環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第6章>第7節 環境影響評価

第7節 環境影響評価

1 環境影響評価の総合的な取組の展開

(1)環境影響評価制度の運用・改善

環境影響評価法(平成9年法律第81号)に基づき、環境大臣は、環境影響評価の具体的な実施内容について、主務大臣が定めるべき基準及び指針に関する基本的事項(以下「基本的事項」という。)を定めることとされています。基本的事項については、「環境影響評価法に基づく基本的事項に関する技術検討委員会」を開催し、基本的事項の内容全般の点検を行い、2018年11月に点検結果を公表しました。点検の結果、[1]風力発電所アセス等に係る手続の効率化・迅速化、[2]火力発電所アセス配慮書に係る温室効果ガス等について十分な記載の検討、[3]配慮書における複数案の設定・検討の重要性の周知等、主に発電所関係について主務省令等の中で取扱いの検討を求めるほか、運用の中で必要な対応が取られるよう周知徹底を行うこととしました。

現在、太陽光発電事業については、環境影響評価法の対象となっていませんが、近年森林伐採を伴うような大規模な事業が計画されるようになり、自然環境や生活環境への支障が懸念される場合も生じています。環境影響評価を実施することで、環境に配慮され、地域にも受け入れられやすい再生可能エネルギーの立地を促進させることが可能となると考えられます。このため、2018年8月に「太陽光発電施設等に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会」を開催し、2019年3月に報告書を取りまとめました。本検討会報告書においては、太陽光発電事業のうち一定規模以上の特に大規模なものは環境影響評価法の対象とし、それ未満のものは地域の実情に応じ地方公共団体の判断で条例アセスの対象、さらにそれ未満のものはガイドライン等を示しつつ自主的で簡易的な環境アセスメントを促すこととされました。

環境保全と両立した形で風力発電事業の導入促進を図るため、個別事業に係る環境影響評価に先立つものとして、地方公共団体が関係者と調整しつつ、環境保全を優先することが考えられるエリア、風力発電の導入を促進し得るエリア等の設定を行うゾーニング手法の確立と普及を目的として、「風力発電に係る地方公共団体によるゾーニングマニュアル」を策定するとともに、6の地方公共団体でモデル事業を実施しました。さらにゾーニングマップの作成とゾーニング結果等を環境影響評価手続に活用する方策を検討する実証事業を5の地方公共団体で実施しました。

環境影響評価法に基づき事業者が縦覧・公表する環境影響評価図書については、縦覧・公表期間が定められていますが、多くの場合、当該期間を過ぎると図書の閲覧ができなくなっています。情報アクセスの利便性を向上させて国民と事業者の情報交流の拡充を図るとともに、事業者における環境影響予測・評価技術の向上を図るため、法に規定する縦覧・公表期間が終了した後についても、事業者の任意の協力を得て、環境影響評価図書の公開を促すこととしました。

(2)環境影響評価に係る国際展開

アジア地域においては、環境影響評価制度の導入が進んでいるものの運用面にはなお課題があるため、2017年に「アジア環境アセスメントネットワーク」の活動を始め、メーリングリスト等を用いてアジア各国の環境影響評価の担当者間で情報交換を行うなど、環境影響評価制度の強化に向けた知見を共有しました。2018年8月には、環境影響評価に関する協力も含む日本とミャンマーの包括的な環境協力覚書を締結し、環境影響評価制度の向上を目的に、2018年12月及び2019年2月には、ミャンマーの行政官を対象とした環境影響評価に関する研修を実施しました。

2 質が高く効率的な環境影響評価制度の実施

(1)環境影響評価法の対象事業に係る環境影響審査の実施

環境影響評価法は、道路、ダム、鉄道、飛行場、発電所、埋立て・干拓、土地区画整理事業等の開発事業のうち、規模が大きく、環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業について環境影響評価の手続の実施を義務付けていますが、同法に基づき、2019年3月末までに計534件の事業について手続が実施されました。そのうち、2018年度においては、新たに37件の手続が開始され、また、13件の評価書手続が完了し、環境配慮の徹底が図られました(表6-7-1)。

表6-7-1 環境影響評価法に基づき実施された環境影響評価の施行状況

近年、特に審査件数の多い風力発電事業については、騒音・風車の影といった生活環境への影響や、鳥類や植物・生態系など自然環境への影響等の観点から環境大臣意見を述べました。また、風力発電等の早期導入に向けて、3~4年程度かかるとされる環境影響評価の実施期間を半減させることを目標として、地方公共団体の協力を得て審査期間の短縮を図るとともに、環境調査を前倒しし他の手続と同時並行で進める手法の実証事業を行い、これを基に事業者が参照できるガイドを取りまとめ、おおむね目標のとおり実施期間の短縮を実現しました。また、実証事業の成果を一般化するため、「発電所に係る環境影響評価の手引」に前倒し手法を反映しました。

火力発電事業の設置等の事業については、2016年2月に環境大臣及び経済産業大臣が合意した電気事業分野における地球温暖化対策等を踏まえ、最新鋭の高効率技術の採用や国の目標・計画との整合性等の観点から審査しました。特にCO2排出量の多い石炭火力発電所については、パリ協定が発効し中長期的に世界全体の累積的な温室効果ガス排出量を削減することが求められている中、事業者には、石炭火力発電に係る環境保全面からの事業リスクが極めて高いことを強く自覚し、2030年度及びそれ以降に向けたCO2排出削減の道筋が描けない場合には事業実施を再検討することを含めあらゆる選択肢を勘案して検討することが重要であることや、国内外の状況を踏まえた上でなお事業を実施する場合には、所有する低効率の火力発電所の休廃止・稼働抑制など2030年以降も含めて更なるCO2削減を実現する見通しをもって計画的に実施することなどを環境大臣意見の中で求めました。

(2)環境影響評価に係る情報基盤の整備

質の高い環境影響評価を効率的に進めるために、環境影響評価に活用できる地域の環境基礎情報を収録した「環境アセスメントデータベース“EADAS(イーダス)”」において、情報の拡充や更新を行い公開しました。また、今後導入の拡大が見込まれる洋上風力発電事業の環境影響評価に必要となる海洋の環境情報の収集に取り組みました。