課題名

H―10 環境負荷の軽減及び最適配分を実現する大都市近郊農村連携経済社会の制度設計と実施方策に関する研究

課題代表者名

原島 省(独立行政法人国立環境研究所水土壌圏環境研究領域 海洋環境研究室)

研究期間

平成14−16年度

合計予算額

106,329千円(うち16年度 35,070千円)

研究体制

(1)都市農村連携における都市部の機能、環境負荷に関する研究
   (横浜国立大学、愛知大学、日本大学)
  ・都市計画、都市経済に関する研究(横浜国立大学)
  ・環境経済、都市論に関する研究(愛知大学)
  ・都市環境、都市経営に関する研究(日本大学)

(2)都市農村連携における農村部の機能、環境負荷に関する研究(愛知大学、東京農工大学)

  ・環境経済、農村経済、農業・食糧問題に関する研究(愛知大学)
  ・農業技術、農業環境に関する研究(東京農工大学)

(3)都市と農村連携の相互性に関する研究

   (愛知大学、経済産業省独立行政法人産業技術総合研究所、東京大学、横浜国立大学)
  ・公共経済、環境経済、交通・輸送に関する研究(愛知大学)
  ・有機系物質循環、エネルギーシステムに関する研究(経済産業省独立行政法人産業技術総合
   研究所)
  ・地域科学に関する研究(東京大学)
  ・都市政策、エネルギーシステムに関する研究(横浜国立大学)

(4)発展途上国都市公害問題への適用に関する研究(愛知大学、山口大学)
  ・国際開発、環境経済に関する研究(愛知大学)
  ・アジア環境経済に関する研究(山口大学)

研究概要

1.序(研究背景等)

 環境問題に対する取り組みとして、環境負荷そのものの軽減化をはかる技術的手段も重要である
が、同時に、環境と経済とのバランスの観点から、環境と人間、社会、経済の行動および制度的枠組
みの側面も考慮し、広範な地域空間、時間空間の規模の範囲を設定し、環境の波及的連続性に関する
拡散ないし円滑な管理を人間の経済、社会の仕組みに組み込むことが環境対策の実効性を高める観点
から重要である。
 しかも、社会的共通資本と考えられる自然環境へのアプローチは、一人の人間によって独占するこ
と、あるいは他人を排除することが不可能なオープンアクセスである特徴があり、私有財ではなく、
公共財のように考えられてきた。即ち、非排除的に地域空間と時間空間をだれでも、そして極めて多
くの人々が利用できる。一方、環境は、容量において制約的であり、非競合性ではない特徴があり、
公共財の側面のみを考えることは様々な誤りを導く。一人一人の利用が積み重なることによって、環
境容量は、影響を受ける。ここに、環境と人間との最適な関係を実現する地域空間、時間空間を求め
る意義がある。人間、および多種の生物が暮らし、その持続性が望まれる地域空間、時間空間におい
て、大気、水、土壌などへの負荷を抑制しようとするならば、これらの環境問題と様々な生物の生態、
あるいは人々の社会環境に係わる他の社会、経済問題との整合、即ち、地域空間、時間空間に内在す
る多様な問題の均衡のとれた解決が環境負荷軽減の前提として、必要となる。
 本研究では、環境問題とその対策をこのようにとらえ、連続する都市農村の広域を研究対象の領域
に選定し、地域社会がかかえる諸問題との連結により、地球規模の環境対策を追究する。
 地球規模の環境問題の代表である温室効果ガス対策においては、環境の波及的連続性という観点か
ら、地球空間という範囲設定がおこなわれるものの、多様な国家、民族、さらに社会、経済の調整が
前提として必要であり、地球空間という範囲設定によるマネージメントの非効率性にまつわる課題を
避けることはできない。また、わが国の温室効果ガス対策では、従来から、産業レベル、個人レベル
に重点がおかれていたが、本研究は、地域領域における対策に焦点をあてる。
 地域へ焦点をあてる本研究は、地域経済の不均衡是正、地方分権の推進という現代的要請に対応す
るとともに、都市集中、地方過疎、あるいは農業など第一次産業の再生という構造的問題への解決に
も直結する特徴を有している。
 また、本研究は、温室効果ガス対策のみならず、発展途上国都市公害問題の側面からも地球環境問
題に貢献できると考えている。発展途上国においては、生活環境問題、都市環境問題、地球温暖化問
題が三すくみとなって、深刻化している。この解決のためには、従来の対症療法的対応ではなく、予
防対策としての性格を有する本研究が進める広範な地域空間を対象とする総合的アプローチが有効
と考えられる。

2.研究目的

 本研究では、都市農村広域領域から経済と環境の両立を目指した総合的な地域政策から、地球規模
の環境問題の同時解決を求めることが究極の目的である。
 このために、
‥垰塲逝執域地域空間における諸循環構造を明らかにする
地方分権化の進展を背景として、広域地域空間における経済政策、土地政策、環境政策の整合性
 をはかり、温室効果ガス削減について検討する。
H展途上国における都市農村所得格差是正を念頭に置き、都市公害問題の解決の道を探る。


3.研究の内容・成果

 (1)都市農村広域地域空間について
 都市、農村両サイドにおいて、都市農村連携を促す動きが認められる。
   ・わが国の現代社会では、‐型分散型技術の普及、⊃品に関する衛生を含む安全意識の高
    まりによる都市農村連体感の浸透、E垰塲逝軸屬凌諭垢琉榮亜↓で清筏蚕僂凌癖發覆蒜清
    生産様式の変更などの点において、都市あるいは農村の個別空間のみに比重をおく価値観が
    都市農村の広域地域間をバックグラウンドとする価値観へ変化する可能性がある。
   ・また、市町村合併など地方分権の進展も都市農村の連携化に拍車をかけることになる。
   ・さらに、様々な環境対策においても従来に増して、広域的な取り組みが進みつつある。
    .辧璽肇▲ぅ薀鵐匹梁从として、二酸化炭素の吸収効果もある植物、森林の管理が重要
     である認識が広まり、都市農村の広域空間において総合的に緑地を配置することを検討
     すべきとの考えが広まっている。
    ⊂緡の水源および周辺の森林を保護するために、水需要地であり、排水供給地水源供給
     地である下流が費用負担し、上下流が一体となって、広域的に環境対策を講じる水源基
     金の動きが広まっている。
    自らの空間である都市における水害を軽減する目的と上流部における負担を軽減する目
     的のために、遊水池など雨水貯留浸透施設の設置など河川管理者と下水道管理者が一体
     となる流域水害対策も実現している。
    ぅ丱ぅマス・ニッポン政策をはじめとして、今後、食品などの有機系物質に関する総合
     的な検討が期待されている。その際、有機系物質の廃棄・リサイクルなど静脈のみなら
     ず、動脈側も含めた総合的検討が必要となり、局地的対策の限界が明らかとなるととも
     に、都市、農村それぞれの有機系廃棄物を広域的空間で取り扱う必要性が脚光を浴びる
     と考えられる。
   ・農村においては、エコツーリズムなどの関心の高まりの他、都市における市場拡大と農業生
    産の効率向上を目的として農業生産組織の法人化、株式会社の参入など都市機能の浸透が進
    んでいる。
   ・都市農村連携して取り組む課題として、都市農村間経済循環とともに森林によるCO2吸収、休
    耕農地の土地利用、有機系物質(廃棄物)の循環に注目し、CO2削減との整合をはかる検討を
    行うこととした。

 (2)都市農村連携モデルの構築
 環境負荷、経済循環との関係を明らかにしながら物質循環に焦点をあてた都市農村連携モデルの構
築を行い、このモデルを用いた政策シミュレーションを通じて、都市農村の最適な連携を目指した政
策ミックスのあり方を求めた。土地利用と、いわゆる生産から消費までの動脈と消費以降の静脈の広
域における物質循環を管理することが広域における環境負荷の最適配分を実現することを可能とし、
これらに係わる政策ミックスの実行により、地域個別における対策では難しい環境負荷の軽減が可能
となると考えた。
 対象地域を地域に分割する、地域間の連携効果を確認するために、それぞれの地域を閉鎖的経済
圏とする。例えば、モデル上、労働者が地域境界を越えて通勤することがないと仮定する。ただし、
対象地域外の地域をk=0で表し、対象地域外からこの都市農村広域空間への移入や移出をとりこめる
ようにし、検討対象地域全体としての内外のバランスには配慮する。
 それぞれの地域は、都市的土地利用、農耕地、バイオマス、休耕農地、森林の5つの土地利用の地
区に分割する。Ajkを地域kの土地利用Jの面積とし、Ljkをその雇用数とする。財としては、都市的生産
物、農業生産物、有機廃棄物、無機廃棄物、エネルギー(電気エネルギーを想定)、肥料(液肥を想
定)、二酸化炭素の7要素を考える。都市的土地利用においては、都市的生産物が主要生産物である。
農耕地では農業生産物が主要生産物である。同様に、バイオマスではメタン発酵を想定し、エネルギ
ーと肥料が主要生産物である。休耕地と森林では何も生産されないと仮定する。副生産物として、廃
棄物や二酸化炭素がいくつかの土地利用で産出される。また、森林では二酸化炭素が吸収される。対
象地域における生産物の動き(収入・費用)をもって、経済循環とみなした。
 なお、本来は土地利用分類や財の分類はより細かくする方が、現実の記述力は高くなる。しかしな
がら、今回は、都市農村広域空間内の各地域間連携を分析するために、簡便で操作性の高い都市・農
村連携モデルを構築することに主眼を置いた。従って、分類をことさらに細かくし、地域に関する記
述力を高めることは、研究の対象とはしなかった。また、土地利用分類を細かくしたとしても、必ず
しもそれに対応した適切な生産関数が推定できるものではないため、あえて上述のような分類を採用
した。  
 
 都市的土地利用における主要生産物は都市的生産物である。都市的生産物としては、特定の財とい
うよりも、複合的な財としての性格を想定している。副産物として有機廃棄物、無機廃棄物そして二
酸化炭素の排出があるものと仮定する。また、その生産に必要な原料としては、都市的生産物、農村
生産物、エネルギーの投入が必要であると仮定する。
 農耕地における主要生産物は農業生産物であり、副産物として有機廃棄物、無機廃棄物が排出され
ると仮定する。また原料としては、都市的生産物、農村生産物、エネルギー、肥料の投入が必要であ
ると仮定する。
 バイオマスにおける主要生産物はエネルギーと肥料であり、副産物として無機廃棄物が排出される
と仮定する。また原料としては、都市的生産物、有機廃棄物、エネルギーの投入が必要であると仮定
する。

 休耕地においては、生産活動が行われないと仮定する。そのため、生産物も原料の投入もない。森
林においても生産活動は行われないと仮定するが、二酸化炭素の吸収だけは行われると仮定する。
 全社会余剰は、各地域で需給がバランスする条件のもとで、全生産物の生産による利潤から原料の
費用と交通費を差し引いたものになる。この社会余剰を土地利用配置と交通パターンについて最大化
することで、最適な都市・農村の連携パターンを求めることができる。これが、本モデルの目的関数
である。
 交通パターンの最適化サブモデルにおいては、原料に対する需要が運搬される量と等しく、生産さ
れる量がどこかに運搬され、財の循環がバランスしていなくてはならない。このサブモデルにおける
目的関数は全交通費用であり、これをそれぞれの地域において土地利用配置を所与として最小化す
る。なお、サブモデルとして、あえて分離したというよりは、モデルの一断面をここでサブモデルと
して記述しているにすぎず、実際の計算では、全体の最適化を一度に行っている。
 実際の地域政策に役立つための現実的仮定として、休耕農地のみ他の土地利用に変換可能とする。
この仮定は、モデル上、容易に緩和可能であるが、他の土地利用についても自由に転換が可能という
仮定は、あまり現実的ではく、また、本研究が目指すところを曖昧にすると考えた。
 モデルを単純化するため、生産技術としてレオンチェフ型の生産関数を仮定した。レオンチェフ型
の生産関数でないとすると、原単位という考え方をとることができないので、都市的生産物の生産関
数の関数形を具体的に設定して、パラメータを推定する必要がある。しかしながら、都市的生産物の
内容があまり具体的でない本モデルで、関数形を具体的に求めることはできないと判断した。
 また、交通費用は運搬した量に比例するものとする。これもより精密な交通費用関数を設定するこ
とも可能ではあるが、本研究の対象は交通技術を最適化ではないため、この点は簡単な設定とした。
なお、運搬方法としては、トラック輸送を想定してモデル化している。
 廃棄物と二酸化炭素の価格を負とすれば、市農村間における最適な土地利用配置を求めながら、廃
棄物や排出炭素に関する環境税のような環境政策の有効性を確認することができ、本研究の目指すと
ころに近づくことが可能となる。
 本モデルは、都市農村間の連携に配慮して、とくに、都市農村間の経済、雇用の動きに連動する有
機廃棄物の循環、二酸化炭素吸収を担う森林の効果など広域空間における環境負荷の配分、また、そ
の環境負荷を念頭に置き、有機廃棄物の移動に基づく環境対策を効率化する適切な空間配置と運搬パ
ターンの最適化を中心的な要素として含んでいる。実際のデータを用いた実証分析が明らかにするよ
うに、二酸化炭素排出の削減や正の社会余剰を生み出すことが効能であることを示している。このよ
うな観点からの環境対策と、従来からの個別的な環境対策を組み合わせることにより、環境負担は確
実に軽減する。
 このモデルによって、具体的に、(1)バイオマスの社会的効果、(2)土地利用変化、(3)交通条件の変
化、(4)環境税などの環境政策の効果などを検討することができる。とくに、適切で計画的な土地利
用配置は、運搬量の大幅な削減や環境負荷の減少を導くことができ、重要であり、このようなモデル
の今後の地域計画における基本的なツールとしての活用が待たれる。また、今まで利用交通量によっ
て評価していた地方部の道路体系は、ともすると、現状が不便なためにその存在意義が過小評価され
る懸念もあったが、このようなモデルにより、交通条件の改善が地域全体に及ぼす影響を明らかにす
ることができ、将来を見越した交通計画の最適化にも資することができる。さらに、環境対策の組み
合わせによる広域地域経済の変化をも定量的に把握することが可能となることから、環境分野におけ
る政策評価として有効であると言える。例えば、環境税の影響は、二酸化炭素排出の費用のパラメー
タを変えることで、その効果の分析が可能となる。

 (3)都市農村連携モデルによるシミュレーション分析
都市農村連携モデルを用いてシミュレーションを実施し、広域における環境対策の効果を求めた。
 シミュレーション分析は、三遠南信地域を対象としてモデル計算に必要な土地利用別生産性データ
などを作成し、土地利用政策によって、休耕農地をどのように土地利用するか検討することによって、
社会余剰の最大化を求めることを目的とした。土地利用変換のケース3つ(経済優先型、環境調和型、
バランス型)の分析から、環境税課税効果と社会余剰についての定量比較を行った。また土地利用変
換により立地するバイオマスプラントや、環境税導入の政策効果として生じる森林の立地による環境
負荷削減効果も定量的に把握した。社会余剰最大化に伴い、生産活動に必要な輸送費用も最小化され
ることで地域空間の物流体系を、地域内輸送量により評価した。
 現状、即ち休耕農地の状況でのケースでは、三遠南信地域全域の社会余剰・環境税費用は図2のと
おりで、全域での社会余剰(棒グラフ)は環境税なしの際約12兆7600億円となり、環境税(線グラフ)
導入により、約100〜1000億円程度の課税となり、社会余剰は減額となる。一人当たりの社会余剰、
環境税は表1のとおりである、

 また、Case1(経済優先型土地利用)では、図3のように生産性の高いサービス用地に優先して変換
され、また経済優先でもバイオマスが立地した。約36000人の失業人口を全て使い切り、環境税導入
の場合、残りは森林(国有林)となる。全域での社会余剰は、約1兆2729億円増加したが、CO2排出量が
2.07%増加(表3)してしまう。これに対して、環境税を導入すると、環境税費用が増加し、社会余剰
は約2〜20億円程度減少する。
 Case2(環境調和型土地利用)では、図4のように牧草地に最も多く変換されることになる。畜産の
活性化による、家畜糞尿の増加に対応してバイオマスが約2.7k嵎儡垢気譟∩完茲任CO2排出量が約
2.7%削減(表3)されることになる。全域での社会余剰は約777億円増加にとどまり、環境税導入によ
り2.5〜25億円程度増加する。活用された失業者は約14000人で、20000人以上が残る結果となった。


 Case3(バランス型土地利用)の結果は、図5にみることができる。開発を可能とした地区でサー
ビス用地が増加し、抑制した地区で牧草地が増加したと考えられる。都市部の開発抑制と、バイオマ
スと森林の増加により、CO2排出量は約0.4%削減(表3)される。全域での社会余剰は約8682億円増加
し、環境税導入により社会余剰はさらに4800万〜4.8億円程度増加する。
Case別の経済・環境評価の結果は以下のとおりである。図6をみると、Case2,3は土地利用変換対策
の効果として、環境負荷が削減し、環境税を削減できるが、総費用としてはあまり変わらない。経済
的利益はCaselが大きい結果となった。
 シミュレーションの結果、社会余剰とCO2削減の関係を試算し、環境税導入により、経済と環境の
両立の可能性を示した。

 (4)都市農村連携による環境負荷軽減のための政策ミックス
 本研究では、都市農村連携に基づく広域地域空間における土地利用が、雇用、経済へどのような影
響を与え、社会余剰と環境負荷との関係にどのように作用するかの構造明らかにしてきた。また、広
域地域空間における社会余剰と、環境負荷とのバランスを環境税によって、調整できるシステムを考
察してきた。
 従来、土地利用政策は都市あるいは農村の各々の機能を個別に最大化することを目標とする傾向が
あり、広域地域空間でみると、経済、環境対策のインバランスを引き起こし、結果として、広域地域
全体ヘマイナスな効果を与え、地域の社会的基盤あるいは人々の絆にも影響が及ぶこともしばしばあ
った。
 本研究による都市農村連携モデルは、このような状況を是正する方向を示すものである。とくに、
地球規模の環境対策を実施するためには、個別地域における効果を単純に寄せ集めるのではなく、3
E(経済、環境、エネルギー)のバランスに配慮しながら、トータルとしての効果を考えることが重
要である。
 さらに、考えておくべきことは、都市農村連携モデルが示す海図を長期にわたって実現するための
政策選択である。政策選択にとって、留意すべきことは、既存の各分野における複数の政策がもたら
す効果の相互関係を代替性、競合性から調整するとともに、短期と長期の調整、即ち、時間を軸とし
て調整することである。本研究の都市農村連携モデルは、前者の調整を行うために役立つが後者の調
整の方向を見極めるためには、さらなる研究が必要となる。
 都市農村連携モデルをもとに、政策ミックスを考える場合に、その地域固有性にとって、選択され
る政策の優先度は異なる。三遠南信地域においては、農業、林業のウェイトが高いために、これら第
一次産業の振興策と整合をとりながら、天然自然の循環、なかでも、農業・林業廃棄物を含めた有機
系廃棄物の循環及び森林機能を活かす政策に重点を置くべきと考えられる。
 また、政策をとりまく諸環境にとって、海図どおり進まないことも考えられる。このような政策実
行に関する不確実性に対する調整も必要となる。不確実性は、時として外的要因に起因する。従って、
有事に備える予防対策、リスク分散対策を内容とする政策が重要となる。しかしながら、回避できる
不確実性もある。この点を考えると、政策そのものが人々に受け入れられるかどうかのパブリックア
クセプタンス及び情報管理そして開示と諸環境の変化に関する柔軟性に関する政策が重要となる。さ
らに、各政策が錯綜することを考えると、利害社調整あるいは公正さを確保するために、情報流通を
重視するとともに、第三者機関のようなモニタリング及びレフェリー機能の充実が要請される。
 ところで、一般的に、環境対策は直接的手段、間接的手段と基盤的手段があり、短期的即ち対症療
法的効果には直接的手段が有効であり、長期的効果には間接的手段が有効であり、共通的にその手段
が円滑に機能するためには基盤的手段が重要となると考えられている。これらの手段のミックス化
は、それぞれの地域のおける環境問題の深刻化によって異なってくる。
 発展途上国であれば、直接的手段のウェイトが高くなる。
 持続性のある環境対策を求める視点をもてば、間接的手段の選択が重要となる。環境税、環境権の
取り引きはその有力なメニューである。しかしながら、都市農村連携の概念を取り入れた広域の視野
から環境政策を考える場合に、流通の合理性を求めた広域ならではの新たなシステム導入が必要とな
る。廃棄物処理、エネルギー需給のための新たなシステム導入が必要となる。廃棄物処理、エネルギ
ー需給のための新たなシステムのために、さらなる技術開発が期待されている。三遠南信地域では有
機廃棄物流通システムが望まれる。これらの新しいシステムのためには、環境対策の直接的手段とし
て、新たなインフラの配置及び投資をめぐる意思決定も大きな課題となってくる、とくに、新たなイ
ンフラの投資者、運用者を広域における受益を分析した上で定める必要がある。
 さらに、広域地域空間における政策選択特有の配慮は空間内のバランスをとることと、閉鎖性を避
け、外に対する開放性を維持し、内外とのバランスをとることである。空間内のバランスのためには、
空間内部におけるながれを保つ流通と、内部組織及び内部における配置に関わる政策が重要となる。
流通は、都市農村連携モデルで取り扱ったながれだけではなく、文化のながれ、情報のながれも重要
となる。内部組織に関しては、前提として、構成員の権利と義務、責任を明確にすることが大切であ
る。間接的手段である環境税の徴収および使途、地域内での環境権取り引きは地域全体として環境負
荷を削減するために有力なメニューであるが、効果を発揮するためには、その権利と義務・責任との
明確な認識が不可欠である。また、内部組織の有効な形態として、クラブ組織、NPO組織の活用、ま
た、組織間を円滑にする方法としてエコマネーも有効なメニューである。
 なお、広域空間における責任を明確にすることは、必ずしも、権利の調整を徹底化をはかる所有権
アプローチを志向することだけではない。協同組合などを活用し、共有のルールを確立すること、無
所属の聖地ルールを確立することも、裏返せば、権利を明確にすることに寄与する。都市と農村の中
間的位置として、グレーゾーンを設定し、両機能にまたがる活用をはかることも重要な政策と考えら
れる。
 最後に、これらの政策ミックスにおいて、前提的に必要なことは、教育、情報流通など基盤的環境
対策によって社会の基礎を固め、人々、コミュニティ、文化の自由と安定をはかりながら「協調」を
確立することと、パブリックセクターの新たな役割を考えながら、市場競争の原理を導入し、「効率」
を確立することとともに、社会が持続するために必要な「公正」を確かにすることであることを指摘
しておきたい。

(5)発展途上国都市公害問題への寄与
中央集権から地方分権へ移行するアジア地域においては、生活環境問題、都市環境問題、地球温暖化
問題が三すくみとなり、深刻化している。この解決のためには、環境問題への取り組みとして広範囲
からの環境と経済の両立が不可欠である。
 本研究では、その成果を国内にとどめず、世界へ発信する観点から、インドネシア・JABODETABEK
における調査をもとに、わが国国内を対象として研究を行った都市農村広域連携を基軸とし、発展途
上国の固有性として、所得分配の最適化とともに広範な環境対策を検討し、その実現へ向けた日本か
らの新たな国際協力スキームの方向性を模索した。
 JABODETABEKを研究対象と選定した理由は、ジャカルタにおける都市化が周辺農村地域にまでエス
カレートしているため、本研究によって解決しようとしている課題が深刻化していると認められるか
らである。また、広域の概念で地域政策を既に模索しており、本研究を受け入れる土壌があるからで
ある。多民族国家であり、東西に長いインドネシアが再び中央集権的開発主義に回帰することは考え
られず、地方として特色のある行政とはなにか、また、ポスト中央集権的開発主義という文脈の中で
地方が果たすべき役割は何か、といった観点から、本研究は真価を発揮する時をえているとの評価が
高く、とくに、インドネシア版都市農村連携モデル構築、モデル分析及び循環型社会への関心が調査
ヒアリング先であるBAPPEBAS(国家開発計画庁)などインドネシア政府諸機関、大学において高まっ
た。
 とくに、ボゴール農科大学は、都市農村連携モデルのインドネシア適用について、バンドン工科大
学、インドネシア大学との連携にも積極的であり、以下の観点の基礎課題を指摘し、所得格差是正型
インドネシア版都市農村連携モデルのパラメーター検討に向けた具体的な研究計画を本研究の現地
調査に際して提出してきた。本研究を進めてきた立場から、インドネシアサイドの適切かっ望ましい
動きと認識した。
’逝室匆餬从僂諒析
⊆匆馘計データの整備および開示
E效詫用に関する広範囲からの分析
せ埔譟⊂暖颯轡好謄爐亡悗垢詈析
 インドネシアにおいては、都市農村連携に関して、土地利用の今後の展開、農産品の流通整備、有
機系物質循環型農村振興、廃棄物処理の長期計画策定など具体的ニーズは多い。埋立処分場の需給が
逼迫し、長期において焼却場開発スケジュール調整及びサイト選定課題をかかえているなど緊急性も
高い。
 今後、上記観点に関して、BAPPENASから予想される要請を受けとめるとともに、本研究の経験を活
かし、ボゴール大学など産官学による総合的な共同研究を推進するわが国側の体制強化が望まれる。
現在、JICAあるいは国際協力銀行における提案型調査のステージあるいは地域対応経験の豊かな自治
体の協力もえる新たな国際協力スキームとしての検討が進みつつあり、発展途上国における都市公害
問題解決実現の現実感が強まる方向にある。

4.考察

 わが国においては、地方分権の動き、技術、環境対策の観点から都市農村連携の必要性が高まって
おり、地球温暖化対策をこの広域地域空間レベルでとらえることは、良いタイミングであると考察で
きる。地球規模の温室効果ガス対策として、規模の経済性を求めながら、社会に密着できる新しいア
プローチである。また、地球環境問題が地域振興とともに地域環境問題と相乗的に解決される。
 本研究で開発した都市農村連撲モデルは、都市農村の連携に配慮して、とくに、都市農村間の経済、
雇用の動きに連動する有機系廃棄物の循環、二酸化炭素吸収を担う森林の効果など広域空間における
環境負荷の配分、また、その環境負荷を念頭に置き、有機廃棄物の移動に基づく環境対策を効率化す
る適切な空間配置と運搬パターンの最適化を求める構造に備えている。経済と環境の最適バランスを
求めるために有効である。
 また、休耕農地の土地利用に注目して、広域的な範囲で総合的な視野から検討することによって、
環境問題への対応に結びつけたことは、都市農村連携モデルを用いたシミュレーション分析によって
初めて明らかとなることである。このことは、有機系廃棄物処理の広域地域空間における配置を明ら
かにするとともに、現実への貢献度は高いと考えられる。
 一方、発展途上国都市公害問題への適用は、本研究が所得格差是正効果を伴うために、発展途上国
にとって、実効的な貢献になりうると考えられる。ただし、発展途上国においては、わが国ほどデー
タが整備されていないこともあり、これまでの研究体制をさらに強化して国際協力に臨むことが期待
される。

5.研究者略歴

課題代表者:大澤正治
      1949年生まれ、慶応義塾大学商学部卒業、電源開発株式会社企画部副部長を経て、現在、
              愛知大学経済学部教授
       主要論文:大澤正治:地方自治体の廃棄物処理政策の現状と課題、「愛大中産研研究報
              告」第61号(2002)
              大澤正治・東城清秀:バイオガスプラント導入によるわが国畜産変貌の可能
              性、東洋大学現代社会総合研究所「経済研究年報」、28,125-163(2003)
              大澤正治:環境問題解決への三遠南信学貢献の期待、愛知大学中部地方産業
              研究所2003年報、69-80(2004)
              ジャカルタにおける都市廃棄物処理、愛知大学経済論集第166号、307-339
              (2004)
              エネルギー経済社会論の視点、エネルギーフォーラム社(2005)

主要参画研究者
(1) :大澤正治(同上)
(2)  美濃輪智朗
     1965生まれ、広島大学総合科学部卒業、公害資源研究所を経て、現在、産業技術総合研究
     所主任研究員
     主要論文: T. Minowa, et a1. : Catalyst Today, 45,411-416(1998)
            T. Minowa, et al: Fuel, 78,1213-1215(1999)
            T. Minowa, et al.: Chemistry Letters, No.5,546-547(2002)
   ◆Ю見泰司
     1960年生まれ、東京大学工学部卒業、ペンシルヴァニア大学大学院博士課程修了、Ph.D.、
     現在、東京大学空間情報科学研究センター教授・副センター長
     主要論文: Gao, X. and Y. Asami: "The External Effects of Local Attributes on Living
            Environment in Detached Residential Blocks"Urban Studies, 38,487-505
            (2001)
            浅見泰司編:住環壌:評価方法と理論、東京大学出版会(2001)
            浅見泰司編:トルコ・イスラーム都市の空間文化、山川出版社(2003)
   :東城清秀
     1956年生まれ、東京農工大学大学院農学研究科修了、現在、東京農工大学農学部助教授
     主要論文: 大澤正治・東城清秀:バイオガスプラント導入によるわが国畜産変貌の可能性、
            東洋大学現代社会総合研究所「経済研究年報」,28,125-163,(2003)
            東城清秀・加藤仁・渡辺兼五・服部隆行・中川悦光:家畜排泄物の収集・処理
            過程における環境負荷ガスの放散,農業施設,35(3),173-180,(2004)
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     1958年生まれ、早稲田大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科博士課程修了、工学博士、
     現在、横浜国立大学教授
     主要論文: 秋田典子、佐土原聡:地域資源に対する住民の価値評価構造に関する研究
            福島県原町市での分析―、日本建築学会計画系論文集、No.545、pp. 101-106、
            2001年7月
            秋本和紀、吉田聡、佐土原聡:防災分野におけるGIS活用のためのデータ品質
            評価に関する研究、GIS―理論と応用、Vo1.10.No.1、pp.39-48、2002年3月
            古川賢司、吉田聡、佐土原聡:愛知県豊橋市における有機性廃棄物の資源循環
            の検討・その1―都市と近郊農村における環境連携システムに関する調査研
            究―、日本建築学会大会学術講演梗概集、D-1、pp.623-624、2002年8月
            田中貴宏、久木裕、田中陽、吉田聡、佐土原聡:持続的な森林バイオマスエネ
            ルギー利用の潜在能力評価へのGISの活用、Vol.11. No.1、pp.45-52、2003年9月
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     1958年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。広島大学大学院社会科学研究科博士課程単位
     取得退学。現在、愛知大学経済学部教授
     主要論文: 佐藤元彦・平川均:第四世代工業化の政治経済学、新評論(1998)
            佐藤元彦:脱貧困のための国際開発論、築地書館(2002)
            佐藤元彦・原田太津男・尹春志:東アジア開発モデルの再検討、中部大学産業
            経済研究所(2002)
            佐藤元彦:貧困緩和・解消の国際政治経済学、築地書館(2005)