シシド・カフカ氏画像1
シシド・カフカ氏画像1

もったいないという
意識から生まれた
ドラムスティックの
アクセサリー

2012年にドラムボーカルというスタイルで
デビューした、シシド・カフカさん。
ドラマーにとってドラムスティックは
消耗品ですが、大切な資源がごみに
なることを
もったいないと感じ、
それをアクセサリーにアップサイクルする
ブランド「LAZZUL(ラズル)」を
立ち上げました。
日々の暮らしのなかでも、ごみを
増やさない工夫を実践しているという
シシドさんに、エコについての
考えをお聞きしました。

年間200本以上も消費される
ドラムスティック

アルゼンチンに滞在していた中学生の頃にドラムを始め、2012年にドラムを叩きながら歌うドラムボーカルというスタイルでデビューした、シシド・カフカさん。ドラマーにとってなくてはならないドラムスティックですが、常に最高のサウンドを出すために、頻繁に交換するのはごく当たり前のことでした。

「5時間くらいのリハーサルを2、3回やると、ドラムスティックの表面が細かく裂けてきます。そうなると音が変わってしまうので、新しいものと交換しています。ただ、私のようにそんな状態になるまで使っているドラマーは少ないかもしれません。大抵はヒビが入る前に、ちょっとでも違和感を覚えたら新しいドラムスティックに替えていると思います。多い人だと、年間で200本以上使っているのではないでしょうか」

ワンマンライブのほか、全国のフェスやイベントにも多数出演しているシシドさん。

ワンマンライブのほか、全国のフェスやイベントにも多数出演しているシシドさん。

わずか40㎝ほどの細い棒とはいえ、天然の木材で作られたドラムスティック。ドラマーとして仕方がないことと割り切りながらも、常にもったいないという気持ちを抱えていました。

「実は、シンバルも数年に1回の頻度で割れることがあります。ただ、シンバルは電球をつけてランプにしたり、灰皿に加工したりと、アップサイクルされることが多いんです。でも、ドラムスティックはドラムを叩くという役割を終えると、使い道がなくなってしまいます。これをごみとして捨てることが嫌で、なんとか再利用できないかとずっと考えていました」

使えなくなったシンバルとドラムスティック。

使えなくなったシンバルとドラムスティック。

長年の想いを叶えるヒントは、ある日、突然舞い込んできました。

「あるとき仕事仲間から折れたドラムスティックが欲しいと言われて、何気なく渡したら、ボールペンにアップサイクルして返してくれたんです。そのとき、ごみとして捨てていたドラムスティックにこういう次の人生があるのかとはじめて気づきました」

割れたドラムスティックを
アクセサリーとして
アップサイクル

2018年、シシドさんは、折れたドラムスティックやシンバルをアクセサリーにアップサイクルするブランド「LAZZUL(ラズル)」を立ち上げます。アクセサリーにすることを選んだ背景には、ある理由がありました。

「私が音楽を楽しむために使っていたドラムスティックだからこそ、アップサイクルした後も、皆さんに喜んでもらえるツールに昇華させたいと考えました。アクセサリーであれば、身近に使える上、日常に彩りがプラスされます。さらに、それがエコにつながる。エコやアップサイクルは、我慢したり、苦しいと感じたりしながらやることではないですからね。そして、使い古した素材だからこそ世界に同じものがない、唯一無二のプロダクトであるところにおもしろさを感じています」

LAZZULには、ドラムスティックから削り出す素材を使ったピアスやキーホルダー、シンバルを加工した指輪やバングルなどのアイテムが並びます。シンプルでありながら、どこか温かみを感じされてくれるアクセサリーは、シシドさんもアイデアを出し、デザイナーや職人と一緒に作り上げています。

「私はまったくの素人なので、イメージしている形に紙を切って『こういうものを作りたいんです』と提案することもあります。デビュー10周年のときは、どうしてもアクリルと木をつなげたアクセサリーを作りたいと相談したところ、最初は『つなぐのは難しい』と職人さんに難色を示されました。なんとかならないかとお願いして試してもらったところ、思っていたより木の繊維とアクリルがしっかり噛み合って、アイデアを実現できたんです。私の思いつきを形にしてくれるデザイナーさんや職人さんたちにはいつも助けられています」

アップサイクルされたLAZZULのアクセサリー。

アップサイクルされたLAZZULのアクセサリー。

シシドさんのこだわりは、商品以外の部分にも行き届いています。

「LAZZULのアクセサリーを固定する台紙は、すべて再生紙を使っています。宮城県にNOZOMI PAPER Factoryさんという福祉作業所があって、そこでは全国から集めた牛乳パックを手作業で丁寧に加工して、手漉きの紙を作っています。NOZOMI PAPER Factoryさんとはご縁があって、ブランドの立ち上げ当初からお付き合いさせていただいています。今後は台紙だけでなく、商品を梱包する際の緩衝材も、再生紙に変更しようと考えています」

もったいないという意識が
ごみを資源に変える

もったいないという意識が強く働くのは、ものを大切に使っていた両親の影響が大きいと言います。

「昔は新聞を購読している家庭が多かったので、チラシがありましたよね。私の両親は、裏が白紙のチラシがあると絶対に捨てずに、クリップでまとめてメモ帳として使っていました。昨今はペーパーレス時代と言われますが、それでも仕事の資料はまだまだ紙が多いんです。私もそういった資料をそのまま捨てることに対しては抵抗があるので、そのなかから余白を探して活用するように心掛けています」

ドラムスティックに限らず、資源となるものは無駄にせず、できるだけ再利用するのがシシドさん流の暮らし方です。

「仕事柄、洋服がどんどん増えてしまうので、まだ着られるものは、もらい手が見つかるまで、周りの人に『洋服いらない?』と根気強く声をかけています。それでも見つからなかったものは、回収している団体や店舗をインターネットで検索して送ったり、持って行ったりしています。ドラマの撮影では、真冬に薄着で撮影をすることがよくあるのですが、防寒対策として、スタイリストさんが使い捨てカイロをたくさん用意してくれることがあります。そんなときは『使い終わったカイロを回収してくれる団体があるんですよ』と、さりげなく伝えています。再利用できるものはすべて資源ですからね」

ミュージシャンとして出演するライブでも、もったいないという意識は働きます。

「ライブを開催すると、ファンや関係者の方々が祝い花を送ってくれますが、最初の頃はライブが終わったら、お花屋さんが回収してくれると思っていたんです。それがそのまま破棄されると知って驚き、会場に来てくれたファンのみなさんに『ご自由にお持ち帰りください』と話したところ、すごく喜んでくれました。それから毎回、祝い花は持ち帰っていただくように伝えています。たまに伝え忘れてしまうことがあるので、改めて言っておきたいのですが、シシド・カフカのライブでは、お花はぜひお持ち帰りください(笑)。本当は自宅に持って帰るのが一番いいのですが、さすがに量が多すぎるので、これからもファンのみなさんと一緒に楽しみたいと思います」

常に考え、行動することが
環境を守ることへとつながる

ペットボトルは使わず水道水を濾過するグッズを活用したり、再利用できるガラス容器に入った油を選ぶなど、極力ごみが増えない生活を心掛けているシシドさんは、「できることを長く続けることが大切」と話します。

「ただし、無理はしないこと。例えば、今日はマイボトルを持参できなかったから、ペットボトルの飲み物を買ってしまった。でも、昨日は買わなかったからそれで合格、と思うようにしています。本当に小さなことでも、みんなが続ければ、自然環境によりよい影響を与えると思っています」

アーティストとして活動しながら、俳優として映画やテレビドラマにも出演。さらにはハンドサインを使って即興演奏でセッションしていくリズムプロジェクト「el tempo(エル・テンポ)」を主宰したり、ハードロックバンドを結成したりするなど、活動の幅を広げています。

「デビューした頃は一つのものを突き詰める人がかっこいいと思っていましたが、どうやら自分はそういうタイプではなく、いろいろなことに取り組み、そこから吸収してアウトプットするのが向いていると分かりました」

常にアンテナを張り巡らせ、興味関心があることに挑戦するシシドさんにとって、どのような人がエコジン(エコロジー+人)なのかを、最後に聞いてみました。

「常に疑問を持つことができる人だと思います。これは何で作られているのだろう、これはリサイクル、アップサイクルができるものなのかと、常に疑問に思って、立ち止まって考えられる人がエコジンではないでしょうか。すべてのものは有限で、ずっと長く私たち人間を支えてくれた自然環境は、次の世代、そして未来に残していかなければならないはずです。そのために今なにができるのかを、これからも常に考え、行動していきたいと思います」

シシド・カフカ氏画像2
シシド・カフカ(ししど かふか)

メキシコ生まれ。2012年、ドラムボーカルのスタイルでソロデビュー。モデル、俳優としても活躍する。2018年、ハンドサインを使って即興演奏でセッションをするリズムプロジェクト「el tempo」を主宰。東京パラリンピック閉会式にも出演し、話題を集める。日本武道館公演を目標にしたハードロックバンド「BONE DAWN(ボーン・ドーン)」のほか、堺正章のバンド「堺正章 to MAGNETS」のメンバーとしても活動中。

写真/牧野智晃
原稿/福田 剛

エコジン・インタビュー 記事一覧へ

CATEGORY