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保全活用に関する文献検索

文献名
伝統的施業により維持されている薪炭林におけるチョウ類群集の構造と種多様性
出版年
2010
出版社
日本鱗翅学会
掲載雑誌
蝶と蛾
巻/号/ページ
61巻 / 2号 / 176-190ページ
著者名
西中康明、 松本和馬、 日野輝明、 石井実
Yasuaki Nishinaka、 Kazuma Maysumoto、 Teruaki Hino、 Minoru Ishii
目次
雑誌のため省略
キーワード
記載なし
要約
伝統的施業により維持されている薪炭林におけるチョウ類の群集構造と種多様性を明らかにするために、2006年4~10月に、今なお薪炭林利用が行われている林分を含む雨森山(兵庫県猪名川町)の里山林において、トランセクト調査およびコドラート調査を行った.トランセクト調査では、調査地の主要な植生を含むルートを設定し、植生や景観に基づき5つの調査区間(S1~S5)に分けた.コドラート調査は、調査地内にある伐採後2年目および6年目のクヌギ薪炭林、クヌギ放棄林およびアカマツ放棄林に、各2、2、2、6個、計12個の10m四方のコドラートを設定して行った.調査の結果、合計5科41種のチョウ類が確認された.トランセクト調査では、合計41種204個体が確認され、多化性・花蜜依存性のスジグロシロチョウ(43個体)、キタキチョウ(22)、ヒメウラナミジャノメ(22)、コミスジ(12)、テングチョウ(11)の5種が上位種だった.調査区間別にみると、種数や密度はクヌギ若齢林が優占するS3で最も大きく(25種61.9個体/km)、アカマツ放棄林が優占するS4で最も小さかった(2種2.0個体/km).またS3では、1化性のチョウ類が9種と最も多く確認され、そのうち3種は森林性スミレ依存種であるクモガタヒョウモン、メスグロヒョウモン、ミドリヒョウモンであり、この区間のみで確認された.一方、落葉広葉樹の中・高木が優占するS5でも1化性の種が5種と多く確認されたが、そのうち落葉性コナラ属依存種であるミヤマセセリと草本性のイネ科依存種であるホソバセセリの2種がこの区間のみで確認された.寄主植物の出現する遷移段階に基づいたSR指数(Nishinaka and Ishii、2007)を用いて分析すると、調査地全体では若齢林および落葉広葉樹林に出現する寄主に依存するチョウ類(SR5、6)の種数が多かったが、低茎草原(SR1、2)や常緑広葉樹林(SR7、8)に依存する種は少なかった.密度は高茎草原(SR3、4)および若齢林(SR5)に依存するチョウ類で高く、低茎草原や常緑広葉樹林に依存する種は低かった.調査区間別にみると、若齢林に依存する種の数は林縁部の区間であるS1(6種)や、若齢林を主体としたS3(9種)で多かったのに対し、落葉広葉樹林に依存する種はS5(6種)で最も多かった.一方で、落葉広葉樹林に依存する種の密度については、S3(6.8個体/km)で最大となり、S5でやや少なかった(6.4個体/km).コドラート調査では合計13種37個体が確認されたが、そのほとんどはクヌギ薪炭林に設定した4つのコドラートでの記録で、クヌギ放棄林やアカマツ放棄林のコドラートではチョウ類はほとんどみられなかった.クヌギ薪炭林についてみると、伐採後2年目の2つのコドラート(Q1、Q2)で合計12種23個体と多く、伐採後6年目の2つのコドラート(Q3、Q4)では合計5種11個体と少なかった.本調査の結果から、チョウ類の群集構造や種多様性が植生の遷移段階に敏感に反応し、伝統的な森林利用が里山林のチョウ類の保全において有効であることが示された.

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