環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第1章>第2節 第五次環境基本計画が目指すもの

第2節 第五次環境基本計画が目指すもの

1 第五次環境基本計画の基本的な考え方

(1)目指すべき持続可能な社会の姿

環境・経済・社会の側面が複雑に関わっている現代において、健全で恵み豊かな環境を継承していくためには、経済社会システムに環境配慮が織り込まれ、環境的側面から持続可能であると同時に、経済・社会の側面についても健全で持続的である必要があります。

私たち日本人は、豊かな恵みをもたらす一方で、時として荒々しい脅威となる自然と対立するのではなく、自然に対する畏敬の念を持ち、自然に順応し、自然と共生する知恵や自然観を培ってきました。このような伝統も踏まえ、ICT等の科学技術も最大限に活用しながら、経済成長を続けつつ、環境への負荷を最小限にとどめ、健全な物質・生命の「循環」を実現すること、そして健全な生態系を維持・回復し、自然と人間との「共生」や地域間の「共生」を図り、これらの取組を含め「低炭素」をも実現することが重要です。このような循環共生型の社会(「環境・生命文明社会」)が、私たちが目指すべき持続可能な社会の姿であると言えます。

(2)環境・経済・社会の統合的向上の具体化

この社会の実現に向け、第五次環境基本計画では、累次の環境基本計画において提示されてきた原則や理念を維持した上で、2030年、2050年の目指すべき姿を見据えつつ、国際・国内情勢の変化を的確に捉え、将来世代の利益を意思決定に適切に反映させることも視野に、国内対策の充実や国際連携の強化を進めることとしています。また、SDGsの考え方も活用しながら、環境・経済・社会の統合的向上の具体化に向けた取組を進めることとしています。

そして、環境・経済・社会の統合的向上の具体化の鍵の一つが「地域循環共生圏」であり、我が国発の脱炭素化※2・SDGsの実現に向けた考え方と言えます。

2 地域循環共生圏の創造による持続可能な地域づくり

(1)地域循環共生圏の意義

「地域循環共生圏」は、環境と経済・社会の統合的向上、地域資源を活用したビジネスの創出や生活の質を高める「新しい成長」を実現するための新しい概念です。これは、各地域が、その地域固有の資源を活かしながら、それぞれの地域特性に応じて異なる資源を持続的に循環させる自立・分散型のエリアを形成するという考え方です。この「地域循環共生圏」の創造に当たっては、モノのインターネット化(IoT)や人工知能(AI)といった情報技術を駆使することも非常に有用です。広域にわたって経済社会活動が行われている現代においては、各地域で完全に閉じた経済社会活動を行うことは困難であり、「地域循環共生圏」においても、それぞれの地域が自立しながら多様性を生かしつつ、互いにつながることが重要です。経済社会システム、ライフスタイル、技術といったあらゆる観点からイノベーションを創出しながら、それぞれの地域の特性に応じて近隣地域等と共生・対流し、より広域的なネットワーク(自然的なつながり(森・里・川・海の連環)や経済的つながり(人、資金等))をパートナーシップにより構築していくことで、地域資源を補完し支え合うことが必要と言えます。

特に、都市と農山漁村は補完的な関係が顕著ですが、「地域循環共生圏」の創造は、農山漁村のためだけにあるのではなく、都市にとっても、農山漁村からの農林水産品や自然の恵み(生態系サービス)等によって自らが支えられているという気付きを与え、農山漁村を支える具体的な行動を促すことにもつながります。すなわち、「地域循環共生圏」は、農山漁村も都市も活かす、我が国の地域の活力を最大限に発揮する考え方であると言えます(図1-2-1)。

図1-2-1 地域循環共生圏の概念図

また、持続可能な開発のための2030アジェンダが掲げるSDGsは、「世界全体の普遍的な目標とターゲットであり、これらは、統合され、不可分のもの」、かつ、「持続可能な開発の三側面(経済・社会・環境)をバランスする」とされています。一つのゴールやターゲットのみの達成を目指すことは、時として他のゴールやターゲットの達成に悪影響を及ぼす場合があります。その一方で、ゴール実現の手法は示されていません。したがって、ゴールの実現のためには、様々な人々が共感できる具体的な道筋と、統合的な取組が不可欠です。

この点において、「地域循環共生圏」という理念の下、地域が抱える課題やニーズを踏まえ、SDGsを分野横断的に統合した具体的な地域社会像を地域の関係者が作り上げることが重要です。それぞれの地域において「地域循環共生圏」という包括的なビジョンを構築・共有することで、SDGsの実現に向けた具体的な道筋を描き、これに統合的に取り組むことも可能になると考えられます。また、多様なステークホルダーの連携を促し、SDGsを実現するビジネスや施策に必要な資金、人材、技術、情報等を分野を超えて連携させることも可能になると考えられます。

(2)地域資源の維持と質の向上

地域の経済社会活動は、地域の特性に大きな影響を与える地域資源の上に成立しています。地域資源には、その地域のエネルギー、自然資源や都市基盤、産業集積等に加えて、文化、風土、組織・コミュニティなど様々なものが含まれます。

地域が持続可能であるためには、経済社会活動によって地域資源が損なわれないようにしなければなりません。また、地域の多様性と固有性、連携から生まれる独自の文化や付加価値が、日本人が国際社会の中で生きていく上での支えとなるとともに、我が国の成長エンジンになり得ることを踏まえれば、我が国の社会全体の向上の観点からも、地域の多様性の源泉となる地域資源を維持した上で質を向上させることが重要であると考えられます。


※2:今世紀後半の世界全体での温室効果ガスの人為的な排出量と吸収源による除去量との均衡の達成に向けて、化石燃料利用への依存度を引き下げることなどにより温室効果ガス排出を低減していくこと。