環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和6年版 環境・循環型社会・生物多様性白書施策第4章>第5節 大気環境の保全

第5節 大気環境の保全

1 窒素酸化物・光化学オキシダント・PM2.5等に係る対策

大気汚染防止法等に基づく固定発生源対策及び移動発生源対策を適切に実施するとともに、光化学オキシダント及びPM2.5の生成の原因となり得る窒素酸化物(NOx)、揮発性有機化合物(VOC)に関する排出実態の把握に努め、科学的知見を集積し、排出抑制技術の開発・普及の状況等を踏まえて、経済的及び技術的考慮を払いつつ、対策を進めます。

特に光化学オキシダントについては、「光化学オキシダント対策ワーキングプラン」に基づき、人の健康への影響に係る環境基準の再評価、気候変動に着目した科学的検討、光化学オキシダント濃度低減に向けた新たな対策の検討等を行い、科学的知見を基にした各種施策を着実に推進し、光化学オキシダントに係る環境基準達成率向上を図ります。

なお、光化学オキシダントとPM2.5の削減対策は、人の健康の保護に加え、オゾンやブラックカーボン(BC)といった短寿命気候汚染物質(SLCPs)の削減による気候変動対策にも効果的な場合があることから、最適な対策の検討及び総合的な取組を進めます。

(1)ばい煙に係る固定発生源対策

大気汚染防止法に基づく排出規制の状況及び科学的知見や排出抑制技術の開発・普及の状況等を踏まえて、経済的及び技術的考慮を払いつつ、追加的な排出抑制策の可能性を検討します。

(2)移動発生源対策

電動車等のよりクリーンな自動車への代替を促進するほか、国内の自動車の走行実態や国際基準への調和等を考慮した自動車排出ガスの許容限度(自動車単体排出ガス規制)の見直しに向けた検討、中央環境審議会による「今後の自動車排出ガス総合対策の在り方について(答申)」(令和4年4月28日)を踏まえた検討を進めるなど、大気環境の更なる改善に向けた取組を継続していきます。

(3)VOC対策

VOCの排出実態の把握を進めることなどにより、実効性あるVOC排出抑制対策の検討を行うとともに、大気汚染防止法による規制と事業者による自主的取組のベストミックスによる排出抑制対策を引き続き進めます。

(4)監視・観測、調査研究

大気汚染の状況を全国的な視野で把握するとともに、大気保全施策の推進等に必要な基礎資料を得るため、大気汚染防止法に基づき、国及び都道府県等では常時監視を行っています。引き続き、リアルタイムに収集したデータ(速報値)を「大気汚染物質広域監視システム(そらまめくん)」により、国民に分かりやすく情報提供していきます。その他、酸性雨や黄砂、越境大気汚染の長期的な影響を把握することを目的としたモニタリングや、放射性物質モニタリングを引き続き実施します。

2 多様な有害物質による健康影響の防止

(1)石綿飛散防止対策

石綿含有建材が使用されている建築物等の解体等工事については、大気汚染防止法の適切な運用による飛散防止対策の徹底はもとより、解体等工事の発注者、受注者等の関係者に対し、それぞれの役割に応じた適切な取組に関する普及啓発を進めます。また、建築物等の解体等工事における事前調査を行う建築物石綿含有建材調査者等を十分に確保するとともにその育成を進めます。さらに、災害に備え地方公共団体による建築物等における石綿使用状況の把握、データベースとしての整理、関係部署との共有体制の構築といった取組が進められるよう、地方公共団体への技術的支援を行います。

石綿による大気汚染の状況を把握するため、大気中の石綿の濃度測定を実施するとともに、大気汚染防止法の施行状況を勘案しつつ必要な対策を検討します。

(2)水銀大気排出対策

水銀に関する水俣条約を踏まえて改正された大気汚染防止法に基づく水銀大気排出規制を着実に実施するとともに、いわゆる5年後見直しの議論を踏まえ、必要な規制の見直しを行います。また、自主的取組の実施が求められる要排出抑制施設のフォローアップを引き続き行います。

(3)有害大気汚染物質対策等

大気汚染防止法に基づく有害大気汚染物質対策を引き続き適切に実施し、排出削減を図るとともに、新たな情報の収集に努め、必要に応じて更なる対策について検討します。とりわけ、酸化エチレンについては地方公共団体等と連携して事業者による排出抑制対策を推進します。さらに、POPs等の化学物質も含め、有害大気汚染物質の健康影響、大気中濃度、抑制技術等に係る知見を引き続き収集し、環境目標値の設定・再評価や健康被害の未然防止に効果的な対策の在り方について検討します。

また、事業者における排出抑制に向けた自主的取組の推進や地方公共団体における効率的なモニタリングを実施します。

3 地域の生活環境保全に関する取組

(1)騒音・振動対策
ア 自動車、新幹線鉄道、航空機等の騒音・振動対策

自動車の電動化に伴うタイヤ騒音増加への影響等を含む国内の自動車の走行実態や国際基準への調和等を考慮した自動車単体騒音に係る許容限度(自動車単体騒音規制)の見直しについて検討を進めます。また、車両の低騒音化、道路構造対策、交通流対策等の対策や、住宅の防音工事等のばく露側対策に加え、状況把握や測定の精度向上、測定結果の情報提供等により、騒音・振動問題の未然防止を図ります。

イ 工場・事業場及び建設作業の騒音・振動対策

騒音・振動対策について、最新の知見の収集・分析等を行います。また、従来の規制的手法による対策に加え、最新の技術動向等を踏まえ、情報的手法及び自主的取組手法を活用した発生源側の取組を促進します。

ウ 低周波音その他の対策

従来の環境基準や規制を必ずしも適用できない新しい騒音問題について対策を検討するために必要な科学的知見を集積します。風力発電施設や省エネ型温水器等から発生する騒音・低周波音については、その発生・伝搬状況や周辺住民の健康影響との因果関係、わずらわしさを感じさせやすいと言われている純音性成分や風力発電施設が大型化した場合の影響や累積的な影響等、未解明な部分について引き続き調査を進めます。

(2)悪臭対策

悪臭対策について、知見の収集を行い、技術動向等を踏まえた測定方法の見直しを検討するとともに、地方公共団体等への技術的支援を進めます。

(3)光害(ひかりがい)対策等

屋外照明等の不適切かつ配慮に欠けた使用による悪影響(光害(ひかりがい))への対策について、光害(ひかりがい)対策ガイドライン等を活用し、良好な光環境の形成に向け、普及啓発を図ります。また、星空観察の推進を図り、より一層大気環境保全に関心を深められるよう取組を推進します。

4 アジアにおける大気汚染対策

アジア地域における大気汚染の改善に向け、様々な二国間・多国間協力を通じて大気汚染対策を推進します。

(1)二国間協力

大気汚染の改善と温室効果ガス排出削減のコベネフィット・アプローチにより、我が国の技術導入の提案、実施、評価及び普及拡大等と対象国の環境改善に寄与します。

(2)日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM)の下の協力

日中韓三カ国間の大気汚染に関する政策対話、モンゴルを含む「3+X」による黄砂に関する共同研究等を推進し、三カ国の政策や技術の向上を図ります。

(3)多国間協力

国連環境計画(UNEP)、クリーン・エア・アジア(CAA)、国際応用システム分析研究所(IIASA)等と連携した大気汚染対策と気候変動対策のコベネフィット・アプローチの推進や、大気汚染物質全般に対象を拡大した東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)、アジアEST地域フォーラム、JCM等の国際的な枠組み等を活用し、我が国の知見・経験の共有、技術移転、能力開発等の国際協力を推進します。