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自然冷媒機器開発秘話
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パナソニック株式会社 アプライアンス社

パナソニック株式会社 アプライアンス社は、平成22(2010)年9月、日本で初めてスーパーマーケット向け「CO2冷媒対応ノンフロン冷凍機システム」を発売。同システムは全国のスーパーマーケットやコンビニエンスストアで順次導入が進んでいます。今回は、その開発に携わった研究者にお話を伺いました!

給湯の技術を冷凍冷蔵の技術に応用できないか

-省エネ型自然冷媒機器を開発したきっかけについて教えて下さい-

イメージ:パナソニック株式会社 アプライアンス社開発のきっかけは、平成13(2001)年までさかのぼります。当時、ヒートポンプサイクルの技術を活用し給湯する製品「エコキュート*1」の販売を開始しました。この製品は冷媒として二酸化炭素を使用しています。冷媒として主に使われているフロン類に比べ、二酸化炭素は地球温暖化係数が1/1,430〜1/3,920と非常に小さいので、冷媒として使用する上ではとても地球環境に優しい物質です。一方、販売当時は寒冷地では性能を発揮できなかったため、「寒冷地でも使用できるエコキュートを」という想いから更に研究開発を進め、平成15(2003)年、寒冷地仕様のエコキュートの製品化に成功しました。寒冷地仕様のエコキュートの開発では、デバイスとして「2段圧縮コンプレッサー*2」を使用開発し、このデバイスの能力を最大限に発揮するために「スプリットサイクル*3」という技術も開発しました。

その後、寒冷地仕様のエコキュートにおいて開発した新たな技術をさらに他の分野にも応用できないかという課題が与えられ、その可能性を検討しました。その中で、冷媒として地球温暖化への影響が大きいフロン類が使われている冷凍冷蔵機器について、将来的にフロン類の使用に関する規制が強化されることを予見し、寒冷地仕様のエコキュートの技術と平成19(2007)年に発売を開始したCO2内蔵ショーケースの技術を応用した別置型冷凍機の開発に着手しました。

社外のサポートを得た研究開発

-どのような体制で開発を進められたのでしょうか-

イメージ:パナソニック株式会社 アプライアンス社技術開発は、アプライアンス社の様々な部門が関わって組織された研究開発チームで行われました。平成17(2005)年〜19(2007)年にかけては、国の研究所(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構:NEDO)と連携し基礎研究を進め、平成20(2008)年からは、実際の店舗(スーパーマーケット)で実証実験を行い、施工性、省エネ性、運転安定性の確認など、多くのデータを取得し、改良を加えました。特に夏期と冬期が両立できる最適冷媒封入量の決定とショーケースが軽負荷になった場合の冷媒量調整制御の最適化には苦労しました。メーカーの新しい技術開発を、環境に対して意識の高いユーザー企業が実際の売り場で技術実証をさせてくださったこと、また、それを実現できるよう、政府や各関係者がサポートしてくださったこと、これらが成功の要因であったと思います。

また、実証実験に併せ、商品の市場性の分析や海外における自然冷媒を使用したショーケースの使用状況も調査しました。なぜ欧州では導入が進んでいるのか、日本でも適用可能か、などについて詳細に調査したことで、自信を持って上市することができました。

ノンフロン化と省エネの両立

-二酸化炭素冷媒で省エネ、ノンフロン化を同時に進めることができたのですね-

実証実験を通じ、冷媒に二酸化炭素を使用し、かつ省エネ性能を高めることができました。省エネ性についてお話をすると、誤って理解されがちですが、冷媒に二酸化炭素を使用したから、省エネ効果が高まると言っている訳ではありません。フロン類と比較すると二酸化炭素のエネルギー効率は、決して良いものではなく、省エネ性を高めるためには多くの工夫が必要です。

一方、温室効果の高いフロン類のエネルギー効率を追求することに傾き過ぎると、フロン類排出抑制対策の積極的な推進には妨げとなります。フロン類に比べ地球温暖化抑制に大きく貢献できる二酸化炭素を使いながら、いかに性能評価を高めていくかが最大のポイントです。

費用対効果の改善

-技術的な課題以外にはどのような課題がありましたか-

技術的な課題を克服した後は、製品化され、販売されます。ただ、お客様に購入して戴くには、いかに費用対効果を上げるかという点がポイントとなります。新しい設備導入によってお客様にかかる負担の程度を調べたところ、製品化した段階では投資回収年が5年を超える試算となっていました。これでは、いくら良い製品を開発したところで、お客様に投資対効果が低い製品であると考えられてしまいます。お客様に受け入れてもらうためには、2年程度を目指していかなければなりません。その設備が成り立つためにはどのような対応を行えば良いのかについても併せて検討しました。

「省エネ効果」と省エネ以外の「環境貢献効果」

-省エネ型自然冷媒機器を導入することの効果としてどのようなものがありますか-

イメージ:パナソニック株式会社 アプライアンス社省エネ型ノンフロン機器という名前のとおり、“省エネ効果”とノンフロンであることによる省エネ以外の“環境貢献効果”の2つに大別されます。

まず、省エネ効果は、電力使用量が削減されますので、電気代削減という金銭的価値としてお客様に還元されます。一方、省エネ以外の環境貢献効果は、電気代削減のように直接お客様に還元される訳ではありません。しかし、フロン排出抑制法の施行によって、フロン類の管理に関するコストが発生します。例えば、点検、記録、報告など、フロン類が使用された機器の管理のための人件費が必要となってきます。定期点検を外注する場合、金額が明示されますので、コスト意識は喚起されることでしょう。現時点(平成27(2015)年1月)では、法律が施行されていませんので、どの程度のコストになるかまでは分かりませんが、今後、実績が蓄積されることによって、どの程度の費用負担が必要になるのか、明らかになると思います。省エネ効果のみならず、環境貢献効果まで含めると、省エネ型自然冷媒機器への投資は早く回収することができると思います。

また、フロン排出抑制法では、フロン類が漏洩した際、修理をせずに繰り返し追加充填を行うことができないため、機器を止めて修理をする必要があり、事業継続におけるリスクも生じます。これはコスト云々ではなく、事業ができなくなるというリスクを孕んでいることは否めません。

将来の見通しが明らかになったことで、お客様がより現実問題としてフロン類対策を捉えるようになってきました。その結果、省エネ型自然冷媒機器を選択するお客様の数が増えてきていると実感しています。

普及に向けた施工性の更なる向上

-これからの課題としてはどのようなものがありますか-

省エネ型自然冷媒機器は、機器の安全性など根本的な課題はすべて克服できています。これからは配管肉厚の軽薄化など機器の更なる施工性の向上が課題です。

多くの企業の方々に数多く導入して頂いていますが、新規開店よりも改装案件の方が需要は多く、いまある機器の買い換え(リプレース)をどう進めるかがポイントです。店舗は常に営業していますので、リプレース期間は必然的に短くなります。この点は最初から課題として認識していましたが、現在喫急の課題となっています。

更なる開発を

-今後の展開について教えて下さい-

冷蔵、冷凍によって省エネ効果は異なっていますが、現在、冷蔵条件下で平均15-16%程度、冷凍条件下で24-25%程度となっています。機器全体としては22-23%程度の省エネ効果を達成しています。そのため、省エネ型自然冷媒機器を選択するお客様も着実に増えてきています。省エネ型のCO2冷媒冷凍機システムを多くのお客様に使っていただくことが地球環境への貢献に繋がりますので、販路開拓を進めていきたいと思います。また、先ほど紹介したように、さらなる施工性の向上を目指し、お客様が実際に運転する状況下でいかに省エネ効果を高めることができるかといった点を重視した取組を行って参ります。

平成27(2015)年のスーパーマーケットトレードショーでは新商品を展示し、平成27(2015)年4月に新商品を発売しています。搬送圧力コントロールタイプと呼ぶ新しい省エネ型自然冷媒機器は、お客様のニーズに応え、更なる小型化・軽量化・騒音の低減等を実現しています。今後もさらなる開発を進め、お客様と地球環境に貢献していきたいと考えています。

*1 エコキュートとは、大気の熱を利用してお湯を沸かす、地球環境への負荷をおさえた自然冷媒ヒートポンプ給湯機である(http://sumai.panasonic.jp/hp/1mech/:新規ウインドウで開きます)

*2 圧縮機には、耐圧設計、摺動部の信頼性、高効率化、軽量化が求められるが、同社ではCO2冷媒の圧縮を2回に分けて行い、シェルの内部を中間圧とすることで、これらの問題に対応したCO2ロータリ2段圧縮機を開発した(http://www2.panasonic.biz/es/cold-chain/refrigerator/cfcfree/feature.html:新規ウインドウで開きます)

*3 スプリットサイクルとは、高圧となった冷媒の一部を分岐(スプリット)、減圧、蒸発させ、熱交換器にて主回路の冷媒を外気温度以下に冷却し冷凍効果を増大する仕組みのことである。これにより周囲温度が30℃以上の高温となる夏期の運転環境でも、冷凍機を高性能、高効率に運転することが可能である(http://www2.panasonic.biz/es/cold-chain/refrigerator/cfcfree/feature.html:新規ウインドウで開きます)

パナソニック株式会社 アプライアンス社 技術本部 エアコン・コールドチェーン開発センター 開発第4部 部長 三原一彦

パナソニック株式会社
アプライアンス社 技術本部
エアコン・コールドチェーン開発センター
開発第4部 部長 三原一彦

昭和61年三洋電機株式会社入社、冷凍機の設計開発を担当し勤務、CO2冷凍機の開発を担当し、平成25年パナソニック株式会社に転籍し、現部署に所属。
研究開発において大切にしていることは「開発着手前に十分に迷い、検討して、開発方針を決めたら迷わず邁進する」。

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