環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第1章>第2節 世界と我が国の気象災害と科学的知見から考察する気候変動

第2節 世界と我が国の気象災害と科学的知見から考察する気候変動

個々の気象災害と地球温暖化との関係を明らかにすることは容易ではありませんが、地球温暖化の進行に伴い、今後、豪雨や猛暑のリスクが更に高まることが予想されます。ここでは、最新の科学的知見等を踏まえ、気候変動の危機的な状況について論じていきます。

1 世界の気象災害と各地の異常気象

世界気象機関(WMO)や気象庁の報告によれば、2022年も世界各地で様々な気象災害が見られました。

図1-2-1 2022年の世界各地の異常気象

例えば、パキスタン及びその周辺では6月から8月に大雨がありました。パキスタン南部のジャコババードでは、7月の月降水量が290mm(平年比1025%)、8月の月降水量が493mm(平年比1793%)を観測しました。南アジア及びその周辺では、5月から9月の大雨により合計で4,510人以上が死亡したと伝えられ(写真1-2-1)、特にパキスタンでは、大雨により1,730人以上が死亡したと伝えられました(写真1-2-2)。またヨーロッパでは5月から12月にかけて高温となりました。イギリス東部のコニングスビーでは、7月19日に40.3℃の日最高気温を観測しイギリスの国内最高記録を更新しました。その他、フランスの5、10月の月平均気温がそれぞれの月としては1900年以降で最も高くなるなど、ヨーロッパ各国で月や年の平均気温の記録更新が報告されました。

写真1-2-1 南アジアの大雨の洪水被害の様子
写真1-2-2 パキスタンの大雨の洪水被害の様子

我が国では、高温が顕著だった6月下旬には東・西日本で、7月上旬には北日本で、1946年の統計開始以降、7月上旬として1位の記録的な高温となり、全国の熱中症救急搬送人員は、調査開始以降、6月は過去最高、7月は2番目に多くなりました。また、8月上旬には北海道地方や東北地方及び北陸地方を中心に記録的な大雨となり、3日から4日にかけては複数の地点で24時間降水量が観測史上1位の値を更新し、河川氾濫や土砂災害の被害が発生しました(写真1-2-3)。9月には台風第14号が非常に強い勢力で鹿児島市に上陸し、九州を中心に西日本で記録的な大雨や暴風となり、9月15日の降り始めからの総雨量は、九州や四国の複数地点で500ミリを超えるなど、9月1か月の平年値の2倍前後を観測、鹿児島県屋久島町で最大瞬間風速50.9メートルを観測したほか、複数地点で観測史上1位を更新しました。

写真1-2-3 令和4年8月の大雨の被害の様子

2 温室効果ガス排出量の状況とその影響

(1)世界の温室効果ガスの排出状況

Emissions Gap Reportは、国連環境計画(UNEP)が毎年公表する報告書であり、現在及び推定される将来の温室効果ガス(GHG)排出量に関する最新の科学的研究の知見を評価し、パリ協定の目標を達成するために世界が最小コスト経路で推進するのに許容される排出量レベルと比較しています。

「Emissions Gap Report 2022」では、世界は未だパリ協定の目標達成には及ばず、1.5℃に向けた信頼性の高い経路に乗れていないと結論付けられています(図1-2-2)。2030年までの排出ギャップ、すなわち約束された排出削減量とパリ協定の気温目標達成に必要な排出削減量とのギャップを埋めるための行動の進捗は、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)以降、非常に限定的であるとして、広範かつ大規模な、そして迅速な変革を経済全体で進める必要性が強調されています。また、世界的に見て各国のNDC(国が決定する貢献)は全く不十分であり、排出ギャップは依然として大きいままで、追加的な対策を実施しなければ、現行対策シナリオでは今世紀の気温上昇は2.8℃となり、条件無又は条件付NDCの実施により、気温上昇はそれぞれ2.6℃、2.4℃まで抑えられるだろうとされ、ネットゼロ誓約の信頼性と実行可能性は未だ不確実性が高いとの報告がされています。2020年の世界の人為起源の温室効果ガスの総排出量は、全体でおよそ540億トンCO2図1-2-3)。2021年の温室効果ガスの総排出量は、土地利用・土地利用変化・林業(以下、「LULUCF」という。)の排出量をまだ推計できていないため算出できないが、LULUCFを除いた排出量は、2019年の同排出量と比較し2.6億トン増加しており、LULUCFを含めた2021年の温室効果ガスの総排出量も、2019年の総排出量と同程度かそれ以上と推定されています。

図1-2-2 シナリオごとの2050年までのGHG排出量推計と排出ギャップ、今世紀の気温上昇予測(中央値のみ)
図1-2-3 世界の温室効果ガス排出量

また、世界の温室効果ガスの総排出量は、2000年から2009年にかけては年平均増加率2.6%、2010年から2019年にかけては年平均増加率1.1%と過去10年間の増加率は鈍化傾向ですが、過去10年間の温室効果ガスの総排出量の平均値は、それ以前の10年間と比べると過去最高を記録しています。大気中の温室効果ガス濃度は上昇が続いていて、気候変動問題の解決のためには、速やかで持続的な排出削減が必要と述べています。

(2)我が国の温室効果ガス排出・吸収量

我が国の2021年度の温室効果ガス排出・吸収量(温室効果ガス排出量から吸収量を引いた値)(確報値)は、11億2,200万トンCO2であり、2020年度から2.0%(2,150万トンCO2)増加しています(図1-2-4)。その要因としては、新型コロナウイルス感染症で落ち込んでいた経済の回復等によるエネルギー消費量の増加等が挙げられます。また、2013年度からは20.3%(2億8,530万トンCO2)減少しています。

図1-2-4 我が国の温室効果ガス排出・吸収量

2021年度の森林等からの吸収量は、4,760万トンで、前年度比3.6%増加と、4年ぶりに増加に転じました。これは、森林整備の着実な実施や木材利用の推進等が主な要因と考えられます。

なお、2021年度の温室効果ガス排出・吸収量の国連への報告においては、我が国として初めて、ブルーカーボン生態系の一つであるマングローブ林による吸収量2,300トンを報告しています。

3 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)報告書

IPCCは、気候変動に関連する最新の科学的知見を取りまとめ、2021年から2023年にかけて、第6次評価報告書の第1作業部会・第2作業部会・第3作業部会の各報告書及び統合報告書を公表しました。第3作業部会報告書においては、脱炭素に関する政策や法律が各国で拡充された結果、排出が削減されるとともに、削減技術やインフラへの投資が増加していると評価していますが、地球温暖化を1.5℃に抑える、あるいは、2℃に抑えるためには大幅で急速かつ継続的な排出削減が必要であることも示されています。同報告書には、エネルギーの需要側の対策によって更なる排出削減が見込めるといった知見も含まれており、今後の気候変動対策を進める上で重要な報告書となっています。

また、2023年3月に公表された統合報告書では、人間活動が主に温室効果ガスの排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことは疑う余地がないことや、継続的な温室効果ガスの排出は更なる地球温暖化をもたらし、短期のうちに1.5℃に達するとの厳しい見通しが示されました。この10年間に行う選択や実施する対策は、現在から数千年先まで影響を持つとも記載されており、今すぐ対策を取ることの必要性を訴えかけている内容となっています。

4 気候変動による人間活動及び健康への影響

近年、イベントアトリビューションという猛暑や大雨などの異常気象に地球温暖化が、どの程度寄与しているか解明しようとする研究が進められています。IPCCの第6次評価報告書においても熱波、大雨、干ばつといった極端現象について評価を行う上での重要な知見として用いられています。例えば、我が国においては、甚大な洪水被害等をもたらした、平成29年7月九州北部豪雨及び平成30年7月豪雨に相当する大雨の発生確率は、地球温暖化の影響がなかったと仮定した場合と比較して、それぞれ約1.5倍及び約3.3倍になっていたことが文部科学省「統合的気候モデル高度化研究プログラム」の研究成果として示されています。また、文部科学省「気候変動予測先端研究プログラム」及び気象庁気象研究所により、2022年6月下旬から7月初めの記録的な高温は、人為起源の地球温暖化がなければ、1,200年に一度しか起こりえなかった非常にまれな現象であったことが報告されています。

また、世界保健機関(WHO)などの研究チームが43か国を対象に行った研究では、熱関連死亡のうち、37%が人為的な気候変動に起因すると推定されており、さらに、2017年から2021年の65歳以上の年間熱関連死亡者数は、2000年から2004年と比較して、約68%増加したとの報告があります。