第3章 水環境、土壌環境、地盤環境の保全


第1節 水環境、土壌環境、地盤環境の現状


1 水環境の現状


(1)公共用水域の水質汚濁
ア 健康項目
水質汚濁に係る環境基準のうち、人の健康の保護に関する環境基準(健康項目)については、現在、カドミウム、鉛等の重金属類、トリクロロエチレン等の有機塩素系化合物、シマジン等の農薬など、26項目が設定されています。平成16年度の公共用水域の水質汚濁に係る環境基準の達成状況をみると、健康項目達成率は、99.3%(前年度99.3%)と、前年度と同様、ほとんどの地点で環境基準を達成していました(表3-1-1)。さらに、要監視項目として現在27項目を設定し、水質測定の実施と知見の集積を行っています。なお、ダイオキシン類については、その水環境中での挙動に関して引き続き知見を集積しています。

表3-1-1	健康項目の環境基準達成状況

イ 生活環境項目
生活環境の保全に関する項目(生活環境項目)については、生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、溶存酸素量(DO)、全窒素、全りん等の基準が定められており、利水目的から水域ごとに環境基準の類型をあてはめています。
また、平成17年度はさらに、水環境を総合的にとらえ、水環境の健全性を示す指標の調査検討を進めました。
有機汚濁の代表的な水質指標であるBOD又はCODの環境基準の達成率をみると、渇水の影響等で河川の環境基準達成率が落ち込んだ平成6年度を除けば、測定開始以来、毎年わずかずつ向上し、16年度は85.2%となっています。水域別にみると、河川89.8%(15年度は87.4%)、湖沼50.9%(同55.2%)、海域75.5%(同76.2%)であり、特に、湖沼、内湾、内海などの閉鎖性水域で依然として達成率が低くなっています(図3-1-1、表3-1-2、図3-1-2)。

図3-1-1	環境基準(BOD又はCOD)の達成率の推移


表3-1-2	環境基準の達成状況(BOD又はCOD)


図3-1-2	三海域の環境基準(COD)達成率の推移

閉鎖性水域における平成16年度のCODの環境基準達成率は、東京湾は63.2%、伊勢湾は50.0%、瀬戸内海は67.3%、湖沼は50.9%となっています(図3-1-1、図3-1-2)。また、16年の赤潮の発生状況をみると、瀬戸内海118件、有明海66件となっており、東京湾及び三河湾では青潮の発生もみられます。湖沼についてもアオコや淡水赤潮の発生がみられています。
ウ 海洋環境
平成15年度の海洋環境モニタリング調査によれば、大阪湾沖及び沖縄本島南西沖における汚染状況は、沿岸で高く沖合で低い値となっており、陸域からの負荷の影響が示唆されました。
紀伊半島、四国沖における廃棄物の海洋投入処分地点を対象とした調査では、底質から高濃度の有機スズ化合物が検出されましたが、当該地点は水深が4,400mであることから、人の直接・間接による摂取の可能性は低く、健康に害を及ぼす可能性は低いと考えられますが、今後汚染の拡大を監視するため、適切なモニタリングが必要と考えられます。
また、過去の調査により大阪湾沖にPCB汚染が局所的に存在している可能性が示唆されたため、調査を行った結果、検出された海底の堆積物中のPCB濃度は、底質におけるPCBの暫定除去基準を下回っていました。当該地点の底層は漁場としての利用は無く、当該海域のPCBが直ちに人の健康に多大な影響を及ぼす可能性は低いと考えられます。
なお、海洋環境モニタリング調査結果のデータについては、(独)国立環境研究所が整備した「環境GIS」で公表しています。(http://www-GIS.nies.go.jp/kaiyo/top.asp
また、海洋汚染状況を把握するため実施している海洋汚染調査の結果、日本の周辺海域、閉鎖性海域等において、海水及び海底堆積物中の油分、PCB、重金属などについては、例年と同様な濃度レベルで推移していることが認められました。
また、平成17年の日本周辺海域における、廃油ボールの漂流・漂着に関する調査の結果、漂流調査では採取されず、漂着調査では平均採取量は前年に比べ減少しました。日本周辺海域を除いた北西太平洋海域においては、昭和57年以降低いレベルで推移しており、平成17年はほとんど採取されていません。17年の海上漂流物の目視による調査の結果、平均目視個数は昨年と比べて若干増加しました。プラスチック等の海面漂流物は、夏期の日本周辺海域に多く分布しています。漂流物の内訳は前年同様、発泡スチロール、ビニール類等の石油化学製品が多く占めています。
最近5か年の日本周辺海域における海洋汚染(油、廃棄物、赤潮等)の発生確認件数の推移は図3-1-3のとおりです。平成17年は360件と16年に比べ65件減少しました。17年の海洋汚染のうち油による汚染についてみると、船舶からのものが166件と約7割を占めており、そのほとんどが取扱不注意によるものでした。油以外の汚染についてみると、陸上からのものが86件と約8割を占めており、そのほとんどが故意による廃棄物の排出でした。

図3-1-3	海洋汚染の海域別発生確認件数の推移

平成17年の観測によると、日本周辺海域及び北西太平洋海域で、水銀及びカドミウムは例年と変わらない濃度レベルで推移しています。

(2)地下水質の汚濁
平成16年度の地下水質の概況調査の結果では、調査対象井戸(4,955本)の7.8%(387本)において環境基準を超過する項目がみられました(表3-1-3、図3-1-4)。施肥、家畜排せつ物、生活排水等が原因と見られる硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の環境基準超過率が5.5%と他の項目と比較して最も高くなっています。硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素が一定以上含まれている水を摂取すると、乳幼児を中心に血液の酸素運搬能力が失われ酸欠になる症状(メトヘモグロビン血症)を引き起こすことが知られており、その対策が緊急の課題となっています。一方、汚染源が主に事業場であるトリクロロエチレン等の揮発性有機化合物についても、依然として新たな汚染が発見されています。

表3-1-3	平成16年度地下水測定結果(概況調査)


図3-1-4	地下水の水質汚濁に係る環境基準(超過率の高い項目)の超過率の推移


(3)水質汚濁による被害状況
水道水源(約7割は河川等の表流水、約3割は地下水)の水質汚染事故により影響を受けた水道事業者等の数は平成16年度には78(平成15年度には73)でした。また、近年、湖沼等の富栄養化などによる藻類の異常な増殖等により、水道水の異臭味が問題となっており、平成16年度には、66の水道事業者等(被害人口の合計約286万人)(平成15年度には、59の水道事業者等(被害人口の合計約308万人))において異臭味による被害が生じました。
工業用水の約7割は河川水であり、河川水の水質汚濁により影響を受ける場合があります。また、工業用水道事業では、一般的に薬品沈殿による水質処理を行っていますが、河川水の汚濁物質除去により発生する汚泥の処理が問題となる場合があります。
平成16年度に発生した水質汚濁等による突発的漁業被害は、都道府県の報告によると、発生件数が136件(15年度126件)、被害金額は25億3,434万円(同22億8,905万円)で、15年度より発生件数、被害金額ともに増加しました。このうち、赤潮による被害は31件、23億7,646万円(同39件、21億2,890万円)、海面の油濁による被害が8件、9,468万円(同15件、7,796万円)です。なお、水銀等による魚介類の汚染に関しては、汚染が確認された水銀に係る7水域及びドリン系殺虫剤に係る2水域において、引き続き漁獲の自主規制又は食事指導等が行われています(平成17年12月末現在)。
地方公共団体が実施した平成17年度の海水浴場等の水質調査によれば、調査対象とした749水浴場(前年度の遊泳人口がおおむね1万人以上の海水浴場及び5千人以上の湖沼・河川水浴場)すべてが水浴場として最低限満たすべき水質を維持しており、このうち、水質が良好な水浴場は、611水浴場(全体の82%)でした。
また、平成17年度に各地方公共団体において水浴場を対象としたO-157等の調査が行われた結果、測定が行われた718水浴場のすべてで検出されませんでした。

2 土壌環境の現状

農用地の土壌の汚染防止等に関する法律(昭和45年法律第139号)に基づく特定有害物質による農用地の土壌汚染の実態を把握するため、汚染のおそれのある地域を対象に細密調査が実施されており、平成16年度は7地域1,483haにおいて調査が実施されました。これまで基準値以上検出面積の累計は134地域7,327haとなっています。
市街地等の土壌汚染については、近年、工場跡地の再開発・売却の増加、環境管理等の一環として自主的な汚染調査を行う事業者の増加、地方公共団体における地下水の常時監視の体制整備や土壌汚染対策に係る条例の整備等に伴い、土壌汚染事例の判明件数が増加しており、都道府県や土壌汚染対策法(平成14年法律第53号)の政令市が把握している調査の結果では、平成15年度に新たに土壌の汚染に係る環境基準又は土壌汚染対策法の指定基準を超える汚染が判明した事例は349件となっています(図3-1-5)。事例を汚染物質別にみると、鉛、砒素、六価クロム、ふっ素、総水銀、全シアンなどに加え、金属の脱脂洗浄や溶剤として使われるトリクロロエチレン、テトラクロロエチレンによる事例が多くみられます。

図3-1-5	年度別土壌汚染判明事例集

土壌に関係する環境への影響には、汚染だけでなく浸食があります。日本は傾斜地が多く多雨なので浸食を受けやすく、本来、表土流出防止機能がある水田や森林の保全管理が十分なされない場合には土壌浸食のおそれもあります。沖縄県では、降雨による大規模な赤土等の流出がサンゴ礁等の生態系等に悪影響を与えていることから、赤土等の発生源での流出を防止するための調査や対策の普及・啓発事業を推進しました。

3 地盤環境の現状

地盤沈下は、工業用、水道用、農業用等のための地下水の過剰な採取により地下水位が低下し、粘土層が収縮するために生じます。代表的な地域における地盤沈下の経年変化は、図3-1-6に示すとおりであり、平成16年度までに、地盤沈下が認められている主な地域は37都道府県61地域となっています。

図3-1-6	代表的地域の地盤沈下の経年変化

近年の地盤沈下の特徴を挙げると次のようになります。
1) 平成16年度における年間2cm以上沈下した地域は9地域で、沈下した面積(沈下面積が1km2以上の地域の面積の合計)は176km2でした。年間4cm以上沈下した地域は2地域、沈下した面積は1km2未満でした(図3-1-7)。

図3-1-7	全国の地盤沈下面積の経年変化

2) かつて著しい地盤沈下を示した東京都区部、大阪市、名古屋市などでは、地下水採取規制等の対策の結果、地盤沈下の進行は鈍化あるいはほとんど停止しています。しかし、千葉県九十九里平野など一部地域では依然として地盤沈下が認められています。
3) 長年継続した地盤沈下により、多くの地域で建造物、治水施設、港湾施設、農地及び農業用施設等に被害が生じており、海抜ゼロメートル地域などでは洪水、高潮、津波などによる甚大な災害の危険性のある地域も少なくありません。


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