2022年度は、愛知目標から「昆明・モントリオール生物多様性枠組」へと、生物多様性に関する世界目標の移行の年度となりました。「昆明・モントリオール生物多様性枠組」は、2022年12月にモントリオールで開催されたCOP15第二部において採択され、我が国からは西村明宏環境大臣が出席し、前目標である愛知目標を取りまとめたCOP10議長国としての経験を活かして積極的に議論に貢献しました。我が国は、愛知目標の達成に向けた途上国の能力養成等を支援するため、生物多様性条約事務局に設置された「生物多様性日本基金」に拠出しており、本基金により、愛知目標の達成に向けて「生物多様性国家戦略」の実施を支援する事業等が進められました。新枠組に対しても、1,700万ドルの「生物多様性日本基金第2期」により引き続き支援することとし、その開始をCOP15第二部において表明しました。その中では、生物多様性保全と地域資源の持続可能な利用を進めるSATOYAMAイニシアティブの現場でのプロジェクトである「SATOYAMAイニシアティブ推進プログラム」フェーズ4を実施することとしています。
2019年2月に公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)に設置された「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)」の「侵略的外来種に関するテーマ別評価技術支援機関(TSU-IAS)」の作業を支援しました。また、IPBES総会第9回会合の結果報告会を2022年7月に実施するとともに、IPBESに関わる国内専門家及び関係省庁による国内連絡会を2022年7月と2023年3月に実施しました。さらに、シンポジウム「持続可能な将来に向けて、自然の価値とわたしたちの価値観を問い直す」を2023年2月に開催しました。
二次的な自然環境における自然資源の持続可能な利用と、それによる生物多様性の保全を目標とした「SATOYAMAイニシアティブ」を推進するため、「SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)」を支援するとともに、その運営に参加しました。なお、IPSIの会員は、15団体が2022年度に新たに加入し、2023年3月時点で21か国の22政府機関を含む74か国・地域の298団体となりました。
SATOYAMAイニシアティブの理念を国内において推進するために2013年に発足した「SATOYAMAイニシアティブ推進ネットワーク」に環境省及び農林水産省が参加しています。本ネットワークは、SATOYAMAイニシアティブの国内への普及啓発、多様な主体の参加と協働による取組の促進に向け、ネットワークへの参加を呼び掛けたロゴマークや活動事例集の作成や「エコプロ2022」等の各種イベントへの参加を行いました。なお、本ネットワークの会員は2023年3月時点で55地方公共団体を含む118団体となりました。
2013年11月に宮城県仙台市で開催した第1回アジア国立公園会議を契機に我が国が主導して「アジア保護地域パートナーシップ(APAP)」を設立しました。APAPの参加国は2022年12月時点で、17か国となっており、その取組の一環として、毎年運営委員会等においてアジア各国の保護区に関する情報及び知見の共有等を進めています。また、2022年5月には、マレーシアのサバ州において第2回アジア国立公園会議が開催され、我が国として自然を活用した解決策(Nature based Solutions:NbS)のワーキンググループを主導したほか、保護地域に関連した知見の共有が広く行われ、APAPの更なる発展を支援することが盛り込まれた「コタキナバル宣言」が取りまとめられました。
世界の森林は、陸地の約31%を占め、面積は約40億haに及びます。一方で、2010年から2020年の間に、植林等による増加分を差し引いて年平均470万ha減少しています。1990年から2000年の間の森林が純減する速度は年平均780万haであり、森林が純減する速度は低下傾向にありますが、減速ペースは鈍化してきています。地球温暖化や生物多様性の損失に深刻な影響を与える森林減少・劣化を抑制するためには、持続可能な森林経営を推進する必要があります。我が国は、持続可能な森林経営の推進に向けた国際的な議論に参画・貢献するとともに、関係各国、各国際機関等と連携を図るなどして森林・林業分野の国際的な政策対話等を推進しています。
「国連森林戦略計画2017-2030」は、国連森林フォーラム(UNFF)での議論を経て2017年4月に国連総会において採択され、我が国もその実施に係る議論に参画しています。
国際熱帯木材機関(ITTO)の第58回理事会が2022年11月に神奈川県横浜市にて開催され(オンライン併用)、ITTOの設置根拠であり、2026年まで延長中の「2006年の国際熱帯木材協定」について、2027年以降の再延長等の必要性について加盟国間で議論を行いました。また、加盟国等から総額約400万米ドルのプロジェクト等に対する拠出が表明され、我が国からは、タイ及びインドネシアにおける持続可能な木材利用の促進等計約1億500万円の拠出を表明しました。
1996年に発効した国連の砂漠化対処条約(UNCCD)において、先進締約国は、砂漠化の影響を受ける締約国に対し、砂漠化対処のための努力を積極的に支援することとされています。我が国は先進締約国として、科学的・技術的側面から国際的な取組を推進しており、2022年5月にコートジボワールのアビジャンで開催されたUNCCD第15回締約国会議及び同科学技術委員会等に参画し、議論に貢献しました。また、モンゴルにおける砂漠化対処のための調査等を進め、二国間協力等の国際協力を推進しました。
南極地域は、近年、観測活動や観光利用の増加による環境への影響が懸念されており、南極の平和的利用と科学的調査における国際協力の推進等を目的とする南極条約(1961年発効)及び、南極の環境や生態系の保護を目的とする「環境保護に関する南極条約議定書」(1998年発効)に基づき国際的な取組が進められています。
我が国は、環境保護に関する南極条約議定書を担保するため南極地域の環境の保護に関する法律(平成9年法律第61号)を制定し、南極地域における観測、観光、取材等の活動に対する確認制度等を運用するとともに、環境省のウェブサイト等を通じて南極地域の環境保護に関する普及啓発、指導等を行っています。また、南極条約事務局に拠出金を支払い南極条約体制を支援しているほか、2022年にドイツのベルリンで開催された第44回南極条約協議国会議に参画し、南極地域における環境保護の方策に関する議論に貢献しました。
国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)の枠組みの中で、我が国が主導して2017年から開始した地球規模サンゴ礁モニタリングネットワーク(GCRMN)の東アジア地域におけるサンゴ礁生態系モニタリングデータの地域解析について、2021年の取りまとめに利用したモニタリングデータの管理利用方針やデータベースの構築方法を検討するためのワークショップを2023年3月に開催しました。
2022年12月にカナダ・モントリオールで開催されたCOP15第二部において採択された愛知目標に次ぐ新たな世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の議論において、この目標が2050年ビジョン「自然との共生」に向けて野心的な枠組みとなるよう、COP10議長国として愛知目標を取りまとめた経験も活かして積極的に議論に貢献しました。また、枠組の速やかな実施に向けた取組に加え、「生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書(以下「名古屋議定書」という。)」を始めとするCOP10決定事項の実施に向けて関係省庁と連携して取り組みました。
COP10において採択された名古屋議定書について我が国は2017年8月に締約国となり、国内措置である「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針」を施行し、名古屋議定書の適切な実施に努めています。
我が国はCOP10の際に、名古屋議定書の早期発効や効果的な実施に貢献するため、地球環境ファシリティ(GEF)によって管理・運営される名古屋議定書実施基金の構想について支援を表明し、2011年に10億円を拠出しました。この基金を活用し、国内制度の発展、遺伝資源の保全及び持続可能な利用に係る技術移転、民間セクターの参加促進等の活動を行う13件のプロジェクトが承認され、ブータン、コロンビア、コスタリカ等の6件は既に完了しています。
バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書の責任及び救済に関する名古屋・クアラルンプール補足議定書(以下「補足議定書」という。)の国内担保を目的とした遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成29年法律第18号。以下「改正カルタヘナ法」という。)が、2017年4月に成立し、同月に公布されました。補足議定書については、2018年3月に発効し、これに合わせて改正カルタヘナ法が施行されました。また、2022年12月にカナダのモントリオールで開催されたカルタヘナ議定書第10回締約国会合第二部において、議定書及び補足議定書の適切な実施のための議論がなされました。
ワシントン条約に基づく絶滅のおそれのある野生動植物の輸出入の規制に加え、同条約附属書Iに掲げる種については、種の保存法に基づき国内での譲渡し等の規制を行っています。関係省庁、関連機関が連携・協力し、象牙の適正な取引の徹底や規制対象種の適切な取扱いに向けて、国内法執行や周知強化等の取組を進めました。また、2022年11月にパナマのパナマシティで開催されたワシントン条約第19回締約国会議において、条約の適切な執行のための議論とともに、附属書改正提案等の審議に貢献しました。
2022年11月にラムサール条約第14回締約国会議(COP14)が中国の武漢とスイスのジュネーブにおいて開催されました。新潟県新潟市及び鹿児島県出水市が、条約の決議に基づき、湿地の保全・再生、管理への地域関係者の参加、普及啓発、環境教育等の推進に関する国際基準を満たす地方公共団体を評価する「ラムサール条約湿地自治体認証制度」に基づく認証湿地都市として認証を受けました。また、呉地正行氏(NPO法人ラムサール・ネットワーク日本理事、日本雁(がん)を保護する会会長)の湿地や、湿地を生息地とする鳥類の保全活動等における長年の貢献が評価され、ラムサール賞のワイズユース(湿地の賢明な利用)部門を受賞しました。
2023年3月には、東アジア・オーストラリア地域における渡り性水鳥保全のための国際的枠組みである東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAFP)の総会である第11回パートナー会議(MOP11)がブリスベン(豪州)で開催されました。各国における渡り性水鳥及びその生息地の保全に関する進捗状況や課題等について議論された他、今後の具体的な活動等に関する決定書が採択されました。我が国においては、国内に34か所ある渡り性水鳥重要生息地ネットワーク参加地においてモニタリングを実施し、その結果の活用について検討しました。また、全国の渡り性水鳥重要生息地ネットワーク間の情報共有及び交流促進を図るため、「渡り性水鳥フライウェイ全国大会」を開催しました。
2022年10月下旬~11月上旬に、日本、豪州、中国、韓国の4か国間で日豪中韓渡り鳥等協定等会議を約4年ぶりにオンライン形式で開催し、各国における渡り鳥等の保全施策及び調査研究に関する情報共有のほか、日豪、日中、日韓での今後の協力の在り方に関する意見交換を行いました。加えて、2024年に開催予定の次回会議までに取り組む事項を確認しました。