課題名

C-4 酸性・酸化性物質に係る陸域生態系の衰退現象の定量的解析に関する研究

課題代表者名

斎藤元也(独立行政法人農業環境技術研究所地球環境部

生態システム研究グループ長)(平成13年度)

袴田共之(農水省農業環境技術研究所環境管理部資源・生態管理科長)

(平成11・12年度)

研究期間

平成11−13年度

合計予算額

187,962千円(うち13年度 61,885千円)

研究体制

(1) 陸域生態系衰退地域における酸性沈着の実態とモニタリング手法に関する研究

(独立行政法人国立環境研究所、東京農工大学、埼玉大学、東洋大学、産業医科大学)

(2) 陸域生態系における養分動態と樹木衰退の関係並びに病害に関する研究

(独立行政法人森林総合研究所、筑波大学)

(3) 衰退地域の植物の生理生態学的特性と環境要因の複合影響評価

(独立行政法人国立環境研究所、東京農工大学)

(4) 酸性降下物の陸水環境に及ぼす影響の定量的評価

(独立行政法人農業環境技術研究所、東京農工大学)

(5) キャッチメント・モデル解析手法の開発と総合評価

(独立行政法人農業環境技術研究所、北海道大学、信州大学)

(6) 陸域生態系衰退に関する研究者ネットワークの構築による調査解析

(独立行政法人国立環境研究所、財団法人日本環境衛生センター)

(7) ダケカンバの衰退とオゾン等環境要因との関係の解析(独立行政法人国立環境研究所)

(8) 富栄養酸性雨の水質・底質への影響とその計測手法に関する研究

(独立行政法人国立環境研究所)

研究概要

1.序
  現在までに世界各地で森林、湖沼等陸域生態系の衰退が認められ、我が国でも近年森林の衰退が報告されている。国内の酸性沈着は大きく改善される状況になく、国外から飛来する酸性物質は近年増加傾向にあり、東アジアにおけるモニタリングネットワークの構築が始まっている。このような中で、我が国における陸域生態系の衰退現象はその原因を明確にするところまで達していない。特に我が国においては、酸性沈着による被害が発生しているのではないかと指摘される地域における集中的・総合的調査研究は、従来、必ずしも十分行われてこなかった。
  そこで、本課題においては、酸性沈着による被害の可能性が指摘される陸域生態系の衰退現象に関し、専門家のネットワークを活用しつつ、奥日光を対象に総合的かつ定量的な調査研究を行い、考えられる原因のいくつかにつき、その可能性を検討する。
 
2.研究目的
  本研究では、陸域生態系の衰退が認められる奥日光地域に焦点をあて、植物、気象・大気、土壌・陸水等の研究者が共同で計測・調査を行い、実験室や試験ほ場・施設における実験結果と併せ、総合的・定量的に解析し、専門的立場からの衰退原因解明を試みる。一方、内外の研究者ネットワークを確立して、広く学際的知見を活用し本研究から得られる知見の一般化を図る。もって、酸性・酸化性物質と陸域生態系の衰退現象の関係解明に資すことを目的とする。具体的には8課題に分けて以下のような目的の研究を実施する:
(1) 陸域生態系衰退地域における酸性沈着の実態とモニタリング手法に関する研究
  大気汚染によって森林被害が現れていると言われる奥日光山岳地域において、関連するオゾン、過酸化物を中心とした大気汚染物質を観測し、森林被害との関連を検討する。また、これらの
地域に適用可能な乾性沈着のモニタリング手法を開発し、汚染物沈着の実態を把握するために乱流拡散係数やフラックスの測定を行なう。さらに、暴露チャンバーを用いて植物への過酸化物暴露実験を行い、過酸化物と植物被害の関係を明らかにする。
(2) 陸域生態系における養分動態と樹木衰退の関係並びに病害に関する研究
 
北関東の樹木衰退林分に試験地を設定して、土壌、樹木の養分状態、菌根菌及び樹木病害菌の状態を調査する。一方、スギのモデル林分において人工酸性雨を散布し、窒素系の酸性化物質と樹木衰退の関係を解析する。また、苗木に対して、病害菌の接種試験を行い樹木衰退との関係を解析する。
(3) 衰退地域の植物の生理生態学的特性と環境要因の複合影響評価
  陸域生態系の衰退地域等における植物生長量や生理活性等に関する野外調査を継続的に行い、植物の年間を通じた生理生態学的特性を把握する。また、森林樹木の生理生態学的特性と酸性・酸化性物質を含む環境要因との関係を実験室において解明する。
(4) 酸性降下物の陸水環境に及ぼす影響の定量的評価
 
森林衰退が観測される奥日光地域の集水域における陸水環境を観測し、酸性・酸化性物質の沈着やその他環境変化などとの関係の解明を行う。これらの知見および関連する観測から得られたデータに基づいて、集水域に関する物質循環モデルを用いて大気降下物による生態系影響を総合的・定量的に解析する。
(5) キャッチメント・モデル解析手法の開発と総合評価
 
生態系内における窒素と塩基の収支と外部起源の酸性物質の寄与をフィールド調査から推定し、得られた知見や、酸緩衝機構に関する既存の情報の定量化に基づいて、集水域に関する物質循環モデルを構築する。これらに基づき、酸性降下物等による生態系影響を総合的に解析・評価する。
(6) 陸域生態系衰退に関する研究者ネットワークの構築による調査解析
 
東アジアにおいて、酸性沈着フラックスを測定するサイトでの総合的な研究を推進するため、東アジア地域における陸域生態系衰退に関連する研究者のネットワークを構築していくと共に、この地域における調査・研究状況に関する情報を収集し、今後共同研究を進めていく上で、重要なコンタクトパーソン(研究者)や、今後東アジアに展開すべき研究テーマを特定化する。
(7) ダケカンバの衰退とオゾン等環境要因との関係の解析
  奥日光の前白根山の南東斜面のダケカンバ衰退地と北西斜面の非衰退地に、調査区を設け、ダケカンバの生育・衰退度に関する毎木調査、気象・土壌環境の計測、パッシブサンプラーによるオゾン濃度の計測などを行い、比較検討し、樹木衰退と環境要因との関係を解析する。もって、森林衰退の原因解明に資するデータを提供する。
(8) 富栄養酸性雨の水質・底質への影響とその計測手法に関する研究
 
酸性降下物の河川環境影響調査手法の確立をめざし、酸中和能が低いとされる花崗岩地域を流域にもち、サケの増殖・回帰で有名な三面川水系(新潟県村上市)において、河川水質の酸中和能、各種イオンの測定、関連する文献調査を行った。
 
3.研究の内容・成果
(1) 陸域生態系衰退地域における酸性沈着の実態とモニタリング手法に関する研究
  栃木県奥日光および長野県大芝高原においてオゾン、窒素酸化物、過酸化物、エアロゾル等を対象とする野外観測を行った。その結果、日光前白根山山頂付近には高濃度の光化学オゾンが到達していることが明らかとなり、また前白根山の麓(国立環境研究所奥日光観測所)でもオゾンとともにこれと強い相関を持つ過酸化水素が観測され、森林衰退へ影響を与えている可能性が示された。大芝高原のアカマツ群落における観測では、canopy 上方で上向きのオゾンフラックスが認められ、canopy 内垂直分布にもオゾン濃度の極大が見いだされた。さらに、オゾン濃度と日射強度や窒素酸化物濃度との時間相関から、森林内外で光化学的オゾン生成が進行しているという結論が得られ、これまでもっぱらオゾンの吸収源と考えられてきた森林が発生源にもなりうることが示された。また、従来、森林へのオゾンの沈着は外部の大気汚染によってもたらされると考えられてきたが、それだけでなく、森林それ自体の働きで生成するオゾンが内部から沈着して影響を与え得ることが判った。
  硫酸塩エアロゾルのフラックス等に関する観測結果も森林周辺での光化学反応の進行を支持するものであった。さらに、過酸化物の一つであるメチルヒドロペルオキシドが林内で生成し林外へ放出されている兆候が認められた。上記野外観測に加えて、植物へのガス状過酸化物の暴露、
および土壌試料に対する二酸化硫黄とオゾンの沈着に関する室内実験を行った。前者において
は、カイワレダイコンに対する成長阻害、サツマイモに対する可視障害、ジャガイモやニンジンの収穫に対する影響などが見られた。後者においては、奥日光で採取した土壌に対する沈着速度を測定し、二酸化硫黄とオゾンが共存しかつ湿度が高いときに沈着速度が大きくなるという、実環境において重要な意味をもつ結果が得られた。

(2) 陸域生態系における養分動態と樹木衰退の関係並びに病害に関する研究
  奥日光地域では、白根山地区と大真名子地区で稚樹の更新状態があまりよくない。奥日光の土壌は塩基類が少ないなどの傾向が見られるところもあるが、本州中央部のいくつかの地域と比較してみると亜高山帯としては通常の程度と考えられる。衰退の見られる地域の樹木の葉分析の結果は、白根山・大真名子地区のダケカンバでは、リンに対して窒素がやや多く、大真名子地区のコメツガではカルシウムに対して相対的にマグネシウム濃度が低いなどの傾向が見られ、また根系の不良が認められるものもあり、根のカルシウム濃度が低いなど、養分バランスの崩れもみられた。しかし土壌条件との関係は今のところ明らかではない。白根山地区のダケカンバ林で健全・衰弱・枯死個体の位置とナラタケ属菌の分布の関係を解明するために、杭トラップ調査を行った結果、ダケカンバの衰弱如何によらず、ほぼ全ての調査木の根元にナラタケ属菌が存在していることが示されたが、これらの菌は病原性の強いものではなかった。また、樹木を加害している樹皮下穿孔虫の中には、これらの樹種を枯死させる能力のあるCeratocystis属菌やOphiostoma 属菌を伝搬しているものがいることが明らかになった。一方、奥日光地域における植物寄生菌フロラ調査の結果、1875種のさび菌が確認された。近年奥日光で起きている森林衰退等の植生変化に伴い、さび菌フロラにも影響がでていると考えられた。なお、室内実験により、窒素降下物による土壌の窒素過多条件がさび病の発生程度に影響を与える可能性が示された。
  スギ林に対する窒素化合物の連続負荷により、3年目から土壌水のpH低下などが認められ、5年目の調査では土壌中の交換性カルシウムの減少も確認された。樹高成長は低下傾向が続いていた。このスギの根面では、窒素化合物処理により従属栄養細菌の増加が見られた。また、同じく根面で、硝酸散布区では、脱窒菌が、硝安散布区ではアンモニア酸化菌が増加した。
 
(3)
衰退地域の植物の生理生態学的特性と環境要因の複合影響評価
  前白根山稜線の北西斜面を非衰退地、南東斜面を衰退地として、ダケカンバの生理生態学的特性を調査し、以下のことを明らかにした。非衰退地に比べて衰退地のダケカンバでは、葉のクロロフィル濃度、可溶性タンパク質濃度及びRuBPカルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(Rubisco)濃度の低下時期と葉の黄化や落葉の開始時期が早く、葉の老化時期が早かった。非衰退地に比べて衰退地のダケカンバの当年シュート(枝・葉・芽)の生長量やその数は少なく、両調査地での生長量の差には、葉の光合成能力よりも、シュートあたりの葉面積の違いが寄与したと考えられた。また、当年シュートの窒素吸収量が少なかったことが関与している可能性が考えられた。葉中のKCaMg等の栄養塩類濃度やMn濃度などの比較から、これらがダケカンバの衰退に関与しているとは思われなかった。両調査地で計測された環境要因との比較から、水分環境やオゾン濃度がダケカンバの当年枝の生長や老化の促進に影響した可能性が考えられた。
  また、白根山周辺におけるシラビソの非衰退木と衰退木の比較から、シラビソ衰退木では葉のクロロフィル濃度が低く、針葉の光合成における光利用効率の低下が示唆された。非衰退木と比べシラビソ衰退木の針葉における
Rubisco濃度等に有意差は認められなかったが、K濃度は有意に低く、低pHの酸性霧による植物体内からのカチオンなどの溶脱の可能性が示唆された。
  ダケカンバ、シラビソ、オオシラビソに及ぼすオゾンと水ストレスの影響を、環境制御室を用いて実験的に検討した結果、ダケカンバやシラビソでは、オゾンや水ストレスの有意な個体乾重への影響が認められたが、オオシラビソでは有意差が認められなかった。オゾンはダケカンバの光合成速度や蒸散速度を抑制し、純同化率
(NAR)の低下を引き起こしており、これが生長抑
制につながったと推察された。水ストレスもダケカンバの光合成速度や蒸散速度を抑制したが、
NARだけでなく葉面積比も低下させていた。これらの植物の乾重生長へのオゾンと水ストレスの複合影響は認められなかったが、ダケカンバの蒸散速度に対しては、オゾンと水ストレスとの間で相殺的な複合影響が認められた。以上より、ダケカンバやシラビソの衰退には、オゾンや水ストレスが影響している可能性が実験的に示された。
  今後、詳細な長期暴露実験や現地での長期的な環境計測や植生調査によって、奥日光な
どで観察されるこれらの植物の衰退原因が解明されることが期待される。

(4) 酸性降下物の陸水環境に及ぼす影響の定量的評価
  外山沢の渓流水と地下水では冬期間(12月‐2月)にNa+/span>Ca2+のイオン濃度に変化が見られた。Na+/span>Ca2+は冬期間にイオン濃度が上昇し融雪後に減少して元の濃度に達した。冬期間、流域全体が積雪に覆われ水の地下への浸透が停止し、中間流出が減少し、他方で、土壌や岩石由来のNa+/span>Ca2+が十分に溶解した基底流の流出割合が増加したため、それらの成分の濃度が上昇した。
  融雪初期のアシッドショックの観測は出来なかったが、その後の一時的流出に伴う地中由来のイオン濃度の減少が確認された。融雪期のイオン濃度の減少は五色沢でも確認された。外山沢・五色沢において、冬期間を除くと流量とイオン濃度に明確な関係性が見られなかった。
  20019月の台風15号による集中的降雨(891mm)の影響により、外山沢・五色沢の地中由来のイオン濃度の減少が多くの地点で見られた。
  渓流水・地下水のCl-はほぼ大気由来であると考え、SO42-/Cl-NO3-/Cl-比(当量比)の降水との比較を行った。SO42-/Cl-比は外山沢では降水に近く、五色沢では降水より非常に高い値を示した。五色沢ではECが高いことも考慮してSO42-は火山の影響を受けていると考えられた。NO3-/Cl-比は五色沢で降水に近く、外山沢では、特に地下水で、降水よりも高かった。また、土壌の水抽出液においても降水に比べ高かった。NO3-は火山の影響は考え難いため、外山沢流域において降下物由来のNO3-の付加が考えられた。
 
(5)
キャッチメント・モデル解析手法の開発と総合評価
  奥日光の外山沢集水域(前白根と弓張峠)、茨城県つくば市観音台と八郷町、および北海道雨龍において物質循環調査を実施し、酸性雨による外部起源の酸性物質の負荷と、植物−土壌系における内部循環を評価した。また観音台、八郷、岐阜県の高山(乗鞍岳中腹西斜面)で、窒素の除去・負荷実験を行い、窒素負荷量の増減が土壌−植物系の物質循環に与える影響を検討した。
  前白根山南西斜面では、森林衰退地に残った樹木は成長を続けており、単位面積当たりの窒素の樹体への正味蓄積速度は弓張峠の7、8割に達していた。しかし塩基は不足しており、塩基吸収が供給量により制限されていると考えられた。弓張峠、観音台、八郷では植物−土壌系における内部循環量が大きく、これによるプロトンの収支は、外部起源の酸の負荷と比べて大きい。一方前白根と雨龍では内部循環量が小さいため外部起源の酸の寄与が相対的に大きく、酸性物質負荷の変化の影響が現れやすいと考えられた。樹木の成長期における養分吸収が塩基循環全体を強く支配しており、プロトン収支が季節により異なることが示された。
  観音台と八郷の各林地における1年間の窒素の除去、負荷処理は土壌溶液の濃度や
N2O発生量に有意な影響を与えなかった。温暖多湿な両調査地では、内部循環起源の窒素の供給量が大きく、外部から加えられた窒素も活性の高い植物や微生物により利用されていると考えられ、欧米の生態系に比べて窒素許容量が大きいと推察された。一方高山では、(1)年間20/40 kg N ha-1 yr-1の窒素負荷(国内平均降水負荷の2−4倍)により、負荷開始2年目から土壌水中の硝酸イオン濃度が上昇しはじめ、3年目には濃度上昇がさらに顕著になること,(2)広葉樹林よりも針葉樹林の方が、窒素流出を起こしやすいことが判明した。本実験結果は長期間の窒素負荷が森林からの窒素流出をもたらす可能性を示唆している。高山の当初の土壌水濃度は前白根と同程度に低く、内部循環が小さいことが窒素負荷に対する早い応答の一つの要因であると考えられた。
  キャッチメントモデルの現地適合性を外山沢集水域において検討したところ、前白根と弓張峠では沈着
NH4+の硝化、植物吸収、窒素の無機化と硝化が窒素と塩基の循環に大きく影響してお
り、これらの過程のモデルの改善が必要と考察された。

(6) 陸域生態系衰退に関する研究者ネットワークの構築による調査解析
  
東アジア地域における酸性・酸化性物質の生態系への影響を総合的に把握するために重要な、陸域生態系分野の研究者のネットワーク構築を推進した。
  中華人民共和国北京市で開催された陸域生態系分野
(特に土壌・植生分野)の専門家会合「東アジアでの酸性雨の生態系への影響モニタリングに関するワークショップ」に専門家を派遣した。本ワークショップでは、当該分野の技術的課題に加え、東アジアにおける研究者のネットワーク化についても議論され、その重要性が確認された。この結果はワークショップ・サマリーとしてまとめられ、今後ネットワーク構築に重要である各国の専門家をリストアップした。また、
酸性・酸化性物質の陸域生態系への影響を評価する上で重要となる森林への乾性沈着フラック
ス測定に関し、現地の研究者とのネットワークを構築するとともに、研究フィールドを特定し、今後の共同研究の基礎を築いた。
  東アジア諸国に陸域生態系に係わる日本人研究者を派遣し、各国の研究者との技術的・研究的討論を通して、研究者ネットワークの拡充を行い、またこのネットワークを活用して、東アジア4カ国
(ベトナム、フィリピン、マレーシア、タイ)における当該分野の調査・研究状況に関する情報を収集するとともに、本研究プロジェクトの紹介を行った。さらに、今後共同研究を進めていく上で、重要なコンタクトパーソン(研究者)を特定化した。なお、研究者ネットワークの活動を通じて、今後東アジアに展開すべき研究テーマの一つとして、酸性・酸化性物質に対する植物感受性に関する研究を特定化した。当面の課題として、モンゴルのような乾燥・半乾燥地域における植物感受性に関する研究の重要性を指摘した。

(7) ダケカンバの衰退とオゾン等環境要因との関係の解析
  奥日光の前白根山周辺ではダケカンバの衰退が観察されているが、その原因は解明されてい
ない。本研究では、前白根山の南東斜面のダケカンバ衰退地と北西斜面の非衰退地に調査区を設定し、ダケカンバの衰退度や生長に関する毎木調査、簡易オゾン測定計によるオゾン濃度の計測や、気象・土壌環境の計測を行い、以下のことが明らかとなった。
  南東斜面では完全な健全木のダケカンバが認められなかったが、北西斜面では健全木が優先し、ほぼ
70%を占めた。ダケカンバの樹高と胸高直径は、南東斜面では各々4.4m4.1cmで、相関関係は認められず、北西斜面では各々4.6m5.0cmで、正の相関関係が認められた。これらから計算した南東斜面のダケカンバの樹幹体積は北西斜面のそれのほぼ60%であった。立木密度は南東斜面で160/ha、北西斜面で1450/haであり、ダケカンバの生長状態は著しく異なっていた。
  両斜面における土壌溶液の平均
pHはどちらも5.7前後、EC4045mS/span>cm-1であり、顕著な差は認められなかった。また、両斜面における硝酸、塩酸、硫酸、アンモニウムの各イオン濃度の比較では定常的な差は認められなかった。両斜面の表層/下層土壌および植物葉におけるCaMgKNaなどの水溶性/交換性元素濃度の計測から、南東斜面における植物衰退にはこれら元素の欠乏が原因ではないことが示唆された。また、両斜面の表層/下層土壌におけるMnAlの水溶性/交換性元素濃度は検出限界以下であり、影響はないと考えられた。なお、北西斜面に比べ、南東斜面の土壌の方が無機化可能な有機態窒素量は少ないことが示唆された。
  北西斜面に比べ、南東斜面の日平均気温は高く、気温の日較差も大きく、また、日平均大気飽差も高かった。また、北西斜面より南東斜面の方が、土壌含水率は有意に低かった。これらから、南東斜面のダケカンバ衰退地では大気や土壌が乾燥していることが示唆された。
  オゾン濃度に関しては、春
6月には最大となり、次第に濃度が低下している傾向が認められ、両斜面でその季節変動パターンは一致した。しかし、北西斜面と比べると、南東斜面のオゾン濃度は若干ではあるが有意に高く、短期的には南東斜面のダケカンバは北西斜面のそれより、高濃度オゾンに暴露されている可能性が示唆された。
  本野外調査や暴露実験の結果から、前白根山南東斜面のダケカンバの衰退には、オゾンや水ストレス等が複合して影響している可能性が大きいと思われた。

(8) 富栄養酸性雨の水質・底質への影響とその計測手法に関する研究
  サケが回帰する新潟県三面川は、河口域に花崗岩が広く分布するため、陽イオン濃度が比較的に低く、特にCaMgの濃度は他の主要河川の半分以下であった。水質のサケに及ぼす影響を示す調査項目、NO3SO4、およびNH4の濃度は、それぞれ1.374.08、および0.01mg/lであった。下流域のほとんどの項目について、濃度は上流域よりも高かった。
 
4.考察
  奥日光の前白根山南東斜面などでは高濃度の光化学オゾンが観測され、アンモニアの乾性沈着も多く大気中
SO2も2倍近く高かった。オゾンは、大気汚染経由のみならず森林それ自体の働きで生成することも確認された。オゾンとともにこれと強い相関を持つ過酸化水素が山頂付近で観測された。室内実験ではオゾンの影響が各種プロセスに認められ森林衰退に影響を与えている可能性が示された。また、衰退木の針葉の光合成における光利用効率が低下している可能性も示された。

  奥日光の樹木衰退地には、土壌の塩基類が少ないところや、相対的に窒素がやや多く、マグ
ネシウム濃度が低い傾向のところ、養分バランスの崩れなども見られるが、本州中央部のいくつか
の地域と比較してみると亜高山帯としては通常の範囲と考えられ、土壌の化学的条件との関係は
今のところ明らかではない。ほぼ全ての調査木の根元にナラタケ属菌の存在が見られたが、これらの菌は病原性の強いものではなかった。樹皮下穿孔虫の中には、ダケカンバなどを枯死させる能力のある
Ceratocystis属菌やOphiostoma 属菌を伝搬しているものがいることが明らかになった。室内実験から、土壌の窒素過多条件がさび病の発生程度に影響を与える可能性が示された。
  窒素散布実験からは、国内平均降水負荷の2〜4倍量の窒素の負荷でも長期間にわたれば森林からの窒素流出をもたらす可能性が示唆された。更に大量な窒素散布の5年目の結果では、土壌中の交換性カルシウムの減少も確認され、硝酸散布区では脱窒菌が、硝安散布区ではアンモニア酸化菌が増加した。
  奥日光の森林衰退地域等における樹木衰退度調査や大気・気象・土壌環境計測の結果や、環境制御室を用いた実験結果から、前白根山南東斜面のダケカンバの衰退には、オゾンや水ストレス等が複合して影響している可能性が大きいと思われた。今後、詳細な長期暴露実験や現地での長期的な環境計測や植生調査によって、奥日光などで観察される陸域生態系の衰退原因が解明されることが期待される。
  外山沢下部の渓流水と地下水では冬期間に
Na+/span>Ca2+のイオン濃度の増加が確認され、降下物由来のNO3-の付加がうかがわれた。五色沢でSO42-の濃度が高かったのは、ECが高いことも考慮して火山の影響と考えられた。
  キャッチメント解析では、元素の循環調査から、前白根南西斜面は、土壌塩基が不足しており塩基吸収が供給量により制限されていること、内部循環量が小さく外部起源の酸の寄与が相対的に大きく、酸性物質負荷の変化の影響が現れやすいことが指摘された。北海道における調査では、樹木成長期における養分吸収が塩基循環全体を強く支配していること、集中的降雨による土壌からの溶脱が物質循環にインパクトを与える要因となっていることなどが明らかとなった。また、温暖多湿な関東平野部(茨城県内)では、内部循環起源の窒素の供給量が大きく、外部から加えられた窒素も活性の高い植物や微生物により利用されていると考えられ、欧米の生態系に比べて窒素許容量が大きいと推察された。物質循環モデルによる検討から、沈着NH4+の硝化、植物吸収、窒素の無機化と硝化が窒素と塩基の循環に大きく影響することが明瞭になり、これらの過程のモデルの改善が必要とされた。
  EANET参加国などの東アジア諸国の研究者とのネットワークが整備され、東アジアにおける当該分野の調査・研究状況の情報収集や本研究結果の普及を行うとともに、重要なコンタクトパーソン(研究者)、研究フィールド、研究テーマの特定化などを行ったが、今後東アジアで展開すべき共同研究課題の実施に向けた体制作りについてはさらに推進する必要がある。
  以上、奥日光の酸性・酸化性物質の沈着から生態系影響までの調査研究から、沈着の観点からは影響の可能性が、また、生態系の観点からは生態系の許容量・懐の深さが明らかになり、あわせてモデルの積極的活用など、今後の研究方向が示された。

 

5.研究者略歴

 

課題代表者(平成13年度):斎藤元也

 1946年生まれ、山形大学大学院農業研究科終了、農学博士、現在農業環境技術研究所地球環境部生態システム研究グループ グループ長

 主要論文:

 1.斎藤元也:日本リモートセンシング学会誌,vol.21, 78-81(2001)

 「農業分野のリモートセンシング」

 2.T. Murakami, S. Ogawa, N Ishitsuka, K. Kumagai and G. Saito: Int. J. Remote Sensing,vol.22,1335-1348(2001)

 "Crop discrimination with multitemporal SPOT/HRV data in the Saga Plains, Japan,"

 3.村上拓彦・斎藤元也・小川 進・石塚直樹:日本リモートセンシング学会誌,vol.21,330-341(2001)

 「VSW指数を応用した水稲作付面積推定」

 

課題代表者(平成1112年度):袴田共之

 1943年生れ、北海道大学農学部卒業、農学博士、現在農業工学研究所農村環境部長

 主要論文:

 1. 袴田共之:農業土木学会誌,vol.69,1249-1252(2001)

 「循環型社会における農業」

 2. 袴田共之・波多野隆介・木村眞人・高橋正通・坂本一憲:日本土壌肥料学雑誌,

 vol.72,263-274(2000)

 n球温暖化ガスの土壌生態系との関わり.1.二酸化炭素と陸域生態系」

 3. T. Hakamata, N. Matsumoto, H. Ikeda and N. Nakane: Nutrient Cycling in Agroecosystems, 49,

 287-293(1997)

 "Do plant and soil systems contribute to global carbon cycling as a sink of CO2? Experiences

 from research projects in Japan."

 

 

サブテーマ代表者

(1) 福山 力

 1942年生まれ、東京大学理学部卒業、理学博士、現在、国立環境研究所 PM2.5DEPプロジェクトエアロゾル測定研究チーム総合研究官

 主要論文:

 1. K. Sakamoto, M. Takeno, K. Sekiguchi, O. Ishitani, T. Fukuyama, M. Utiyama: Atmos.Environ. 36 441-448 (2002) 

 "Development of an Automated Continous Analyzer for Water-solubule Gases in Air by

 Combining an Artificial Lung with an Ion Chromatograph"

 2. M. Utiyama, T. Fukuyama, K. Izumi, K. Sakamoto, K. Sekiguchi, W. Kim, A. Koyama,M. Aoki, H. Hara:Water, Air, and Soil Pollution 130 547-552 (2001)

 "Fine Particle Dry Deposition onto a Cropland A Trial to Estimate Deposition Velocity"

 3 H. Suzuki, H. Hara, M. Aoki, K. Takano, K. Izumi, T. Fukuyama, M. Utiyama: Water,Air, and Soil Pollution 130 595-600 (2001)

 "Sulfate Aerosol Concentration in and above a Pine Canopy"

 

(1)◆畠山史郎

 1951年生まれ、東京大学理学部卒業、理学博士、現在国立環境研究所 大気圏環境研究領域大気反応研究室長

 主要論文:

 1. Hatakeyama, S., I. Uno, K. Murano, H. Mukai, and H. Bandow : J. Aerosol Res. Jpn.,17, 39-42 (2002)

 "Analysis of the Plume from Mt. Sakurajima and Kagoshima City by Aerial

 Observations of Atmospheric Pollutants and Model Studies -- The IGAC/APARE/PEACAMPOT Campaign over the East China Sea --"

 2. Hatakeyama, S. S. Sivanesan, and T. Urabe: Chem. Lett., 2001, 1248-1249.

 "Formation Mechanisms of Peroxides in the Reactions of Ozone with Cyclic Olefins in Air"

 3. Hatakeyama, S., K. Murano, F. Sakamaki, H. Mukai, H. Bandow, and Y. Komazaki:Water, Air, and Soil Pollution, 130, 373-378 (2001).

 "Transport of Atmospheric Pollutants from East Asia"

 

(2):赤間亮夫

 1954年生まれ、東京大学農学部卒業、現在 森林総合研究所 立地環境研究領域チーム長

 主要論文:

 1. 赤間亮夫・西本哲昭・溝口岳男:森林立地、38123-132

 「土壌化学的要因による栄養ストレスとスギの生育」

 2. Akama,A.Journal of Forest Rsearch,1:23-25(1996)

 "The Nutrient Translocation of Seedlings with Chemical Analyses of the Xylem Saps of Cryptomeria japonica D.Don and Pinus densiflora Sieb.et Zucc"

 3. Akama,A.:日林誌7541-45(1993)

 "Nitrogen utilization by Pinus densiflora Sieb.et Zucc. Seedlings under two soil moisture conditions"

 

(3):清水英幸

 1954年生まれ、東京大学理学部卒業、農学博士、国立環境研究所生物圏環境部環境植物研究室主任研究員、同地球環境研究センター研究管理官を経て、現在、国立環境研究所国際室国際共同研究官

 主要論文:

 1. H. Shimizu, K. Kai and K. Omasa: J. Agr. Met., 52(5), 801-805. (1997)

 "Effects of elevated concentrations of CO2 and O3 singly or in mixture on the growth of several herbaceous wild plant species."

 2. L.D. Emberson, M.R. Ashmore, F. Murray, J.C.I. Kuylenstierna, K.E. Percy, T. Izuta, Y. Zheng, H.Shimizu, B.H. Sheu, C.P. Lui, M. Agrawal, A. Wahid, N.M. Abdel-Latif, M. van Tienhoven, L.I. de Bauel, M. Domingos : Water, Air, Soil Pollut., 130, 107-118 (2001) “Impacts of air pollutants on vegetation in developing countries”

 3. Y. Zheng, H. Shimizu, J.D. Barnes : New Phytologist, 155, 67-78 (2002) Limitations to CO2 assimilation in ozone-exposed leaves of Plantago major

 

(4):斎藤元也 課題代表者に同じ

 

(5):新藤純子

 1951年生まれ、東京教育大学大学院理学研究科修士課程修了、工学博士 現在、

 農業環境技術研究所 主任研究官

 主要論文:

 1. J. Shindo, T. Fumoto, N. Oura, T. Nakano and T. TakamatsuWater Air and Soil Pollution 130, 259-1264(2001)

 "Estimation of mineral weathering rates under field conditions based on base cation budget and strontium isotope ratios

 2.新藤純子・麓多門・高松武二郎:土壌肥料学雑誌、72, 394-4022001

 「酸性沈着による土壌化学性変化のダイナミックモデルによる予測−野外調査結果への適用による酸緩衝機構に関する検討−」

 3.J. Shindo, T. Fumoto,N. Oura, H. Toda and H. Kawashima: The Scientific World (S1),472-479 (2001)

 "Input-output budget of nitrogen and effect of experimentally changed deposition on it in the forest ecosystems in the central Japan

 

(6):清水英幸(3)に同じ

 

(7):馮 延文

 1972年生まれ、北京林業大学学部卒業、東京農工大学修士、博士課程終了、農学博士、国立環境研究所地球環境研究センター 環境省EFF FELLOWを経て、現在、農業工学研究所 文部科技省 特別研究員

 主要論文:

 1.馮延文・小倉紀雄・馮宗偉:陸水学雑誌,60(2),185-201.(1999).

 「北京郊外および東京郊外の小流域における降水の化学組成及び物質収支に関する研究」

 2.馮延文・小倉紀雄・王益宗・馮宗偉:中国環境進展科学雑誌,4, 31-38. (1999).

 「北京郊外の森林集水域における降水の化学成分の変化」

 3.Zongwei Feng, Yanwen Feng, Yizong Huang, Norio Ogura and Fuzhu Zhang: Water, Air, and Soil Pollution, 125, 345-356, 2001

 “Chemical composition of precipitation in Beijing area, northern China

 

(8):Hyung Jae Yang

 1954年生まれ、Hangyang大学卒業、工学博士、韓国国立環境研究院、主任研究員

 主要論文

 1. Hyung Jae Yang: Korean Society on Water Quality, Vol.16(4):533-539 (2000).

 “Biological Phosphourus Removal using the Sequencing Batch Reactors Process

 2. Hyung Jae Yang:Journal of Environmental Science & Health, Vol.A34(5):1105-1116 (1999).

 “Simltaneous biological removal of nitrogen and phosphorus using the SBR process for a

 bench-scale test

 3. Hyung Jae Yang:The Korean Journal of Sanitation, Vol.12(1):59-68(1997).

 “Proces variations in SBR and BS-SBR treatment”