プラスチックと
どうつきあう?
軽くて丈夫、さまざまな形に加工することができて値段も安いことから、1950年代以降、急速に普及したプラスチック。便利な素材である一方、気候変動や海洋汚染などの世界的な環境問題にもつながっています。2019年のG20大阪サミットを経て、2022年3月の国連環境総会では、海洋プラスチック汚染をはじめとするプラスチック汚染対策について、法的拘束力のある文書(条約)の作成に向けた決議が採択されています。
日本でも、2022年4月から「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(以下、プラスチック資源循環法)が施行されました。プラスチックごみを削減し、リサイクルを進めなければならないのは、プラスチックを製造、提供している企業だけではありません。消費者一人ひとりも、毎日の生活の中で、選択や行動、ライフスタイルを変えていくことが求められます。
CONTENTS
プラスチック資源循環法とは?
プラスチック資源循環法は、必ずしも必要としないプラスチックの使用はReduce(リデュース)・Reuse(リユース)により減らし、生活に欠かせないプラスチックについては、持続可能が高まることを前提に再生素材や再生可能な資源に切り替えるRenewable(リニューアブル)をすすめ、徹底したRecycle(リサイクル)を実施することを、事業者・自治体・消費者が一体となって取り組むための法律です。
特にプラスチック製品の設計・製造段階から、排出・回収・リサイクルに至るまで、プラスチックのライフサイクル全体を通して、環境に配慮することが求められている点が大きな特徴です。
例えば、製造メーカーは再生プラスチックやバイオプラスチックの開発を進めることが、お店などの提供事業者はプラスチック製の過剰包装の見直しや使い捨てプラスチックを減らす工夫が求められます。プラスチックごみについても、自治体の分別ルールが変更されたり、店頭での回収が広がるなど、私たち消費者の生活のさまざまな場面で変化が起こります。
どのようなプラスチック製品を選ぶか、どのように使い捨てプラスチックを減らせるか、またはどのように回収・リサイクルに協力するのかなど、プラスチックとの上手なつきあい方を考え、資源の循環を進めていきましょう。
プラスチックは悪者?
資源として生かすために
プラスチック資源循環法が始まり、プラスチックを大切な資源として利用していくためには、具体的にはどうしたらよいでしょうか。「えらんで」「減らして」「リサイクル」の3つのキーワードから、私たちができることを考えてみます。
【えらんで】
どんなプラスチックを選ぶ?
プラスチック製品の製造メーカーが、プラスチック製品づくりに取り組む際、環境に配慮した設計となるよう「プラスチック使用製品設計指針」ができました。例えば、容器包装のプラスチック使用量を減らす。あるいは、くり返し使えるよう詰め替え用品を用意したり、部品を交換したりすることで長く使える設計とする。また、収集・運搬・焼却が容易であることも、持続可能なリサイクルに重要です。素材に目を向ければ、バイオプラスチックや再生プラスチックの利用も求められます。
さらに今後は、特に優れた設計について国が認定する制度も設けることで、環境に配慮した設計の普及を促していきます。
選んだものが従来のプラスチックか、環境負荷を考慮した素材を使用したものか。今後は商品を手に取る際、そんなことも意識してはどうでしょうか。
- 省プラスチックを目指して
「つめかえ」から「つけかえ」へ -
1990年代から、プラスチック容器の再利用を促すつめかえ用製品を提供するなど、プラスチック使用量の削減に取り組んできた花王株式会社。さらなる省プラスチックを目指して開発されたのが、「スマートホルダー」です。
従来のつめかえ用製品はボトルに移して使うものでしたが、スマートホルダーは「つめかえ」ではなく、フィルム容器をカチッと「つけかえ」るだけ。ボトルに注ぐ手間がありません。また、ポンプを押すと使うごとにフィルム容器が縮小するエアーレスポンプによってボトル内に中身がほぼ残らず、ボトルを逆さにするなどのストレスを感じることなく最後まで使い切ることが可能です。昨年はドラッグストアと環境問題解決に向けてタッグを組み、再生プラスチックを90%以上使用したタイプのスマートホルダーも販売しました。
「使いにくくては、本当に環境にやさしい容器とはいえない。使いやすさにこだわった容器開発を行っています」とは花王包装技術研究所の岩坪貢所長。環境負荷の低いフィルム容器がさらに使いやすくなることで、プラスチックボトルレス化を加速させていきたいというのが大きな狙いです。
【減らして】
ワンウェイプラスチックに「ノー」の勇気を
プラスチック資源循環法では、特定プラスチック使用製品12品目が定められ、提供事業者は何らかの取り組みを行うことが必要となります。
とにかく「ごみ」として排出されるプラスチックを減らさなければならない今、ワンウェイ(使い捨て)プラスチックの削減などは、欠かせない対策となっています。これまで、コンビニのスプーンやフォークなどのカトラリー、クリーニング店のハンガー、宿泊施設の歯ブラシやカミソリなどは、無償で提供されることが多く、使い捨てへの心理的なハードルが低かったのではないでしょうか。必要としない場合は辞退する、旅先ではマイ歯ブラシ、マイカミソリを持参するなど、行動を見直してみましょう。
- カトラリーを含む全パッケージを
サステナブルな素材に -
日本全国で2,900店以上を展開しているハンバーガー・レストラン・チェーン最大手の日本マクドナルド株式会社。2025年末までに、すべてのお客様提供用パッケージを再生可能な素材、リサイクル素材、または認証された素材に変更するという目標を掲げる同社は、その第一歩として2022年2月から、横浜エリアの一部店舗で紙ストローと木製カトラリーの導入を始めました。
それぞれにはFSCⓇ認証取得の木材と紙を利用。紙ストローについては、「味覚、耐久性を含めた課題を解決するため、何度も改良を重ねました」と、同社PR部の石黒友梨さん。また木製カトラリーについても、安全性を確保するため、原料選びや品質検査を通常以上に厳格に行いました。同社では、必要以上にプラスチックを使わないことを大原則として、プラスチックとの賢いつきあい方をすること、そしてきちんと分別することが大切だと考えています。
この取り組みに先立つ 同年1月には、子ども向けのハッピーセットのおもちゃにプラスチックフリーのパズルを販売し、大変好評だったそうです。ハッピーセットのおもちゃも2025年までに、すべてサステナブルな素材へ移行します。
【リサイクル】
「使ったら資源」を当たり前の行動に
これからは、全国の市区町村でプラスチック資源の分別収集が、徐々に広がっていきます。シャンプーのボトルやお菓子の袋などの容器包装に加えて、これまで燃えるごみなどとして処理されてきた製品プラスチックについても、資源として分別収集・リサイクルが始まります。プラスチックの資源化には、出し方や分別のルールを守るなど、住民一人ひとりの意識と協力が欠かせません。
さらに、スーパーやコンビニの店頭などを活用したプラスチック資源の回収拠点も増えていきます。
お買物のついでに、不要なプラスチック製品の回収に協力するなど、使った後にも責任を持って、再び資源として生かす意識を持ってプラスチックとつきあっていきましょう。
- 出せる?出せない?
住民が迷わない分別基準を明確に -
長野県松本市では、プラスチックの焼却によって発生するCO2排出量を抑えること、そして最終処分量削減のため、容器包装プラスチック(以下、容プラ)に加えて製品プラスチック(以下、製品プラ)を再資源化することを目指し、それぞれを一括回収する試験回収を行いました。30cm以内の製品プラは品目を特定せず、容プラと一緒に指定ごみ袋で回収。また30 cmを超える製品プラは、指定ごみ袋を貼り付けて出してもらうこととしました。これに先立ち、モデル地区の全戸には「汚れを落とす」「リチウムイオン電池などの火災の原因となるものは絶対に混ぜない」など記載したチラシを配布しました。
同市環境業務課の林さんによると、「一括回収はわかりやすいと好評でした。今後は、対象品目を数多く例示する、また、どの程度の汚れであれば出すことができるのかなど、わかりやすい分別基準を設定するなどして、複数の媒体を活用して伝えていくことが回収量を増やしていくために必要だと感じています」ということです。松本市では2023年4月から全市で実施予定。無理なく継続できるリサイクルの環境が、多くの自治体で整えられていくことでしょう。
持続可能なプラスチックの未来を
熱に強く、簡単に大量生産できることから、世界中に広まったプラスチック。その便利さは疑いようがなく、今やプラスチックのない生活は考えられません。その一方で、化石資源を原料とするプラスチックは生産にも廃棄にも多くのCO2を排出し、気候変動や海洋プラスチックごみ、資源の問題とも密接につながっています。
過剰包装や使い捨て文化を見直すと同時に、分別すれば資源になることを一人ひとりが自覚し、実践すること。その小さな積み重ねが循環型社会の扉を開く鍵であり、2050年までに海洋プラスチックごみによる新たな汚染をゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」や「2050年カーボンニュートラル」の目標の達成につながります。
今日から、「プラスチックは、えらんで、減らして、リサイクル」をキーワードに、できることからチャレンジしていきませんか。
写真/PIXTA(2-1上、2-2上、2-3上)