環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和7年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第2節 生物多様性の主流化に向けた取組の強化

第2節 生物多様性の主流化に向けた取組の強化

1 多様な主体の参画

(1)マルチステークホルダーによる生物多様性主流化のための連携・行動変容への取組

「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の達成や生物多様性国家戦略2023-2030の推進を目指し、産官学民の連携・協力による生物多様性の保全と持続可能な利用に関する取組を推進するため設立された、「2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF)」では、企業や自治体等の行動変容を促す取組を行いました。具体的には、2023年にとりまとめた「J-GBFネイチャーポジティブ行動計画」に基づき、J-GBFの構成団体が取り組んだ内容を共有するとともに、企業、自治体、団体等に向けて、ネイチャーポジティブの実現に向けた行動の第一歩として「ネイチャーポジティブ宣言」の発出の呼び掛けを進めました。2025年4月末時点で920の企業・団体が宣言を発出又は賛同しており、これらの宣言は、ネイチャーポジティブ宣言のポータルサイトで公表しています。また、ビジネスフォーラムや地域連携フォーラム、行動変容ワーキンググループ等の会議開催を通じて、生物多様性における知見の共有や、企業や国民の具体的な行動変容を促す取組について議論を深めました。

(2)地域主体の取組の支援

生物多様性基本法(平成20年法律第58号)において、都道府県及び市町村は生物多様性地域戦略の策定に努めることとされており、2025年3月末時点で47都道府県、179市区町村で生物多様性地域戦略が策定されています。

生物多様性の保全や回復、持続可能な利用を進めるには、地域に根付いた現場での活動を自ら実施し、また住民や関係団体の活動を支援する地方公共団体の役割は極めて重要なため、「生物多様性自治体ネットワーク」が設立されており、2024年11月時点で199自治体が参画しています。

地域の多様な主体による生物多様性の保全・再生活動を支援するため、「生物多様性保全推進支援事業」において、全国で51の取組を支援しました。

地域における多様な主体の連携による生物の多様性の保全のための活動の促進等に関する法律(生物多様性地域連携促進法)(平成22年法律第72号)は、市町村やNPO、地域住民、企業など地域の多様な主体が連携して行う生物多様性保全活動を促進することで、地域の生物多様性を保全することを目的とした法律です。同法に基づく地域連携保全活動計画の作成や地域連携保全活動支援センターの設置運営等の支援を行い、これまでに18地域が地域連携保全活動計画を作成し、25地域が同センターを設置しました。(図2-2-1、表2-2-1

図2-2-1 地域連携保全活動支援センターの役割
表2-2-1 地域連携保全活動支援センター設置状況

ナショナル・トラスト活動については、税制支援措置等を継続するとともに、非課税措置に係る申請時の留意事項等を追記した改訂版のナショナル・トラストの手引きの配布等を行いました。

また、利用者からの入域料の徴収、寄付金による土地の取得等、民間資金を活用した地域における自然環境の保全と持続可能な利用を推進することを目的とした地域自然資産区域における自然環境の保全及び持続可能な利用の推進に関する法律(平成26年法律第85号。以下「地域自然資産法」という。)の運用を進めました。2025年3月時点で、地域自然資産法に基づく地域計画が沖縄県竹富町と新潟県妙高市で作成されており、両地域において同計画に基づく入域料の収受等の取組が進められています。

(3)生物多様性に関する広報・行動変容等の推進

毎年5月22日は国連が定めた「国際生物多様性の日」であり、2024年のテーマは「Be part of the Plan」でした。国内では、J-GBF関係団体等が国際生物多様性の日を中心に生物多様性を感じ、学び行動するイベントを全国各地で開催しました。また、前項で紹介したJ-GBFの各種取組のほか、「こども霞が関見学デー」、「GTFグリーンチャレンジデー」など、様々な活動とのタイアップによる広報活動等生物多様性に配慮した事業活動や消費活動の促進に向けた活動を進めています。

2 ネイチャーポジティブ経済の実現

(1)ネイチャーポジティブ経済への移行に向けた企業への支援

ネイチャーポジティブの実現に資する経済社会構造への転換を促すため、関係省庁とともに2024年3月に策定した「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」を踏まえ、同戦略の具現化に向けた各施策を実施しました。具体的には、企業等が持つネイチャーポジティブに資する技術の活用推進のためのマッチング機能を含む、ネイチャーポジティブ経営推進プラットフォームの立ち上げ等を行いました。

経済界を中心に自発的な組織として設立された「経団連自然保護協議会」との連携・協力を継続しており、経団連自然保護協議会と協力してネイチャーポジティブに関するビジネス機会の創出を目指し、2024年12月にはビジネスマッチングイベントを開催しました。

2023年4月のG7環境・気候変動・エネルギー関係大臣会合において設立したG7ネイチャーポジティブ経済アライアンス(G7ANPE)では、CBD-COP16のサイドイベントとして、日本企業のネイチャーポジティブに資する具体的な活動や提供しているソリューション等に関する発信を経団連自然保護協議会とともに行いました。

(2)自然関連情報開示とESG投融資等

民間レベルでの国際的な動きとしては、生物多様性・自然資本に関する情報開示の枠組を2023年に公表した自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)のほか定量的なインパクト評価や目標設定の手法を定めるScience Based Targets for Nature(SBTs for Nature)、生物多様性に関する国際規格を検討するISO TC331等において、生物多様性を企業経営に組み込んでいく仕組みづくりが加速しています。こうした国際的イニシアティブによる開示や目標設定等の促進、ESG投融資の促進等の動きを踏まえ、環境省ではネイチャーポジティブ経済研究会を継続して開催し、専門家・関係機関とともに課題の分析、必要な施策の検討を行いました。TNFDについては、アダプター企業数は我が国が154社(2025年4月時点)と世界最多であり、2024年度からは、TNFDへ2年間で約50万ドル相当の拠出(直接・間接支援の合算)を行い、TNFDデータファシリティの立ち上げに向けた共同研究等に着手しました。さらに、事業者向けにTNFDやネイチャーポジティブ経営等に係るワークショップ開催や、自然関連財務情報開示支援モデル事業のほか、TNFDに関する資料の翻訳等を通じ、企業の情報開示の実施・高度化を支援・促進しました。

(3)生物多様性に配慮した消費行動への転換

事業者による取組を促進するためには、消費者の行動を生物多様性に配慮したものに転換していくことも重要です。そのための仕組みの一例として、生物多様性の保全にも配慮した持続可能な生物資源の管理と、それに基づく商品等の流通を促進するための民間主導の認証制度があります。こうした社会経済的な取組を奨励し、多くの人々が生物多様性の保全と持続可能な利用に関わることのできる仕組みを拡大していくことが重要です。

環境に配慮した商品やサービスに付与される環境認証制度のほか、生物多様性に配慮した持続可能な調達基準を策定する事業者の情報等について環境省のウェブサイト等で情報提供しています。また、農林水産省では、農産物の生産段階における温室効果ガス削減や生物多様性保全に貢献する努力を星の数で分かりやすくラベル表示する「見える化」を推進しています。あわせて、努力の「見える化」を行った農産物等及び有機農業により生産された農産物等について、官公庁を始め国等の機関の食堂での使用に配慮するよう国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)(平成12年法律第100号)に基づく基本方針が見直されました。また、木材・木材製品については、グリーン購入法により、政府調達の対象とするものは合法性、持続可能性が証明されたものとされており、各事業者において自主的に証明し、説明責任を果たすために、証明に取り組むに当たって留意すべき事項や証明方法等については、国が定める「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」に準拠することとしています。加えて、合法伐採木材等の利用を促進することを目的として、木材等を取り扱う事業者に合法性の確認を求める合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(クリーンウッド法)(平成28年法律第48号)が2017年5月に施行されました。政府は、この法律の施行状況について検討を進め、2023年4月に成立した「クリーンウッド法の一部を改正する法律」(令和5年法律第22号)では、国内市場で最初に木材等の譲受け等をする木材関連事業者による合法性確認等の義務付けや、合法性の確認等の情報が消費者まで伝わるよう小売事業者を木材関連事業者に追加することなどを措置しました。2025年4月の施行に向けて、説明会の開催や林野庁情報提供サイト「クリーンウッド・ナビ」を通じた情報発信等を行いました。

3 自然とのふれあいの推進

(1)国立公園満喫プロジェクト等の推進

2016年3月に政府が公表した「明日の日本を支える観光ビジョン」に掲げられた10の柱施策の一つとして、国立公園満喫プロジェクトがスタートしました。本プロジェクトでは、美しい日本の国立公園の自然を守りつつ、そのブランド力を高め、国内外の誘客を促進することにより、国立公園の所在する地域の活性化を図り、自然環境の「保護と利用の好循環」を実現するため、阿寒摩周、十和田八幡平、日光、伊勢志摩、大山隠岐、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、慶良間諸島の8つの国立公園を中心に、先行的、集中的な取組を進めてきました。2021年以降は、先行公園の取組成果を踏まえ、全35国立公園への取組の展開を進めており、現在、13公園において、実行計画となる「ステップアッププログラム2025」が策定されているほか、全ての国立公園において、利用推進の取組が進められています。

また、インバウンド需要が急速に回復する中、国立公園の美しい自然の中での感動体験を柱とした滞在型・高付加価値観光を推進することとし、2023年6月に「宿舎事業を中心とした国立公園利用拠点の面的魅力向上に向けた取組方針」を策定しました。これに基づき、2023年8月に国立公園における滞在体験の魅力向上のための「先端モデル事業」を開始し、対象とする十和田八幡平(十和田湖地域)、中部山岳(南部地域)、大山隠岐(大山蒜山地域)、やんばるの4つの国立公園において、地域の関係者と連携し、民間提案を取り入れつつ、国立公園の利用の高付加価値化に向けた基本構想の策定や、特に集中的に取り組む利用拠点の選定等を進めました。このほか、同取組方針に基づき、2024年5月からは、国立公園ならではの感動体験の拠点となる宿泊施設についての検討を開始し、2024年10月に「国立公園ならではの宿泊施設ガイドライン(1.0版)」を公表したところです。

加えて、2023年9月に北海道で開催されたアドベンチャートラベル(以下、「AT」という。)ワールドサミット2023を踏まえ、2024年度は国立公園の優れた自然を活用し、観光事業者等と連携し、ATの5つの要素(ローインパクト、ユニーク、挑戦、ウェルネス、自己変革)を備えた、自然体験アクティビティ・ツアーの企画・試行・自走化・受入れ体制整備を、釧路湿原、阿寒摩周、知床、磐梯朝日、日光、上信越高原、中部山岳、秩父多摩甲斐、妙高戸隠連山、伊勢志摩、瀬戸内海、阿蘇くじゅう国立公園で実施しました。

昨年度に引き続き、国立公園オフィシャルパートナーシップを9社と新規締結し、合計146社・団体となったほか、ビジターセンターや歩道等の整備、多言語解説やツアー・プログラムの数の充実と質の確保・向上に向けた検討、ガイド人材等の育成支援、利用者負担による公園管理の仕組みの調査検討、国内外へのプロモーション等を行いました。

(2)自然とのふれあい活動

みどりの月間(4月15日~5月14日)等を通じて、自然観察会など自然とふれあうための各種活動や、サンゴ礁や干潟の生き物観察など、こどもたちが国立公園等の優れた自然地域を知り、自然環境の大切さを学ぶ機会を提供しました。国立公園等の利用の適正化のため、自然公園指導員の委嘱やパークボランティアの連絡調整会議等を実施し、利用者指導の充実を図りました。

国立公園の周遊促進を目的とした、アプリを用いた「日本の国立公園めぐりスタンプラリー」の運営や、国立公園の風景を楽しむことができるカレンダーの作成を行いました。

国営公園においては、ボランティア等による自然ガイドツアー等の開催、プロジェクト・ワイルド等を活用した指導者の育成等、多様な環境教育プログラムを提供しました。

(3)自然とのふれあいの場の提供
ア 国立・国定公園等における取組

国立公園の安全で快適な利用を図るため、保護上及び利用上重要な地域の公園施設について、国の直轄事業により整備・改修を進めるとともに、公園施設を安全にかつ長期間使用できるようインフラの長寿命化、多様な利用者が国立公園の魅力にふれられるよう多言語化や施設のユニバーサルデザイン化の推進等に取り組みました。2024年度には、大山隠岐国立公園の下山キャンプ場や、富士箱根伊豆国立公園の田貫湖畔で富士山を望む田貫湖富岳テラス等を再整備しました。また、地方公共団体が実施する国立・国定公園及び長距離自然歩道等に対して、自然環境整備交付金等を交付し、47都道府県の事業を支援しました。現在、長距離自然歩道の計画総延長は約2万8,000kmに及んでいます。

旧皇室苑地として広く親しまれている国民公園(皇居外苑、京都御苑、新宿御苑)及び千鳥ケ淵戦没者墓苑では、施設の改修、芝生・樹木の手入れ等を行いました。また、施設の利便性を高めるため、新宿御苑においてコワーキングスペースの運営を開始するなど取組を進めました。

イ 森林における取組

保健保安林等を対象として防災機能、環境保全機能等の高度発揮を図るための整備を実施するとともに、国民が自然に親しめる森林環境の整備に対し助成しました。また、森林環境教育の場となる森林・施設の整備等への支援策を講じました。国有林野においては、森林教室等を通じて、森林・林業への理解を深めるための「森林ふれあい推進事業」等を実施するとともに、国民による自主的な森林づくりの活動の場である「ふれあいの森」等の設定・活用を図り、国民参加の森林(もり)づくりを推進しました。また、「レクリエーションの森」の中でも特に優れた景観を有するなど、地域の観光資源として潜在能力の高い箇所として選定をした「日本美(にっぽんうつく)しの森 お薦め国有林」において、重点的に観光資源の魅力の向上、外国人も含む旅行者に向けた情報発信等に取り組み、更なる活用を推進しました。

(4)温泉の保護及び安全・適正利用

温泉の保護、温泉の採取等に伴い発生する可燃性天然ガスによる災害の防止及び温泉の適正な利用を図ることを目的とした温泉法(昭和23年法律第125号)に基づき、温泉の掘削・採取、浴用又は飲用利用等を行う場合には、都道府県知事や保健所設置市長等の許可等を受ける必要があります。2023年度には、温泉掘削許可126件、増掘許可16件、動力装置許可111件、採取許可39件、濃度確認86件、浴用又は飲用許可1,817件が行われました。

環境大臣が、温泉の公共的利用増進のため、温泉法に基づき地域を指定する国民保養温泉地については2025年3月末時点で79か所を指定しています。

2018年5月から現代のライフスタイルに合った温泉地の楽しみ方として「新・湯治」を推進するためのネットワークである「チーム新・湯治」を立ち上げ、2024年度は3回のセミナーを実施しました。2025年3月末時点で458団体が参加しています。

また、温泉地全体での療養効果を科学的に把握し、その結果を全国的な視点に立って発信する「全国『新・湯治』効果測定調査プロジェクト」について、「新・湯治」の効果の検証・発信を各温泉地における自主的な取組として継続していくためのモデル事業を実施しました。

(5)都市と農山漁村の交流

農泊の推進による農山漁村の活性化と所得向上を実現するため、農泊をビジネスとして実施するための体制整備や、地域資源を魅力ある観光コンテンツとして磨き上げるための専門家活用等の取組、古民家等を活用した滞在施設等の整備の一体的な支援を行うとともに、農泊地域の情報発信など戦略的な国内外へのプロモーションを行いました。

また、農山漁村が有する教育的効果に着目し、農山漁村を教育の場として活用するため、関係府省が連携し、子供の農山漁村における体験等を推進するとともに、農山漁村を都市部の住民との交流の場等として活用する取組を支援しました。