ビルは“ゼロ・エネルギー”の時代へ

改修ZEBコラム

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改修介護施設のZEB化と快適性の両立

特別養護老人ホーム瀬戸の里の外観の写真
特別養護老人ホーム瀬戸の里の外観
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岐阜県中津川市にある社会福祉法人五常会の「特別養護老人ホーム瀬戸の里」では、増築・改修によって一次エネルギー消費量を55.9%削減し(創エネ含む) 、ZEB Readyに認証されました。

「特別養護老人ホーム瀬戸の里」では、外断熱の全面採用をはじめ、Low-E複層ガラス、太陽熱利用システム、ヒートポンプ給湯器等の導入を実施しており、パッシブとアクティブの両技術を活かした増築・改修を行っています。

今回は、「特別養護老人ホーム瀬戸の里」の増築・改修によるZEB化について、社会福祉法人五常会 向(むかい)氏と株式会社空建築事務所 盈(みつる)氏にお話を伺いました。

ZEB化は介護施設の運営に役立つ

社会福祉法人五常会 向氏と株式会社空建築事務所 盈氏の写真
お話を伺った社会福祉法人五常会 向氏(左)、
株式会社空建築事務所 盈氏(右)

(司会者)

今回、増築・改修という形で介護施設のZEB化を検討した経緯をお聞かせください。

(社会福祉法人五常会 向(むかい)氏)

現在、日本では30年くらい前に建築された介護施設が老朽化してきており、今後の改修・建替が必要な建物が多くあります。本施設(瀬戸の里)も1984年に開設しまして、長年の利用により内装、水回り、空調設備に限界が来ていました。

そのような中で、介護福祉関係の改修に関する補助金・制度は少なく、予算の確保する上で補助対象経費の2/3が補助されるSII(一般社団法人 環境共創イニシアチブ)の「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル実証事業」が大変魅力的でした。

また、本施設は設備が古くランニングコストがかさんでいたこともあり、省エネ設備によってランニングコストの削減も見込めるという狙いがありました。

(司会者)

なるほど。実際にZEBの補助金応募者に介護施設が多いという状況は存じていましたが、それには時期的なタイミングもあるのですね。また、イニシャルとランニングの両面でコスト削減が見込めるのは魅力かと思います。実際にはどの程度ランニングコストを削減できましたか。

(向氏)

本施設の場合、一部増築を行っているので単純に何%削減とは表現できないのですが、延床面積あたりの電気代及びガス代で比較すると、工事前(平成27年7月)は約367円/㎡、工事後(平成30年7月)は約201円/㎡と約45.1%削減できました。

介護施設の改修におけるZEB化の課題

(司会者)

ZEB化することでコスト面で大きなメリットが見込めるように思います。一方で、ZEB化をするには様々な課題があったかとお見受けします。具体的にZEB化する上で課題となった点をお聞かせください。

(向氏)

本施設は既存施設の改修のため、介護施設で暮らす高齢者の方々の生活を確保しながらZEB化する必要がありました。具体的には、まず初めに2階・3階部分に20名分のスペースを増築し、そちらに順次移動してもらいながら改修を行いました。そのため、補助金の対象期間を1年目の増築と2年目の改修の2ヵ年に分けてもらいました。予算確保としては大変助かりましたが、その分契約・監査の事務手続きに手間がかかりました。

また、ZEB化は一般的な機器より多少高額な高効率機器の導入が必要なことから、施工業者の入札時に当初予定していた工事費では落札できず、工事金額を増額したということもありました。

(司会者)

ZEB化に当たって事業継続や経理処理に苦労されたのですね。技術的な観点でZEB化に向けた課題等はありましたか。

(株式会社空建築事務所 盈(みつる)氏)

ZEBの基準を満たすための設備や技術は、建物と一体的に検証・設計していく必要があり苦労しました。一方で、 SIIの補助金を受給するという前提があったため、当初想定していなかったBEMSを設置することで、直接的な省エネ効果だけでなく、スタッフの省エネ意識の向上など間接的な効果がありました。

特別養護老人ホーム瀬戸の里の屋上に設置された太陽熱利用システムの写真と同施設のヒートポンプ給湯機の写真
写真(左)特別養護老人ホーム瀬戸の里の屋上に設置された太陽熱利用システム
(右)同施設のヒートポンプ給湯機

いかに快適性とZEB化を両立させるかが重要

(司会者)

介護施設の視点から、 ZEB化に当たってどのような点に留意しましたか。

(盈氏)

介護施設は入居者の多くが高齢者であるため、生活に負担をかけない快適な空間を24時間維持する必要があり、他の業務用ビルと比較して多くのエネルギーを消費します。そのため、単純に省エネ設備を導入するだけではなく、建物の躯体を考えるところから始めました。躯体設計は、躯体保護を含め省エネ効果の高い外断熱システムを全面採用し、外部からの熱を遮断しました。また、Low-Eガラスを導入し冷暖房負荷を下げながら、室内の快適な温度を維持する仕組みを作りました。これによってエネルギー消費量の削減のみならず、利用者やスタッフから「猛暑が多かった今夏でも涼しく快適に過ごすことができた。」という意見もいただいております。

その他にも昼間の高齢者の入浴に合わせ、太陽熱を利用した熱供給システムを導入しました。

(司会者)

外断熱の効果は大きいように思います。外断熱や太陽熱は今回のZEB化にうまくマッチしたという印象です。
一方で、増築・改修時に導入を検討したが採用には至らなかった技術等はありますか。

(盈氏)

介護施設では冬場に湿度が下がり体調不良につながる恐れがあるため、デシカント空調の導入を検討しました。

しかし、当施設の場合、デシカント空調はWEBプログラム上の一次消費エネルギー計算値が全熱交換器より増加したため、今回の改修では採用を見送りました。

(向氏)

現在は、各部屋に加湿器を設置し湿度を管理しています。それぞれの部屋の洗面台をシャワー式にして、加湿器に給水しやすくする等、スタッフの負担を減らすようにしました。

(司会者)

省エネと介護施設ならではの快適性を担保するため、「瀬戸の里」では利用者である高齢者やスタッフのことを考え、両立するための工夫をされているのですね。

ZEB化を行う上で、その建物の用途や快適性に配慮しながら省エネ化する工夫が重要ですね。ありがとうございました。

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