環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和6年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第7節 国際的取組

第7節 国際的取組

1 生物多様性に関する世界目標の実施のための途上国支援

2022年12月のCOP15第二部では、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、それに基づき、我が国では2023年3月に生物多様性国家戦略を改定しました。この経験を踏まえ、生物多様性条約事務局が実施する東・南アジア地域のNBSAP(National Biodiversity Strategy and Action Plan:生物多様性国家戦略及び行動計画)ダイアローグを2023年1月に日本において共催し、我が国の取組を共有するとともに、締約国間の新枠組の実施に向けた取組の推進に貢献しました。また、我が国は、愛知目標の達成に向けた途上国の能力養成等を支援するため、生物多様性条約事務局に設置された「生物多様性日本基金」に拠出しており、本基金により、愛知目標の達成に向けて「生物多様性国家戦略」の実施を支援する事業等が進められました。新枠組に対しても、1,700万ドルの「生物多様性日本基金第2期」により引き続き支援することとし、その開始をCOP15第二部において表明しました。その中では、生物多様性保全と地域資源の持続可能な利用を進めるSATOYAMAイニシアティブの現場でのプロジェクトである「SATOYAMAイニシアティブ推進プログラム」フェーズ4を実施することとしています。加えて、2023年12月、昆明・モントリオール生物多様性枠組の実現を支援するために設立されたGBF基金(Global Biodiversity Framework Fund)に対して、6.5億円の拠出を行うことを表明しました。

2 生物多様性及び生態系サービスに関する科学と政策のインターフェースの強化

2019年2月に公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)に設置された「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)」の「IPBES侵略的外来種評価技術支援機関(TSU-IAS)」の作業を支援しました。また、IPBESの生物多様性等のシナリオ・モデルに関する専門的なグループである「シナリオ・モデルタスクフォース」を支援する技術支援機関のホスト国が公募され、我が国が応募したところ、IPBESのビューロ-(管理運営を担う組織)の選定により、我が国への設置が決定し、2024年3月1日付けで正式にIGESに設置されました。さらに、IPBES総会第10回会合の結果報告会を2023年9月に、IPBESに関わる国内専門家及び関係省庁による国内連絡会を2023年9月と2024年2月に、シンポジウム「ネイチャーポジティブ社会に向けた社会変革と行動変容」を2024年2月にそれぞれ開催しました。

3 二次的自然環境における生物多様性の保全と持続可能な利用・管理の促進

二次的な自然環境における自然資源の持続可能な利用と、それによる生物多様性の保全を目標とした「SATOYAMAイニシアティブ」を推進するため、「SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)」を支援するとともに、2023年7月秋田県秋田市で開催されたSATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ第9回定例会合を共催し、環境省からは国定勇人環境大臣政務官が出席し、我が国の里山保全に関する取組の紹介等を行いました。なお、IPSIの会員は、15団体が2022年度に新たに加入し、2024年3月時点で21か国の22政府機関を含む77か国・地域の314団体となりました。

SATOYAMAイニシアティブの理念を国内において推進するために2013年に発足した「SATOYAMAイニシアティブ推進ネットワーク」に環境省及び農林水産省が参加しています。本ネットワークは、SATOYAMAイニシアティブの国内への普及啓発、多様な主体の参加と協働による取組の促進に向け、ネットワークへの参加を呼び掛けたロゴマークや活動事例集の作成や「エコプロ2022」等の各種イベントへの参加を行いました。なお、本ネットワークの会員は2024年3月時点で55地方公共団体を含む117団体となりました。

4 アジア保護地域パートナーシップの推進

2013年11月に宮城県仙台市で開催した第1回アジア国立公園会議を契機に我が国が主導して「アジア保護地域パートナーシップ(APAP)」を設立しました。APAPの参加国は2022年12月時点で、17か国となっており、その取組の一環として、毎年運営委員会等においてアジア各国の保護区に関する情報及び知見の共有等を進めています。また、2022年5月には、マレーシアのサバ州において第2回アジア国立公園会議が開催され、我が国として自然を活用した解決策(Nature based Solutions:NbS)のワーキンググループを主導したほか、保護地域に関連した知見の共有が広く行われ、APAPの更なる発展を支援することが盛り込まれた「コタキナバル宣言」が取りまとめられました。

5 森林の保全と持続可能な森林経営及び木材利用の推進

世界の森林は、陸地の約31%を占め、面積は約41億haに及びます。一方で、2010年から2020年の間に、植林等による増加分を差し引いて年平均470万ha減少しています。1990年から2000年の間に年平均780万ha減少しており、森林が純減する速度は低下傾向にありますが、減速ペースは鈍化してきています。地球温暖化や生物多様性の損失に深刻な影響を与える森林減少・劣化を抑制するためには、持続可能な森林経営を推進する必要があります。我が国は、持続可能な森林経営及び木材利用の推進に向けた国際的な議論に参画・貢献するとともに、関係各国、各国際機関等と連携を図るなどして森林・林業分野の国際的な政策対話等を推進しています。

「国連森林戦略計画2017-2030」は、国連森林フォーラム(UNFF)での議論を経て2017年4月に国連総会において採択され、我が国もその実施に係る議論に参画しています。

国際熱帯木材機関(ITTO)の第59回理事会が2023年11月にタイにおいて開催され、ITTOの設置根拠である「2006年の国際熱帯木材協定」の再延長に向けたプロセスや世界の森林減少・劣化を防止するための取組等について議論されました。また、加盟国等から総額約616万米ドルのプロジェクト等に対する拠出が表明され、我が国からは、コートジボワールにおける食料生産等と調和した持続可能な森林経営、マレーシアにおける持続可能な木材利用の促進等のプロジェクト等に計約1億1,000万円の拠出を表明しました。

6 砂漠化対策の推進

1996年に発効した国連の砂漠化対処条約(UNCCD)において、先進締約国は、砂漠化の影響を受ける締約国に対し、砂漠化対処のための努力を積極的に支援することとされています。我が国は先進締約国として、科学的・技術的側面から国際的な取組を推進しており、2022年5月にコートジボワールのアビジャンで開催されたUNCCD第15回締約国会議及び同科学技術委員会等、また、2023年11月に開催された第21回条約実施レビュー会議(CRIC21)に参画し、議論に貢献しました。また、モンゴルにおける砂漠化対処のための調査等を進め、二国間協力等の国際協力を推進しました。

7 南極地域の環境の保護

南極地域は、近年、観測活動や観光利用の増加による環境への影響が懸念されており、南極の平和的利用と科学的調査における国際協力の推進等を目的とする南極条約(1961年発効)及び、南極の環境や生態系の保護を目的とする「環境保護に関する南極条約議定書」(1998年発効)に基づき国際的な取組が進められています。

我が国は、環境保護に関する南極条約議定書を担保するため南極地域の環境の保護に関する法律(平成9年法律第61号)を制定し、南極地域における観測、観光、取材等の活動に対する確認制度等を運用するとともに、環境省のウェブサイト等を通じて南極地域の環境保護に関する普及啓発、指導等を行っています。また、南極条約事務局に拠出金を支払い南極条約体制を支援しているほか、2023年にフィンランドのヘルシンキで開催された第45回南極条約協議国会議に参画し、南極地域における環境保護の方策に関する議論に貢献しました。

8 サンゴ礁の保全

国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)の枠組みの中で、我が国が主導して2017年から開始した地球規模サンゴ礁モニタリングネットワーク(GCRMN)の東アジア地域におけるサンゴ礁生態系モニタリングデータの地域解析について、2021年の取りまとめに利用したモニタリングデータの管理利用方針やデータベースの構築方法を検討するためのワークショップを2023年6月に開催しました。

9 生物多様性関連諸条約の実施

(1)生物多様性条約

2022年12月に採択された愛知目標に次ぐ新たな世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の実施に向けて、各目標の進捗を測る指標など引き続き議論が必要であり、生物多様性条約第25回科学技術助言補助機関会合等へ参加し、生物多様性戦略を改定した経験も活かして積極的に議論に貢献しました。

(2)名古屋議定書

COP10において採択された「生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書(以下「名古屋議定書」という。)」について我が国は2017年8月に締約国となり、国内措置である「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針」を施行し、名古屋議定書の適切な実施に努めています。

我が国はCOP10の際に、名古屋議定書の早期発効や効果的な実施に貢献するため、地球環境ファシリティ(GEF)によって管理・運営される名古屋議定書実施基金の構想について支援を表明し、2011年に10億円を拠出しました。この基金を活用し、国内制度の発展、遺伝資源の保全及び持続可能な利用に係る技術移転、民間セクターの参加促進等の活動を行う13件のプロジェクトが承認され、ブータン、コロンビア、コスタリカ等の7件は既に完了しています。

(3)カルタヘナ議定書及び名古屋・クアラルンプール補足議定書

バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書の責任及び救済に関する名古屋・クアラルンプール補足議定書(以下「補足議定書」という。)の国内担保を目的とした遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成29年法律第18号。以下「改正カルタヘナ法」という。)が、2017年4月に成立し、同月に公布されました。補足議定書については、2018年3月に発効し、これに合わせて改正カルタヘナ法が施行されました。また、2022年12月にカナダのモントリオールで開催されたカルタヘナ議定書第10回締約国会議(COP-MOP10)第二部において、議定書及び補足議定書の適切な実施のための議論がなされ、我が国としても積極的に議論に貢献しました。

(4)ワシントン条約

ワシントン条約に基づく絶滅のおそれのある野生動植物の輸出入の規制に加え、同条約附属書Iに掲げる種については、種の保存法に基づき国内での譲渡し等の規制を行っています。関係省庁、関連機関が連携・協力し、象牙の適正な取引の徹底や規制対象種の適切な取扱いに向けて、国内法執行や周知強化等の取組を進めました。

(5)ラムサール条約

国内に53か所あるラムサール条約湿地における普及啓発活動を、ラムサール条約湿地関係地方公共団体等と連携して進めました。特に2022年のラムサール条約第14回締約国会議(COP14)において湿地教育の推進に関連する決議が採択されたことを踏まえて、関係地方公共団体や有識者を対象に、ラムサール条約湿地における環境教育の実施状況について情報収集を行うとともに、湿地教育の推進のための方策等について検討しました。このほか、タイ政府環境省(ONEP)及びアジア開発銀行(ADB)と連携協力して、ラムサール条約湿地の新規登録に向けた支援を行いました。

(6)アジア太平洋地域における渡り性水鳥の保全

東アジア・オーストラリア地域における渡り性水鳥保全のための国際的枠組みである東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAFP)を推進するため、国内に34か所ある渡り性水鳥重要生息地ネットワーク参加地において実施されているモニタリングのデータを活用し、気候変動による渡り鳥とその生息地への環境把握に関する報告書を取りまとめ、その成果について広く周知する報告会を開催しました。このほか、2023年12月には、宮城県において、全国の渡り性水鳥重要生息地ネットワーク間の情報共有及び交流促進を図るため、EAAFP事務局長を招へいし「渡り性水鳥フライウェイ全国大会」を開催しました。

(7)二国間渡り鳥条約・協定

2024年1月下旬に、約5年ぶりに日米渡り鳥等保護条約会議を米国ハワイ州・ホノルルにおいて開催し、両国における渡り鳥等の保全施策及び調査研究に関する情報共有のほか、今後の協力の在り方に関する意見交換を行いました。加えて、2026年に開催予定の次回会議までに取り組む事項を確認しました。