナーの啓発、遊漁船業、ダイビング案内、釣り場等の管理運営等を行い、良好な自然環境の保全を図りながら、都市住民との交流を促進しました。

5 温泉の保護と利用

(1)温泉の保護と利用
 「温泉法」(昭和23年法律第125号)では、温泉を保護しその適正な利用を図ることを目的として、温泉を掘削又は増掘する場合や動力を装置する場合には都道府県知事の許可を、温泉を公共の浴用又は飲用に供する場合には都道府県知事又は保健所設置市長の許可を受けなければならない旨定めています。平成14年度の全国の許可件数は、温泉掘削499件、増掘13件、動力装置377件、浴用又は飲用2,385件でした。
 平成14年度末現在、全国の温泉湧出源泉数は27,043本(うち自噴源泉5,180本、動力源泉13,328本、未利用源泉8,535本)、湧出量は1日換算384,411万tであり、14年度の全国の温泉地における宿泊利用者数は13,794万人でした。
 また、近年、温泉資源の制約や温泉に対する国民ニーズの変化等が指摘されており、これらについての調査検討を進めました。

(2)国民保養温泉地
 国民保養温泉地は、温泉の公共的利用増進のため、温泉法に基づき指定された地域であり、平成15年度末現在、91か所が指定されています。
 国民保養温泉地のうち、自然資源を活用し自然とふれあい心身をリフレッシュすることが期待できる温泉地として選定された「ふれあい・やすらぎ温泉地」において、自然ふれあい・温泉センター、歩道等の整備を行っており、平成15年度は5地区において実施しました。

 第10節 自然環境の保全に関する国際的枠組みの下での取組と新たな国際的枠組みづくり

1 生物多様性の保全

 生物多様性の保全と持続可能な利用を図るための「生物の多様性に関する条約」に基づく「生物多様性国家戦略」が平成14年に全面改定され、この新しい国家戦略に基づき、国内外において同条約の実施促進を引き続き図りました。また、遺伝子組換え生物の利用等による生物多様性への悪影響を防止するための国際的な枠組みであるカルタヘナ議定書に対応した国内制度を整備し、15年11月に同議定書を締結しました。
 ワシントン条約については、締約国間の適切な条約運用に向けての取組とともに、種の保存法の適切な運用等により、関係府省間の協力の下に国内におけるより効果的な条約の履行体制の強化を図りました。
 ラムサール条約については、引き続きアジア諸国の加盟促進に努めるとともに、湿地管理に関するワークショップの開催など、渡り鳥のルート沿いの重要な湿地の保全のため、同地域における協力体制の一層の強化を図りました。
 米国、オーストラリア、ロシア、中国及び韓国との二国間の渡り鳥等保護条約等に基づき、各国との間で渡り鳥等の保護のため、アホウドリ、ズグロカモメ等に関する共同調査を引き続き実施するとともに、会議の開催等を通じて情報や意見の交換を行いました。
 平成13年より開始された第Ⅱ期「アジア太平洋地域渡り性水鳥保全戦略」に基づき、シギ・チドリ類、ツル類及びガンカモ類の渡りルート上の重要生息地のネットワークへの参加を促進するとともに、同ネットワーク活動を推進しました。
 平成15年10月に中国との間で、「日中共同トキ保護計画」が策定され、トキ保護協力に関する基本的な枠組みが定められました。
 国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)において積極的な役割を果たしました。

2 森林の保全と持続可能な経営の推進

(1)問題の概要
 世界の森林は、陸地の3割を占め、面積39億haに及びますが、1990年(平成2年)から2000年(平成12年)にかけて、年平均940万haの割合で減少しました。特に、世界の森林の47%を占め野生生物種の半数が生息するといわれている熱帯林においては、この間、毎年、本州の面積の3分の2に相当する1,420万haの天然林が失われたと推測されています。近年では、ロシア極東地域における森林の減少も懸念されています(図6-10-1)。
 森林消失の原因として、農地への転用、非伝統的な焼畑移動耕作の増加、過度の薪炭材採取、不適切な商業伐採、過放牧、プランテーション造成、森林火災等が挙げられます。その背景には、人口増加、貧困、土地制度等のさまざまな社会的経済的要因が絡んでいます。特に近年では、違法伐採が問題となっています。

(2)対策
 平成4年の地球サミットで、森林原則声明及びアジェンダ21が採択され、それ以降、世界の森林保全と持続可能な経営に関する議論が行われています。
 平成13年に設置された「国連森林フォーラム」(UNFF)では、国家森林プログラムの策定等からなるIPF/IFF行動提案の実施促進、国際協力の推進、すべての森林に関する法的枠組みの作成等について検討されています。
 平成14年のヨハネスブルグ・サミットにおいて日本とインドネシアが中心となって発足させた「アジア森林パートナーシップ」(AFP)では、アジアの持続可能な森林経営の促進を目的として、違法伐採対策、森林火災予防、荒廃地の復旧と再植林等について検討されています。平成15年7月に開催されたAFP第2回実施促進会合では、優先的に取り組むべき具体的行動が合意され、同年11月に開催されたAFP第3回実施促進会合では、「合法性確認システムの開発」、「衛星情報の共有・活用」等の作業計画案が検討されました。
 国際熱帯木材協定(ITTA)に基づき横浜市にその本部が設置されている国際熱帯木材機関(ITTO)においても、熱帯林における持続可能な森林経営等を目的とした活動が行われています。
世界の森林面積の年当たりの増減(1990~2000年)

 平成15年9月に開催された第12回世界林業会議においても、各国政府、国際機関、研究機関、産業界、民間団体等約4,000人の参加の下、世界中の関係者に対して持続可能な森林経営の推進のための適切な法令の策定・施行等を呼びかける声明文が採択されました。
 また、森林の保全と持続可能な経営を評価するための基準・指標について国際的な取組が進められていますが、日本は、欧州以外の温帯林・北方林を対象とした「モントリオール・プロセス」に参加しています。
 違法伐採問題については、平成15年のG8エビアン・サミットにおいて国際的な努力への決意が確認されたところです。そのような中で、二国間の具体的な取組として、同年6月に日本とインドネシアとの間で、合法伐採木材の確認・追跡システムの確立、違法伐採木材を貿易から排除する仕組みの検討等を主な内容とする「共同発表」・「アクションプラン」を策定・公表しました。
 日本は、上記の取組のほか、ITTO、FAO等の国際機関への拠出、国際協力機構(JICA)等を通じた協力、民間団体の植林活動等への支援、熱帯林における生態系管理に関する研究等を行いました。

3 砂漠化への対処

(1)問題の概要
 砂漠化とは、乾燥地域、半乾燥地域等における土地の劣化のことです。これには、土地の乾燥化のみならず、土壌の浸食や塩性化、植生の種類の減少等も含まれます。
 砂漠化の影響を受けている土地は、世界の陸地の4分の1にあたる36億haに達します。これは、乾燥地域、半乾燥地域等における耕作可能地の7割に相当します。そして、世界人口の6分の1にあたる9億の人々が砂漠化の影響を受けています(図6-10-2)。

砂漠化の現状

 砂漠化の原因として、干ばつ等の自然現象のほか、過放牧、過度の耕作、過度の薪炭材採取、不適切な灌漑による農地への塩分集積等が挙げられます。その背景には、開発途上国における貧困、人口増加、対外債務の増加等の社会的・経済的要因が絡んでいます。

(2)対策
 「砂漠化対処条約」の下で、国際的な努力が進められています。日本は平成10年に同条約を受諾しました。
 平成15年6月に開催された第2回アジア地域閣僚級会合では、「2003~2008年のアジア地域行動計画の優先活動」等が決議されました。また、同年8~9月に開催された第6回締約国会議では、地球環境ファシリティ(GEF)を同条約の資金メカニズムに加えること等が決議されました。
 日本は、同条約により設けられている科学技術委員会へ貢献するため、砂漠化の早期警戒の方法等について検討しています。平成16年2月には日本でアジア地域の専門家会合を開催し、砂漠化の基準・指標、モニタリング・評価、早期警戒の方法等について議論を行いました。
 また、同条約に基づくアジア地域行動計画の一環として、テーマごとに情報交換等を目的としたネットワーク作り(TPN)等が進められており、日本は「砂漠化のモニタリングと評価」をテーマとし中国をホスト国とするTPN1及び「干ばつの影響緩和と砂漠化の制御のための能力強化」をテーマとしモンゴルをホスト国とするTPN5に参加しています。
 さらに、平成7~14年度にアフリカのブルキナファソにおいて地下水の有効利用を目的とした地下ダムの実証試験を行ったところであり、その成果を踏まえて、平成15年12月に同国において技術移転のための説明会を開催しました。
 このほか、二国間協力として、国際協力機構(JICA)等を通じ、農業開発、森林保全・造成、水資源保全等のプロジェクト等を実施しました。例えば、ブルキナファソにおいて砂漠化に対処するための農村開発の調査を実施しました。民間部門の活動に関しては、アフリカや中国で植林等の砂漠化対処活動を行っている民間団体に対し、環境事業団の地球環境基金等により支援が行われました。

4 国際的に高い価値が認められている環境の保全

 「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」に基づき世界遺産に登録された白神山地及び屋久島の自然遺産について、関係省庁・地方自治体による連絡会議の開催等により適正な保全を推進し、開発途上地域の世界遺産登録地の保護対策のための調査を引き続き実施しました。さらに、環境省と林野庁が共同で開催した「世界自然遺産候補地に関する検討会」において、「知床」、「小笠原諸島」、「琉球諸島」の3地域が世界自然遺産の新たな候補地として選定されました。このうち、「知床」については、平成16年1月に日本で3番目の世界自然遺産として推薦しました。
 「環境保護に関する南極条約議定書」の適切な施行を図り、南極地域の環境保護を促進するため制定された「南極地域の環境の保護に関する法律」(平成9年法律第61号)に基づき、観測や観光等の南極地域活動の環境影響評価、行為者への指導等を行うとともに、南極地域環境の把握、廃棄物処分状況の調査及び第41南極特別保護地区の視察等を行い、同法の適切な運用に努めました。また、議定書附属書Ⅴの発効に対応して、同法施行規則に定められている南極特別保護地区、南極史跡記念物及び南極特別保護地区ごとの管理計画等を改正しました。