2002年の持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)で定められた「2020年までに化学物質の製造と使用による人の健康と環境への著しい悪影響の最小化を目指す」との目標を達成するため、2006年2月、第1回国際化学物質管理会議(ICCM1)において採択された国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM(サイカム))に基づき、「SAICM(サイカム)国内実施計画」を策定し、包括的な化学物質管理を推進してきました。2020年2月にはその進捗結果を取りまとめ、SAICM事務局に提出しています。2023年9月には、2020年以降の新たな国際的な化学物質管理の枠組み策定のため、第5回国際化学物質管理会議(ICCM5)が開催され、GFCが採択されました。なお、本会議において我が国は今後のGFCに関するアジア太平洋地域のフォーカルポイントに選出されています。また、この枠組みの中では、化学物質・廃棄物の適正管理におけるセクター間連携の強化が求められており、我が国とタイが共同議長を務める「環境と保健に関するアジア太平洋地域フォーラム」のテーマ別ワーキンググループにおいては、セクター間連携による取組を推進しています。
PCB、DDTなど残留性有機汚染物質(POPs)34物質(群)の製造・使用の禁止・制限、排出の削減、廃棄物の適正処理等を規定しているPOPs条約及び有害な化学物質の貿易に際して人の健康及び環境を保護するための当事国間の共同の責任と協同の努力を促進する「国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約(PIC条約)」の締約国会合が2023年5月にスイス・ジュネーブで合同開催されました。同会合では、POPs条約の対象物質として新たに、メトキシクロル、デクロランプラス、UV-328を廃絶の対象として追加することなどが決議され、2025年2月に発効予定となりました。なお、POPs条約においては、補助機関である残留性有機汚染物質検討委員会(POPRC)の2024年から2028年までの委員が我が国から選出されています。また、東アジアPOPsモニタリングプロジェクトを通じて、東アジア地域の国々と連携して環境モニタリングを実施するとともに、2023年11月にフィリピン・マニラで第15回東アジアPOPsモニタリングワークショップを開催し、同地域におけるモニタリング能力の強化に向けた取組を進めています。
化学物質の分類と表示の国際的調和を図ることを目的とした「化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS)」については、関係省庁が作業を分担しながら、化学物質の有害性に関する分類事業を行うとともに、ウェブサイトを通じて分類結果の情報発信を進めました。
また、2022年2~3月に開催された国連環境総会再開セッションにおける決議を踏まえ、「化学物質・廃棄物の適正管理及び汚染の防止に関する政府間科学・政策パネル」の設置に向け、2023年末までに2回の公開作業部会が開催され、本パネルの対象とする分野・範囲や組織構造等について議論されました。
水銀による地球規模での環境汚染から人の健康と環境を保護するため、2013年10月に我が国で開催された外交会議において、水銀に関する水俣条約(以下「水俣条約」という。)が採択されました。水俣条約は2017年8月に発効し、同日、水銀による環境の汚染の防止に関する法律(平成27年法律第42号)が施行されました。
同法の施行から5年が経過したことを踏まえ、2022年度から施行状況の点検に着手、2024年2月に「水銀による環境の汚染の防止に関する法律の施行状況及び今後の方向性について」が取りまとめられました。また、沖縄県辺戸(へど)岬及び秋田県男鹿(おが)半島において、水銀の大気中濃度等のモニタリング調査を実施しています。水俣条約締約国会合(COP)の議論にも積極的に貢献しており、2019年のCOP3から2023年のCOP5まで実施された実施遵守委員会の委員の一人を我が国が務めました(2021年からは副議長)。
我が国は過去の経験と教訓を活かし、途上国による水俣条約の適切な履行を支援する国際協力と水俣発の情報発信・交流の二つの柱からなる「MOYAI(モヤイ)イニシアティブ」を推進しています。途上国への水銀対策支援については、ネパールに対して条約の批准を支援するための研修を実施したほか、アジア太平洋水銀モニタリングネットワーク(APMMN)と協力して、途上国の技術者向けのモニタリング能力向上支援研修を行いました。さらに、我が国の優れた水銀対策技術の国際展開を推進すべく、インドネシア等で調査を実施しました。
我が国は、OECDの化学品・バイオ技術委員会において、環境保健安全プログラムを通じて、化学物質の安全性試験の技術的基準であるテストガイドラインの作成及び改廃など、化学物質の適正な管理に関する種々の活動に貢献しています。これに関する作業として、新規化学物質の試験データの信頼性確保及び各国間のデータ相互受入れのため、優良試験所基準(GLP)に関する国内体制の維持・更新、生態影響評価試験法等に関する我が国としての評価作業、化学物質の安全性を総合的に評価するための手法等の検討、内外の化学物質の安全性に係る情報の収集、分析等を行っています。また、環境省と国立環境研究所で開発している定量的構造活性相関(QSAR)プログラムである生態毒性予測システム(KATE)が、OECD QSAR Toolboxに接続されるなど連携を深めています。内分泌かく乱作用については、生態影響評価のための試験法の開発に主導的に参加するなど、OECDの取組に貢献しています。また、「PRTR作業部会」では、2023年末まで我が国が議長を務めるとともに、PRTRデータセンターの運営や各国データの比較可能性向上に関するプロジェクトを主導するなど、その取組に積極的に貢献しました。
欧州連合(EU)では、化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則(REACH)や化学品の分類、表示及び包装に関する規則(CLP規則)等の化学物質管理制度に基づく化学物質管理が実施されており、我が国との関係が特に深いアジア地域においても、関係法令の施行による化学物質対策の強化が進められています。このため、我が国でも化学物質を製造・輸出又は利用する様々な事業者の対応が求められています。こうした我が国の経済活動にも影響を及ぼす海外の化学物質対策の動きへの対応を強化するため、化学産業や化学物質のユーザー企業、関係省庁等で構成する「化学物質国際対応ネットワーク」を通じて、ウェブサイト等による情報発信やセミナーの開催による海外の化学物質対策に関する情報の収集・共有を行いました。
日中韓三か国による化学物質管理に関する情報交換及び連携・協力を進め、2023年11月に「第17回日中韓化学物質管理政策対話」が韓国の済州島で開催されました。日中韓の政府関係者による政府事務レベル会合では、化学物質管理政策の最新動向、化学物質管理に関する国際動向への対応、各国の最新の課題に関する対応の状況等について情報・意見交換を行いました。また、同政策対話の一環で開催された専門家会合では、生態毒性試験の実施手法の調和に向けた共同研究として各国で実施した藻類生長阻害試験の比較結果の取りまとめ及び日中韓の既存化学物質のリスク評価や代替毒性試験における技術的手法についての情報・意見交換を行うとともに、今後は共同でオオミジンコ繁殖試験に関する研究を実施することなどについて合意しました。さらに、近年成長著しい東南アジアの化学物質管理に貢献するため、アジア地域において化学物質対策能力の向上を促進し、適正な化学物質対策の実現を図るためのワークショップ等を開催しています。