水質汚濁に係る環境基準については、新しい環境基準である底層溶存酸素量の活用を推進しつつ、将来及び各地域のニーズに応じた生活環境の保全に関する環境基準の在り方について検討を進めます。また、水系感染症を引き起こす原虫やウイルス等の病原体について知見の集積に努め、大腸菌数の衛生指標としての有効性や大腸菌数以外の指標についても検討を行います。薬剤耐性菌に関する水環境中などにおける存在状況及び健康影響等に関する基礎情報が不足していることから、これらの情報の収集を進めます。環境中の化学物質等に係る最新の知見や化学物質管理に係る検討を踏まえ、水生生物の保全に関わる環境基準や人の健康の保護に関する環境基準等の追加や見直しについても検討を行います。
水質汚濁防止法等に基づき、国及び都道府県等は、公共用水域及び地下水の水質について、放射性物質を含め、引き続き常時監視を行います。
水質環境基準等の達成、維持を図るため、工場・事業場排水、生活排水、市街地・農地等の非特定汚染源からの排水等の発生形態に応じ、水質汚濁防止法等に基づく排水規制、水質総量削減、農薬取締法(昭和23年法律第82号)に基づく農薬の使用規制、下水道、農業集落排水施設及び浄化槽等の生活排水処理施設の整備等の汚濁負荷対策を推進します。また、各業種の排水実態等を適切に把握しつつ、特に経過措置として一部の業種に対して期限付きで設定されている暫定排水基準については、随時必要な見直しを行います。また、必要に応じて適正な支援策を講じます。
水道水質基準に適合する安全な水道水を国民に供給するため、最新の科学的知見に基づき、水道水質基準等の設定・見直しを、引き続き着実に実施します。
また、水道水の水質及び衛生管理に当たっては、環境省がこれまで培ってきた一般環境中の水質の保全に関する科学的知見や専門的な能力を活かし、水道の水源から蛇口の水まで一体的なリスク管理を進めます。また、PFOS等については「PFASに関する今後の対応の方向性」(2023年7月、「PFASに対する総合戦略検討専門家会議」)を踏まえ、科学的知見の充実など、安全・安心のための取組を進めます。さらに、自然災害や事故に起因する水道水源等の汚染に係るリスク管理に当たっては、事例・科学的知見の収集を行い、水質事故等を想定した水道水質の安全対策の強化について検討します。
湖沼については、湖沼水質保全特別措置法(昭和59年法律第61号)に基づく湖沼水質保全計画が策定されている11の指定湖沼について、同計画に基づき、各種規制措置のほか、下水道及び浄化槽の整備、その他の事業を総合的・計画的に推進します。
琵琶湖については、琵琶湖の保全及び再生に関する法律(平成27年法律第75号)に基づく「琵琶湖の保全及び再生に関する基本方針」等を踏まえ、水質の保全及び改善や外来動植物対策等の各種施策を、関係機関と連携して推進します。
また、気候変動の影響や生態系の変化を踏まえ、従来の湖沼水質保全の考え方における流入負荷を減らして湖内の水質を改善するという考え方に加え、物質循環を円滑にすることで水産資源を保全し、水質の保全との両立を図るという考え方の下、底層溶存酸素量の低下、植物プランクトンの異常増殖、水草大量繁茂などの課題についての知見の充実や対策の検討を行い、地域における取組の支援を進めていきます。これらを着実に実施し、湖沼の健全性や物質循環について評価指標等の検討も進めていきます。
瀬戸内海においては、瀬戸内海環境保全特別措置法(昭和48年法律第110号)による取組を推進し、改正瀬戸内法施行(令和4年4月)後5年をめどに実施されるフォローアップに向け、生物多様性・生物生産性の確保に対する栄養塩類管理の効果等について情報収集・調査・研究を進め、より適切な改善対策へとつなげていきます。また、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海に適用されている水質総量削減制度については、よりきめ細かな海域の状況に応じた水環境管理の在り方について、制度の見直し等も含め検討を進めていきます。
さらに、浄化機能、生物多様性の確保及び炭素固定機能の観点から、自然海岸、ブルーインフラ(藻場・干潟等及び生物共生型港湾構造物)等の、適切な保全・再生・創出を促進するための事業や、それらを通じたブルーカーボンに係る取組等を推進します。また、港湾工事等で発生する浚渫(しゅんせつ)土砂等を有効活用した覆砂等による底質環境の改善、貧酸素水塊が発生する原因の一つである深掘跡について埋め戻し等の対策、失われた生態系の機能を補完する環境配慮型構造物等の導入など健全な生態系の保全・再生・創出に向けた取組を推進します。その際、里海づくりの考え方を取り入れつつ、流域全体を視野に入れて、官民で連携した総合的施策を推進します。
また、有明海及び八代海等については、有明海及び八代海等を再生するための特別措置に関する法律(平成14年法律第120号)に基づく再生に係る評価及び再生のための施策を推進します。
地下水の水質については、有機塩素化合物等の有害物質による汚染が引き続き確認されていることから、水質汚濁防止法に基づく有害物質の地下浸透規制や、有害物質を貯蔵する施設の構造等に関する基準の順守及び定期点検等により、地下水汚染の未然防止の取組を進めます。また、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素による地下水汚染対策について、地域における取組支援の事例等を地方公共団体に提供するなど、負荷低減対策の促進方策に関する検討を進めます。
また、地盤沈下等の地下水位の低下による障害を防ぐため、地下水採取の抑制のための施策を推進するとともに、地球温暖化対策として再生可能エネルギーである地中熱の利用を普及促進し、持続可能な地下水の保全と利用を推進するための方策に関する検討を進めます。
さらに、2021年6月の水循環基本法及び2022年6月の水循環基本計画の一部改正により、「地下水の適正な保全及び利用」等が追加された趣旨を踏まえ、流域全体を通じて、地下水・地盤環境の保全上健全な水循環の確保に向けた取組を推進します。
日本が段階的に水環境を改善してきた法制度や人材育成、技術等の知見を活かし、アジア地域13か国の水環境管理に携わる行政官のネットワークであるアジア水環境パートナーシップ(WEPA)により、アジア各国との連携強化・情報共有の促進、各国の要請に基づく水環境改善プログラム(アクションプログラム)支援等を実施し、水環境ガバナンスの強化を目指します。さらに、それらの情報を世界フォーラム等の場で発信し、世界の水環境改善に貢献すべく国際協力を進めていきます。
また、アジア水環境改善モデル事業による民間企業の海外展開の支援等により、アジアにおける途上国の水環境改善と日本の優れた技術の海外展開促進を図ります。