平成19年6月19日
地球環境

日英共同研究プロジェクト 第2回国際シンポジウム・ワークショップ「持続可能な低炭素社会の達成に向けて」(於:ロンドン、6月13〜15日)の開催結果について

 日本国環境省と英国環境・食糧・地方開発省(Defra)が2006年2月に開始した日英共同研究プロジェクト「低炭素社会の実現に向けた脱温暖化2050プロジェクト」の第2回国際シンポジウム・ワークショップ「持続可能な低炭素社会の達成に向けて」が、6月13〜15日、ロンドン(英国)で開催されました。国立環境研究所の西岡秀三参与と英国エネルギー研究所ジム・スキー研究理事が共同議長を務め、約30カ国・地域からの研究者、政策立案者、国際機関、ビジネス界から、総勢約100名が参加しました。13日のシンポジウムの冒頭では、イアン・ピアソン英国気候変動・環境担当大臣と野上義二在英国大使より挨拶が述べられました。
 本シンポジウム・ワークショップは、「2050年までに温室効果ガスの大幅削減−先進国については60-80%の削減−が技術的にも経済的にも実現可能である、とする研究が、多くの国において既に行われている。低炭素社会への移行にかかるコストは、そのための行動をしない(被害)コストよりはるかに小さい。」という結論が参加者の間で共有されました。

1.これまでの経緯

 京都議定書発効一周年にあたる、昨年2月16日、日本国環境省 (MoEJ)と英国環境・食糧・農村地域省 (Defra)は、共同して科学的研究プログラム「低炭素社会の実現に向けた脱温暖化2050プロジェクト」を発足させました。本共同研究プロジェクトは、日英が連携して2050年に向けた低炭素社会の実現を目指した研究を実施するとともに、世界各国の同様の研究を集大成する国際ワークショップを継続的に開催し、国際的な政策形成に貢献することを目指すものです。
 第1回ワークショップは「持続可能な発展につながる低炭素社会ビジョンの構築」をテーマに、昨年6月14〜16日に東京で開催し、19ヶ国・地域から54人の専門家と6つの国際機関が参加しました。会合の成果として、低炭素社会は、そこに至る道筋は異なるものの、先進国と途上国が共通に目指すゴールであるとの認識が共有されるとともに、各国より様々な形の低炭素社会が実現可能なものとして紹介されました。
 なお、わが国で実施されている地球環境研究総合推進費戦略的研究プロジェクト「脱温暖化2050プロジェクト」(「脱温暖化社会に向けた中長期的政策オプションの多面的かつ総合的な評価・予測・立案手法の確立に関する総合研究プロジェクト」)については、今年2月、環境省及び独立行政法人国立環境研究所より発表された成果発表のお知らせをご参照下さい。
※地球環境研究総合推進費戦略的研究プロジェクト「脱温暖化2050プロジェクト」成果発表のお知らせ〜2050日本低炭素社会シナリオ:温室効果ガス70%削減可能性検討〜:http://www.env.go.jp/press/8032.html

2.国際シンポジウム・ワークショップの概要

(1) 開催目的・テーマ
 第2回国際シンポジウム・ワークショップでは、現在の社会から低炭素社会へと向かうための具体的な道筋に焦点を合わせて議論を進め、都市、交通、産業、家庭などのセクターごとに議論を深めました。
 会合には、約30カ国・地域からの研究者、政策立案者、国際機関、ビジネス界から、総勢約100名が参加しました。会合の成果は、サマリーとしてとりまとめ、気候変動に係る様々な検討の場にインプットを行う予定です。
 なお、第3回国際シンポジウム・ワークショップは、来年2月13〜15日に東京で開催する予定です。
(2) 開催期日及び場所
日時:
2007年6月13日(水)〜15日(金)
場所:
ロンドン(英国)
(3) 開催組織
主催:
英国環境・食糧・農村地域省(Defra)、日本国環境省
共催:
英国エネルギー研究所(UKERC)、英国チンダル研究所、 国立環境研究所(NIES)、在英国日本大使館
共同議長:
ジム・スキー(Jim Skea:UKERC理事)、西岡秀三(NIES参与)
運営委員会:
日本、英国、ドイツ、中国、インド、メキシコの科学者、政策立案者からなる運営委員会が設置されています。

3.ピアソン大臣、野上大使の挨拶

 13日のシンポジウムの冒頭では、イアン・ピアソン英国気候変動・環境担当大臣と野上義二在英国大使より挨拶が述べられました。この中で、ピアソン大臣は、「地球規模での変革を実現するためには−特に低炭素社会への移行のためには、先進経済が自らリーダーシップを示さなくてはならない。低炭素社会への道筋を開くための日英共同の研究への取り組みは、我々が何を成し遂げることが出来るのか、気候変動との戦いにおける重要な機会を提供するだろう」と述べました。
 また、野上在英国大使は、「気候変動への挑戦は、日英両国にとって最重要課題の位置にある。今年1月、安倍首相とブレア首相による日英共同声明が発表されたが、そこでも気候変動は共同で取り組むべき4つの重要課題の一つとして取り上げられている。科学技術についても共同研究に取り組んで行く旨合意した。2008年は、2012年以降の国際枠組みを形成していくという観点からは、非常に重要な年であり、この文脈においても、来年日本で開催されるG8サミットは非常に意欲的な取り組みである。気候変動に立ち向かうに当たり、本共同プロジェクトから大きな貢献が得られることを期待している」と述べました。

4.国際シンポジウム・ワークショップの成果

(1) 主要な結論
 低炭素社会に向けた実質的な方法に係る日英共同プロジェクトの第2回国際シンポジウム
  • 気候変動は、人類や地球環境にとって、深刻な脅威である。温室効果ガスを大幅(2050年までに少なくとも50%)に削減し、避けられない気候変動の影響に適応するための喫緊の行動が求められている。
  • 気候変動問題の規模は非常に大きく、政府、ビジネス界、市民社会に渡る幅広いステークホルダー(利害関係者)が、個人としても組織としても、皆で解決方法を探っていく必要がある。魅力的な低炭素社会のビジョンを創ることで、人々や組織を動機付け、啓蒙することができる。
  • 2050年までに温室効果ガスの大幅削減−先進国においては60-80%削減−が技術的にも経済的にも実現可能である、とする研究が多くの国において既に行われている。低炭素社会への移行にかかるコストは、そのための行動をしない(被害)コストよりはるかに小さい。
  • 低炭素社会の実現には、幅広いアプローチが必要である。これらは、国際協力の強化や、政府、地方の政策決定者、投資団体、ビジネス界、そして市民のより大きな調整努力を含む。
  • 現在、低炭素社会へ向かう道筋への移行には、危険な気候変動を回避し、ビジネス界と消費者が変化に備えて効果的な行動を起こすという、特有の好機がある。
  • 都市は、温室効果ガスの排出において大きな割合を占める。都市レベルで世界中に存在するイニシャティブやプロジェクトは、効果的な行動が既に行われたことや、現在行われていることを示している。
  • 綿密に設計された低炭素戦略は、地域環境や経済成長、エネルギーアクセス、エネルギー安全保障という観点において、重要なコベネフィット(共同便益)を提供する、持続可能な開発の重要な側面でもある。
  • 国際的なアクションは、大胆で革新的な手法を必要とする。本ワークショップでは以下の必要性が確かめられた。
    • 炭素の価格付けをしっかりとしたものにすることでビジネス界への長期的な政策のシグナルを発展させること。(例えば、炭素への課税や国際炭素取引を通して)
    • 統合的で移転可能な国際的なRD&D(研究開発・実証)を強化すること。
    • 発展途上国における低炭素型発展のための投資資源を流通させること。
  • 低炭素技術へ移行するためのコストダウンを可能にする規模の投資や調達は必須である。特に省エネ部門における投資の強化が求められている。低炭素型インフラへの投資は、非効率で炭素集約的な技術へのロックイン(固定)を回避するための鍵となる。
  • 現在する技術や商業化がほぼ可能な技術は炭素排出削減のために大きく貢献する。新しい技術も中長期的には排出削減に大きく影響するだろう。技術と行動の相互作用についても考慮に入れるべきである。
  • 人間行動とライフスタイルの変革は低炭素社会の実現のためには、欠かせない要素である。このためには、政策や枠組みが消費者に、低炭素であり非炭素集約的である選択を行う機会を提供することが必要である。
(2) サマリー
運営委員会のサマリーは、下記参考ウェブページへ後日掲載します。
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/knowledge.html#05_j_e2050
(参考)我が国の研究内容の概要
 脱温暖化2050研究は、地球環境研究総合推進費により、独立行政法人国立環境研究所が中心となって平成16年度から実施。日本における中長期脱温暖化対策シナリオを構築するために、技術・社会イノベーション統合研究を行い、2050年までを見越した日本の温室効果ガス削減のシナリオとそれに至る環境政策の方向性を提示するもの。技術・制度・社会システムなどを横断した整合性のある実現性の高い中長期脱温暖化政策策定に貢献。また、経済発展と両立した脱温暖化社会に到る道筋を提言することで研究者以外の人々の脱温暖化政策への関心を高め、社会システム・ライフスタイルの改善に役立つよう情報を発信する。(http://2050.nies.go.jp/index.html
連絡先
環境省地球環境局総務課研究調査室
代表:03-3581-3351
 室長:塚本 直也(内線6730)
 室長補佐:名倉 良雄(内線6731)
 担当:塚原 沙智子(内線6733)