農林水産省では、2021年5月に食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現させるための新たな政策方針として「みどりの食料システム戦略」を策定し、2050年までに目指す姿として、農林水産業のCO2ゼロエミッション化、有機農業の取組面積の拡大、化学農薬・化学肥料の使用量の低減などの14のKPIを定めました。2022年4月には、この戦略を推進するための環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律(令和4年法律第37号。以下「みどりの食料システム法」という。)が成立し、2022年9月からは環境負荷低減の取組等を後押しする認定制度が始まりました。
また、国家戦略及び「農林水産省生物多様性戦略」に基づき、農林水産分野における生物多様性の保全や持続可能な利用を推進しました。さらに、「みどりの食料システム戦略」や「昆明・モントリオール生物多様性枠組」等を踏まえ、2023年3月に、農山漁村における生物多様性と生態系サービスの保全、サプライチェーン全体での取組、生物多様性への理解と行動変容の促進等の基本方針を盛り込み、「農林水産省生物多様性戦略」を改定しました。
食料・農林水産業における持続可能な生産・消費を後押しするため、消費者庁、農林水産省、環境省の3省連携の下、2020年6月に立ち上げた官民協働のプラットフォームである「あふの環(わ)2030プロジェクト~食と農林水産業のサステナビリティを考える~」において、参加メンバーが一斉に情報発信を実施するサステナウィーク2023や全国各地のサステナブルな取組動画を募集・表彰するサステナアワード2023等を実施しました。
「みどりの食料システム戦略」を踏まえ、農産物の生産段階の温室効果ガスの排出量を簡易に算定するツールを作成し、これを基に環境負荷低減に向けた生産者の努力を消費者に分かりやすく伝える「見える化」の実証販売を行いました。2024年3月からは、米について生物多様性保全の取組の評価も追加し、新たなラベルデザインでガイドラインにのっとった本格運用を開始しました。
持続可能な農業生産を支える取組の推進を図るため、化学肥料、化学合成農薬の使用を原則5割以上低減する取組と合わせて行う地球温暖化防止や生物多様性保全等に効果の高い営農活動に取り組む農業者の組織する団体等を支援する環境保全型農業直接支払を実施しました。
環境保全等の持続可能性を確保するための取組である農業生産工程管理(GAP)の普及・推進や、有機農業の推進に関する法律(平成18年法律第112号)に基づく有機農業の推進に関する基本的な方針及びみどりの食料システム法に基づく環境負荷低減事業活動の促進及びその基盤の確立に関する基本的な方針の下で、有機農産物の学校給食での利用等地域ぐるみの取組や有機栽培への転換、有機農業の栽培ノウハウを提供する民間団体の育成や技術習得による実践人材の育成、国産有機農産物の流通、加工、小売等の事業者と連携した需要喚起など有機農産物の安定供給体制の構築に向けた取組を支援しました。
森林・林業においては、持続可能な森林経営及び森林の有する公益的機能の発揮を図るため、造林や間伐等の森林整備を実施するとともに、多様な森林づくりのための適正な維持管理に努めるほか、関係省庁の連携の下、木材利用の促進を図りました。
また、森林所有者や境界が不明で整備が進まない森林も見られることから、意欲ある者による施業の集約化の促進を図るため、所有者の確定や境界の明確化等に対する支援を行いました。
水産業においては、持続的な漁業生産等を図るため、適地での種苗放流等による効率的な増殖の取組を支援するとともに、漁業管理制度の的確な運用に加え、漁業者による水産資源の自主的な管理措置等を内容とする資源管理計画に基づく取組を支援するとともに、改正漁業法に基づく資源管理協定への移行を推進しました。さらに、沿岸域の藻場・干潟の造成等生育環境の改善を実施しました。また、持続的養殖生産確保法(平成11年法律第51号)に基づく漁協等による養殖漁場の漁場改善計画の作成を推進しました。
水産資源の保護管理については第2章第4節2を参照。
エコツーリズム推進法(平成19年法律第105号)に基づき、自然資源の保全活用により持続的な地域振興に取り組む地域への支援、全体構想の認定・周知、技術的助言、情報の収集、普及啓発、広報活動等を総合的に実施しました。同法に基づくエコツーリズム推進全体構想については、2024年3月時点において全国で合計26件が認定されています。また、全国のエコツーリズムに関連する活動の向上や関係者の連帯感の醸成を図ることを目的として、エコツーリズム大賞により優れた取組を行う団体への表彰を実施しました。
エコツーリズムに取り組む地域への支援として、6の地域協議会に対して交付金を交付し、魅力あるプログラムの開発、ルールづくり、全体構想の策定、推進体制の構築等を支援したほか、地域におけるガイドやコーディネーター等の人材育成事業等を実施しました。
また、エコツーリズムの推進・普及を図るため、セミナーや全体構想認定地域間等の意見交換会を実施し、課題や取組状況等を共有しました。
医薬品の開発や農作物の品種改良など、遺伝資源の価値は拡大する一方、世界的に見れば森林の減少や砂漠化の進行等により、多様な遺伝資源が減少・消失の危機に瀕(ひん)しており、貴重な遺伝資源を収集・保存し、次世代に引き継ぐとともに、これを積極的に活用していくことが重要となっています。農林水産分野では、農業生物資源ジーンバンク事業等により、関係機関が連携して、動植物、微生物、林木、水産生物等の国内外の遺伝資源の収集、保存、評価等を行っており、植物遺伝資源24万点を始め、世界有数のジーンバンクとして利用者への配布・情報提供を行いました。また、海外研究者に向けて、遺伝資源の取引・運用制度に関する理解促進や保護と利用のための研修等支援を行いました。
新品種の開発に必要な海外遺伝資源の取得や利用の円滑化に向けて、遺伝資源利用に係る国際的な議論に参画するとともに、その議論動向等について、我が国の遺伝資源利用者に対し、説明会等を通じた周知活動等を実施しました。
ライフサイエンス研究の基盤となる研究用動植物等の生物遺伝資源について、「ナショナルバイオリソースプロジェクト」により、大学・研究機関等において戦略的・体系的な収集・保存・提供等を行いました。また、途絶えると二度と復元できない実験途上の貴重な生物遺伝資源を広域災害等から保護するための体制強化に資する、「大学連携バイオバックアッププロジェクト」も実施しています。
独立行政法人製品評価技術基盤機構を通じた資源提供国との生物多様性条約の精神にのっとった国際的取組として、資源提供国との協力体制を構築し、我が国の企業への海外の微生物資源の利用機会の提供を行っています。
我が国の微生物等に関する中核的な生物遺伝資源機関である独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NBRC)において、生物遺伝資源の収集、保存等を行うとともに、これらの資源に関する情報(分類、塩基配列、遺伝子機能等に関する情報)を整備し、生物遺伝資源と併せて提供しています。