第6章 自然環境の保全と自然とのふれあいの推進


第1節 自然環境等の現状


1 自然環境の現状

ここでは自然環境保全基礎調査(緑の国勢調査)(以下「基礎調査」という。)の最近の調査結果を中心に国土の自然環境を概観します。

(1)鳥類繁殖分布調査について
鳥類繁殖分布調査は、第6回基礎調査の一環として平成9〜14年度にかけて実施したもので、国内に生息する鳥類577種を対象とした生息状況調査を実施し、そのうち国内で繁殖する鳥類については、第2回基礎調査(昭和48年)結果との比較により、約20年前との変化を把握しました。調査手法としては、全国で繁殖時期(4〜8月)に現地調査を行うとともに、補完情報としてアンケート調査を実施しました。その結果、合計248種について、収集した繁殖データを20kmメッシュ(20km×20km、全国約1,200区画)ごとに集計し、各区画における繁殖状況を示した繁殖分布図を作成しました。

(2)調査結果について
繁殖分布図を作成した248種について、第2回基礎調査結果との比較を行ったところ、その79%にあたる196種については、約20年前と比べて繁殖分布に大きな変化は見られませんでした。一方、25種については分布の顕著な拡大が見られ、特にカワウやアオサギ、ダイサギなど内水域や海岸に生息する一部の種の分布域が大幅に拡大したほか、外来生物であるガビチョウ、ソウシチョウの繁殖が新たに確認されました。逆に、分布が大きく減少した種として、東南アジアから夏期にわが国に渡来するアカモズやシマアオジ、国内の湿地等で繁殖するタマシギ、シロチドリなど27種があげられます。(表6-1-1)

表6-1-1	自然環境保全基礎調査


(3)分布の拡大縮小とその要因
今回の調査結果からは、繁殖分布域が大幅に拡大又は縮小した種について、変化の理由を特定することはできませんが、一般的にはその生息環境の変化が影響していると考えられます。例えば、カワウやアオサギなどの種は、河川の水質が約20年前に比べて改善傾向であることが拡大の要因になっていると考えられます。また、タンチョウのように冬季給餌事業など保護増殖活動の進展により繁殖分布が拡大している例や、ガビチョウなど鑑賞・愛玩用として東南アジアから輸入された個体が野外に逸出したと考えられる例もあります。

2 野生生物種の現状

絶滅のおそれのある野生生物の種を「哺乳類」「鳥類」等の分類群ごとに取りまとめたレッドリストでは、種の絶滅のおそれの高い順に「絶滅危惧IA類」、「絶滅危惧IB類」、「絶滅危惧II類」、「準絶滅危惧」のカテゴリーに分類しています(表6-1-2)。日本に生息・生育する哺乳類、両生類、汽水・淡水魚類、維管束植物の2割強、爬虫類の2割弱、鳥類の1割強に当たる種が、絶滅のおそれのある種に分類されています。

表6-1-2	わが国における絶滅のおそれある野生生物の種類

また、西中国山地のツキノワグマ等のように生息地の分断などにより地域的に絶滅のおそれがある鳥獣や、ニホンジカやイノシシなどのように地域的に増加又は分布域を拡大して、農林業被害など人とのあつれきや自然生態系のかく乱を起こしている鳥獣もいます。

3 自然環境保全調査の推進


(1)自然環境保全基礎調査
平成17年度より第7回基礎調査を開始し、種の多様性調査、植生調査、生態系多様性調査(浅海域生態系調査)等に取り組んでいます。
植生調査では、従来は植生原図の作成に縮尺5万分の1の地形図を用いていましたが、第6回基礎調査からは新たに縮尺2万5千分の1の地形図を用いた作成をはじめ、17年度末時点で全国の約3割の作成が終了しています。「生態系多様性調査(浅海域生態系調査)」では、全国の干潟及び藻場の調査を実施しており、これらの調査結果を順次ホームページで公開しています(干潟調査http://www.higata-r.jp/、藻場調査http://www.moba-r.jp/)(図6-1-1)。

図6-1-1	5万分の1と2万5千分の1の植生図


(2)モニタリングサイト1000
全国の自然環境の変化を把握するため、基礎調査に加え、全国の生態系を長期的にモニタリングする「モニタリングサイト1000」を平成15年度から開始しました。調査地は、森林、里地、湖沼、湿地、河川、海岸などのさまざまな生態系を網羅するように1,000か所程度を目安に配置していきます。16年度から、生態系のタイプごとに調査項目を設定して試行調査を始めており、17年度も引き続き実施しました。

(3)自然環境調査における各省庁連携
各事業法において環境への配慮等が規定されるにつれ、各省庁が実施する生物調査についても充実しつつあります。表6-1-3に示すように、各省庁の調査を加えると調査箇所数が数千を超えるものもあります。しかし、調査データについての連携はとられておらず、調査データの相互利用が必要です。このため、平成15年度に設置された環境省自然環境局、農林水産省農村振興局、林野庁森林整備部、国土交通省河川局、同港湾局からなるワーキンググループを引き続き開催しました。各省庁の生物調査データはGIS情報として使用可能なことを基本としており、16年度より岡山県南部地域を対象に試行的に関係省庁のデータの整理と重ね合わせを進めた結果、GISデータとして相互に利用可能であることが検証されました。

表6-1-3	関係府省が実施する生物調査の一覧



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