第2節 転換期を迎えた世界とこれから

1 バリ行動計画に至るまでの道のり

(1)地球環境問題に対する国際社会のこれまでの歩み

 ア 国連人間環境会議

 国際社会が初めて環境問題を取り上げたのは、1972年(昭和47年)の国連人間環境会議(以下「ストックホルム会議」という。)でした。

 同会議は、先進国であるスウェーデンの呼び掛けがきっかけとなって開催されました。同国では、当時、遠く西欧諸国の石炭火力発電所などが排出するばい煙によって引き起こされる酸性雨などの公害被害が顕在化しており、このような問題は他の先進国の間でも重大な社会問題となってきていました。この時期から、先進国の間では、工業化による公害や開発による自然破壊は、地球環境に深刻な影響を及ぼすと認識されるようになってきました。他方、開発途上国では、未開発や貧困などが最も重要な人間環境の問題であると認識されており、その解決には一層の開発が必要であると主張し、先進国と鋭く対立しました。ストックホルム会議は、環境問題が国際問題であるとの認識を国際社会が初めて示したものではありましたが、南北格差が地球環境問題においても深い陰を落とすことを浮き彫りにした形となりました。

 この頃の社会的な背景には、地球を「宇宙船地球号」と呼ぶような、人口、資源など地球上ではあらゆる要素が複雑微妙に相互依存しており、これを一体のものととらえて協力して守っていかなければならないといった考え方がありました。このような考え方を背景として、人間環境宣言(ストックホルム宣言)や環境国際行動計画が採択されました。しかし、これらの宣言等では先進国と開発途上国のそれぞれの主張が並列的に盛りこまれることになりました。

 イ 「持続可能な開発」の考え方

 環境政策と開発戦略を統合する枠組みを提供する考え方として提唱されたのが、1987年(昭和62年)、ブルントラント委員会最終報告書「我ら共通の未来」(Our Common Future)における「持続可能な開発」という考え方でした。「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことがないような形で、現在の世代のニーズも満足させるような開発」という、この考え方は、その後の地球環境保全のための取組の重要な道しるべとなっています。

 この考え方は、ストックホルム会議から20年を経た1992年(平成4年)の、のちに「地球サミット」と呼ばれる環境と開発に関する国際連合会議で採択された環境と開発に関するリオデジャネイロ宣言(リオ宣言)や、その具体的行動計画、さらにその10年後の2002年(平成14年)に開かれた持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグサミット)におけるヨハネスブルグサミット実施計画ヨハネスブルグ宣言等においても、受け継がれてきています。

 ウ 気候変動枠組条約と京都議定書

 地球温暖化問題に関する初めての世界会議として、気候変動に関する科学的知見整理のための国際会議が、1985年(昭和60年)、オーストリアのフィラハで開かれました。同会議で、政策決定者は地球温暖化を防止するための対策を協力して始めなければならない旨宣言されたのを契機に、3年後(1988年)の大気変化に関する国際会議(トロント会議)では、温室効果ガス排出量を2005年までに1986年比20%削減という具体的な数値目標を示した声明が出されました。

 1992年(平成4年)には、地球温暖化がもたらすさまざまな悪影響を防止するための国際的な枠組みを定めた気候変動枠組条約が採択され、1994年(平成6年)に発効しました。同条約では、開発途上国における1人当たりの温室効果ガス排出量は先進国と比較として少ないこと、産業革命以降の世界全体の温室効果ガス排出量増の大部分は先進国によるものであること、各国における地球温暖化対策をめぐる状況や対応能力には差異があることなどから、「共通だが差異ある責任及び各国の能力」の原則に基づき、地球温暖化対策に対する責務について、開発途上国を含む締約国すべての国、先進国と旧ソ連及び東欧諸国に分けて異なるレベルの対策を講ずることが合意されました。この条約には、アメリカを始め、世界の189か国が加入しています。

 さらに、同条約の目的達成のための第一歩として、先進国間の温室効果ガス排出量の削減を法的拘束力を持つものとして約束する京都議定書が、1997年(平成9年)に我が国の京都で開催された同条約第3回締約国会議で採択されました。同議定書については、アメリカの不参加方針や運用の細則をめぐる国際交渉が難航したことから、なかなか発効に至りませんでした。

 我が国は、アメリカを含む議定書未締約国に対する働きかけや発効に向けた条件整理のための国際交渉等を粘り強く続けていきました。その結果、2001年(平成13年)には運用の細則を規定したマラケシュ合意が採択され、各国の議定書締結が促進される環境が整いました。さらに、2004年(平成16年)にロシアが締結に踏み切ったことにより、京都議定書は2005年(平成17年)に発効するに至りました。


(2)今後の課題

 先に述べたとおり、1972年(昭和47年)のストックホルム会議以来30有余年の間、国際社会は、地球環境問題解決のために多くの会議を開催し、その中で、南北間の対立点等の問題を含んだ様々な議論がなされてきました。例えば、2002年のヨハネスブルグサミット(世界104か国の首脳、190を超える国の代表などが参加)における2013年以降の枠組みに関する議論においては、先進国が、すべての国が参加する枠組構築を目指したのに対し、G77及び中国(国連における開発途上国のグループ)は、自国の経済発展の機会の喪失を懸念し、「先進国が京都議定書を完全実施するまで、他国が新たな約束を求められるべきでない」と反対するなどの対立が見られました。

 さらに、地球温暖化問題についての立場や考え方の違いは、先進国間や開発途上国間にも存在しています。先進国の間には、国別総量目標の決め方や基準年の設定をいつにするかなど2013年以降の枠組み構築に関する議論があります。また、G77及び中国の間にも、近年の急速な経済成長に伴い急激な温室効果ガス排出量の増加が見込まれる中国やインド、ブラジルなどの新興国、先進国などに原油を輸出している石油輸出国機構(OPEC)とアラブの産油国グループ、地球温暖化の影響(海面上昇)に最も脆弱な小規模島嶼国連合(AOSIS)、排出量が低レベルでありながら地球温暖化の影響を多大に受けるとみられるアフリカ諸国などのグループがあります。こうした中、AOSISが、新興国の台頭を念頭に、開発途上国の間での責任の差異化が2013年以降に関する枠組みの中では必要である旨主張するなど、それぞれの立場により異なる主張がなされるようになってきています。

 このように、各国の立場や考え方の違いは、かつてより複雑になってきており、地球温暖化問題における国際交渉は、大変困難なものとなってきています。しかし、地球規模で温室効果ガスの排出量を大幅に削減し、地球温暖化問題を解決するためには、2013年以降の枠組みにおいてすべての主要排出国が参加した実効ある枠組みが必要です。そのためには、先進国間の更なる努力に加え、開発途上国、とりわけその中でも新興国の協力を得ることが不可欠となっています。

2 「待ったなし」の状況に追い込まれている人類

 IPCCは、1988年に世界気象機関WMO)と国連環境計画UNEP)により設立された組織です。人為起源による気候変化、影響、適応及び緩和方策に関し、科学的・技術的・社会経済的な見地から包括的な評価を行うことを目的としています。そこで得られた結果は、政策決定者を始め広く一般に利用してもらうこととし、これまで4次にわたり評価報告書を発表しています。

 1990年(平成2年)の第1次評価報告書では、人為起源の温室効果ガスがこのまま大気中に排出され続ければ、生態系や人類に重大な影響を及ぼす気候変化が生じるおそれがある旨を指摘しました。1995年(平成7年)の第2次評価報告書では、人間活動の影響による地球温暖化が既に起こりつつある相当数の証拠がある旨が指摘されました。また、2001年(平成13年)の第3次評価報告書では、近年得られたより確かな事実によると、最近50年間に観測された地球温暖化の影響とみられる現象のほとんどは、人間活動に起因するものである旨示されるなど、知見の数やデータの精度が増すにつれ、人間活動と地球温暖化との関係について、一層確度が高いものとして言及をしています。

 そして、2007年(平成19年)の第4次評価報告書では、「気候システムの温暖化には疑う余地がなく、大気や海洋の世界平均温度の上昇、雪氷の広範囲にわたる融解、世界平均海面水位の上昇が観測されていることから今や明白である。」と報告がなされました。また、「人間活動により、現在の大気中の温室効果ガスの濃度は、産業革命以前の水準を大きく超えて」おり、「20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性が非常に高い」と述べ、地球温暖化が進行していること、そして、その原因が人間活動によるものであることを科学的にほぼ断定しました。図1−2−1は、科学的に太陽活動や火山などの自然起源による原因だけでは、これまでの世界の気温上昇を説明できないことを表しています。


図1−2−1 世界規模及び大陸規模の気温変化

 また、将来の気候変動に関する予測について、IPCCが取りまとめたシミュレーションの中でも最良のシナリオ(環境の保全と経済の発展が地球規模で両立する社会(B1))によった場合でも、過去に排出した温室効果ガスが直ぐには吸収されずに大気中にとどまるため、今世紀末(2090〜2099年)には、地球の平均気温は、20世紀末(1980〜1999年)と比べ約1.8℃(1.1〜2.9℃)上昇することが避けられないと予測しています(図1−2−2)。このため、温室効果ガスの排出量を減らすなどの緩和策だけではなく、水利用の効率化などの適切な水管理、農作物の作付け調整、防潮堤の補強など、予測される気候変動による悪影響を低減するための対策(適応策)を相互補完的に行わなければ、気候変動のリスクを防ぐことができないと指摘されており、適応策に取り組むことも必要となってきています。


図1−2−2 今後の気温上昇の予測

 このように、第4次評価報告書は、迫り来る地球温暖化によるリスクを明らかにしています。我々は、同報告書で指摘しているような取り返しのつかない結果を生むリスクを回避するため、予防的な取組方法の考え方に基づき、直ちに世界全体で実効性のある具体的対策を実施すべきときを迎えているのです。


ストップ!温暖化 こどもメッセージリレー


 チーム・マイナス6%では、2008年2月から北海道洞爺湖サミット開催直前の7月上旬までに開催される全国の子供向け環境イベント会場や施設等で、地球温暖化の影響に関するパネルを展示し、子供による地球温暖化防止メッセージを募る「ストップ!温暖化 こどもメッセージリレー」を開催しています。このイベントでは、各会場や施設に設置された温暖化が進んだ地球をイメージした「赤い地球儀」に、メッセージ(宣言)が増えるごとに、青いシールが貼り付けられ、青く塗りかえられていきます。平成20年5月7日現在、4,086人のメッセージが集まっており、各所でのメッセージリレーキャンペーンの様子等については、チーム・マイナス6%のホームページでも公開しています。


「赤い地球儀」に青いシールを貼るこどもたち(写真:環境省)



3 これからの低炭素社会の構築に向けて

 バリ会議では、バリ行動計画が合意され、2009年までに現行の京都議定書の後に続く、温室効果ガス削減に向けた新たな枠組みを目指すこととされました。そのための話合いは既に始まっています。解決しなければならない問題は山積していますが、すべての国が協力して、各国の意見や立場の違いを乗り越え、地球の危機に対処していかなければなりません。


(1)福田総理大臣のダボス会議特別講演

 世界経済フォーラムは、毎年1回スイスのダボスで年次総会(以下「ダボス会議」という。)を開催しています。2008年(平成20年)1月のダボス会議では、同年7月に開催される北海道洞爺湖サミットの議長国として、主要議題の1つとして選ばれていた地球温暖化について、福田総理大臣が特別講演を行い、「クールアース推進構想」を提示し、この構想を現実的な行動に導くための手段として、以下の3点を提案しました。

 まず、[1]2013年以降の枠組みでは、地球全体の温室効果ガスが次の10年から20年の間にピークアウト(増加の頂点を過ぎ減少に転じること)し、2050年には半減させるための方策を早急に検討するため国連に要請するとともに、先のバリ会議での合意を受けて、我が国は、主要排出国と共に、今後の温室効果ガスの排出削減について国別総量目標を掲げて取り組むことを表明しました。その際、削減負担の公平さを確保するため、科学的かつ透明性の高い尺度としてエネルギー効率などをセクター別に割り出し、今後活用される技術を基礎として削減可能量を積み上げること(セクター別アプローチ)等が考えられるとしました。

 [2]国際環境協力では、エネルギー効率30%改善を世界が共有する目標とすることや、省エネ努力などの開発途上国の排出削減への取組に積極的に協力するとともに、気候変動で深刻な被害を受ける途上国を支援するため、100億ドル規模の資金メカニズム(クールアース・パートナーシップ)を構築することなどを提案しました。

 [3]イノベーションでは、温室効果ガスの大幅削減に欠かせない革新的技術の開発と低炭素社会への転換を進めることとし、我が国は今後5年間で300億ドル程度の資金を環境・エネルギー分野の研究開発に投入することや、我が国を低炭素社会に転換していくため、あらゆる制度を根本から見直すための検討に着手することを提案しました。


(2)第4回G20対話

 2008年(平成20年)3月、第4回気候変動、クリーンエネルギー及び持続可能な開発に関する対話(いわゆる「G20対話」)が千葉市で開催されました。この対話は、2005年(平成17年)にイギリスで開催されたグレンイーグルズ・サミットにおける合意をきっかけに立ち上げられたものです。今回の対話は最終回に当たる第4回の対話で、温室効果ガス排出量の多い20か国(G8諸国、中国、インド等の新興国、その他の開発途上国)及び欧州委員会の環境・エネルギー担当閣僚が参加し、地球温暖化問題について意見交換を行いました。ちなみに、この20か国で世界の温室効果ガス排出量の約8割を占めています。今回の対話では、鴨下環境大臣と甘利経済産業大臣が全体の共同議長を務め、地球温暖化問題に対応するための「技術」、「資金及び投資」、「2013年以降の枠組みのあり方」に焦点を当てた議論が各国の大臣レベルで行われました。その結果、実効性のある2013年以降の枠組みの構築に向けて先進国と開発途上国とが一致して取り組んでいくという意識や政治的な機運が高まりました。なお、グレンイーグルズ・サミットにおける合意に基づき、G20対話の成果は2008年7月の北海道洞爺湖サミットで報告される予定です。


(3)北海道洞爺湖サミットに向けて

 バリ行動計画の採択をきっかけに、世界は、地球温暖化問題に対して一丸となって取り組む道を模索し始めました。各国の立場や主張の違いによる対立は依然として残っていますが、これまで京都議定書に不参加であったオーストラリアがバリ会議において同議定書への批准を表明するなど、明るい兆しも見え始めています。

 今年の7月には我が国で北海道洞爺湖サミットが開催され、地球温暖化問題が昨年に引き続き主な議題として取り上げられます。そのため我が国は、5月に主要開発途上国の参加も得て、G8環境大臣会合を神戸で開き、神戸イニシアティブを提唱するなど、準備を進めてきました。先進国自らの削減努力、環境と経済の両立を図る開発途上国や地球温暖化による被害が危惧される国々への支援策などの問題に道筋を付け、地球温暖化問題の解決に向って更に進んでいかなければなりません。我が国は、サミットの議長国として、主要排出国全員が参加する仕組みづくりに、責任を持って取り組んでいきます。



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