モントリオール議定書採択30周年 及び HFC改正採択記念シンポジウム 『地球のために、フロン対策』

2017年6月17日(土)10:00〜15:00 会場:国連大学 ウ・タント国際会議場

  • 開会挨拶 山本 公一 環境大臣
  • 基調講演:関 めぐみ氏
  • 特別講演:野口 健氏
  • パネルディスカッション
写真:会場の様子

 フロンは、エアコン、冷蔵・冷凍庫の冷媒や、建物の断熱材、スプレーの噴射剤など、身の回りの様々な用途に使われていますが、地球環境に対して二つの影響をもたらすことがわかっています。
 一つは、オゾン層の破壊です。オゾン層の保護に世界全体で取り組むため、CFC(クロロフルオロカーボン)、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)などのオゾン層破壊をもたらすフロンなどを規制するためのモントリオール議定書が1987年に採択され、今年で30周年を迎えます。1980年代以降に拡大した南極のオゾンホールの拡大傾向がみられなくなるなど、一定の成果をあげていますが、依然として深刻な状況にあり、引き続き対策が必要です。
 もう一つは地球温暖化への影響です。CFCやHCFCの代替フロンとして、HFC(ハイドロフルオロカーボン)が広く使われるようになりましたが、HFCはオゾン層破壊物質ではない一方で、非常に高い温室効果があります。このため、HFC をモントリオール議定書の対象物質に加え、段階的な削減を義務付ける改正(HFC 改正)が2016年10月に採択されました。
 こうした中、2017年6月17日、モントリオール議定書採択30周年とHFC 改正を記念し、有識者による講演やパネルディスカッションなどを通じて、フロン対策の重要性について理解を深めることを目的に、環境省の主催によりモントリオール議定書採択30周年及びHFC 改正採択記念シンポジウム“地球のために、フロン対策”が開催されました。
 本シンポジウムにはおよそ200名の方の参加を頂きました。冷凍空調機の製造事業者、フロンの回収・破壊に携わる事業者、フロンを有する冷凍空調機のユーザーである小売事業者をはじめ、一般企業にお勤めの方や学生の方も足を運んで下さるなど、多数の方(約200名)のご参加を頂きました。ここに篤くお礼申し上げます。

ビデオ資料:環境省ではフロン対策の最新動向と対策の重要性をまとめたビデオを作成し、当シンポジウムにおいて上映しました。
フロン対策に関する国際情勢、わが国におけるフロン対策の現状などを取り纏めた内容となっております。ぜひ以下のリンクから御覧ください。

開会挨拶

開会挨拶
環境大臣  山本 公一

動画:山本公一環境大臣 開会挨拶 3分30秒開会挨拶 動画[3:30]

基調講演

基調講演:関 めぐみ氏
「モントリオール議定書とキガリ改正採択がもたらした近年の発展」

プロフィール(PDF 0.2MB)

[概要]
 フロン類の一種であり、オゾン層に大きな影響をもたらす物質であるCFCは、毒性が低く安定していることから「奇跡の物質」として1930年に公表され、冷媒や噴射剤等として急速に普及が進んだ。1970年代になると、CFCから生じる活性塩素がオゾンを破壊することが明らかとなった。そこで、1975年頃から国連環境計画(UNEP)により取組みが開始され、1985年に「オゾン層保護のためのウィーン条約」が採択された。ウィーン条約の交渉の際には、オゾン層が破壊されているという科学的な証拠は明確にはなかったが、1980年代中盤にオゾンホールが発見され、その形成過程が明らかとなった。それらを踏まえ、1987年に「モントリオール議定書」が採択された。現在、最も高い成果を挙げている多国間環境協定として広く認知されている。
 モントリオール議定書によって、オゾン層破壊物質の99%が段階的に削減されており、今世紀半ばにはオゾン層が回復する見込みである。これにより、皮膚ガンや白内障、生態系への影響等の被害を回避できたと考えられている。また、フロンは温室効果ガスであることから、温室効果ガスの削減にも大きな貢献をした。これらの成果は、健全な意思決定の基盤となる評価パネルの設置や、規定を小さく始めて徐々に強化すること、多国間基金等の革新的な資金メカニズム等、様々な特徴を土台として得られたものである。
 2016年10月には、6年に及ぶ討議を経て、オゾン層破壊効果はないが温室効果の大きい物質であるHFCがモントリオール議定書の対象物質として追加される「キガリ改正」が採択された。20カ国以上の批准により、2019年1月1日から発効予定である。キガリ改正により、2100年までに0.5℃の気温上昇を防ぐことができると考えられている。
 2017年はモントリオール議定書30周年ということで、様々な記念行事を実施する予定である。ぜひご覧いただきたい。

特別講演

特別講演:野口 健氏(アルピニスト)
「地球温暖化問題について」

プロフィール(PDF 0.1MB)

写真:野口 健氏

[概要]
 地球温暖化問題やオゾン層破壊問題は、幼少期に海外在住していた頃から意識してきた。富士山など山岳の清掃活動を通じて環境問題に取り組んでいるが、地球温暖化問題は環境問題の中でも様々な立場の関係者が関与する複雑な問題であることを実感している。フロン対策も含めて地球温暖化対策を進めるには、一方的に対策を押し付けるのではなく、様々な立場を踏まえた解決策を導出していくことが重要である。こうした点を踏まえながら、今後の更なる取り組みに期待したい。

パネルディスカッション ~フロン対策の推進のために今できること~

 パネルディスカッションでは、上記ビデオ資料を冒頭に上映した後、エアコンや冷凍機の冷媒として用いられるフロンにフォーカスし、どのようにフロン対策を推進できるのか議論が行われました。
 前半では、フロン類を冷媒として用いないエアコンや冷凍機である「ノンフロン機器」の普及に向けた議論を行い、後半では、既に市中に普及しているフロン冷媒機器からの漏えい防止をどのように推進するかについて、アジアにおける展開も視野に議論を行いました。

前半「ノンフロン機器の導入促進」

[概要]
 前半のディスカッションでは、ノンフロン機器の導入は進展しているが、モントリオール議定書のキガリ改正によるHFCの削減義務も踏まえて、新たな技術開発、普及に向けた施策の実施を進めていく必要があるという点について議論された。
 また、ノンフロン化による効果は地球温暖化対策にとどまらず、小売店舗などの機器ユーザーにとって省エネなどのメリットがあることが議論において着目された。ノンフロン機器を導入しているユーザー企業をCSRの観点で評価する声は一般市民からも聞かれており、機器ユーザーに対するメリットが広まることで今後普及が促進されることも期待されることが確認された。

  • 写真:西薗 大実氏

    コーディネーター:西薗 大実氏(群馬大学教授)

    プロフィール(PDF 0.1MB)

  • 写真:松田 憲兒氏

    松田 憲兒氏「エアコン・冷凍機メーカーによる地球環境対策の取組み紹介」

    [概要]
     エアコン・冷凍機は我々の生活に身近に普及している製品である。それら機器に必須の冷媒として多くの製品にフロンが用いられており、冷媒の転換や機器の省エネルギー化、冷媒の大気放出抑制によってメーカーは取り組みを進めている。冷媒に用いられる物質には様々な特性が求められており、各々の物質の特徴を踏まえながら次世代冷媒の開発が進められている。

    講演資料(PDF 1.4MB)
    プロフィール(PDF 0.08MB)

  • 写真:中島 修氏

    中島 修氏「小売業者におけるノンフロン機器の導入について」

    [概要]
     フロン対策に関する国際動向や国内動向を踏まえ、小売事業者としてCO2冷媒機器などの自然冷媒機器の導入を進めている。新築を中心に導入を進めており、具体的には3都県において複数の店舗、配送センターに自然冷媒機器を導入した。自然冷媒機器を導入することで、二重投資の回避、消費電力の削減、フロン排出抑制法に基づく点検記録が不要になるなどのメリットも見られている。

    講演資料(PDF 0.7MB)
    プロフィール(PDF 0.09MB)

  • 写真:馬場 康弘環境省 フロン対策室長:馬場 康弘

後半「フロンの漏えい防止」

[概要]
 後半のディスカッションでは、フロン対策は地球全体の課題であり、国際的に協調して取り組んでいくことが重要であることが強調された。
 日本においては、機器の使用時・廃棄時とも、法の遵守を徹底することが重要であり、特に点検の適切な実施は冷凍機の冷却効果の維持にも関わるため、商品の品質管理にも効果を発揮することが確認された。
 また、アジア諸国においては、まずは定量的に実態を把握することが重要であり、そのためにもフロン対策のメリットを各国の国民に周知していく必要があるとの議論が為された。さらに、点検やそのための人材育成など、これまでの日本の取組みの中で培われた知見を、アジア地域でも活かしていくことが望まれることが確認された。

  • 写真:中根 英昭氏

    中根 英昭氏「フロン対策におけるインベントリの重要性」

    [概要]
     インベントリは、温室効果ガスの排出量・吸収量を排出源・吸収源ごとに示す一覧である。フロンの排出実態を正確に反映した排出インベントリを整備することによって、対策を強化すべき分野やその方法が明らかとなる。日本では冷媒フロンについて、ストック・フローに基づく排出の内訳を把握して排出抑制対策を実施しており、今後アジア諸国においても同様の検討が有意義であると考えられる。

    講演資料(PDF 0.8MB)
    プロフィール(PDF 0.1MB)

  • 写真:南雲 誠氏

    南雲 誠氏「フロン漏えい対策 使用時漏えい防止・回収破壊に係る取組み状況」

    [概要]
     冷凍空調機器の施工を行う事業者の団体として、冷凍空調機器の使用時・廃棄時に係る取組みを行っている。具体的には、冷凍空調機器のユーザーによるフロンの漏えい防止に向けた普及啓発(説明会、点検シール等)や、充塡回収業者向けの説明会の実施、施工やメンテナンスに係る技術者の育成、機器廃棄時の行程管理制度の適切な実施に向けた取組み等を行っている。

    講演資料(PDF 1.6MB)
    プロフィール(PDF 0.08MB)

  • 写真:フ・シャオフェン氏

    フ・シャオフェン氏「途上国におけるフロン管理」

    [概要]
     アジアでは空調需要が高く、HFC等の冷媒フロンが多く排出されている。途上国でのフロン対策としては、供給量の管理や需要の削減に関する取組みが中心となるが、現状はあまり進んでいない。国際的排出規制がないことやコスト上の課題、公共サービスインフラの脆弱性等、様々な課題はあるが、今後の対策進展が期待される状況にある。

    講演資料/日本語版(PDF 0.9MB)
    講演資料/英語版(English)
    (PDF 0.7MB)

    プロフィール(PDF 0.1MB)

展示スペース

 展示スペースにおいて、フロン対策に関するパネルや機器の展示を行いました。環境省によるフロン対策の概要を紹介したパネルに加え、過去にオゾン層保護・地球温暖化防止大賞を受賞した製品をはじめとしたノンフロン機器、冷媒フロンの漏えい対策に関する取り組み、冷媒フロンの回収・破壊に用いる製品の展示が行われました。

写真:展示スペース