環境省
VOLUME.64
2018年4月・5月号

いきものを守るヒトたち【PEOPLE】北海道野付郡「虹別コロカムイの会」/シマフクロウのための森づくりを100年かけて

いきものを守るヒトたち【PEOPLE】北海道野付郡「虹別コロカムイの会」/シマフクロウのための森づくりを100年かけて

絶滅危惧種のシマフクロウを守り、生息数を少しでも増やそうと、25年前に結成された「虹別(にじべつ)コロカムイの会」。
緑化推進運動功労者総理大臣賞を受賞した、その活動内容と成果を伺いました。

虹別コロカムイの会 会長 舘定宣さん

(左)シマフクロウのヒナ。1回の産卵で2個しか卵を産み落とさないので、1羽1羽が貴重な存在(右上)毎年5月ごろに開催する植樹祭では、地元の子どもたちも含め約300人ほどが参加する(右下)巣箱を設置し、清掃など管理も行っている

(左)シマフクロウのヒナ。1回の産卵で2個しか卵を産み落とさないので、1羽1羽が貴重な存在(右上)毎年5月ごろに開催する植樹祭では、地元の子どもたちも含め約300人ほどが参加する(右下)巣箱を設置し、清掃など管理も行っている

人が壊した環境を、人の手で回復させる

 アイヌの人々から「コタンコロカムイ(村の守り神)」と呼ばれ、悪霊を払う存在として崇められていたシマフクロウ。しかし、農地開発のための森林伐採が進んですみかとなる大木がなくなり、河川の改修などによって餌の魚類が減ったことでシマフクロウはその数を大幅に減らし、現在では北海道東部の狭いエリアに見られるだけとなってしまった。

 「虹別コロカムイの会」の舘定宣(たてさだよし)会長は、会を立ち上げるきっかけとなった日を振り返る。「長年この虹別地区に住んでいますが、51歳のその日までシマフクロウの姿を見たことはありませんでした」。ドナルドソン(ニジマス科)の養殖場に現れたシマフクロウの姿に圧倒された舘さんは、すぐに仲間を集め保護活動に乗り出した。

 そして、虹別地区を流れる西別川周辺で「シマフクロウの森づくり百年事業植樹」と名付けた植樹活動を開始。平均で年3,000本、多い年には5,000本の在来種を植え、昨年までに合計7万7,000本以上の木を植えた。しかし、シマフクロウが巣をつくるような木は、樹齢300年を超える大木(うろのある木)ともいわれている。そこで手作りの巣を木にかけ、メンテナンスもしっかり行ったところ、つがいが住み着くようになり、24年間で36羽のヒナがかえった。こうした活動が実を結び、2012年に140羽と推定されていた個体数は、2017年の調査では165羽まで増加。「専門家によれば、驚異的な増加数だそうです。でも、まだ楽観視はできません。事業名に“百年”とうたっているように、若い人たちに受け継いでもらわないといけないですね」。

 そんな思いから、植樹活動には地域の小学生から高校生までの子どもたちも呼び込み、特に標茶(しべちゃ)町立虹別中学校では2004年から現在まで授業として植樹に参加している。植樹を行う5月を「森・川を考える月間」として、シマフクロウの餌となる魚をたくさん育むようにと、子どもたちも参加して川べりの清掃も行っている。「人が壊してしまった環境を、人の手で取り戻したい。それもみんなで楽しみながらできれば一番ですね」。

[1]巣箱から顔をのぞかせるシマフクロウのヒナ。2カ月ほどで巣から出て、1年くらい経つと親のなわばりから飛び立っていく
[2]西別川の水質保全のために行っている清掃活動[3]清流の象徴とされるバイカモ保護のために網を設置している

[1]巣箱から顔をのぞかせるシマフクロウのヒナ。2カ月ほどで巣から出て、1年くらい経つと親のなわばりから飛び立っていく [2]西別川の水質保全のために行っている清掃活動 [3]清流の象徴とされるバイカモ保護のために網を設置している

INFORMATION

虹別コロカムイの会

シマフクロウが生息しやすい環境を復活させようと、標茶(しべちゃ)町、別海(べっかい)町、弟子屈(てしかが)町の酪農家や漁業者、公務員、自営業者などが集まって1994年に発足。西別川流域でナラやハンノキ、ハルニレなどの広葉樹を主体に植樹を続けている。そのほかにも巣箱の設置や川の清掃活動、さらに河川流域の保全策を考える「摩周・水・環境フォーラム」なども開催している。

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