|
研究概要
１．序（研究背景等）
わが国の企業にとって環境問題への対応は必要不可欠の課題であり、領域の拡大と強度の高まりは時と共に進んでいる。とりわけ、地球温暖化緩和政策の一層の強化が見込まれる状況においで、企業活動の面でも革新的変化が求められている。環境経済学では、環境への対応は必然的に企業のコスト負担を増大させると主張され、そのため直接規制型の環境政策よりも、静学的・動学的利益をもたらす費用対効果の高い誘因べ一スの経済的手法や情報的手法の採用が提唱されてきた。これに対し、「環境政策は企業の国際競争力を高める」（1990，1991年、ハーバード大学のMichael Porter教授）、「環境政策は、技術革新を誘発するとともに企業利潤を高める」（1995年，Michael Porteran van der Linde）という主張が現れ、大きな論争を巻き起こした。環境政策が技術革新を誘発するかどうか、また直接規制よりも経済的手法・情報的手法のほうが高い技術革新誘発力をもつかどうか、といった従来からの論争に加えて、環境政策が技術革新の促進を通じて企業利益を改善することになるかどうかが問題となった。後者の論争については、現在も理論的・実証的研究が続けられている。どのような政策領域、どのような産業分野において、またどのような要因の存在が、環境政策と技術革新が相互支援的となる持続可能な発展に貢献するかを明らかにすることが重要である。
環境問題に対する企業の対応を考えるうえで、ダイナミックな技術革新とともに、経営革新や政策革新の必要性も近年重視されるようになった。とくに数多くのステークホルダーとの情報共有化による技術革新・経営革新を実現するため、環境経営手法とりわけ外部環境会計や環境管理会計の制度を拡充すること、およびそれらの革新をより促進するための環境政策のあり方に関する研究が必要とされている。
２．研究目的
本研究では、「環境イノベーション」について、企業が環境負荷低減を実現する「技術革新」、「経営革新」、ならびに政府による「政策革新」を含む広い概念としてとらえ、「企業経営の意思決定」および「環境産業の育成・創出」を専門に研究してきた担当者グループの協力の下で、２つのサブテーマを関連付けながら、経営革新と技術革新を促進し、阻害要因を解消するような環境政策の要件に関する共同研究を行った。
環境政策と環境イノベーション（とりわけポーター仮説）に関する理論的・実証的研究のサーベイから、環境政策が環境イノベーションに及ぼすプラス・マイナスの影響力を、次の３つの観点から明らかにした。第１に、企業内部における環境対応意思決定および企業の環境関連情報の開示に関する会計学的研究、第２に、上場企業の財務パフォーマンスと環境パフォーマンスの関係に関する統計解析的研究、第３に、ヒアリング調査に基づく環境イノベーションの類型化および環境政策との関連性の分析の３つがそれである。
これらの分析を通じて、米国やわが国におけるこれまでの優良事例に比肩できる地球温暖化のための技術的・経営的革新につながるさまざまな環境イノベーションに資する環境政策のあるべき方向を探求した。このような探求を通じて地球温暖化緩和政策の強化を模索しているわが国の環境政策手法の方向性について考察し、現在わが国で進行しつつある政策革新の理論的・実証的根拠を明らかにすることを目的として本研究を行った。
３．研究の内容・成果
（１）環境会計による環境イノベーション促進に関する研究
本研究では環境会計による環境イノベーション促進の可能性と、そのための手法開発を研究する。研究プログラムは以下の２つに分けて行った。
�ヾ超�イノベーション促進手法としての環境管理会計手法の研究
本研究の目的は、企業イノベーションをプロセスイノベーションとプロダクトイノベーションに分け、環境管理会計の諸手法がどのように環境イノベーションを促進するのか、環境イノベーションを促進するには、どのような環境管理会計手法の高度化が必要かを研究した。
平成15年度は、日本企業（東証一部上場企業）への質問票調査によって、環境管理会計の有効性を検証した。その結果、環境会計を環境管理会計として内部利用している企業のほうが、外部情報開示の手段としてのみ活用している企業よりも、環境会計の有効性を高く認識していることが明らかとなった。また、環境管理会計の個別手法の中では、マテリアルフローコスト会計の認知度が最も高いことも示された。マテリアルフローコスト会計は、プロセスイノベーションを促進する代表的な環境管理会計手法であり、本プロジェクトでは日本ペイント株式会社の一製造ラインへ導入を試み、その可能性を検証した。その結果、マテリアルフローコスト会計のエネルギー管理面での可能性を示すことができた。
平成16年度は、本社と事業所において環境管理会計がどの程度普及しているのかについて質問票調査を行い、事業所における環境会計導入の主目的は本社にデータを送ることであり、現状では環境イノベーションを促進するほど環境管理会計が活用されているとはいえないが、環境管理会計を導入している事業所ほど環境会計への有効性の認識は高く、今後の発展のためには、本社サイドからの指導が有効であることが明らかにされた。さらに、プロダクトイノベーションを促進する手段として環境配慮型原価企画を取り上げ、シャープ株式会社における環境配慮型原価企画の現状調査と課題の抽出を行い、環境配慮製品をより有効に実現するためには、これまで以上にLCA的な視点が必要であり、顧客（最終消費者）のコスト意識の変革や当該企業外で発生するコスト全体を含めたフルコストという観点の導入などが必要であることを明らかにした。
平成17年度は２年間の研究成果を受けて、プロセスイノベーションの促進手段としてのマテリアルフローコスト会計を、プロダクトイノベーションの面でも有効に活用するためには、LCAの視点を追加することが重要であると判断し、マテリアルフローコスト会計とLCA（その中でも環境インパクト評価手法であるLIME（Life-cycle Impact assessment Method based on Endpoint modeling）を取り上げた）の統合手法の開発と実際に企業への試行的導入研究を行った。マテリアルフローコスト会計すでに導入している４社の協力を得て、各社の製造ラインにおいて、マテリアルフローコスト会計とLIMEの計算結果を統合した。その結果、マテリアルフローコスト会計にLIMEを追加することによって、環境への外部性が経済価値として認識されるため、一層の環境保全効果が期待されること、プロセス改善のみならずプロダクトの構成内容にまで遡って改善を促す可能性があることが示された。ただし、マテリアルフローコスト会計で算出される企業コストに比べて、LIMEで評価される環境外部性は金額的に小さいため、企業意思決定への影響力という点では限界があることが課題として示された。
��外部環境会計の環境イノベーション促進作用の研究
外部環境会計（環境会計情報を外部に開示すること）は、企業による環境経営の成果を公表し、環境経営に対する外部評価を可能にする手段である。環境経営が企業外部で適切に評価され、市場行動に影響するとすれば、これは重要な環境イノベーションの促進手段となりうる。本研究では、日本における外部環境会計の動向を時系列に分析するとともに、環境経営評価の手段として、どのような改善が必要かを体系面と個別事象面で検討した。
日本企業の外部環境会計の現状分析に関しては、平成15年、16年、17年と継続して分析した。東証一部上場企業に環境報告書の送付を依頼し、環境会計情報の開示の有無と、環境省環境会計ガイドラインへの準拠性を中心に調査した。その結果、平成15年度は環境報告書作成企業416社中環境会計情報開示企業337社（81.0%）
、平成16年度環境報告書作成企業428社中環境会計情報開示企業346社（80.8%）、平成17年度環境報告書作成企業441社中環境会計情報開示企業336社(76.1%)であり、開示されている環境会計の大半は環境省の環境会計ガイドラインに準拠していることが明らかとなった。ただし、ガイドラインの枠にとらわれず、独自の環境会計を工夫する動きも見られる。
この結果から、環境会計情報の開示実務は、日本企業に定着したということができる一方で、開示企業数は漸減しており、その要因のひとつは環境省の環境会計ガイドラインにあるにではないかと推察される。
環境省環境会計ガイドラインは環境保全コストの集計を中心とした体系であるが、環境保全コストは企業コストのわずかの部分を占めるに過ぎず、環境関連コストとしても、原材料費や環境への外部性を包含しておらず限界がある。環境会計の内部管理面については、�，慮Φ罎任垢任北世蕕�にしているとおりだが、外部環境会計のとしての可能性を開くためには、環境外部性を取り込んだ形式に拡張することと、二酸化炭素排出などの個別事項の情報開示を充実させる必要がある。
環境外部性を取り入れた外部環境会計の拡張に関しては、平成16年度にはイギリスのSIGNプロジェクトの環境会計およびサステナビリティ会計を研究し、平成17年度には環境経営評価のための環境会計の可能性を検討した。その結果、日本の環境会計ガイドラインでは、環境保全コストを算定するものの、その効果を金額べ一スで評価する構造になっていないため体系的に問題があること、SIGMAの環境会計は環境負荷の評価として回避コストを採用している点に課題は残るものの、日本型環境会計の展開方向として有益な示唆を与えることが明らかとなった。
CO2情報の開示に関しては、平成17年度に環境報告書発行企業におけるCO2情報の開示動向を総合的に分析した。CO2情報の開示は物量単位での環境会計情報開示として捉えることができ、環境保全コストとの対比によって、コスト対効果の分析が期待されるものの、現在の開示内容は、開示対象の範囲、測定単位、バウンダリー、開示場所などの点で、統一性が取れておらず、環境経営評価の指標として活用するには、より一層の標準化が必要であることが示された。
（２）環境政策と環境イノベーションに関する研究
�ヾ超�イノベーションの事例分析
本研究では、製造面、技術面、システム面など経営のあらゆる場面で環境対策を積極的に行っている企業に対し、どのようなメカニズムで環境対策と利益創出との両立を実現しているのかについてヒアリング調査を行った。主なヒアリング項目は、環境対策においてBtoB（business to business=企業間の取引）やBtoC（business to consumer）企業と最終消費者との取引）などで違いが存在するかどうかや製品やサービスによる環境パフォーマンスから財務パフォーマンスへの影響についてである。調査対象企業数は12社で、業種は、建設、運輸、電力、ガス、鉄鋼業、自動車、電気機器、精密機器、化学、食品の10業種である。ヒアリング調査の結果、BtoBやBtoCなどのビジネス形態の違いによる顧客への提供価値の違いが明らかにされた。また事業上の戦略と環境対策を連携させることによりはじめて企業利益に結びつくことが示された。
BtoB市場においては、取引先企業との連携がキーとなることが考えられる。例えば、鉄鋼業のJFEホールディングスの場合、最終消費財メーカーや素材メーカーの環境配慮へのニーズに対応するため、鋼板を共同で開発し、資源や有害化学物質が抑制された鋼板が商品化されている。運輸業の佐川急便は、異業種間の連携により天然ガスの大量導入を進め、イニシャルコストの大幅ダウンを実現している。BtoB市場は顧客が企業単位であるため、EUの環境指令や政府が実施する環境政策の影響を直に受ける。したがって、BtoB市場では、環境規制への対応を異業種間や取引先企業との協力で進めることで、競争力と利益確保につながることが示された。
他方、BtoC市場では、顧客が消費者であるため、まずその商品自体に商品力としての魅力が備わっていることが購入の際の要件となっている。消費者は、「性能」、「価格」、「環境」など様々な要素を考慮して商品を購入している。環境への社会的関心が高まる中、「環境」の要素は、ここ最近、大きくなりつつあるようである。しかしながら、まだ商品のリサイクル性や素材等の取組みでは消費者に理解されていない面が多くあると推察される。BtoC市場において、商品自体の価値を高めることも必要なことであるが、環境配慮製品の環境コストが価格競争の中で相殺されるのではなく、消費者に環境配慮製品の価値を促す環境教育やインターフェースの構築が環境配慮製品の市場拡大には重要であることが提示された。
��環境イノベーションの類型化
本研究では、環境保護と企業の国際競争力向上を両立させうるイノベーションの類型化を行った。既存研究では、企業が環境保護を意図して研究開発を行うことにより、イノベーションが促進され、結果的に研究開発コストを上回る効果が得られ、競争力が向上する（これをイノベーション・オフセットと呼ぶ）という説が提唱されている。そこで、本研究においても、イノベーション・オフセットの事例を分析対象として抽出することを試みた。その結果、日本企業でも、イノベーション・オフセットが起こった環境イノベーションが数多く存在することが見出された。
環碗保護と企業の競争力向上を実現するための、より具体的なイノベーション類型として、既存研究では、サービサイジングという概念が提示されている。このイノベーションは、「製品の販売から、製品機能を提供するサービスへのビジネスモデルの転換」というイノベーションであり、本研究の事例分析においても、日本企業がサービサイジングを実現し、環境保護と競争力を向上させる事例が認められた。また、サービサイジングは、サプライチェーンのイノベーションの一類型であり、本研究は、サプライチェーンのイノベーションで環境保護と競争力向上を実現した事例も分析対象とした。その典型は、いわゆるサードパーティロジスティックスと呼ばれるイノベーションであり、具体的には、佐川急便株式会社のSRC構想という事例がある。この事例では、流通企業である佐川急便が様々なメーカーの機能を高度な情報技術の活用により自社のサービスに包含し、顧客に高度な機能を提供すると同時に環境保護を実現した事例である。このようなサプライチェーンのイノベーションが環境保護と企業の競争力を向上するイノベーションの代表的事例になると考えられる。
本研究では、上記のように、顧客に提供する機能を維持し、サプライシステムを環境対応にするイノベーションをエコサプライシステムと定義し、これが、環境保護と企業の競争力向上の両者を実現するイノベーション類型であることを示した。
�４超�政策の在り方の提示
本研究では、環境規制が企業の技術革新を誘発し、かつ企業利潤を高める可能性があるというポーター仮説の妥当性に関する新古典派経済学からの批判に対して、投資の不確実性や経営組織内部の階層的意思決定を考慮すれば、同仮説の妥当する理論的可能性があることを、まず先行研究から確認した。
次いで、環境政策が技術革新、経営革新を促進するとしても、それが企業利潤を高めることがあるかどうかという「イノベーション・オフセット」の可能性については、実証研究面での論争が内外において続けられている。環境省は環境と経済の好循環を目標とした環境政策の実施を標榜しているが、わが国ではこれを明確に支持する実証研究の成果は、まだ多いとはいえない。本研究では、個別企業に対するインタビュー調査を通じてイノベーション・オフセットの実例を検証した上で、製造業上場企業の財務データと日本経済新聞社の環境経営度評価データを用いた統計解析を行った。重回帰分析ならびに統計的因果性分析の手法を適用し、製造業上場企業２７８社の５年分のデータから、財務パフォーマンスと環境パフォーマンスの間にプラスの関係があること、財務から環境への統計的因果性のみならず、環境から財務への統計的因果性も明瞭に見られること、しかし、そのような関係が明瞭に現れるのは、最近の現象であることなどが明らかにされた。
また、双方向へのプラスの関係は、必ずしも環境優良企業と目される企業だけの特徴ではなく、広く一般的に存在すること、しかし産業別分析の結果では、消費者に近い産業で好循環が明確であるのに対して、機械産業ではそうではなく、またエネルギー集約的産業では地球温暖化対策の強化につれてプラスの関係がマイナスの関係に転じてきたことなども判明している。
環境政策の実施との関連では、ＰＲＴＲ法の実施、各種リサイクル法の制定と強化、環境会計や環境報告書のガイドライン作成、省エネ・二酸化炭素排出量開示政策等の環境政策の導入と強化が、統計的因果性の強化に貢献していることから、規制的・情報的環境政策の実施が好循環の実現とその拡大に貢献していることが裏付けられたといえる。
４．考察
（１）環境会計による環境イノベーション促進に関する研究
�ヾ超�イノベーション促進手法としての環境管理会計手法の研究
本研究より得られた考察は以下のとおり。
・日本企業の環境会計実務は外部情報開示が中心であるが、環境会計を内部管理目的に活用する企業ほど環境会計の有効性に対する認知度は高く、企業管理のための環境管理会計の促進は重要な政策課題である。
・環境会計を実際に活用している事業所に対する調査から、事業所における環境会計導入の主目的は本社にデータを送ることであり、現状では環境管理会計の活用が広く普及しているとはいえないが、環境管理会計を導入している事業所ほど環境会計への有効性の認識は高く、今後の発展のためには、本社サイドからの指導が有効である。
・環境イノベーションを促進する環境管理会計手法としては、プロセスイノベーションを促進する手段としてはマテリアルフローコスト会計が、プロダクトイノベーションを促進する手段としては環境配慮型原価企画が有効である。
・環境イノベーションを促進する手段としてのマテリアルフローコスト会計の有効性を高めるためには、プロダクトの環境負荷を評価するLCA手法との統合が有効である。
・マテリアルフローコスト会計と環境インパクト評価手法であるLIMEを統合した結果、環境負荷の企業コスト面への影響のみならず、外部不経済への影響が明らかとなり、環境イノベーション促進手段として可能性が広がることが示された。
��外部環境会計の環境イノベーション促進作用の研究
本研究より得られた考察は以下のとおり。
・外部環境会計は、環境経営評価のための情報提供手段であり、市場による環境経営の評価は、企業内部での環境イノベーションの促進をもたらす圧力となる。
・日本企業では、環境報告書に環境会計情報を開示する実務が一般的に普及し、開示される環境会計情報は環境省ガイドラインに準拠しているものが大半である。
・環境報告書における環境会計情報の開示に関しては、漸減傾向が認められる。これは、環境省ガイドラインがその対象を環境保全コストの測定を中心にしているため、企業経営にとっての有効性が限定されていることが影響していると考えられる。環境会計ガイドラインの限界の克服としては、環境外部性を取り込んだ形式に体系を拡張することと、二酸化炭素排出などの個別事項の情報開示を充実させることが必要である。
・環境外部性を包含した環境会計への拡張に関しては、イギリスのSIGMAガイドラインにおける環境会計およびサステナビリティ会計が参考になる。これらの会計では、環境外部性を回避コストによって評価し、企業利益と連結しており、日本の環境会計ガイドラインの拡張方向のひとつとして参考になる。
・環境会計情報の個別事象に関しては、現在最も重要問題のひとつである地球温暖化について、CO2情報の開示動向を調査した結果、開示の範囲、単位、開示場所など標準化されていないため、環境会計における効果情報として活用するためには、データ測定および開示の標準化が必要である。
（２）環境政策と環境イノベーションに関する研究
�ヾ超�イノベーションの事例分析
本研究より得られた考察は以下のとおり。
・企業は、環境対策は企業活動の基盤であると認識し、トップダウンで取り組んでいる。これは、環境対策は初期投資が多額であり、かつ、投資回収期間が長いことが考えられる。
・環境パフォーマンスから財務パフォーマンスへの直接的な影響はまだ明確にされていないが、企業は環境対策を長期的な経営戦略として取り組んでいることが示された。
・BtoB（business to business=企業間の取引）の企業では、取引先企業と環境配慮製品の共同開発の実施や、異業種間連携で環境対策を進めることで、環境規制対応とコスト競争力をつけていることが示された。
・BtoC（business to consume=企業と最終消費者との取引）市場では、商品の素材や設計における環境配慮に関して、まだ消費者に「環境」コストが反映されていない面がある。消費者に環境配慮製品の価値を理解させる環境教育やインターフェースの構築を政策課題としてより一層取組み、市場で環境配慮製品が普及することが求められる。
・企業へのヒアリング調査を通じて、環境への社会的関心が高まるにつれ、企業内部での環境対策が以前よりも取組みやすいとの声が聞かれた。また、消費者においても環境配慮製品の購入は一つのステータスとなっているようである。今後、社会全体で環境問題への取組みをプラスに評価していく仕組みづくりがますます重要であると考えられる。
��環境イノベーションの類型化
事例分析の結果、サービサイジングやサードパーティロジスティックなどの類型が環境保護と企業の競争力向上に寄与するイノベーション類型であることを見出すことができた。これらのイノベーションの特徴は、「顧客に提供する機能」を維持・向上に着目し、ビジネスモデルを転換させるイノベーション（機能イノベーション）である。そして、機能イノベーションを目指して、サプライシステムを環境対応に変更するイノベーションがエコサプライシステムであり、今後、日本においても、エコサプライシステムの普及が重要であると考えられる。
近年、サービサイジングなどの概念が日本においても注目され始めている。しかしながら、未だ、一般の企業に認知されている段階ではない。サービサイジングの概念は難解であり、具体例によって、概念を抽象的に説明することは可能であるが、イノベーションを実現するための具体的な方法論は未だ示されていない。そこで、サービサイジングなどの数多くのエコサプライシステムの事例を分析し、具体的な方法論を提示することが今後の課題であると考えられる。
現在、このような観点から、サービサイジングのモデル事業を支援する政策支援が行われている。
このような環境政策は企業のイノベーション創出の動機付けの一助となり、企業の競争力向上に資すると考えられる。経済産業省においては、平成１７年度から、サービサイジングのモデル事業の支援策が行われているが、本研究の成果に基づき、概念整理や支援策の枠組みなどの政策提言を行っている。
�４超�政策の在り方の提示
環境問題の発生に基本的に関わっているのは人々の経済行動であり、産業の生産活動である。地球温暖化のように基本的経済活動すべてが温室効果ガスの発生に関連し、無数の人々の行動の総体が環境劣化をもたらすような問題については、直接規制的環境政策の適用余地は限られている。そのような条件の下で効果的な環境政策を実施するためには、多くの人々、とりわけ産業の生産活動にプラスの経済的誘因を働かせるような環境政策手法の革新が重要になる。環境経済学では、環境政策の経済的手法のもつ環境イノベーション促進効果が強調されるが、わが国におけるこれまでの経験からは、そのような政策を直接企業に課すことに対する抵抗はきわめて強い。それは、企業の経済活動がグローバルな国際環境の中で行われている結果、一国のみの先行的政策実施が企業・産業の国際競争力低下につながるという懸念が大きいからである。しかし、直接規制型と情報開示型の環境政策の実施により、環境対策がもたらす経済価値に関する認識が経済活動主体に広く持たれるようになり、環境政策の経済的手法の実施を容易にするという意味でも、規制型・情報型を組み合わせた環境政策の実施が建設的役割を果たす側面を裏付ける実証的結果が得られたということができる。
５．研究者略歴
| 課題代表者:天野明弘 |
| 1934年生まれ、米国ロチェスター大学及び大阪大学にて経済学博士号取得、大阪大学助教授、神戸大学教授、関西学院大学総合政策学部教授、神戸大学名誉教授、関西学院大学名誉教授、現在、IGES関西研究センター所長/兵庫県立大学副学長（兼務） |
| 主要参画研究者 |
| （１）:國部 克彦 |
| 1962年生まれ、大阪市立大学大学院経営学研究科後期博士課程修了、博士（経営学）、大阪市立大学助教授、神戸大学助教授、現在神戸大学大学院経営学研究科教授/IGES関西研究センタープロジェクトアドバイザー（兼務、2004年3月まで同センタープロジェクトリーダー） |
| （２）��:天野 明弘（課題代表者に同じ） |
| ��:松村 寛一郎 |
| 1966年生まれ、京都大学大学院工学研究科環境地球工学専攻博士後期課程修了、博士（工学）、�蟷囲汰躪膰Φ羹蝓文�UFJ総合研究所）、東京大学生産技術研究所人間・社会部門循環資源研究群・環境地球マネジメント助教授、現在、関西学院大学総合政策学部メディア情報学科助教授 |
| ��:玄場 公規 |
| 1967年生まれ、東京大学大学院先端学際工学専攻博士課程修了（学術博士）、東京大学大学院工学系研究科アクセンチュア寄附講座助教授、2004年4月より芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科助教授 |
６．成果発表状況
(1)査読付き論文
� 《�部克彦:国民経済雑誌、190,5, 53-65(2004)
「環境管理会計実務の普及と展開:日本企業の動向」
�◆《�部克彦、梨岡英理子：會計、166,9, 84-97(2004)「環境管理会計の促進要因」
�� 國部克彦、梨岡英理子：産業経理、64,4, 23-31(2005)
「日本企業の本社と事業所における環境会計実務の動向」
��K. Kokubu and E. Nashioka: P.M. Rikhardssin, M. Bennett, J. J. Bouma, and
S. Schaltegger, (eds. ) Implementing Environmental Management Accounting: Stage and
Challenge, Springer, 2005, pp. 321-342 (2005)"Environmental Management Accounting Practices in Japan"
�ァ《�部克彦：経営分析研究、22, 50-57 (2006)「環境会計と企業経営評価」
�Α�Yuriko Nakao, Akihiro Amano. Kanichiro Matsumura, Kiminnri Gemba, and Makiko
Nakano. "Relationship between Environmental Performance and Financial Performance:
An Empirical Analysis of Japanese Corporations," Business Strategy and the
Environment, Vol. 14 (2006, in press).
�А�Yuriko Nakao, Makiko Nakano, Akihiro Amano, Katsuhiko Kokubu, Kanichiro Matsumura,
and Kiminori Genba. "Corporate Environmental and Financial Performances and the
Effects of Information-Based Instruments of Environmental Policy in Japan,"
International Journal of Environment and Sustainable Development, Vol.1 (2007, in
press)
(2)査読付論文に準ずる成果発表
� ‥渓醋盛亜�國部克彦、松村寛一郎、玄場公規編著：環境経営のイノベーション、生産性出版（2006）
�◆《�部克彦・梨岡英理子・牟禮恵美子・斎尾浩一朗（2003）「日本企業の環境会計の実務動向と課題」IGES Kansai Research Centre Discussion Paper 2003-No.1
�� 國部克彦・梨岡英理子（2004）「日本企業の外部環境会計の現状分析」IGES Kansai Research Centre Discussion Paper 2004-No.1
�ぁ〕�岡英理子・國部克彦・品部友美（2004）「環境保全効果の金額評価と環境経営指標」IGES Kansai Research Centre Discussion Paper 2004-No.2
�ァ仝湿豸�規、遠藤真弘、木村ひとみ、松村寛一郎、天野明弘、大塚有希子、中野泰臣（2004）
「環境イノベーションの事例分析と企業競争力への影響の類型化」IGES Kansai Research Centre Discussion Paper 2004-No.3
�Α《�部克彦・梨岡英理子（2004）「日本企業の環境管理会計―本社と事業所における実務動向」
IGES Kansai Research Centre Discussion Paper 2004-No.4
��梨岡英理子・國部克彦・川原千明（2004）「環境報告書における第三者意見書のあり方」IGES Kansai Research Centre Discussion Paper 2004-No.5
�─｜翦�悠利子、天野明弘、松村寛一郎、玄場公規、中野牧子（2004）「環境パフォーマンスと財務パフォーマンスの関連性：日本企業についての実証分析」IGES Kansai Research Centre Discussion Paper 2004-No.6
�� Yuriko Nakao, Akihiro Amano, Kanichiro Matsumura, Kiminori Gemha and Makiko Nakano (2004) "Relationship between Environmental Performance
and Financial Performance:An Empirical Analysis of Japanese Corporations" IGES Kansai Research Centre Discussion Paper KRC-2004-No.6 E
�� 梨岡英理子（2005）「日本企業の外部環境会計の動向」
IGES Kansai Research Centre Discussion Paper KRC-2005-No,1
�� 後藤文昭（2005）「環境会計の構築と内部管理への応用」
IGES Kansai Research Centre Discussion Paper KRC-2005-No,2
�� 中尾悠利子、中野牧子、天野明弘、國部克彦、松村寛一郎、玄場公規（2005）「環境政策の実施が企業の環境・財務パフォーマンスの関係に及ぼす影響について」IGES Kansai Research Centre Discussion Paper KRC-2005-No,5
�� Yuriko Nakao, Makiko Nakano, Akihiro Amano, Katsuhiko Kokubu, Kanichiro Matsumura,
and Kiminori Gemba (2005) "Corporate Environmental and Financial Performances and the
Effects of Information-based Instruments of Environmental Policy in Japan" IGES Kansai Research Centre Discussion Paper KRC-2005-No.5E
�� 梨岡英理子（2006）「環境報告書におけるCO2情報開示に関する実態分析」
IGES Kansai Research Centre Discussion Paper KRC-2005-No.7
|
