環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第1章>第2節 我が国における環境・経済・社会の統合的向上

第2節 我が国における環境・経済・社会の統合的向上

1 我が国を取り巻く環境・経済・社会の状況

(1)人口減少・少子高齢化

我が国は既に人口減少時代に突入し、かつて経験したことのない人口減少・少子高齢化が進行しつつあります。我が国の総人口は、2010年の1億2,806万人をピークに減少に転じており、2060年には9,284万人になると推計されています。総人口が減少する中で我が国の高齢化率は上昇を続け、2060年には約4割が65歳以上になると推計されています。また、出生数は減少を続け、生産年齢人口は2060年には、1995年のピークのおおむね半分になると推計されています(図1-2-1)。高齢化による医療・社会保障関係費の急増、財政赤字の深刻化とあいまって、生産年齢人口の減少等による供給制約が顕在化し、我が国の経済成長の制約になりつつあります。

図1-2-1 世代別人口、高齢化率、生産年齢人口比率の推移
(2)東京一極集中

総人口が減少する中で、東京、名古屋、関西の三大都市圏の人口は5割を超えており、特に東京圏への一極集中傾向が加速しています。一方、地方部においては、我が国の約38万km2の国土のうちの約18万km2に人が居住していますが、2050年には、このうちの6割の地域で人口が半減以下になり、さらに全体の約2割では人が住まなくなると推計されています(図1-2-2)。

図1-2-2 2050年の人口増減状況

人口規模が小さい市区町村ほど人口減少率が高くなり、特に人口1万人未満の市町村では、人口が約半数に減少すると予想されています。都市への人口集中により、地方の過疎化や地場産業の衰退が進み、多様な文化が失われたり、地域の環境保全の担い手が不足するといったことが大きな課題となっています。

(3)生産性の向上

我が国の名目GDPは1990年代半ば以降、約490兆円から540兆円までの間でほぼ横ばいに推移しています。世界における我が国の一人当たりGDPの順位は、1990年代半ばの第3位から、2000年代になって低下し、2016年はOECD加盟35か国中18位となっています。

我が国の労働生産性(就業者一人当たり名目付加価値)は、他の先進国と比べて低い水準にあります。2016年の我が国の労働生産性は8万1,777ドル(834万円)で、OECD加盟35か国中21位となっており、G7諸国で最も低い水準が続いています。

人口減少・少子高齢化の状況下において中長期的な経済成長を実現していくためには、生産年齢人口の減少による供給制約を克服していくことが大きな課題であり、労働生産性の向上を図ることが不可欠となっています。

(4)資源・エネルギー制約

化石燃料や鉱物資源等の地下資源に乏しい我が国では、それらの多くを海外からの輸入に依存しています。化石燃料の輸入額は、2000年代以降急増しています。2017年の化石燃料の輸入額は、名目GDPの2.9%に相当する約15.8兆円に達しており、近年の貿易赤字の主要な原因となっています(図1-2-3)。

図1-2-3 日本の化石エネルギー輸入額の推移
(5)炭素生産性の向上

我が国の炭素生産性※9は、1990年代半ばまでは世界最高水準でしたが、欧州の一部の国が着実に低減向上させた結果、2000年頃から我が国の国別の順位が低下し、現在は世界のトップレベルとは言えない状況となってきています(図1-2-4)。

図1-2-4 炭素生産性推移(当該年為替名目GDPベース)

一方で、温室効果ガスの排出量と経済成長の関係を見てみると、2000年代初頭まではエネルギー起源CO2排出量と実質GDPは同様の傾向の伸びを示してきましたが、2013年度以降は温室効果ガス排出量が減少しつつGDPが成長しているデカップリング傾向が見られています(図1-2-5)。

図1-2-5 我が国のGDPとCO2排出量の推移
(6)資源生産性の向上

天然資源はその有限性や採取に伴う環境負荷が生じること、また、最終的には廃棄物等となることから、より少ない資源でより大きな豊かさを生み出すこと、すなわち、資源生産性(GDP/天然資源等投入量)を向上させていくことが重要です。我が国では、循環型社会形成推進基本法(平成12年法律第110号)が制定された2000年度から2009年度までの10年間で3R(リデュース、リユース、リサイクル)の推進等により資源生産性は約53%向上しましたが、2009年度以降は横ばいとなっています(図1-2-6図1-2-7)。

図1-2-6 資源生産性の推移
図1-2-7 資源生産性、実質GDP、天然資源投入量の推移

2 第五次環境基本計画が目指す「地域循環共生圏の創造」

(1)第五次環境基本計画に至る経緯

1987年の国連「環境と開発に関する世界委員会」(ブルントラント委員会)報告書の「持続可能な開発」という概念を受けて、環境基本法(平成5年法律第91号)及び累次の環境基本計画において、基本的な方向性として、持続可能な社会を示してきました。第四次環境基本計画では、目指すべき持続可能な社会を「人の健康や生態系に対するリスクが十分に低減され、「安全」が確保されることを前提として、「低炭素」・「循環」・「自然共生」の各分野が各主体の参加の下で、統合的に達成され、健全で恵み豊かな環境が地球環境から身近な地域にわたって保全される社会」であるとしています。この考えを更に発展させ、2018年4月に閣議決定した第五次環境基本計画において目指すべき持続可能な社会は、以下のとおりとしています。

私たち日本人は、豊かな恵みをもたらす一方で、時として荒々しい脅威となる自然と対立するのではなく、自然に対する畏敬の念を持ち、自然に順応し、自然と共生する知恵や自然観を培ってきました。このような伝統も踏まえ、情報通信技術(ICT)等の科学技術も最大限に活用しながら、経済成長を続けつつ、環境への負荷を最小限にとどめ、健全な物質・生命の「循環」※10を実現するとともに、健全な生態系を維持・回復し、自然と人間との「共生」や地域間の「共生」を図り、これらの取組を含め「低炭素」をも実現することが重要です。このような循環共生型の社会(「環境・生命文明社会」)が、私たちが目指すべき持続可能な社会の姿であると言えます。

我が国の状況を見ると、本格的な少子高齢化・人口減少社会を迎えるとともに、地方から都市への若年層を中心とする流入超過が継続しており、人口の地域的な偏在が加速化し、地方の若年人口、生産年齢人口の減少が進んでいます。これは環境保全の取組にも深刻な影響を与えており、例えば、農林業の担い手の減少により、耕作放棄地や手入れの行き届かない森林が増加し、生物多様性の低下や生態系サービスの劣化につながっています。このように、環境・経済・社会の課題は相互に連関しており、複雑化してきています。

また、世界に目を転じると、地球規模の環境の危機を反映し、2015年に、持続可能な開発目標(SDGs)を掲げる「持続可能な開発のための2030アジェンダ」やパリ協定の採択など、世界を巻き込む国際的合意が立て続けになされました。パリ協定の発効を受けて世界が脱炭素社会に向けて大きく舵を切り、ESG投資等の動きが拡大している潮流を踏まえれば、今こそ、新たな文明社会を目指し、大きく考え方を転換(パラダイムシフト)していく時に来ていると考えられます。

(2)第五次環境基本計画の概要

第五次環境基本計画の策定に当たっては、これまでに述べてきたSDGsやパリ協定等を受けた国内外の流れも織り込んだ持続可能な社会を示すことが求められていました。このため第五次環境基本計画では、累次の環境基本計画において提示されてきた原則や理念を維持した上で、2030年、2050年の目指すべき姿を見据えつつ、国際・国内情勢の変化を的確に捉え、将来世代の利益を意思決定に適切に反映させることも視野に、国内対策の充実や国際連携の強化を進める必要があることを示すとともに、SDGsの考え方も活用しながら環境・経済・社会の統合的向上に向けた取組を進めることとしています。

また、環境・経済・社会の統合的向上に向けて、特定の施策が複数の異なる課題をも統合的に解決するような、相互に関連し合う横断的かつ重点的な枠組みとして、「持続可能な生産と消費を実現するグリーンな経済システムの構築」、「国土のストックとしての価値の向上」、「地域資源を活用した持続可能な地域づくり」、「健康で心豊かな暮らしの実現」、「持続可能性を支える技術の開発・普及」、「国際貢献による我が国のリーダーシップの発揮と戦略的パートナーシップの構築」の6つの重点戦略を設定しました(図1-2-8)。

図1-2-8 第五次環境基本計画の6つの重点戦略

さらに、重点戦略に位置付けられた施策の実施等を通じて経済社会システム、ライフスタイル、技術といったあらゆる観点からイノベーションを創出するとともに、各地域がその特性を活かした強みを発揮し、地域ごとに異なる資源が循環する自立・分散型の社会を形成しつつ、それぞれの地域の特性に応じて近隣地域等と共生・対流し、より広域的なネットワーク(自然的なつながり(森・里・川・海の連環)や経済的つながり(人、資金等))をパートナーシップにより構築していくことで地域資源を補完し支え合う「地域循環共生圏」を創造していくことを目指しています。

加えて、上記の重点戦略を支える環境政策は、環境政策の根幹をなすものとして、揺るぎなく着実に推進していく必要があります。


※9:温室効果ガス排出量当たりのGDP。なお、国際比較の際には、産業構造の違いに加え、当該年為替による名目GDPを分析しているため排除できない為替の変動、震災後の原子力発電所の稼働停止の影響が含まれる点にも留意が必要。

※10:大気、水、土壌、生物等の間を物質が光合成・食物連鎖等を通じて循環すること。