東京電力福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質の海洋中の分布は、時間経過によって大きく変化します。放射性物質が海洋に運ばれる経路には、①発電所からの海洋への直接の流入、②風に乗って運ばれた放射性物質の海洋への降下、③陸に降下した放射性物質の河川や地下水を介した海への運搬の3つのルートが考えられます。ただし、セシウムの場合は、土壌中に強く吸着されることから、地下水と共に移行して海に達することはほとんど考えられません。
海水中の放射性セシウムの濃度は、事故直後急激に上昇しましたが、1~2か月のうちに海流に乗って流されたり、拡散したりすることで下がりました。海産生物の放射性セシウムの濃度は海水中の濃度と関係があり、海水中の濃度の低下と共に海産生物の濃度も低下しました。また、放射性セシウムの一部は海底に沈降したため、海底付近にいる魚類(底魚)への移行が懸念されましたが、調査研究の結果、ヒラメ・マダラ等の底魚の放射性セシウムの濃度は福島沖を含めて低下しています。この理由としては、放射性セシウムが底泥中の粘土に強く吸着されること及び、海底土から底生生物へのセシウム移行率は小さく、粘土に吸着されたセシウムが海産生物の体内に取り込まれにくいことが挙げられます(出典:水産庁、水産物の放射性物質の検査に係る報告書、2015年)。
本資料への収録日:2013年3月31日
改訂日:2019年3月31日