環境省地球環境・国際環境協力地球温暖化の科学的知見

日英共同研究プロジェクト「低炭素社会の実現に
向けた脱温暖化2050プロジェクト」の発足について

平成18年2月17日(金)
環境省地球環境局総務課研究調査室
室    長: 塚本 直也(内線6730)
室長補佐: 吉川 圭子(内線6731)
室長補佐: 渡辺 且之(内線6732)

概要:

 日本国環境省と英国環境・食糧・地方開発省 (DEFRA)は、共同で科学的研究プロジェクト「低炭素社会の実現に向けた脱温暖化2050プロジェクト」を2月16日に発足させました。
 本共同研究プロジェクトは、日英が連携して低炭素社会の実現に向けた研究を実施するとともに、世界各国の同様の研究を集大成する国際ワークショップを継続的に開催し、国際的な政策形成に貢献することを目指します。第1回ワークショップは2006年6月に東京で開催します。
 本共同研究の発足については、2月16日に京都議定書一周年記念行事の一環として青山スパイラルホールで開催されたシンポジウム「脱温暖化社会に向けた挑戦−京都議定書発効から1年」において、小池環境大臣及びグレアム・フライ駐日英国大使によって発表されました。
 

本文:

 みんなで止めよう温暖化 チーム・マイナス6%

1.目的

 共同研究の目的は、以下に挙げる項目です。
(1) 科学的な知見に基づいて低炭素社会 (Low Carbon Society; LCS)に向けて大幅な温室効果ガスの削減が必要となることの理解を深めること
(2) 世界各国の国別の低炭素社会 (LCS)実現シナリオをレビューすること;
(3) 低炭素社会 (LCS)のイメージを共有すること
(4) 地球規模で調和のとれた低炭素社会 (LCS)を実現するために、各国がとるべき道筋を具体的な行動と変革(制度、技術、生活スタイル)の積み上げによって明らかにすること
(5) ボトルネックとなる問題、早期に解決することが必要な問題を特定すること、及び
(6) 低炭素社会 (LCS)実現に向けた国際的な研究協力の構築に寄与すること
 

2.科学的背景

 気候変動枠組条約の究極の目的である「温室効果ガスの大気中濃度を自然の生態系や人類に悪影響を及ぼさない水準で安定化させる」ことに関して、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書や最新の研究結果は、
 [1]気温上昇幅が工業化前(1850年頃)と比較して1℃であってもサンゴ礁などの脆弱な生態系に対する影響は一部で顕在化する可能性が大きい、
 [2]気温上昇幅が2〜3℃になると、農業や水資源、健康などにおいて地球規模で悪影響が顕在化する恐れがある、
 [3]気温上昇幅が3℃を超えると、気候システムの安定性を保つレベルを超え、海洋深層循環の停止などが生じる可能性が高まるとの研究成果がある、と指摘しています。また、既に温暖化影響が顕在化しているとの事例についても、数多くの研究報告がなされています。
 こうした報告をもとに、EUでは既に工業化前と比較した気温上昇を2℃以下に抑える長期目標を設定しています。また、日本でも、中央環境審議会の下の「気候変動に関する国際戦略専門委員会」が平成17年5月に第二次中間報告として、「科学的知見を踏まえれば、気温上昇の抑制幅を2℃とする考え方は、長期目標の現段階での検討の出発点となりうる」ことを報告しました。
 本共同研究プロジェクトにおいては、研究の前提条件として、気温の上昇幅として2℃を中心にある程度の幅を持たせて研究を行う予定ですがが、こうした条件下で温室効果ガス濃度を2100年から2150年までに安定化させようとするならば、世界全体の二酸化炭素の排出量を2050〜2100年の間に少なくとも現在の半分以下にする必要性が高いことがIPCCの第3次評価報告等で明らかにされています。
 

3.実施計画

(1) 研究の実施機関
 我が国では(独)国立環境研究所が、英国では英国エネルギー研究センターおよびチンダル研究所が中心となって、低炭素社会の実現に向けた研究を実施します。
(2) 国際ワークショップの開催
 約20カ国の研究者、政府関係者、関係国際機関等の参加を得て2006年6月14日から16日の3日間国際ワークショップを東京で実施します。ワークショップ前日の13日には広く国民に向けたシンポジウムを東京で開催し、ワークショップの概要を公開します。第2回国際ワークショップは2007年に開催の予定です。
 

4.研究の範囲と特徴

(1) 本共同研究プロジェクトの特徴としては、バックキャスティング手法の採用が挙げられます。現在の半分以上の大幅な削減を実現することを前提としつつ、低炭素社会のビジョンを描きます。そして、その実現向けて今何をすべきか、これから何をしていく必要があるのかを具体的な行動と変革(制度、技術、生活スタイル)の積み上げによって明らかにします。また、2050年に生きる人々が求める豊かさの質についても検討を行い、エネルギー供給構造、産業構造、都市構造、ライフスタイル、交通システム等の多岐にわたって、低炭素社会のとり得る姿を研究します。
 
(2) 本共同研究プロジェクトのスコープには以下の内容が含まれている。
  長期シナリオの研究開発(前提となる社会経済像の想定、モデルを利用した対策シナリオの構築等)
  技術革新、社会制度の革新を統合した新しい社会像の研究(都市対策、交通対策、家庭での対策、ITの役割、エネルギー供給構造等)
  温室効果ガス削減目標の実現可能性の評価
 

(参考)我が国の研究内容の概要
 脱温暖化2050研究は、地球環境研究総合推進費により、独立行政法人国立環境研究所が中心となって平成16年度から実施。日本における中長期脱温暖化対策シナリオを構築するために、技術・社会イノベーション統合研究を行い、2050年までを見越した日本の温室効果ガス削減のシナリオとそれに至る環境政策の方向性を提示するもの。技術・制度・社会システムなどを横断した整合性のある実現性の高い中長期脱温暖化政策策定に貢献。また、経済発展と両立した脱温暖化社会に到る道筋を提言することで研究者以外の人々の脱温暖化政策への関心を高め、社会システム・ライフスタイルの改善に役立つよう情報を発信する。(http://2050.nies.go.jp/index.html