今月のアクション
睡蓮鉢で、コンテナで
ビオトープをつくろう
自然の生態系を再現し、生き物や植物を育てる「ビオトープ」。色々な生き物が自然とやってきて、季節とともに姿を変えていき、思わぬ出合いがあることも。
庭がなくても、ベランダに睡蓮鉢やコンテナなどの容器を置いて、簡単に作ることができます。生物多様性の保全につながり、楽しく美しいビオトープづくり。この夏から始めてみませんか?
ビオトープとは、ドイツ語の「biotop」のことで、元々はギリシャ語で「命(bio)のある場所(topos)」という意味。人工や自然を問わず、生き物が生息する場所を指します。
地球には約3,000万種、あるいはそれ以上の生き物がいるといわれていますが、一つ一つに個性があり、全てが支え合って生きています。これを「生物多様性」と呼びます。ビオトープを作ると、自然と動植物がやってきて、季節によって様子が変化していきます。絶滅危惧種を守ることは生物多様性の保全につながりますが、適切なビオトープを作ることもまた同様です。動植物が生きる場所を一つでも増やしていくことは、生物多様性の保全につながります。
作ることもお手入れも簡単なビオトープですが、一点注意したいのが、生物多様性の破壊につながる外来種の発生地や拡散地にならないようにすることです。外来種とは、人の手によって自然分布域外に持ち込まれた生物のことです。アメリカザリガニやアカミミガメ(ミドリガメ)などが有名ですが、改良品種のメダカのように、遺伝子が異なるものも同様です。これらがビオトープから野外に出てしまうと、捕食や競合、遺伝子のかく乱により、その地域に元々いた他の生物や、遺伝子の特徴を滅ぼしてしまいます。ビオトープに動植物を入れる場合は、その点を十分に注意しましょう。
環境省 生態系被害防止外来種リスト
https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/iaslist.html
ビオトープに欠かせない
エコトーンの存在。
生物が多く暮らす水辺には、必ず「エコトーン」があります。エコトーンとは「移行帯」の意味で、2つの異なる環境が少しずつ変化しながら接する場所を指します。水辺の場合は、陸と水の間にあるどちらとも付かない場所がエコトーンです。
水辺にエコトーンがない場合、水中生活が不要な生物(例:カブトムシ)と、陸上生活が不要な生物(例:ヤマメ)のように、2つの生活史パターンの生物しか暮らせません。しかしエコトーンがあると、水中とエコトーンを利用する生物(例:ドジョウ)、陸上とエコトーンを利用する生物(例:カスミサンショウウオ)、水中とエコトーンと陸上を利用する生物(例:ゲンゴロウ)、エコトーンのみを利用する生物(例:ヒメタイコウチ)のように、4つの異なるタイプの生態を持つ生物が利用でき、生物多様性に寄与します。ぜひ、エコトーンのあるビオトープを目指してみましょう!
ビオトープの作り方。
ビオトープをつくる際は、それが生物多様性を破壊しないようにすること、エコトーンを設置することが重要です。きちんとエコトーンをつくれば、何も入れなくても、やがて色々な動植物が集まってきます。
「そんなに気長に待てない!」ということであれば、動植物を入れる形でも問題ありませんが、その場合に注意しないといけないのは、そのビオトープから動植物が逃げ出せる構造か否かということです。少しでも逃げ出せそうな構造であれば、万が一逃げ出しても問題がない種だけを入れましょう。逃げ出しても問題がない種とは、基本的にはその地域の同一水系(*1)や近隣から集めたものを指します。
ビオトープから溢れた水が、周辺の川に流れ込んでしまうような構造であれば、遠い場所から採集してきたもの、買ってきたものは絶対に入れないようにしましょう。
用意するもの
・飼育容器(睡蓮鉢やコンテナなど)
・容器の縁よりやや低い高さの植木鉢など、エコトーン作成用の台になるもの
・土(庭や近所の土、購入する場合は赤玉土など)
・植える植物
① エコトーン作成用の台を置き、容器と台に適量の土を入れます。
② 植物を植えます。ここでは自宅周辺から採集してきたナンゴクデンジソウやセキショウ、ノチドメなどを植えました。
③ 水道水を入れます。エコトーンができるよう、陸から水面にかけて斜面になるようにして、水面ギリギリに陸地ができるよう水位を調整しましょう。あとは気長に見守るだけです。
※生き物を入れる場合は、水を入れて1カ月ほど経ってからにしましょう。
One More Action!
ビオトープQ&A
Q. お手入れは?
A. ビオトープのお手入れは、基本的には容器内の水が減りすぎないよう足し水をするくらいです。一般的なビオトープは、作った2〜3年後をピークに、生物の種類が減少することが知られています。それは、かなりの速度で遷移が進み、植物や堆積物が増えて陸地化するためです(*2)。様子を見ながら、植物を抜いてみたり、土を掘って深くしたりして、変化を起こしてみましょう。
Q. 掃除は必要?
A. ビオトープはさまざまな生き物が作用し合うことで、水質浄化のサイクルが完成しているため、水替えなどの掃除は基本的に不要です。植物が増え過ぎたり、泥が溜まって浅くなってきたりした場合は取り除きましょう。
Q. 雨の日はどうする?
A. そのままで問題ありません。雨水により水位が上がり、エコトーンが水没する様子を観察するのも醍醐味の一つです。
Q. 水は水道水でいい?
A. 日本の水道水は全く問題ないです。一晩経てば塩素も抜けます。
Q. 蚊は湧かない?
A. 吸血性の蚊の幼虫(ボウフラ)は水生ですが、他の生物がいない狭い水域で育ちます。ヤゴやゲンゴロウなどが暮らすような、健全なエコトーンを備えたビオトープには、ボウフラは大発生しません。万が一湧いてしまったら、いったん水を抜いてリセットすれば大丈夫です。