環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第3章 プラスチックを取り巻く状況と資源循環体制の構築に向けて>第1節 プラスチックを取り巻く国内外の状況と国際動向

第3章 プラスチックを取り巻く状況と資源循環体制の構築に向けて

プラスチックは、その機能の高度化を通じて食品ロスの削減やエネルギー効率の改善等に寄与し、例えば、我が国の産業界もその技術開発等に率先して取り組むなど、こうした社会的課題の解決に貢献してきました。一方で、金属等の他素材と比べて有効利用される割合は、我が国では一定の水準に達しているものの、世界全体で見れば未だ低く、また、不適正な処理のため世界全体で年間数百万トンを超える陸上から海洋へのプラスチックごみの流出があると推計した研究もあり、地球規模での環境汚染が懸念されています。

また、従来の天然資源を利用し、製品を製造し、使用・廃棄するという直線型の経済から、使用・廃棄された後に極力資源としてまた製品の原材料等に循環させていく循環型の経済にシフトしようという動きが国際的に活発化しています。このため、我が国が世界に先んじて循環経済に移行し、動静脈にわたる幅広い資源循環産業の発展を実現することで国際競争力の強化につなげていくという視点が重要となってきます。

第3章では、こうした海洋プラスチックごみ問題を取り巻く国内外の動向を概説し、我が国のプラスチック資源循環体制の構築に向けた取組を紹介します。

第1節 プラスチックを取り巻く国内外の状況と国際動向

1 海洋プラスチックごみ問題

(1)海洋プラスチックごみ問題の現状

海洋ごみは、生態系を含めた海洋環境の悪化や海岸機能の低下、景観への悪影響、船舶航行の障害、漁業や観光への影響など、様々な問題を引き起こしています。また、近年、マイクロプラスチック(一般に5mm以下の微細なプラスチック類をいう。)による海洋生態系への影響が懸念されており、世界的な課題となっています。海洋に流出する廃プラスチック類(以下「海洋プラスチックごみ」という。)による海洋汚染は地球規模で広がっており、北極や南極においてもマイクロプラスチックが観測されたとの報告、また、1950年以降に生産されたプラスチック類は83億トン超で、63億トンがごみとして廃棄されたとの報告もあります。毎年約800万トンのプラスチックごみが海洋に流出しているという試算や、2050年には海洋中のプラスチックごみの重量が魚の重量を超えるという試算もあり、また、海洋プラスチックごみの主要排出源は東アジア地域及び東南アジア地域であるという推計もあることから、開発途上国を含む世界全体の課題として対処する必要があります。

一方、国内に目を転じれば、我が国の海岸にも多くの流木やごみが漂着しています。環境省が2016年度に全国10地点で実施した調査結果によれば、種類別では重量ベースで自然物が、容積及び個数ベースではプラスチック類が、最も高い割合を占めています。また、回収されたペットボトルの製造国別の割合は、奄美では外国製の割合が8割以上を占めたほか、対馬、種子島、串本、五島では外国製が4~6割を占めている一方、根室、函館、国東では外国製の割合が2割以下で、日本製が5~7割を占めています(図3-1-1)。外国から漂着するごみだけでなく私たちが排出したごみも海岸に漂着しており、海洋に流れ出るごみの削減に向けた取組の推進が必要です。

図3-1-1 ペットボトルの製造国別割合(2016年度調査)

コラム:海洋における将来のマイクロプラスチック浮遊量の将来予測(九州大学、東京海洋大学、寒地土木研究所)

九州大学、東京海洋大学及び寒地土木研究所の共同研究チームは、南北太平洋で東京海洋大学「海鷹丸」が2016年に観測したマイクロプラスチック浮遊量や既往研究で報告された浮遊量をコンピュータ・シミュレーションで再現し、50年先までの太平洋全域における浮遊量を予測する研究成果を発表しました。この研究成果をまとめた論文は、Nature Communications誌にて2019年1月に掲載されています。マイクロプラスチック浮遊量の将来予測はこの研究が世界で初めてのものとなります。

マイクロプラスチック

海を漂流・漂着するプラスチックごみは、時間が経つにつれ劣化と破砕を重ねながら、次第にマイクロプラスチックと呼ばれる微細片となります。マイクロプラスチックは、漂流の過程で汚染物質が表面に吸着し、化学汚染物質の海洋生態系へ取り込まれる原因になる可能性があるほか、実験室レベルでは誤食により海洋生物の体内に取り込まれることによって、海洋生物が害を受け、炎症反応、摂食障害などにつながる場合があることがわかっています。このような海洋プラスチックごみ汚染を考えていく上で、現在及び将来の海洋環境におけるマイクロプラスチックの存在量を定量化することはとても重要になります。

この研究の結果によると、特に夏季の日本周辺や北太平洋中央部で浮遊量が多くなること、プラスチックごみの海洋流出がこのまま増え続けた場合、これらの海域では2030年までに海洋上層でのマイクロプラスチックの重量濃度が現在の約2倍になること、さらに2060年までには約4倍となることなどが示されています。

2016年時点と50年後の2月と8月における海洋表層のマイクロプラスチック重量濃度分布
(2)海洋ごみに関する国際的な動き

イギリスのエレンマッカーサー財団が、2016年1月の世界経済フォーラム年次総会(通称「ダボス会議」)に合わせて発表した報告書において、海洋に流出しているプラスチックごみの量は、世界全体で少なくとも年間800万トンあり、このまま何の対策もとらなければ、海洋に漂うプラスチックごみの重量は、2050年には魚の重量を上回ると警鐘を鳴らしたことが注目され、国際的な関心が高まりました。上述のとおり、近年では、海洋プラスチックごみやマイクロプラスチックが生態系に与え得る影響等について国際的に関心が高まり、世界全体で取り組まなければならない地球規模の課題となっています。2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」では、「2025年までに、海洋堆積物や富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減すること」が持続可能な開発目標(SDGs)のターゲットの一つとして掲げられました。G7やG20においても海洋ごみが議題とされ、2015年のG7エルマウ・サミットでは「海洋ごみ問題に対処するためのG7行動計画」が合意され、2016年5月に開催されたG7伊勢志摩サミットにおいては、首脳宣言において、資源効率性及び3R(リデュース、リユース、リサイクル)に関する取組が、陸域を発生源とする海洋ごみ、特にプラスチックの発生抑制及び削減に寄与することも認識しつつ、海洋ごみに対処することが再確認されました。また、2017年のG20ハンブルク・サミットでは「G20海洋ごみ行動計画」の立ち上げが合意されました。さらに、2018年のG7シャルルボワ・サミットでは、海洋環境の保全に関する「健全な海洋及び強靱な沿岸部コミュニティのためのシャルルボワ・ブループリント」を承認し、「海洋の知識を向上し、持続可能な海洋と漁業を促進し、強靱な沿岸及び沿岸コミュニティを支援し、海洋のプラスチック廃棄物や海洋ごみに対処」するとしました。そのほか、国連環境計画(UNEP)、東南アジア諸国連合(ASEAN)、日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM)等の場で海洋ごみについて議論されており、国際連携・協力の必要性の認識が高まっています。また、科学的知見の集積が急務であるとの認識が共有され、特に海洋中のマイクロプラスチックの分布実態の把握に向けては、G7の合意の下、日本が主導して、その調査結果が比較可能となるよう、調査手法の調和に向けて取り組んでいます。

図3-1-2 BAUシナリオにおけるプラスチック量の拡大、石油消費量

2 プラスチックの資源循環に関する国際動向

(1)資源循環に関する動き

2015年9月の国連総会で採択されたSDGsにおいては、「12.2 2030年までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する」、「12.5 2030年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する」、「14.1 2025年までに、海洋堆積物や富栄養化を含む、陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する」というターゲットが合意されました。

この後欧州では、2015年12月、欧州委員会がサーキュラー・エコノミー・パッケージを発表しました。製品と資源の価値を可能な限り長く保全・維持し、廃棄物の発生を最小限化することで、持続可能で低炭素かつ資源効率的で競争力のある経済への転換を図るべく、アクションプランを掲げました。これらアクションプランの実現により、2030年までにGDPはプラス7%(約1兆ユーロ)の経済成長、2035年までに廃棄物管理分野における17万人の雇用創出、2~4%の温室効果ガス総排出量の削減等の効果が見込まれると試算しています。また、特にプラスチックについては、優先分野とし、プラスチックのバリューチェーン全体の課題に取り組み、ライフサイクル全体を考慮する戦略を策定することが盛り込まれました。また、これを受け、2018年1月に欧州委員会は、プラスチック戦略を発表しました。この戦略では、2030年までに、全てのプラスチック容器包装をコスト効果的にリユース・リサイクル可能とすることや、企業による再生材利用のプレッジ・キャンペーン、シングルユースプラスチックの削減の方向性等を盛り込んでいます。また、2019年3月に欧州議会は、食器、カトラリー類、ストロー、綿棒等の使い捨てプラスチック製品を2021年までに禁止する規制案を可決しました。

2016年5月に開催されたG7富山環境大臣会合においては、「地球の環境容量内に収まるように天然資源の消費を抑制し、再生材や再生可能資源の利用を進めることにより、ライフサイクル全体にわたりストック資源を含む資源が効率的かつ持続的に使われる社会を実現すること」をG7共通のビジョンとして掲げた富山物質循環フレームワークが合意され、SDGs及びパリ協定の実施に向けて、国際的に協調して資源効率性や3Rに取り組むという強い意志が示されました。また、2018年9月のG7ハリファクス環境・海洋・エネルギー大臣会合においては、海洋プラスチックごみ問題への対処のために、プラスチックの管理に関する革新的かつ拡張可能な技術又は社会の解決を促進するための今後の取組をまとめた「海洋プラスチックごみに対処するためのG7イノベーションチャレンジ」が採択されました。同年10月に我が国で開催した世界循環経済フォーラム2018においても、プラスチック管理に関する革新的な事例の紹介や、今後の解決策の方向性について議論を行いました。

(2)アジア等海外におけるプラスチック資源循環関連施策

2017年7月、中国政府が「固体廃棄物輸入管理制度改革実施案」を発表し、「地域によっては依然として発展を重視し、環境保護を軽視する思想が存在し、企業によっては利益獲得のために向こう見ずな行為を行っており、海外ごみの違法輸入問題は幾度禁止しても絶えることがなく、人民大衆の身体健康と我が国の生態環境の安全に対して厳重な危害をもたらしている」という認識の下、2019年末までに国内資源で代替可能な固体廃棄物の輸入を段階的に停止すること、まずその第1弾として、2017年末までに生活由来の廃プラスチック、仕分けられていない紙ごみ、紡績ごみ、金属くず等の輸入を禁止することが示されました。その後、同年8月に固体廃棄物輸入管理目録案が公表され、「固体廃棄物輸入禁止目録」において、「非工業由来の廃プラスチック」が位置付けられ、プラスチックの生産及びプラスチック製品の加工過程において生じた切れ端や切り落とし等の廃プラスチックが、混入物の割合や品質等に関係なく一律に輸入禁止とする具体的な措置内容が明らかとなりました。その後年末にかけて輸入許可量の制限が行われたため、日本から中国への輸出量が減少し、従来月7万トン前後だった輸出量は、2017年12月末に禁輸措置が施行された後は、わずか月数千トンまで減少しています。

他方で、中国への輸出量が激減した結果、東南アジア諸国がその受け皿となり、タイ、ベトナム、マレーシア等への輸出量が増大しました。ところが、中国ほどの処理能力を保持していない東南アジア諸国に、短期間で大量のプラスチックごみが輸入されたため、自国内にプラスチックごみが滞留し、東南アジア諸国でもプラスチックごみの輸入に制限をかける国が出てきました。その結果、我が国からの輸出量は2016年は153万トンでしたが、2018年は101万トンまで減少しています(図3-1-3)。

図3-1-3 プラスチックくずの輸出量

減少分は国内で処理されていることになりますが、環境省が2018年8月に実施したアンケート調査では、一部地域において上限超過等の保管基準違反が発生していること、一部処理業者において受入制限が実施されていることから、今後、廃プラスチック類の適正処理に支障が生じたり、不適正処理事案が発生する懸念がある状況であることが分かりました。そのため、既存施設の更なる活用や、関係団体との協力により不適正な事案の発生時も即時に対応が可能となる体制の構築を検討していきます。また、廃プラスチック類のリサイクル施設等の処理施設の整備等を速やかに進め、国内資源循環体制を構築します。

一般社団法人プラスチック循環利用協会のデータによると、2017年に排出された廃プラスチック903万トンのうちリサイクルされていたものは251万トンとされていますが、うち149万トンは海外に輸出され、海外でリサイクルされていた分が含まれています。海外への輸出量が減少していく中、国内におけるリサイクルインフラの質的・量的確保や利用先となるサプライチェーンの整備をはじめ、適切な資源循環体制の構築が急務となっています。このため、環境省では、2017年度から民間事業者等におけるプラスチックリサイクルの高度化に資する設備の導入について補助事業を実施しています。