2002年の持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)で定められた「2020年までに化学物質の製造と使用による人の健康と環境への著しい悪影響の最小化を目指す」との目標を達成するため、我が国では、2006年2月に採択された国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM(サイカム)に基づき、「SAICM(サイカム)国内実施計画」を策定し、包括的な化学物質管理を推進してきました。
その後、2023年9月に、2020年以降の新たな国際的な化学物質管理の枠組みとして「化学物質に関するグローバル枠組み(GFC)—化学物質や廃棄物の有害な影響から解放された世界へ」が採択されました。これを受け、GFCの国内実施を推進するため、政府内にGFC関係省庁連絡会議を設置して、GFC国内実施計画の策定を進めました(GFC国内実施計画は2025年4月に策定・公表)。なお、我が国はGFCのアジア太平洋地域のフォーカルポイントに選出されています。
PCB、DDTなど残留性有機汚染物質(POPs)の製造・使用の禁止・制限、排出の削減、廃棄物の適正処理等を規定しているPOPs条約及び有害な化学物質の貿易に際して人の健康及び環境を保護するための当事国間の共同の責任と協同の努力を促進する「国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約(PIC条約)」の締約国会合が2025年5月にスイス・ジュネーブで「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」及び「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」の締約国会合と合同開催されました。POPs条約の締約国会合では、POPs条約の対象物質として新たに、クロルピリホス、中鎖塩素化パラフィン、長鎖ペルフルオロカルボン酸(LC-PFCA)とその塩及びLC-PFCA関連物質を廃絶の対象として追加することなどが決議されました。なお、POPs条約においては、補助機関である残留性有機汚染物質検討委員会(POPRC)の2024年から2028年までの委員が我が国から選出されています。POPRC第21回会合は2025年9月にイタリア・ローマで開催され、POPs条約の対象物質として、ポリ臭素化ジベンゾ-p-ジオキシン及びジベンゾフラン、ポリ塩素化臭素化ジベンゾ-p-ジオキシン及びジベンゾフランのリスクプロファイル案を検討し、残留性、濃縮性、長距離移動性及び毒性等について更なる情報収集を行うこととなりました。また、東アジアPOPsモニタリングプロジェクトを通じて、東アジア地域の国々と連携して環境モニタリングを実施するとともに、2025年11月に日本・竹芝で第16回東アジアPOPsモニタリングワークショップを開催し、同地域におけるモニタリング能力の強化に向けた取組を進めています。
化学物質の分類と表示の国際的調和を図ることを目的とした「化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)」については、関係省庁が作業を分担しながら、化学物質の有害性に関する分類事業を行うとともに、ウェブサイトを通じて分類結果の情報発信を進めました。
また、2022年2~3月に開催された第5回国連環境総会再開セッションにおける決議を踏まえ、2025年6月に「化学物質・廃棄物の適正管理と汚染防止に関する科学・政策パネル」の設置に向けた政府間会合において我が国は共同議長を務め、設置決議案の最終化に貢献しました。
水銀による地球規模での環境汚染から人の健康と環境を保護するため、2013年10月に我が国で開催された外交会議において、水銀に関する水俣条約(以下「水俣条約」という。)が採択されました。水俣条約は2017年8月に発効し、同日、水銀による環境の汚染の防止に関する法律(平成27年法律第42号)が施行されました。水俣条約第4回及び第5回締約国会議(COP4及びCOP5)にて決定した水銀使用製品(一般照明用の蛍光ランプ等)の製造規制を実施するため、2024年12月には、水銀による環境の汚染の防止に関する法律施行令(平成27年政令第378号)を改正しました。
また、水俣条約の有効性評価への貢献のため、沖縄県辺戸(へど)岬及び秋田県男鹿(おが)半島において継続的に調査してきた水銀の大気中濃度等のモニタリングデータを水俣条約事務局に提出しました。さらに、有効性評価のための作業グループにおいては我が国がメンバーとして選出され、議論に貢献しています。
我が国は過去の経験と教訓を活かし、途上国による水俣条約の適切な履行を支援する国際協力と水俣発の情報発信・交流の二つの柱からなる「MOYAI(モヤイ)イニシアティブ」を推進しています。途上国への水銀対策支援については、水銀のマテリアルフローの分析・作成を支援するための研修等、水俣条約未批准国に対して批准促進のため、また、既批准国に対しては条約の適正実施のための技術支援を実施したほか、アジア太平洋水銀モニタリングネットワーク(APMMN)や南アフリカ水銀ネットワーク(SAMNet)と連携して、アジア太平洋地域及び南アフリカ地域の技術者向けのモニタリング能力向上支援研修をそれぞれ行いました。さらに、我が国の優れた水銀対策技術の国際展開を推進すべく、ベトナムやインドネシア等の東南アジア地域で調査及び検討を実施しました。水俣発の情報発信・交流については、水俣市と連携した熊本県立水俣高校と連携して、2025年11月に開催された第6回水俣条約締約国会議(COP6)に同校生徒2名を派遣し、サイドイベント「水銀に関する国際ユースダイアログ」や発表セッション「ナレッジ・ラボ」に登壇いただき、同校の水銀学習の取組や水銀に関する認知度調査の結果等を発表・意見交換し、世界に向けて取組を発信しました。
我が国は、OECDの化学品・バイオ技術委員会において、環境保健安全プログラムを通じて、化学物質の安全性試験の技術的基準であるテストガイドラインの作成及び改廃など、化学物質の適正な管理に関する種々の活動に貢献しています。これに関する作業として、新規化学物質の試験データの信頼性確保及び各国間のデータ相互受入れのため、優良試験所基準(GLP)に関する国内体制の維持・更新、生態影響評価試験法等に関する我が国の状況を踏まえた評価・検証、化学物質の安全性を総合的に評価するための手法等の検討・開発、国内外の化学物質の安全性に係る情報の収集、分析等を行っています。また、環境省と国立環境研究所で開発している定量的構造活性相関(QSAR)プログラムである生態毒性予測システム(KATE)の、OECD QSAR Toolboxへの接続を維持するなど連携を深めています。内分泌かく乱作用については、生態影響評価のための試験法の開発に主導的に参加するなど、OECDの取組に貢献しています。また、PRTRの各国データの比較可能性向上に関するプロジェクトを主導するほか、2025年12月にはカンボジア等の東南アジア諸国に対するPRTR制度の本格導入を支援する会合に積極的に参加するなど、その取組に積極的に貢献しました。
欧州連合(EU)では、化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則(REACH)や化学品の分類、表示及び包装に関する規則(CLP規則)等の化学物質管理制度に基づく化学物質管理が実施されており、我が国との関係が特に深いアジア地域においても、関係法令の施行による化学物質対策の強化が進められています。このため、我が国でも化学物質を製造・輸出又は利用する様々な事業者の対応が求められています。こうした我が国の経済活動にも影響を及ぼす海外の化学物質対策の動きへの対応を強化するため、化学産業や化学物質のユーザー企業、関係省庁等で構成する「化学物質国際対応ネットワーク」を通じて、ウェブサイト等による情報発信やセミナーの開催による海外の化学物質対策に関する情報の収集・共有を行いました。
日中韓三か国による化学物質管理に関する情報交換及び連携・協力を進めるため、2025年7月に「第19回日中韓化学物質管理政策対話」が日本・山形で開催されました。日中韓の政府関係者による政府事務レベル会合では、各国の化学物質管理政策の最新動向、重点課題や重点項目、国際的な枠組みへの対応等について情報・意見交換を行うとともに、次期5か年行動計画について我が国が主導して議論を行い、基本合意がなされました。また、日中韓の化学物質管理政策に関する公開セミナーを開催し、日中韓それぞれの化学物質管理政策の説明が行われました。[1]日本からは、ISP-CWPやGFCに係る取組、化学物質審査規制法における審査及びリスク評価の状況や課題、PFASへの対応等について、[2]中国からは、新化学物質環境管理登記弁法(中国REACH)の概要や最新動向等について、[3]韓国からは、化学物質管理法(CCA)や化学物質の登録及び評価等に関する法律(K-REACH)等の概要や最新状況、改正等について、説明が行われました。それぞれの発表について参加者からの質疑を受け、活発な情報交換がなされました。また、「生物多様性国家戦略2023-2030」で掲げる化学物質や農薬等による汚染の削減に貢献するため、国内の化学物質管理及び生物多様性に関する有識者等で構成する検討会を組織し、現状分析と課題の体系的整理を行い、「ネイチャーポジティブ推進のための化学物質管理アクションプラン Ver.1.0」(環境省)を2026年3月に策定しました。