環境省
VOLUME.64
2018年4月・5月号

いきものを守るヒトたち【PEOPLE】福岡県北九州市「北九州・魚部(ぎょぶ)」/ワクワク、ドキドキが水辺の環境を守る

いきものを守るヒトたち【PEOPLE】福岡県北九州市「北九州・魚部(ぎょぶ)」/ワクワク、ドキドキが水辺の環境を守る

身近な水辺を「遊び場」にすることで、生物多様性の大切さを伝える人たちがいます。その名は「魚部」。「いきもの大好き!」という気持ちを中心に据えた手作りの活動が共感を呼んでいます。

北九州・魚部のみなさん 左から、代表・井上大輔さん、副代表・上野由里代さん、工藤雄太さん、柳本美穂さん

紫川の川辺で行った、イシドジョウやシロウオの生態調査の様子。シマヨシノボリ、ドンコ、カワムツなど、さまざまないきものを発見し、大人も子どもも目を輝かせていた

紫川の川辺で行った、イシドジョウやシロウオの生態調査の様子。シマヨシノボリ、ドンコ、カワムツなど、さまざまないきものを発見し、大人も子どもも目を輝かせていた

いきものとふれあう楽しさが原動力に

 春の日差しが水面をキラキラと輝かせる中、「おったぁ!」と大きな歓声が響く……ここは福岡県北九州市を流れる紫川の下流域。胴長を着込んだ10人ほどの一団が、浅瀬で熱心に水底をのぞき込んでいる。彼らは北九州で水生昆虫や魚類の生態調査を行う「北九州・魚部」のメンバーたちだ。代表の井上大輔さんはこう語る。「調査方法に決まりはありません。大切なのは知識より好奇心。どのあたりを探せばいいのか、網をどう使うのかなどは各自で試行錯誤しながら身につけていくんです」。

 「魚部」はもともと、1998年に県立北九州高校の部活動として創設された。当時、同校の教諭だった井上さんが生徒たちに「川に入って魚探しをしよう」と呼びかけたのがきっかけだった。文化祭で「紫川の魚展」と題した企画展示を成功させたことを機に、水辺の楽しさに目覚めた生徒たちは、しだいに探索活動にのめり込んでいく。2006年には絶滅危惧種イシドジョウの人工繁殖に成功。また、魚部の発見がきっかけとなって、希少種生息地での公共工事が環境に配慮した計画に切り替えられるなど、その活動は「高校の部活」の範囲を超えた本格的なものになっていった。その後、卒業生が中心となり、誰もが参加できる組織として2015年に結成されたのが「北九州・魚部」だ。現在は33都道府県から約350人が参加。日本各地の水辺で調査した成果を展示会で発表するほか、身の回りの自然とそれらに関わる人間を主役とした雑誌「ぎょぶる」を定期発行している。副代表を務める上野由里代さんは、「身近な水辺にも多様ないきものがいることを知ってほしい。そして、知ることを通じて自分たちの暮らしを見つめなおし、命を大切にしていこうと働きかけたい」と語る。

 2018年度からはNPO法人として新たなスタートを切る。まず自分たちが楽しむことで、生き物の現状や環境の大切さを人々に伝えたい……魚部ならではのポジティブなエネルギーは、さらに大きく広がっていきそうだ。

[1]シロウオ
[2]ヨシノボリの一種
[3]夢中になってドジョウを探す
[4]イシドジョウをつかまえて思わずにっこり

[1]シロウオ [2]ヨシノボリの一種 [3]夢中になってドジョウを探す [4]イシドジョウをつかまえて思わずにっこり

写真/石原敦志

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